「不可能なことなどないわ。Impossible -不可能- という言葉には、
I’m possible -私はできる-と書かれているのだから。」

(オードリー・ヘップバーン)

1.再生可能エネルギーが気候危機とエネルギー安全保障に「一石二鳥」である根拠

先日、国連気候変動枠組条約事務局長(UN Climate Chief)のサイモン・スティル(Simon Stiell)は、あらめて、こう述べている[1]。この言葉に、未来の「解法」のすべてが網羅されている。

「石炭、石油、ガスに依存する世界は、すべての人にとってコスト高となる、不安定な世界です。再生可能エネルギーは、より安価で、より安全であり、市場への導入も迅速です。再生可能エネルギーは、地球を温暖化させる汚染を削減し、経済を飛躍的に活性化させながら、平和の基盤を強固なものにすることができます。」

再生可能エネルギーが「気候危機」と「エネルギー安全保障」の双方に同時に効く「一石二鳥」であり、合理的根拠があることは、以前から、専門家の間で自明である。

人類がいま直面している危機の本質は、化石燃料に依存するエネルギーシステムそのものが、気候危機とエネルギー安全保障問題を同時に生み出していることにある。そして、その「解法」として再生可能エネルギーが重要なのは、単に「環境に優しいから」ではない。「エネルギー安全保障」に資することを通じて不毛な戦争を回避できる点にもあり、その効果は多義的で甚大である。


再生可能エネルギーが「一石二鳥」である合理的根拠を論点整理すると、以下の6点になる。

①「一石二鳥」の核心は、同じ原因を2つ同時に減らすことにある

化石燃料依存は、以下の2つのメカニズムを通じ「気候危機問題」と「エネルギー安全保障問題」を同時かつ不可避的に生みだす。人類にとって「百害あって一利なし」である。

<化石燃料依存が2つのリスクをもたらすメカニズム>

A;気候危機問題発生のメカニズム
化石燃料依存→ CO₂排出→ 気候危機
B;エネルギー安全保障問題発生のメカニズム
化石燃料依存→ 輸入・海上輸送・産油国・国際市場依存→ 価格変動・供給途絶・地政学的リスク→ エネルギー安全保障


したがって、化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えることは、同じ原因から発生している2つのリスクを同時に縮小することになる。ここに「一石二鳥」の最も合理的な根拠がある。

気候危機問題解決への効果

太陽光、風力、水力、地熱などの再生可能エネルギーは、発電時に石炭・石油・天然ガスのように燃料を燃焼させない。したがって、再生可能エネルギー導入→ 化石燃料発電の減少→ CO₂排出削減→ 温暖化抑制という非常に直接的な因果関係がある。IPCCも再生可能エネルギーを気候変動緩和の主要な選択肢として位置づけている。

経済的メリット

IRENAによれば、2025年に稼働した大規模再エネ発電設備の90%以上が、同地域で新設された最安の化石燃料発電より安価であった。また、2025年だけで再生可能エネルギーによって、約8.4GtのCO₂排出が回避されたと推計されている。

エネルギー安全保障への効果

石油・天然ガス・石炭等の化石燃料は、発電設備だけでなく、「燃料」を継続的に買い続けなければならない。特に日本の場合、海外 LNG・石油・石炭を購入→ LNG船・タンカーで輸送→ 港湾・貯蔵施設→ 発電所→ 電力という巨大なサプライチェーンに依存している。したがって、戦争、海峡封鎖、制裁、産油国の政情不安、為替変動などが、最終的に日本の電気料金や経済に波及する。これに対して太陽光や風力等の再生可能エネルギーは、一度設備を建設すれば、燃料そのものを輸入し続ける必要がない。ここが決定的に違う。IRENAは、2024年に稼働していた再生可能エネルギーによって世界で約4,670億ドルの化石燃料コストが回避されたと推計している。再生可能エネルギーは単なる「環境政策」ではなく、化石燃料価格の変動へのエクスポージャーを減らす最善の「エネルギー安全保障政策」になっている。

地政学的リスクの低下

化石燃料の場合、資源の偏在→中東・ロシアなど特定地域への依存→輸送ルートへの依存→戦争・制裁・海峡封鎖→供給ショック→エネルギー価格上昇→インフレ・景気悪化という連鎖が起こるリスクがある。ところが再生可能エネルギーは、太陽光や風力等のエネルギー源そのものが各国・各地域に分散して無尽蔵にかる無料に存在する。つまり「地下に埋まった偏在した燃料を奪い合う経済」から、「地上にどこにでも存在するエネルギーを各地域で利用する経済」への転換によって地政学的リスクの低下が担保される。これは大きな文明史的転換である。


「再生可能エネルギー=分散型エネルギー」という点も安全保障上重要

化石燃料の場合、巨大発電所への集中→ 攻撃・事故・災害に弱いという問題がある。一方、再生可能エネルギーの場合は、住宅太陽光+蓄電池+地域マイクログリッド+風力+地熱+水力などを組み合わせれば、エネルギーシステムを分散できる。すると、一つの発電所、一つの燃料輸送ルート、一つの国、一つの企業に依存するリスクを下げられる。これは単に軍事的安全保障だけでなく、災害レジリエンスにもつながる。まさに「気候安全保障」を担保できる。

むろん、再生可能エネルギーなら何でも安全保障になるわけではない点には留保が必要である。ここは非常に重要な但し書きである。再生可能エネルギーにも、太陽光・風力の出力変動、蓄電池の必要性、電力網の増強、送電容量不足、重要鉱物への依存、太陽光パネル・蓄電池等の特定国への製造集中、土地利用・地域合意等の悩ましい問題がある。したがって、本当の政策目標は単なる「再生可能エネルギーへのシフト」ではなく、再生可能エネルギー+蓄電池+送電網+需要側管理+省エネ+多様なサプライチェーンによる「レジリエントなエネルギーシステム」をつくることにある。

特に、日本の場合、化石燃料輸入+円安+中東・ロシアなどの地政学的リスク+海上輸送への依存という複数のリスクが重なる特性がある。よって、日本にとり、再生可能エネルギーへの転換は、気候政策であると同時に、エネルギー安全保障政策であり、さらに経済安全保障政策でもあると捉えた方が合理的である。しかも、化石燃料は「燃やした瞬間に消える資源」であるが、再エネは「設備を通じて繰り返し利用できるフロー型資源」である。この違いが、エネルギー安全保障の経済構造を根本から変える。

以上諸点に鑑み、「気候安全保障」と「エネルギー安全保障」が、再生可能エネルギーの導入によって同じ方向を向くことはあきらかである。再生可能エネルギーの導入は、CO₂排出削減+ 化石燃料輸入削減+ 国際エネルギー価格への脆弱性低下+ 地政学的リスク低下+ 国内エネルギー源の分散+ 地域レジリエンス向上といった、「一石二鳥」ならぬ「一石多鳥」なのである。

これが、再生可能エネルギーは「気候危機対策」と「エネルギー安全保障対策」の二つを別々に行う政策ではなく、両者の共通原因である化石燃料依存を同時に縮小する政策として、同時に完遂すべき合理的根拠である。さらに射程を広げれば、再生可能エネルギー100%化に向けたエネルギーシフトは、単なるエネルギー転換ではなく、「化石燃料を中心に形成されてきた地政学・国際金融・国家安全保障の構造」そのものを変える多義的かつ未来志向的な潜在力と可能性があると考えられる。



(寄稿文全文に続く)



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【次章】 2.「気象リスク」と「エネルギーリスク」がもたらす日本の「存立危機事態」

[1] Simon Stiell (2026)“Faster energy transitions are core to national security”(24 July 2026)