いま日本では、「脱炭素社会」構築の画期的な戦略的プラットフォームとして、「日本版シュタットベルケ」が、静かに、熱い注目を集めている。日本における「脱炭素社会」構築の成否の鍵を握っているとも言われている。

なぜなら、地域自律分散を前提とした「脱炭素社会」構築の問題は、地方自治問題と同根であり、地方自治問題解決の最善の処方箋が、「シュタットベルケ」であるからである。

すでに、先行研究では、わが国の未来のあるべき形として、「都市集中型」モデルか「地方分散型」モデルかの2択の議論に関し、人口、財政、地域、環境・資源、雇用、格差、健康、幸福等の観点からシミュレーション評価分析をした結果、持続可能性が高いのは「地方分散型」と判断されている。しかも、今後8~10年後に都市集中か地方分散という大きな分岐点に到達し、これ以降2つのシナリオが交わることはない。つまり、日本の未来の大まかな方向性は、8~10年後に決まるという衝撃的な結果がある。

そして、いまや、日本における「GX(Green Transformation;以下GXと略)[1]」と「DX(Digital Transformation;以下DXと略)[2]」の主戦場は、都会ではなく、「地方」にあり、日本企業の今後の持続可能な発展を担保するヒントが、「地方自治体」にあると注目されている。

来るべき「地方分散型」時代の到来を視野に、もはや、「シュタットベルケ」なくして、「脱炭素社会」構築も、「ゼロカーボン」の実現も、「パリ協定」目標の達成も、さらには「地方自治自体の持続可能な存続」すら、いずれも不可能になるとさえ言われている。

同時に、日本企業にとっても、「シュタットベルケ」を念頭にいれずにビジネスモデルを設計すること自体が臥龍点睛を欠くことになる。換言すれば、「シュタットベルケ」こそが、企業の命運を左右する鍵となるのだ。

それでは、そもそも、この「シュタットベルケ」とは何なのか?はたして、その機能は何か?誕生の地ドイツでの実態はどうなのか?そして、日本におけるシュタットベルケの実際と課題、展望は何なのか?

以下、「シュタットベルケ」について、その概要、意義、ドイツにおける実態、日本におけるシュタットベルケの実際と課題と展望、日本とドイツのシュタットベルケの比較、日本企業にとってのシュタットベルケの重要性とその含意等について、順を追って、俯瞰的かつ分かりやすく、論点整理を試みたい。

 

[1]温室効果ガスを発生させる化石燃料から太陽光発電、風力発電などのクリーンエネルギー中心へと転換し、経済社会システム全体を変革しようとする取り組みを意味する。

[2] 企業が、ビッグデータなどのデータとAIやIoTを始めとするデジタル技術を活用して、業務プロセスを改善していくだけでなく、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織、企業文化、風土をも改革し、競争上の優位性を確立することを意味する。

1.シュタットベルケ(Stadtwerke)とは何か?

「シュタットベルケ(Stadtwerke)」とは、一言で言うなれば、「エネルギー事業等の地域公共サービスを担う公企業」のことである。シュタットベルケでは、電気、ガス、地域熱供給、上下水道、廃棄物処理、公共交通、公共施設、インターネット等の公共サービスを展開している。

シュタットベルケは、都市・基礎自治体(Gemeinde)の公益事業を担う自治体の企業である。1つまたは複数の自治体が過半数を所有する公営企業または混合経済企業のことである。エネルギー事業を行っているところが多く、特に基本サービスや住民に一般的に関心のあるサービスの分野で、技術サービスや公益事業を市民に代わって提供したり、自治体のインフラを提供したりしている。シュタットベルケの発祥の地は、ドイツである。

ドイツ語で、シュタット(Stadt)は、街・町・都市、ベルケ(werke)は、事業、仕事、製作所、工場、公社という意味で、シュタットベルケ(Stadtwerke)は、あえて日本語で直訳すると、「街の事業」「都市公社」となる。

ちなみに、ドイツでは、主に非都市部の自治体においては、ゲマインデベルケ(Gemeindewerke)とも呼ばれている。最近では、一般に「Stadt- und Gemeindewerke(市営・地方公営企業)」という言葉もよく用いられる。また、”Kommunalwerke”(自治体事業)という総称でまとめられていることもある。

シュタットベルケについては、その重要性と潜在力から、世界中から注目されてきている。すでに様々な国際機関による先行研究がある。公的な供給事業の再公有化の成功例として世界 45 カ国 1,600 の自治体の835 の事例の研究調査がある。その分析結果を見ると、これらの企業設立事例のほとんどが、顧客に対するより安価な料金とより良いサービス、そして全従業員に対するより良い労働条件と結びついており、同時により高い透明性と民主主義の定着にその特徴があると、高い評価を受けている。[3]

こうしたシュタットベルケへの高い評価と期待の高まり、世界的台頭と拡大。その背景には、「地球沸騰時代」と揶揄される昨今、世界中で頻発し年々深刻度を加速している異常気象等の甚大な人的・経済的被害に象徴される全球的な喫緊の課題「気候危機」がある。いまや、気候危機への必須不可欠な対策として、脱炭素社会に向けた既存の化石燃料から再生可能エネルギーへのエネルギーシフトの世界的潮流がある。同時に、とした電力供給構造自体が、巨大資本による巨大投資を前提とした従来の中央集権型から地方分散型へのパラダイムシフトが起こっている。

日立京大ラボが2017年に公表した2050年に向けた2万通りの未来シミュレーションの研究成果報告によると、「都市集中型」ではなく「地方分散型」が、日本の持続可能性を高めることが明らかになっている。[4]もはや、「気候危機」対策の舞台は、「地方」であり、その主役は、「地方自治体」なのである。

地方で、地元で作った電気を売れば新たな収益が生まれ、地元に還元されることで、新たな再投資が生まれ、地域の経済循環を生み出し、地域内の実質所得向上に貢献できる。その結果、各国のエネルギー分野では、「脱炭素社会」構築の画期的な戦略的プラットフォームとして、エネルギー転換を促進する地域分散的かつ地産地消的なシュタットベルケの重要性への認識が高まったのは必然である。

シュタットベルケは、いままで、エネルギー供給の将来のための共創を活発にし、自治体がメリットを得るチャンスを作り出してきた。その素晴らしい実績に、世界から注目が集まり、高い評価と期待が寄せられてきている。

