日本における環境分野の各業界トップランナー企業として、常に最前線で環境課題を探求し、その解決への活動を行う「エコ・ファースト推進協議会」。
同協議会では2015年より毎年、エコ・ファーストシンポジウムを開催してきた。
第6回となる今回のテーマは「気候危機と脱炭素社会」。
危機的状況が加速する地球温暖化の中で脱炭素社会の実現に求められる課題やそこにおけるビジネスの可能性などを議論した。ここでは主催者挨拶と基調講演、パネルディスカッションに絞り、その概要を紹介していく。
パネルディスカッション 「気候危機で企業に求められるものとは何か」
ファシリテーター:
●山本良一氏
●株式会社オルタナ代表取締役社長兼編集長 森 摂 氏
パネリスト:
●キリンホールディングス株式会社CSV戦略部シニアアドバイザー 藤原啓一郎 氏
●株式会社ブリヂストンGサステナビリティ部門環境戦略推進部長 中島 勇介 氏
●東洋ライス株式会社 代表取締役 雜賀 慶二 氏
なぜ、企業は、気候変動に取り組まないといけないか
森:なぜ、我々はこのような取り組みをしないといけないか。先ほどの山本先生の基調講演に多くのヒントが入っていた。資料の中に「死んだ地球から音楽は生まれない」というTシャツの写真があった。
地球環境NGOのFoE(フレンド・オブ・ジ・アース)創設者デビッド・ブラウワーも似たようなフレーズを世に出した。「死んだ地球からビジネスは生まれない」だ。
しかし地球は死ぬわけではない。正しくは生態系が死んだ状態になり、今までの企業活動ができなくなる。そういった中でなぜ、気候変動に取り組まないといけないか。改めてこの点について、ビジネスパーソンの皆さんに聞いてみたい。
藤原:気候危機についての社内浸透ではTCFDの提言が大きかった。シナリオ分析では農産物は収量減とともに品質落ちることが予測される。それは我々が原料とする農作物の多くは寒暖差があることで糖度が上がり、美味しさが出る。しかし地球温暖化では朝の温度が下がり切らず品質も落ちてくる。
中島:気候変動やCO2削減、カーボンニュートラルへの取り組みは、ビジネスや企業存続の要件であると捉え、ビジネスモデルに入れ込んで本業でやろうとしているし、従業員に浸透をかけている。
森:COP26で日本は不名誉な化石賞を授かった。実は半年ほど前に山本先生とお話しした時に私は「地球の未来について私は悲観的です」と話したが、山本先生は、「心配することはないよ」と励ましていただいたことを今でも覚えている。その辺りのお気持ちをあらためて山本先生にお聞きしたい。
山本:森さんは環境問題に詳しいし、最先端の情報も入ってくるため、一喜一憂していると思う。しかしマクロでみると人は、命が危険にさらされたり、経済的に危険になったりすると必ず行動するものだと思う。今、世界を見るとサステナブルファイナンスが動き、経済のルールが変わりつつある。損が得かで社会は動いていくと考えられるし、命の危険が増え、気候災害が増えれば火災保険が値上げするかも知れない。そうなると環境建築やエネルギー効率の高い住宅に住むなど「社会」「経済」のどちらにもマクロの社会的転換がおこる。
細かく見ると矛盾が噴出しているが、私はマクロで見れば大きな変化が起きていくと期待している。
若い社員の気候変動への意識
山本:ただ、「今回のCOP26は失敗だった」という評価がある。若い世代からは「恥ずべき失敗」との声がある。その気持ちは分かる。気候変動は脱出口のない映画館で起きた火事に例えられる。だから、避難ではなく、火を消さないといけない。しかし、COP26では、火そのものである石炭火力への解決がなされておらず、否定的な意見が若い世代を中心に目立った。
森:若い世代の取り組みで言えば、日本の高校生たちがグラスゴーで岸田首相に手紙を渡そうとしたが、首相はそれを受け取らなかった。一方、世界ではグレタさんをはじめ、若い世代がデモやストライキを起こし、政治家たちは、その言葉に耳を傾けようとしている。日本では海外のように若い世代による激しいデモなどは起きていない。皆さんの会社の若い世代を見ていて、どう思うか。
