地球が未来へと持続していくために今、求められる人の意識や行動の変革。地球SAMURAIでは、そこに波動を及す野心的な人物にクローズアップしている。Vol.9では、ワンプラネット・カフェを起業し、ザンビアを拠点に森林破壊を防ぐ環境に優しい素材バナナペーパーの製造に取り組む、エクベリ聡子さんを取材した。

運命的なザンビアとの出会い

──環境系のコンサルティング会社で企業のCSR活動などのサポートに従事していたエクベリ聡子さんが株式会社ワンプラネット・カフェを立ち上げ、ザンビアでバナナの茎から紙をつくり、雇用につなげる事業を展開するようになった理由を教えてください。

聡子:環境問題についてはずっと関心があり、2001年から日本で初めてとなる環境に特化したコンサルティング会社に勤めました。 アルバイトとして入社したのですが、そこから社員になって、その後は役員までさせていただきました。

当時、日本で環境といえば ISO 14000 の認証を取得すれば良いという企業が多かったのですが、海外に目をやると本業で取り組むからこそ、成果を出している事例をたくさん見てきました。それらを参考にして大手のクライアント様に環境戦略を提案するといった業務をする中で私自身、本業の中で取り組むことが重要であることを学ぶことができました。その会社はワークライフバランスも大変重視し、毎年 2週間夏休みを取る制度がありました。そこで私自身も夏休みを使って世界の野生動物を見に行こうと決め、ザンビアに行き当たったのです。そして、2006年にやって来たのがこの場所です。

その素晴らしさに一瞬にして魅せられました。と同時に村の貧困の問題も知り、その貧困が直接野生動物の密猟や違法な森林伐採につながっていることを肌で感じたのです。 実際にそういう現場を見たということが非常に大きな経験となり、その後も講演などで紹介させていただいていたのですが、何か地に足がついていないような、あるいは言葉だけの薄さを痛感しました。そこで私自身が本業としてアクションを起こしてみたくなったのです。 そういった中で2007年から小さなプロジェクトからいろいろと取り組みを始め、それが現在のバナナペーパーの製造に着地しました。

ザンビアからオンラインでお話を伺った エクベリ聡子 氏

継続することで広がった現地の信頼

──事業を始めたとき、現地の人々の反応はいかがだったでしょうか。また、現地や日本でどのようにして協力者を増やしていったのでしょうか。

聡子:この地域が国立公園であり、寄付活動や貢献活動などいろいろな社会貢献活動のイニシアティブは起こりやすい地域ではあったのです。 ただ、よく耳にしたのは「2年プロジェクト」という言葉です。それは何かの活動が始まっても2年で終わって撤退していくという意味になります。バナナペーパーの取り組みにもそのような冷ややかな視線を感じました。そこで、2年以上は絶対に続けようという決心し、様々な失敗も繰り返しながらも、2年を越え、3年、4年と継続していきました。その中で徐々に信頼を得るようになりました。

最初に協力をしてくれた農家さんは、今もずっといっしょに活動をし、10年以上のおつきあいになっています。事業をはじめた当初は「この人誰だろう?」「バナナで何ができるの?」という何とも言えない不信感が伝わってきましたが、今はもう感じません。私たちが車を運転していますと「バナナ!」と言って笑顔で手を振ってくれる方もいらっしゃいますし、ワンプラネット・カフェではなく、「バナナプラネット」という愛称でも親しまれています。有難いことにその中で「あなたたちが続けるのだったら、自分たちもいっしょにやります」という企業も何社か出会え、今も応援してくださっています。

バナナの収穫時に出る廃棄物(茎)の繊維がバナナペーパーの原料に。

順調だったことは一度もなかった

──バナナペーパーを展開していく上で収益の問題で悩まれたと伺っています。どのように解決されたのでしょうか。

聡子:まずは大きなマンゴーの木の下で手作業によって繊維を取るところから、本当にわずか数人で始めたのが、この事業です。それを少しずつ日本の和紙工場さんに送り、紙に仕上げていただきました。そういった皆さんの努力とお力が結晶し、綺麗な紙ができ上るとそれを名刺として使ってみたいという企業が現われるなど少しずつ事業を拡大できました。また、いつも必要な繊維をすぐにザンビアから送れるわけではありませんので、例えば商社さんに在庫を持っていただきたいとお願いをしたところ、まとまった量を買っていただくことができ、その収益で新しい機械を購入することもできました。

現在、広さとしては八千坪ぐらいの敷地の中に工場建屋やオフィスを設けてられています。事業としては日本市場がメインですが、イギリス本社の自然コスメ会社でも採用され、グローバルに活用していただいています。ここまで来ることができた要因は「けっして諦めない」という決意があったからだと思います。 何度も「もうダメかな」と弱気になりそうなことがありました。逆に言えば何もかもが順調だったことは、ほとんどありません。諦めない気持ちと支援をしていただい方に応えたいという想いがあったら今日があると思っています。


パノラマで見たグリーン工場



──現在はザンビアで雇用の拡大にも取り組まれています。その課題に挑まれた理由は何でしょうか。

聡子:2006年からここで事業をやっていますが、今もこの地の自然の素晴らしさに感動しておりますし、野生動物の密猟や違法な森林伐採を食い止めてその環境を守るためにも現地の人が安定し、安心して暮らせるためには雇用という基盤があることが重要と捉え、そこにも力を注いでいます。サステナビリティということを考えると誰かが誰かを助けるのではなく、皆が当事者だと思います。そこには自国も他国も関係ないという気持ちで雇用拡大も進めています。

──今後の目標を教えてください。

聡子:実はJICA(独立行政法人国際協力機構)からの支援を受け、今まで日本やヨーロッパで行っていた柔らかいパルプ状にする工程をザンビアで行うための準備を進めることになりました。そのためにさらに新しい拠点をつくり、農家さんたちが自立して繊維とりを行い、それを買い取るという新しいビジネスモデルを構築していきたいと思っています。


バナナペーパーの作業の様子




エクベリ聡子 氏プロフィール
環境コンサルティング会社役員を経て、株式会社ワンプラネット・カフェを設立しバナナペーパー事業やスウェーデン、ザンビア、インドなどでのグローバルな事業開発を推進。東北大学大学院環境科学研究科において2005年から2015年まで非常勤講師を務め、修士課程のカリキュラム構築にも携わる。
【著書】
共著『うちエコ入門 温暖化をふせぐために私たちができること』(2007年/宝島社) 
執筆協力『地球が教える奇跡の技術』(2010年/祥伝社)

取材を終えて

終始笑顔でオンラインインタビューに答えてくれたエクベリ聡子さん。その背景には美しく、のどかなザンビアの風景が映っていた。しかし、ザンビアも気候変動の影響は大きく、集中豪雨による大洪水が起こり、家ごと流されたり、壊れたり、井戸の水に汚水が入ってしまい使えなくなることもあったとのことだった。また、逆に干ばつの影響でまったく雨が降らないこともあり、主食のトウモロコシの値段が上昇していると伺った。彼女が話していた「けっして諦めない」という決意と勇気が、今後の様々なサステナブルな取り組みに欠かすことができないと感じた。

(取材・記事 宮崎達也)