シュタットベルケが、再生可能エネルギーを軸にしたエネルギー事業を核としたインフラ整備を伴う公益事業を複合的に有する事業体として、注目されている。

そして、すでに、再生可能エネルギーによる発電・売電をして得た収益を他の公益事業の財源として利用し、地域内経済循環の実現を目指す地域新電力が、その担い手となっている。

こうした問題意識から、勤務先大学でも、随分以前から、古屋ゼミや一般学生向け講義でも、ドイツのシュタットベルケを紹介し、その日本における適用の実際と課題について、多々お話をしてきた経緯がある。そして、毎年、ドイツをゼミ生諸君と一緒に訪問し、ドイツでゼミ合宿を実施してきた。

ドイツ南西端、黒い森にあるシェーナウ村では、原発に頼らない未来を目指して独自の電力会社を市民だけでつくったEWS(Elektrizitaetswerke Schoenau;シェーナウ電力会社)を訪問し、環境首都とも呼ばれているフライブルグでは、環境NGOの人々と意見交換し、市民主体の巨大な風力発電やソーラースタジアム等を見学し、市民や地方自治体を「主役」として、地方分散型の先進的なエネルギーシフトを軸とした「脱炭素社会」構築の現場をこの目で観察してきた。

ここで、以下、シュタットベルケの「存在意義」と「特徴」について、簡単に論点整理をしておこう。

<論点整理①>「シュタットベルケの存在意義」

地域には、人口減少・少子高齢化、地域経済の縮小、人材流出、地方税収減収・財政難、等々のいろいろな問題がある。
 ↓
方や、環境問題への交通・エネルギー・住宅分野における対応、保育・医療等の教育・福祉、災害対策等の多岐にわたる自治体へのニーズが増加。
 ↓
こうしたニーズの多様化と負荷の増加が、さらなる地方財政への圧迫要因となって悩ましい。
 ↓
効率性と公益性の両方を充足する必要性が増加してきている。
 ↓
事業効率向上を担保した全体最適追求の達成・実現には、地方自治体には構造的限界がある。
 ↓
民間への公共サービスの丸投げは危険で問題あり、過去の失敗例も多い。
 ↓
民間丸投げではない、自治体主体で、全体最適を担保できる公共サービス(電力・ガス・熱・ゴミ・道路・上下水道等)提供の新たなインフラ構築の必要性。そのためのガバナンス・イノベーションが必須不可欠。
 ↓
地域課題解決+地域経済活性化+省エネや再生可能エネルギー推進が担保された気候変動対策+災害対策が担保されたレジリエントな社会構築+循環型社会システム構築等のニーズをすべて効率的に充足できる新たなプラットフォームはあるのか?それは何なのか? 
 ↓
こうした歴史的要請から、シュタットベルケが誕生した。


<論点整理②>「シュタットベルケの特徴」

• 監督と執行の明確な機能分離によるガバナンス(経営効率性×公共性の実現)

• 複数インフラの包括管理による効率化(費用削減+新規投資誘発の効果)

• 地域経済社会とのつながり(地域還元+域内循環+雇用創出)



[3]Kishimoto S, Petitjean O, Steinfort L. (2017): Reclaiming Public Services : How cities and citizens are turning back privatisation. Transnational Institute (TNI), Multinationals Observatory, Austrian Federal Chamber of Labour (AK), European Federation of Public Service Unions (EPSU), Ingeniería Sin Fronte-ras Cataluña (ISF), Public Services Internati-onal (PSI), Public Services Intern; Amsterdam and Paris 2017.

[4]日立と国立大学法人京都大学(以下、京都大学)は2016年6月、「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学理の探究」をテーマに日立未来課題探索共同研究部門(日立京大ラボ)を設立。そして2017年9月、京都大学と日立は共同で、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言した。人文・社会科学系の有識者と情報科学系の研究者がAI(人工知能)を使って描き出したのは、2万通りもの日本の未来シナリオ。そこから得たのは、幸福な未来に向けた、あるべき社会への強い示唆だった。(出所)日立京大ラボ(2017)「2050年、より多くの人々が幸せに暮らせるように──AIが描き出す2万通りの未来シナリオから、持続可能な社会の形を模索する」                                   https://social-innovation.hitachi/ja-jp/case_studies/hitachi_kyodai_labo/

2.欧州における脱炭素社会構築とシュタットベルケの重要性

欧州における「脱炭素社会」構築を支える3つの社会的基盤は、以下の【図1】の通り、「政治の意思」と「制度・政策」と「人材・組織」の三位一体で構成されている。


【図1】欧州における脱炭素社会構築を支える3つの社会的基盤
(出所)的場信敬(2023)「オーストリア・ドイツにおける脱炭素地域づくりの全体像」


この図における「政治の意思」を実際に推進するための「制度」の起動装置の役割を担うのが「シュタットベルケ」であり、政策を担う「人材」の育成の担うファシリテーターが「エネルギー・エージェンシー」[5]である。

欧州では、様々なアクターが、相互に有機的に連携して脱炭素社会構築に向けて活動をしている。以下の【図2】は、欧州における脱炭素社会構築の主要なアクターを明示的にまとめたものである。


【図2】欧州における脱炭素社会構築の主要なアクター
(出所)的場信敬(2023)「オーストリア・ドイツにおける脱炭素地域づくりの全体像」


欧州における「脱炭素社会」構築の舞台は、「地方」である。地域・自治体での気候エネルギー政策推進を重視し、それを支える基盤強化(キャパシティ・ビルディング)を長年にわたり展開しながら成果を挙げてきた経緯がある。その実働部隊として、上掲図の中の、「シュタットベルケ」が、そして、その活動支援部隊として、「エネルギー・エージェンシー」が、それぞれ、車の両輪として「脱炭素化」の基軸的存在として役割を果たしてきた。

欧州各国には、自治体出資の公社の体裁をとりつつ、経営は民間企業として実施しているユニークな典型的なガバナンス・イノベーションたる「シュタットベルケ」と、自治体、企業、住民等による気候エネルギー政策・事業の支援を主な目的にした地域密着・非営利型の中間支援組織「エネルギー・エージェンシー」が存在し、両者は、気候危機対策の有効なプラットフォームとして、有機的に連携しながら有効に機能してきている。



