「人は自らの運命の建築家である(Man ist seines Glückes Schmied.)」
(Alfred Adler)

1.分断の時代における「共同体感覚」の含意

現下の気候危機問題や平和構築問題の解決への道に立ちはだかっているのは、「分断」である。

このちいさな「地球」と言うかけがえのない一個の青い惑星上で共に生きている81.42億人もの人類の1人1人の心に徐々に忍び寄りつつある「分断」という忌まわしき病いをいかに根治するかが、喫緊の課題である。これなくして、気候危機問題や平和構築問題の解決は、不可能である。

人々が「怒り」「悲しみ」「不安」「シャーデンフロイデ(Schadenfreude)」[1]「攻撃」といった劣情ではなく、「喜び」や「思いやり」をもって、穏やかな「利他」「包摂」「協調」「信頼」「誠実」の心で、明るい未来志向的な「共生社会」を構築することができるかが、気候危機や平和構築問題の解決の「糸口」になる。

はたして、この気候危機問題や平和構築問題の解決の「糸口」は、どこにあるのであろうか。

この本源的な問いに対して、1つのヒントとして、かのオーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)[2]の「共同体感覚(Gemeinschaftsgefühl)」の含意は、実に唆に富んでいる。

「共同体感覚」とは、他者を仲間だと見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられることである。「人間は皆互いを支え合う仲間である」という感覚である。アルフレッド・アドラーの「共同体感覚」とは、自分一人の存在ではなく、家族、地域、学校、職場などの大きな共同体の一員であるという感覚である。他者とのつながりの中で幸福を感じるための基盤となる概念である。



(寄稿文 全文は下記リンク先PDFでご覧ください)

[1] 「シャーデンフロイデ(Schadenfreude)」とは、他者が不幸、悲しみ、苦しみ、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、喜び、嬉しさといった快い感情。生後24か月の幼児にも見られ、不公平嫌悪を確立する重要な社会的感情であるとされる。過去の事例から、相手への攻撃性、競争心、自分自身が定義した正義から来るものとする説もある。

[2] アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)は、オーストリアの精神科医、精神分析学者、心理学者。ジークムント・フロイトおよびカール・グスタフ・ユングと並んで現代のパーソナリティ理論や心理療法を確立した1人。アドラーはフロイトの共同研究者であったが、1911年にはフロイトのグループとは完全に決別し、「アドラー心理学(個人心理学)」を創始した。