藤原:二極分化している。デモまでいかないが、20代の社員に話を聞くと、仕事でCO2削減などに取り組みたいという意識を感じる。しかし40代を過ぎると意識が薄らぐ。
中島:過去に社内で行ったCSRのワークショップでは、若い世代から活発な議論や提案があった。省エネルギーの活動についても、ベテラン世代ではコスト削減のためという考えが主流だが、若い世代はCO2削減のために取り組むという考え方が根付いてきているように感じる。
雜賀:私どもの会社では社会に技術で貢献していくことが社是になっております。そのための意識や技術開発においても若い世代を含めて、社員全員が一致している。
投資家の関心の変化
森:今、気候変動が加速する中、お金の流れも変わった。GPIF(年金積立金管理運用独立法人)も2015年に国連責任投資原則(PRI)に署名し、投資家や運用機関の意識も変わった。どのように感じているか。
藤原:投資家の皆さんと会えば必ずESG(環境・社会・ガバナンス)の話が出る。また投資家は、財務情報だけではなく、非財務情報も重視し、弊社の環境報告書も熟読していることに驚いている。
森:投資家がESGで重視しているのは何か。
藤原:以前は環境問題だったが、今は人権、ガバナンスに移っているように思う。
中島:私の部門でも投資家のエンゲージメントに対応しているが、気候変動、カーボンニュートラル化に対する戦略について、投資家の関心が高い。
雜賀:弊社は、有難いことに無借金経営だ。それ以前に利益ではなく、技術の創造で社会に高度に貢献していくことに強い関心を持っている。
利益を超えたパーパス
森:実は今、雜賀社長のコメントはグローバルな議論にもなっている「purpose beyond profit(利益を超えたパーパス)」に通じる。このことについて社内ではどのように捉えているか。
藤原:我々は嗜好品の会社であり、社会の安定が何より大事になる。弊社のパーパスは生まれてまだ3~4年、ようやく事業計画とフィットするようになった。「利益を越えたパーパス」は、これからの課題だと思う。
中島:弊社の企業理念にある「最高の品質で社会に貢献」がパーパスになると思う。利益を越えたパーパスという点では、社会価値と両立することを主眼におくことを中長期戦略にも掲げているのでそこに着地すると考えている。
森:山本先生、改めてビジネスパーソンや経営者に期待することは。
山本:消費者はグリーンなもの、エシカルなものを購入したいと思っている。また先ほどさほど皆さんからあったような「パーパスを以って社会に貢献したい」「社会的課題をビジネスが解決したい」という高い志を持つ企業の製品を我々は優先的に購入したい。だからこそそういった企業の取り組みを顧客に伝える「サステナブルコミュニケーション」により、取り組んでほしいと思う。
脱炭素社会を創り上げるということは、「サステナブルエコノミー」をどう実現するかに帰結する。新しい資本主義が政府で検討されているが、成長と分配だけではない。サステナブルエコノミーにはいろいろな側面がある。ぜひ議論をしてほしい。
今、地球は存亡の時を迎えている。気候非常事態を社会の総動員で問題解決に取り組むべきだと思う。一部ではない。社会全体がシステムチェンジをぜひ実行するべき時が来ている。
藤原:サステナビリティは一企業ではできない。様々な企業と手をつなぎ、消費者に伝えながら、そのコミュニケーションにも力を入れていきたい。
中島:カーボンニュートラル化は原材料のサプライチェーンなどを含めて社会全体で取り組まないと実現は難しい。様々なステークホルダーとよくコミュニケーションを取りながら進めていきたい。
雜賀:自分がいる業界を変革していくことが大事だと思う。今後は生産農家を巻き込んでいきたい。それを急いでやりたい。
森:本日のパネルディスカッションではあらためて確認したことは、このまま気候危機が進むと、私たちはビジネスができなくなるということ。そして、そのための改革には若い人の意見をどう取り入れるかが重要となり、そこでは40代以上の中間管理職のフォローが鍵となる。そのことで気候危機へのアクションは全社的な取り組みとなっていくように思う。