[5]脱炭素化の実働部隊である「シュタットベルケ」の有効な活動支援促進のために、地域の将来像・政策や経済活動、社会構造、価値観を、専門的見地を用いて脱炭素型へ移行させるファシリテーター/コーディネーターとして、「エネルギー・エージェンシー」の役割は重要である。欧州ではEU主導で長年にわたり「エネルギー・エージェンシー」設立・組織強化の支援が進められてきており、欧州各国には、自治体、企業、住民等による気候エネルギー政策・事業の支援を主な目的にした地域密着・非営利型の中間支援組織「エネルギー・エージェンシー」が426組織も存在する。

3.ドイツにおけるシュタットベルケの誕生と現状

発祥の地ドイツにおける「シュタットベルケ」の歴史は古く、19世紀後半からある。

自治体出資の公社の体裁をとりつつ、経営は民間企業として実施しているユニークな典型的なガバナンス・イノベーションたるシュタットベルケは、気候危機対策の有効なプラットフォームとして、有意に機能してきている。

シュタットベルケの魅力は、公社でありながら、一般の民間企業同様にリスクをとりながら、迅速で合理的な事業運営や決定を行っていることにある。

特に、ドイツでは、2000年頃からは、電力自由化やFIT導入などもあり、再生可能エネルギーなどが事業の大きな軸のひとつとなり、安定した収益をあげて今日にいたっている。

現在、ドイツのシュタットベルケの法人格は、自治体出資の公社であるが、経営は民間企業として実施している。

一般の民間企業同様にリスクをとりながら、迅速で合理的な事業運営や決定を行っているのが特徴である。[6]

いまドイツには、シュタットベルケが1474社、存在している(2018年12月時点)。ドイツには約1万2千の市町村があるが、その約1割以上の市町村にシュタットベルケがあることになる。そのうち、およそ900はエネルギー事業を主事業としている。[7]

その背景には、大手電力会社が、過去のいきさつから、原子力と化石燃料による大規模発電所の建設と運営という集中型の構造に重点を置いていたため、増加する再生可能エネルギー電力に柔軟に対応することができなかった事情がある。そのため、圧倒的多数のドイツ市民(95%)が再エネの増進を有意義と捉えている自治体自体が、主体的に、再生可能エネルギー専用の電力会社をシュタットベルケを通じて立ち上げた経緯がある。

ドイツ全体の電力小売事業では61%、ガス小売事業では67%、水道事業では実に86.4%が、シュタットベルケによって運営されている。実際には、ガス供給や上下水道、電力事業(発電・配電・小売り)、公共交通サービスなど、時代の変遷とともに時代のニーズに合わせたサービスを提供してきた経緯がある。

ドイツでは、20余年前の2000年頃からは、電力自由化やFIT導入などもあり、シュタットベルケが、再生可能エネルギーなどが事業の大きな軸のひとつとなり、安定した収益をあげて今日にいたっている。

シュタットベルケの電力売上総額は、すでにドイツの民間4大大手エネルギー会社の売上合計を上回るシェアを握っている。

いまや、ドイツにおけるエネルギー問題や脱炭素社会構築は、シュタットベルケ抜きでは語ることができない。

シュタットベルケは、その傘下に、「収益事業」「低収益事業」「新規事業」を抱え、持株会社(ホールディングス会社;Querverbund)形態と単体企業形態の2種類がある。

おおまかな仕組みは、下図の通りである。

【図3】ドイツのシュタットベルケ(Stadtwerke)のフレームワーク
(注)持株会社(ホールディングス会社)形態の場合。
(出所) 国土交通政策研究所(2021)「ドイツ・シュタットベルケの実態とわが国インフラ・公共サービスへの適用に向けた課題を整理」


持株会社(ホールディングス会社)形態の場合、黒字子会社や赤字子会社、新規事業会社などを複合的に保有しているため、自治体のプールや図書館など赤字になりやすい事業を黒字の事業で利益補填することで、安定的で質の高い公共サービスを提供することができるメリットがある。

また、筆頭株主である自治体の政策を反映しやすく、利益を地域内に還元することで地域が潤う、さらに雇用の創出につながる、などのメリットもある。[8]

下図は、ドイツにおける2005年以降に新設されたシュタットベルケの所在地である。バーデン・ヴュルテンベルク州の都市や市町村、具体的にはシュヴァルツヴァルト(黒い森)、シュトゥットガルト都市圏、ボーデンゼー(ボーデン湖)周辺が活発である。さらに、シュタットベルケ新設はドイツ東西で明確な違いがあることがわかる。


【図4】ドイツのシュタットベルケ(Stadtwerke)の所在地

(注)ドイツ国内で 2005 年以降にシュタットベルケが新設された場所
(出所)Wuppertal Institut (2018)” Stadtwerkeneugründung”


かつて、ドイツでは、ベルリンの壁崩壊以前は、大規模に相互接続された大手電力会社の支配下での寡占的な供給構造があった。しかし、ベルリンの壁崩壊以降、新しい連邦州における多元的なエネルギー産業への転換がなされた。

ベルリンの壁崩壊当時、旧東ドイツと統合するに際し、新しい連邦国家のエネルギーインフラをどうするかという問題が議論された。1992年12月22日、連邦憲法裁判所における和解により、東ドイツの各自治体は、それぞれの自治体地域の電力・ガス資産に対する権利と、自治体独自の公益事業を設立する権利を持つに至った。その受け皿が、シュタットベルケであった。

福島で起こった原発事故を契機に、原発のない、気候保護を目標に据えたエネルギー供給の実現のための歴史的にまたとない機会が開かれ、自治体エネルギー会社は、エネルギー転換を地域レベルで実現していくという歴史上最大の課題に直面した。これをチャンスと捉え、シュタットベルケは将来のエネルギー転換のアクターとして定着し、エネルギー供給の転換を大胆に行う機会が開かれた。

ちなみに、今日では、数多くのシュタットベルケ間での内部情報共有や連邦政府への政策提言を行うため、VKU(Verband kommunaler Unternehmen)という「シュタットベルケ連盟」が設立されている。[9]



[6]ドイツのシュタットベルケは、地方自治体の法規制に従い、その地方自治体の公益事業は、公法上の会社(Eigenbetrieb、Regiebetrieb、Anstalt des öffentlichen Rechts)としても、私法上の会社(GmbHまたはAG)としても、設立可能となっている。私法上の組織の場合は、一般的に”Stadtwerke Köln”など、事業会社に対して出資する持ち株会社として、構成されている。 そもそも、シュタットベルケの使命は、”Daseinsvorsorge”とも呼ばれる公共目的の追求であり、これには、生存や基礎文明の確保という意味で、住民に必要な財やサービスの基本的供給を確保する国家の機能が含まれる。
したがって、公共部門は、生活必需品を手頃な価格で確保する責任を国民に対して負っている。供給と廃棄、インフラと公共交通の保証は強制的な地方自治体の使命であり一般の関心の自治体サービスの需要な要素である。すなわち、公共部門は住民に対し生活必需品を手頃な価格で確保する義務を負う。
また、公共部門は公共交通の予測の責任を負う。ちなみに、ドイツのシュタットベルケ設立の法的規制フレームワークは、「基本法 Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland (GG) 」第 28 条 2 項。②「競争制限禁止法 Gesetz gegen Wettbewerbsbeschränkungen(GWB)」第 97~184 条等。③「エネルギー経済法Energiewirtschaftsgesetz(EnWG)」 の 3 つの法が挙げられる。
○シュタットベルケに関連するドイツ法制度において、「基本法第28条(市町村の自治権)」は、エネルギー供給の確保は自治体の役目(義務的自治事務)と解釈の保井的根拠で、自治体主体の公益事業体(シュタットベルケ等)が存在する前提条件となる。「競争制限禁止法第97~184条(独禁法)」は、公共サービス委託契約、コンセッション(インフラ運営にかかる公共入札)等について規定の法的根拠で。競合他社との競争入札で公共サービスを受注の前提となる。
また「株式会社法第272条ほか(損益譲渡契約)」は、持株比率が50%超の子会社と損益譲渡契約(Gewinnabführungsverträge)を締結することによって、連結子会社の損益をすべて親会社に譲渡する形でグループとして連結納税することが可能とする法的根拠であり。節税をつうじた資金の域内循環の実現、組織形態の柔軟化等の根拠となる。

[7]「シュタットベルケ」そのものを定義する法令はない。そのため、シュタットベルケの正確な会社数は把握されていないが、自治体から会計上分離されたインフラ・公共サービスを担う企業数は、ドイツ統計データ(Statistisches Bundesamt)によるとドイツ国内で1万6,833社(このうち自治体所有は1万4,812社)存在している。また、これには私法に基づく事業形態(シュタットベルケはここに含まれる)と公法に基づく事業形態(日本の公営企業のように、法人としては自治体から独立していないものや、自治体から独立した地方独立行政法人にあたるもの)があり、私法に基づく事業形態の数は1万1,494社とされている。

[8]ドイツのハンブルク市の「シュタットベルケ」の場合、同市では、過去2000年頃に、市が保有していた「電力・地域暖房・ガス」の公益事業体の利権を外部に委託していた経緯があったが、その後、20年に一度の配電網営業委託契約の更新期間を迎えたこともあり、9年後の2009年に、保守党と緑の党による市政府が、「シュタットベルケ」として、地域新電力「ハンブルグ・エネルギー」を立ち上げた。ドイツ第二の都市といわれるほど大きな都市でもあり、現在は、顧客数が14万人、電源も太陽光と風力発電とで約35GWもの発電量があった。
再公有化には多額の買い取り資金が発生するため、こういった大きな決断をする際は必ず「住民投票」が行われ、勝つことが必要とされた。再公有化によるメリットについては、一般的にシュタットベルケの利益の7~9%は配電事業によるものであり、再公有化により配電網のあげる利益が自治体にとって大きな歳入となる点が挙げられた。
また、配電網に関わる様々なプレイヤーを自治体の責任下に置くことで、配電網の管理を効率化できたり、地域の事情にあった改修ができるなどもメリットも評価され、「シュタットベルケ」設立となった。

[9]VKU(2023)”VKU – Spitzenverband der kommunalen Wirtschaft”(https://www.vku.de/

4.ドイツにおけるシュタットベルケの具体的事例

2021年に公開された国土交通政策研究所の研究報告書[10]によると、ドイツにおけるシュタットベルケの具体的事例は、以下の表の通りである。


【表1】ドイツにおけるシュタットベルケの具体的事例

(出所)国土交通政策研究所(2021)「インフラ・公共サービスの効率的な地域管理に関する研究」
(ドイツ・シュタットベルケの実態とわが国インフラ・公共サービスへの適用に向けた課題)


ちなみに、上記研究報告にあったドイツ人口約4万人のニュルティンゲン市が100%出資して運営されるシュタットベルケ(Stadtwerke Nürtingen GmbH)の場合、従業員数109人で、年間売上高52百万ユーロの規模で、1926年に地域のエネルギーサプライヤーとして設立され、1972年に有限責任会社化、1999年にガス事業を開始している。主な事業概要は下表の通りである。


【表2】Stadtwerke Nürtingen GmbHの主な事業概要

(出所)国土交通政策研究所(2021)「インフラ・公共サービスの効率的な地域管理に関する研究」
(ドイツ・シュタットベルケの実態とわが国インフラ・公共サービスへの適用に向けた課題)


ニュルティンゲン市のシュタットベルケ(Stadtwerke Nürtingen GmbH)は、電力、ガス、熱供給および水道について料金収受を含めた事務を共同化し、また、施設の状態を一つの集中監視室で原則1人体制で監視している。夜間の緊急呼び出しに備えた職員の待機者についても、職員が多能工化されているため、複数職員を待機者として配置する必要がなく、職員の負担の軽減にもつながっている。このような効率的な人員配置は、「緊急時に30分以内にかけつける」という同社の市民サービスに関するコミットメントにも大きく寄与している。

この他に、同社では、電気やガスのノウハウを生かし、最近では環境保護の観点から電気スクーターの販売・メンテナンス事業を手がけ、電気自動車や電気スクーターのための電気スタンドを設置し、自治体からは街灯の設置・管理運営の委託業務を受託するなどしている。また、近年のデジタル化にも適応していくため、通信事業やIoTを活用した市民向けのサービス事業にも積極的に事業展開を行っている。このように、既存事業との親和性を生かした新規事業の展開も、複数インフラを横断的に管理するメリットとなっている。

なお、シュタットベルケが担う事業には、電気・ガス・熱などのエネルギーや上水道のネットワークインフラに加えて、プール、駐車場、地域交通事業などの赤字事業も含まれている。自由化された電気やガスはもちろん、地域独占の水道事業も料金回収の原則が取られており、これらのネットワークインフラは安定利益を上げることを前提とした事業である。一方のプール、駐車場および地域交通事業などは、公共的観点からサービス水準に見合った料金設定を行うことが難しく、自治体から低廉価格でのサービス提供が義務付けられている場合も多く、シュタットベルケの中では赤字事業となっていることが一般的である。

このニュルティンゲン市の他、ドイツ内でも上位の売り上げを誇り、地域の雇用創出にもつながっているシュタットベルケとしては、ミュンヘン市のStadtwerke Münchenが有名である。その特徴は、100%市が出資していることと、再生可能エネルギーの供給に力を入れていることである。

2025年までにミュンヘン市の約7TWhの電力需要をすべて再生可能エネルギーでまかなうこと、また2035年には最大8.4TWhまで再生可能エネルギーでまかなうことを目標に、設備投資などを進めている。

ミュンヘン市の主な事業は電気やガスなどのエネルギー事業であり、中でも、地下水や小川などを利用した地域冷房に力を入れており、今後増えるだろう冷房需要に対応している。地域冷房は住宅用空調システムと比較して70%程度の電力を節約できるといわれている。

スマートシティ化が進んでいるミュンヘン市では、個人のデータを一つのインフラに統合する動きも強まっており、電力、地域熱供給、モビリティシステム、通信などを一元管理できる「M-Login」というサービスを提供している。これによって、個人のアカウントから公共交通のチケットを購入したり、ライブチケットを購入したりすることが可能となっている。2022年時点でM-Loginは100万人を超えるユーザーが利用しており、今後も利用者は増えていくと考えられている。

また、ドイツ企業の上位10社に入るほど大規模で、しかも、エネルギーから廃棄物処理、公共交通、公共プールなど幅広く事業を展開しているシュタットベルケとしては、ヴッパータール市のWuppertaler Stadtwerkeが有名である。

ヴッパータール市が99.3%出資しており、エネルギー事業や水道事業、廃棄物事業などで利益を出したことで全体では大きな利益を出している。

Wuppertaler Stadtwerkeの特徴は、エネルギーを節約するためのアドバイスを行ったり、省エネ製品を購入する際に助成金が利用できたりと、顧客へのサービスが充実していることである。エネルギー節約のアドバイスは顧客に合わせてオーダーメイドで行われ、3つのプランから選択できる。また、2022年現在、節電設備「電子ラジエーターサーモスタット」を購入する際に最大30ユーロの助成金が出るサービスなどを実施。Wuppertaler Stadtwerkeの顧客になることで、多くのメリットを得られる仕組みづくりに力を入れている。

かように、ドイツでは、シュタットベルケといっても多種多様で、それぞれの地域特性を活かしながら、重要な機能を果たしている。



 [10]国土交通政策研究所は、ドイツ・シュタットベルケに注目し、10のシュタットベルケを含む17団体にヒアリング調査を実施。日独の制度的な違いや自治体出資企業ならではの工夫、課題等を整理した。またわが国地方公共団体での適用に向け、研究会を通じて議論を行い、検討すべき論点を取りまとめ。国土交通政策研究所(2021)「ドイツ・シュタットベルケの実態とわが国インフラ・公共サービスへの適用に向けた課題」

5.日本におけるシュタットベルケの実際と課題と展望

日本の地方自治体にとり、シュタットベルケは、その存続の命運を左右するほどの、決定的に重要な意味を持っている。

シュタットべルケは、運営を民間企業が、迅速かつ機動的・効率的に行い、自治体が事業に必要な元手を負担することが最大の特徴で、複数の事業を展開し、収益の出やすい事業の売り上げをそうでない事業に補填・投資できることが、シュタットベルケを採用するメリットの一つである。

課題先進国とも揶揄されている日本は、いま、人口減少・少子高齢化、地域経済の縮小、人材流出、地方税収減収・財政難、等々のいろいろな問題を抱えている。方や、環境問題への交通・エネルギー・住宅分野における対応、保育・医療等の教育・福祉、災害対策等々、多岐にわたる自治体へのニーズの増加といった地方財政への圧迫要因増加問題に直面している。この二律背反の深刻なジレンマを打開するためには、さらなる効率性と公益性の両方を充足する必要性となる。しかし、現下の地方自治体の機能には、限界があり、ジレンマを打開できない。

そこで注目されているのが、ドイツのシュタットベルケである。換言すれば、このジレンマを止揚(アウフヘーベン)できる一種のガバナンス・イノベーションが、シュタットベルケなのである。

画期的なガバナンス・イノベーションとも言えるシュタットベルケの存在は、発祥の地であるドイツ等欧州諸国だけでなく、これからの日本にとっても、とても魅力的で重要な含意を持っている。

国土交通省都市局は、すでに2019年に「日本版シュタットベルケの目指す姿」と「日本版シュタットベルケの概念」を、以下の2つの図で示している。


【図5】日本版シュタットベルケの目指す姿

(出所)国土交通省都市局(2019)「エネルギー施策と連携した持続可能なまちづくり事例集」
(日本版シュタットベルケの目指す姿)

【図6】日本版シュタットベルケの概念

(出所)国土交通省都市局(2019)「エネルギー施策と連携した持続可能なまちづくり事例集」
(日本版シュタットベルケの概念)
https://www.mlit.go.jp/toshi/city/sigaiti/content/001314127.pdf


ドイツのブッパータル研究所(Wuppertal Institut)は、2018年3月に公開した報告書「シュタットベルケの現状と新設についての日独比較[11]」において、日本のシュタットベルケにとって特に成功の確率が高い戦略には、分散型で再エネをベースとしたエネルギー供給を自治体(または日本国)のレジリエンス(強靭性)の強化と捉えることであると提言している。

むろん、気候危機対策のみならず、少子高齢化、人材の外部流出、レジリエンス強化の急務、地方財政逼迫等々、課題山積の日本にこそ、必須不可欠な戦略的プラットフォームであるが、先行地域欧州における幾多の実績に鑑み、今後の日本における「脱炭素社会」構築のために、シュタットベルケは、画期的な戦略的プラットフォームとして、必須不可欠な前提条件である言っても過言ではなかろう。

日本では、1998年に制定された「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)[12]」により、地球温暖化への対策を国・自治体・事業者・国民が一体となって取り組むことが、重要ミッションとして明確化され、さらに、2022年4月に施行された同改正法では、地方自治体による脱炭素化に貢献する事業を促進するための計画・認定制度が創設された。

また、日本政府は、既に、2016年4月に、エネルギー革新戦略を公表し、「地域のエネルギーを地域で有効活用する地産地消型エネルギーシステムは、省エネの推進や再エネの普及拡大、エネルギーシステムの強靭化に貢献する取組として重要であり、また、コンパクトシティや交通システムの構築等、まちづくりと一体的にその導入が進められることで、地域の活性化にも貢献する」とし、「特に、自治体が計画段階から参画する、より地域性の高いものについては重点的な支援を行うなど、地域の特性を引き出す仕組みづくりに関係省庁として連携して取り組んでいく」こととしている。[13]

かような制度を背景に、昨今、脱炭素社会に向けて、「2050年二酸化炭素実質排出量ゼロ」に取り組むことを表明した地方公共団体が増えつつある。

とりわけ、2020年10月26日の菅総理の「カーボンニュートラル(2050年までに温室効果ガス実質ゼロ)」宣言以降、「脱炭素社会」構築における地方自治体の役割の重要性と注目度が増し、その脱炭素社会に向けた官民一体化した潮流も背景に、今日までに「ゼロカーボンシティ宣言」を表明した地方公共団体数(2023.6.30現在)は、973まで増加している。[14]

日本では、こうした脱炭素社会に向けた趨勢を背景に、遅まきながらではあるが、すでに、現在32社のシュタットベルケが創設されている。[15]そのうち電力を供給しているのは20社、蒸気などの形で熱を供給しているのは10社であり、自治体の出資が50%を超えるのは10社。ごみ発電は6社で行われており、エネルギー以外の事業としては、通信が2事例、生活支援が3事例でみられる。

シュタットベルケの形態も様々で、①自治体単独で新電力を設立する形態、②自治体間提携によって新電力を設立する形態、③既存事業者の連携により電力地産地消スキームを実現する形態、④地元の金融機関や住民など民間からの出資によるファンドを組成し、地元住民参加により地域エネルギー開発をする形態、⑤コージェネレーションシステム等の電力・熱など複数のエネルギーが供給可能な設備を保有・運営する事業者から、自営線や配管を介して複数のエネルギーを、特定エリアに集積している一定規模の需要家群に対して供給する形態等々、多種多様である。

現在、日本では、すでに自治体が関与する地域エネルギー事業者が存在するが、電力小売自由化から年次がそれほど経過していないことに加え、電力、ガス、交通は民間が主に担ってきた過去の経緯もあり、ドイツと日本では前提条件が異なる部分が多い。

「日本版シュタットベルケ」の実現に向けては、現行の制度、事業環境を踏まえて、目指す姿を検討する必要がある。

日本の地方自治体では、地方自治体が、地域住民、地場企業などと一緒に出資を行い、地産地消発電事業を担うことが多い。多くが電力小売りで黒字を維持しており、他の公共サービスへ補填している。電力の配電網の6割や地域の熱導管を自前で所有していることから、分散型電源を地産地消する取り組みが近年進んでいる。電力の1次エネルギーについては、天然ガス等から、廃棄物やバイオマスを用いたコージェネ発電への切替が進んでいる。地域エネルギー会社は、地域課題の解決ツールやプラットフォームとして期待されており、その強みである地域密着型のサービスを提供していくことが重要である。

まちづくり活動の原資となる収益の確保のためには、出来るだけ低廉で安定したエネルギー源の確保に努め、事業運営の内製化や事業者間の広域連携など、コスト縮減や経営の効率化を図ることが必要であるが、行き過ぎた価格競争によらず、適正な価格設定のもとで付加価値の提供によって顧客の維持拡大を図ることが肝要である。

ちなみに、日本版シュタットベルケの新設が加速した背景には、2011 年3月の福島第一原発事故がある。この原発事故を契機に、一部の自治体は、大きな地域独占企業により非常に集約的に組織されたエネルギー供給やリスクのある原子力エネルギーへの依存から脱却する必要性を認識し、再エネによる電力や熱の分散型の生産を支援するプロジェクトを始めるようになった。

この際、日本の地方自治体にとって喫緊の優先事項は、地域のエネルギー需要を地域で作られるリスクの少ない「地産地消」型で持続可能なエネルギーでまかなうことであった。同時に、自治体行政は、この道筋を通じて高齢化、主に若者の人口の都市部への転出、雇用の喪失、弱い地域経済の克服に取り掛かることができる可能性も認識していた。

日本のシュタットベルケを成功させる戦略上の鍵は、分散型で地産地消型の再生可能エネルギーを軸としたエネルギー供給体制の構築を自治体のレジリエンス(強靭性)の強化と捉える点にある。数々の災害を経験した結果、レジリエンスに対する切望は日本国民に広く一般的なものとなっているからである。同時に、自治体エネルギー供給会社による地域の価値創造と地方再生に対する貢献は、顧客獲得の文脈でも強調されるべきであろう。自治体エネルギー供給会社からの電力購入を通じて地域の経済活性化に貢献し、さらにシュタットベルケから公共の福祉に関連した追加商品・サービスを受け取ることで地域住民の希望や欲求を拾い上げ満足させるという点から始めるべきである。

自治体は相乗効果を実現し、市場における立場を強めるために、電力販売を水道事業、ごみ処理、下水処理等のその他の商品・サービスと組み合わせることに取り組むべきである。これは、力のある既存の競合他社との競争的な市場環境で生き残るために、他の自治体、地域に根ざした企業、その他の戦略的パートナーとの協力やパートナーシップと同じように重要である。

また、日本のシュタットベルケの課題は、ドイツの地域熱供給事業のように、電力サービス以外で収益性の見込める柱となる事業を発掘して、収益構造の多角化をすることにある。これが、収益基盤の安定化に資することになり、その結果、ホールディング機能の成果として、傘下の赤字になっている交通部門等への損失補填等の弾力的な効果も発揮しやすくなるであろう。

ちなみに、ドイツのシュタットベルケ・フライブルク(Stadtwerke Freiburg GmbH)では、公共交通、プール、空港の管理運営について、それぞれの事業を行う会社を設けるとともに、これらの全体の財務や法務をフライブルク市 100%出資のシュタットベルケ・フライブルク社が担う体制を取っている。[16]それぞれの事業会社はこのシュタットベルケ・フライブルクの出資による会社である。

なお、エネルギー事業を担うバーデノバ社はフライブルク周辺の地域を含む広域のエネルギー会社であり、事業損益上は交通事業の赤字をエネルギー事業で補填する構造となっている。日本では、まだこういった総合的なホールディング機能を発揮できるような体制構築が道途上で、今後の課題となろう。



[11]Wuppertal Institut (2018) ”Status und Neugründungen von Stadtwerken. Deutschland und Japan im Vergleich. Inputpapier zum Projekt Capacity Building für dezentrale Akteure der Energieversorgung in Japan.

[12]2021年に、「地球温暖化対策の推進に関する法律(いわゆる「温対法」)」の一部を改正する法律が公布され、地方自治体による脱炭素化に貢献する事業を促進するための計画・認定制度が創設され、同改正法が2022年4月1日に施行された。
環境省(2023)「地球温暖化対策推進法について」(https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20220519-topic-24.html

[13]経済産業省(2017)「地域エネルギーサービス(日本版シュタットベルケ)導入可能性調査報告書」

[14]2009年3月に「長期ビジョンとして2050年までにCO2ゼロやまなし」実現を宣言した山梨を皮切りに、「ゼロカーボンシティ宣言」を表明した地方公共団体は、2023年6月30日現在で973まで増加している。
(出所)環境省(2023)「2050年二酸化炭素排出実質ゼロに向けた取組等」(https://www.env.go.jp/content/000149636.pdf

[15]ちなみに、日本では、シュタットベルケ導入の歴史は古い。すでに、第二次世界大戦以前には、シュタットベルケをモデルとした電気事業が地方都市で展開されていたことは、あまり知られていない。

 [16]Stadt Freiburg(2017)「Stadtwerke Freiburg GmbH KONZERNSTRUKTUR」
https://www.freiburg.de/pb/site/Freiburg/get/params_E783965814/387891/STW_Konzern2017.pdf

6.日本におけるシュタットベルケの具体的事例

日本版シュタットベルケの先駆的な代表例として、みやまスマートエネルギー株式会社がある。同社は人口4万人の福岡県・みやま市で2015年に創設され、同市が55%出資している。太陽光発電で収益を得て、それを福祉事業に充てている。また、鳥取県・米子市のローカルエナジー株式会社では、同市のごみ焼却施設などで作られた電力を購入して、それを同市内の家庭や事業所に販売している。

ちなみに、いまから6年前の2017年には、日本シュタットベルケネットワーク(JSWNW)が設立(2019年3月時点で32の自治体が加盟)され、シュタットベルケを担う人たちが情報を交換したり、これから作ろうとしている人たちが専門家から助言をもらったりする場となっている。

シュタットベルケの仕組みを日本版に発展させたシュタットベルケ事例として、以下、数例を紹介したい。

福岡県みやま市の「みやまスマートエネルギー」

「みやまスマートエネルギー」は、いまから8年前の2015年2月18日に設立されたシュタットベルケで、資本金は、20,000千円。株主は、福岡県みやま市(95%)株式会社筑邦銀行(5%)である。[17]

メガソーラー(5MW)による発電事業や、一般家庭からの余剰電力の小売りによって得られた収益の一部を、コミュニティースペース運営や高齢者向け無料宅配サービスや高齢者見守りサービス等の地域の公共サービスに還元している。

概要は、以下の図の通りである。


【図7】みやまスマートエネルギーの概要

(注)メガソーラー(5MW)による発電事業によって、再生可能エネルギー由来の電気を家庭や企業に供給している。
送配電網は、九州電力送配電のネットワークを利用して各家庭に届けている。
それ以外の電気は、他電力等外部から調達しているが、非化石証書(再エネ指定)を使用することにより、
実質的にCO2ゼロエミッション電源100%の調達を実現している。

(出所)日本シュタットベルケネットワーク(2023)
「日本初のシュタットベルケ!みやまスマートエネルギー」公式サイト


同社の基本方針は、以下の3点である。

<「みやまスマートエネルギー」基本方針>

1.私たちは、持続可能な再生可能エネルギーの地産地消を推進して地球環境保全に努めます。  

2.私たちは、地域の自治体や住民の皆さんと一体となって様々な地域課題の解決に取り組みます。  

3.私たちは、事業の収益を追求し、地域へ還元することで地域に愛され続ける会社を目指します。

現状では、再生可能エネルギーによる電気(卒FIT電気)はまだ一部であり、多くは、他電力からの調達で賄われており、再生可能エネルギーとしての価値やCO2ゼロエミッション電源としての価値は有さず、火力電源などを含めた全国平均の電気のCO2排出量を持った電気として扱われている。


②群⾺県中之条町の「中之条電⼒」

全国初の自治体主体の地域電力会社を設立した事例である。中之条町は2005年に制定された「中之条町環境にやさしいまちづくり」宣⾔に基づき、⼀般家庭や地域社会などが⼀つになり、循環型社会の創造を含めた環境にやさしいまちづくりを推進してきた。2011年に発⽣した東⽇本⼤震災の被災現場視察を通して危機感を抱いた町は、エネルギー対策を重点施策と位置づけ、2012年7⽉にエネルギー対策室を設置し、2013年6⽉に「再⽣可能エネルギーのまち中之条」宣⾔をして、再⽣可能エネルギーを積極的に活⽤し、電⼒の地産地消の取組を通じた活⼒あるまちづくりを⾏ってきた。

そして2013年8⽉に「⼀般財団法⼈中之条電⼒」を中之条町60%、㈱V-Power40%出資で設⽴し、町内で太陽光発電事業を⾏い、全国初である⾃治体主体の地域電⼒会社を設⽴し太陽光発電所から調達した電⼒を公共施設や地域住⺠に供給している。


【図8】中之条電⼒の事業概要

(出所)中之条電⼒(2023)「株式会社中之条パワー会社案内」
経済産業省(2017)「地域エネルギーサービス(日本版シュタットベルケ)導入可能性調査報告書」

【表3】中之条電⼒の概要
(出所)中之条電⼒(2023)「中之条電力の概要」


2015年には、電⼒⼩売全⾯⾃由化に伴う制度変更に対応するために法⼈形態の⾒直しをし、中之条電⼒が全額出資して設⽴した「株式会社中之条パワー」に⼩売電気事業を承継した。現在、中之条電⼒は⼩⽔⼒発電所の事業化検討調査、⽊質バイオマス発電の事業化に向けた検討などの⾃然エネルギー全般の事業の推進や、地域イベントの協賛を始めとする地域活性化策⽀援を⾏っている。

なお、上記の2社以外に、地方自治体が出資しないため厳密にはシュタットベルケに該当しないが、民間企業出資や市民出資の地産地消型電力会社設立の好事例として、以下、小田原市と飯田市のケースも、紹介しておきたい。


③神奈川県小田原市の「ほうとくエネルギー」「湘南電力」(地元民間企業出資のケース)

行政・地元企業・市民との連携による地域エネルギー事業への取り組みの好事例である「湘南電力株式会社」は、小田原市環境部による「行政・企業・市民」が一体となった取組みによって、企業会員=約60社、個人会員=約30名から構成された「おだわらスマートシティプロジェクト」の成果として誕生した。

東日本大震災が起きた2011年の10月に、環境省による「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に小田原市が採択されたことにより、38社の地元企業が出資して市民ファンドで再生可能エネルギー発電所をつくる地域密着のエネルギー会社「ほうとくエネルギー」が、2012年12月に誕生した。

小田原の山林にある1.7MWの「メガソーラー市民発電所」、小学校などの5つの公共施設の屋根を借りた164KWの発電量の太陽光発電設備「屋根貸し太陽光発電」、商業施設に初期費用0円で30KWの発電量太陽光発電 「0円ソーラー」を設置。これらの発電量は、戸建住宅580軒分に当たる。

このご当地電力発電会社「ほうとくエネルギー」が発電した電気を供給するための「湘南電力」が、2017年5月に、小田原ガス等の小田原の地元企業80%出資で設立。「小田原市エネルギーを自給自足の促進に係るモデル事業公募型プロポーザル」にて、最優秀提案者として選定され、2017年12月から、省エネ効果が高いと想定される市立幼稚園、小中学校42施設を対象に電力を需給している。

ほうとくエネルギー株式会社が発電した電気を、湘南電力株式会社が販売し、さらに、小田原のガスインフラを担ってきた小田原ガス、株式会社古川と販売代理契約を結ぶことにより地域での窓口となる「小田原箱根エネルギーコンソーシアム(ECHO)」を組成している


【図9】ほうとくエネルギーと湘南電力のスキーム図
(出所)原正樹(2023)「行政・地元企業・市民との連携による地域エネルギー事業への取り組み」


「湘南電力」は、さらに販路を拡大し、「かながわ0円ソーラー」を立ち上げた。その特徴は、1)事業者が初期費用を負担するので、住宅(事務所)所有者は0円で太陽光発電システムが設置可能、2)事業者との契約期間終了後(10年後)、設備は住宅所有者に無償譲渡される、3)電気料金は、再エネ賦課金や燃料費調整額がかからない為、これまで使用していた分の電気料金に比べ、お得に電気をご使用できる。4) 災害等による停電時、太陽光発電システムが発電していれば、直接電気をご使用することができる。等の利点がある。


④長野県飯⽥市の「おひさま進歩エネルギー」(市民出資ファンドのケース)

飯⽥市は、1996年に市の環境政策の基本計画となる「いいだ環境プラン」を策定し、環境問題に対して地域全体で取組み、持続可能なまちづくりを進めていくことを基本理念として施策を推進している。

2004年度には、環境省「環境と経済の好循環のまちモデル事業」(まほろば事業)の採択を受け、「太陽光市⺠共同発電事業」などの取組を開始する⼀⽅、同年12⽉に、飯⽥市を中⼼とした南信州地域においてエネルギーの地産地消による循環型社会を構築するために「おひさま進歩エネルギー有限会社」(以下、おひさま進歩。2007年に株式会社化)を設⽴した。

おひさま進歩エネルギーのスキーム図と概要は、以下の図・表の通りである。


【図10】おひさま進歩エネルギーのスキーム図 
(出所) 飯田市(2011)「飯田市の太陽光発電に関する取組み」

【表4】おひさま進歩エネルギーの概要
(出所) おひさま進歩エネルギー(2011)「会社概要」


おひさま進歩は、飯⽥市の「太陽光市⺠共同発電事業」のパートナーとして⽇本初の⼤規模な太陽光発電の市⺠出資「南信州おひさまファンド」を2005年に組成し、おひさま進歩が発電事業(おひさま発電所)を開始した。2006 年にかけて、保育園や公⺠館等の47カ所の公共施設に市⺠出資により太陽光パネル(326kW)を設置、電⼒供給を⾏い、飯⽥市はおひさま進歩から、太陽光で発電した電気を20年間全量買い取るとともに、⾏政財産を 20年間の⻑期に渡って使⽤させる許可を出した。

また、飯⽥市は、2009年1⽉に「環境モデル都市」に選定され、2050年に地域全体の温室効果ガス排出量を70%削減(2005年⽐)する⽬標を掲げた。この時に策定した「第1次飯⽥市環境モデル都市⾏動計画」に基づき、太陽光発電、⽊質バイオマス熱利⽤などの再⽣可能エネルギーの導⼊の取組を中⼼に、温室効果ガスの削減に取り組んできた。

2013年には「地域環境権」(再⽣可能エネルギーから⽣まれるエネルギーを市⺠総有の財産と捉え、市⺠がこれを優先的に活⽤して地域づくりをする権利)を定めた「飯⽥市再⽣可能エネルギーの導⼊による持続可能な地域づくりに関する条例(地域環境権条例)」を制定した。まちづくり委員会等の地縁団体が地元の⾃然資源を使って発電事業を⾏い、主に地域が抱える課題解決に売電収益を使うといった、市⺠が主体となって地域づくりを進める事業を、飯⽥市との協働事業(地域公共再⽣可能エネルギー活⽤事業)として認定し⽀援をしている。2016年度までに9件認定している。

 

[17]「みやまスマートエネルギー」は、電力や顧客向けソリューション等の地域エネルギー事業から得た収益を活用して、必要なサービスを提供し地域課題の解決に貢献する公益的事業体。地域の発展をお手伝いしながら、地域に愛され続ける会社を目指している。経営理念は、「地域の経済循環で、地域課題を解決する、地域に愛される会社」。
「みやまスマートエネルギー」公式サイト(https://miyama-se.com/

ページの続きはこちら
特別寄稿 シュタットベルケ(Stadtwerke)の含意
~ 2050年の日本の持続可能性の命運を担う「脱炭素社会」構築の
画期的な戦略的プラットフォーム~(2)