1990年に設立し、今年で35周年となる公益財団法人イオン環境財団(以下、イオン環境財団)。その活動内容は1991年から始まったイオンの植樹活動をはじめ、世界各地で環境活動を実施している非営利活動団体に対する毎年予算1億円とする助成、さらに環境教育・共同研究や「生物多様性みどり賞」といった顕彰など多岐にわたっている。ここでは同財団専務理事として運営を担う山本百合子氏にインタビュー。設立から今日まで貫かれている考え方や今後の活動の方向性などを伺った。

平和を原点に、覚悟と改革を貫く環境財団


──イオン環境財団は1990年、日本で初めて地球環境をテーマに企業単独の財団法人として活動を開始しました。設立者の岡田卓也氏は、どのような想いで設立を決断されたのでしょうか。

山本:イオン環境財団の名誉理事長である岡田卓也は、昭和30年代、故郷の三重県四日市市でイオンの前身である岡田屋を営んでいた頃、コンビナートなどによる大気汚染で庭にたくさんあったナンテンの木に実がならなくなったり、杉の木が枯れ始めたりするなどを経験しました。また、東北地方への出張の際、海岸の松林が枯れるなど様々な地で環境破壊が起こり始めていることを目の当たりにしていきます。そういった自身が体験し、実際に見たことが環境財団の設立に至ったのだと考えています。

ただ、その根幹には、戦争のない平和な社会への追求があったと思います。最大の環境破壊は戦争であることを岡田卓也は自身が第2次世界大戦という悲惨な戦時下を生きたことで知っていました。その後も世界は東西問題や南北問題などハード面でいくつも政治や経済的な分断や対立を繰り返してきました。それらの報道に触れるたびに岡田は緑や水を守り、地球という視点で人々の想いをつなぐ環境保全活動というソフト面での取り組みが、ますます重要になってくるとよく話していました。

公益財団法人イオン環境財団 専務理事 山本百合子 氏


──イオンは事業活動の中でも様々に地球環境を守る取り組みを進めています。あえてイオン環境財団という別法人を設立した理由はどこにあったのでしょうか。

山本:一つの企業で環境を守る活動を行う場合、その内容は事業の収益に左右され、事業が縮小したら環境活動もそうせざるを得なくなります。しかし、私たちが直面している様々な環境課題や社会課題は事業の実績に関係なく継続する必要があります。その覚悟がイオン環境財団はもちろんのこと、イオンワンパーセントクラブや岡田文化財団といった公益財団法人の設立に表れています。景気がどのように変わろうと、どのように時代が変化しようと活動を続ける。その意志がそこに注がれています。

──設立から35年という歳月の中で貫かれてきたものは何でしょうか。

山本:長く商店を営んできた岡田家の家訓に「大黒柱に車をつけよ」があります。それは社会や人々の動向を注視して、お客さまのために改革を続けていこうという意味であり、岡田卓也は小売業という本業と共にイオン環境財団の運営においても愚直に実践してきました。そして、その時代の環境課題に合った取り組みを行ってきたからこそ、植樹から顕彰まで4つの事業分野へ活動領域を広げることができました、常に改革することを恐れず、それを実践していくこと。これが35年間、貫かれてきたものだと思います。

利害関係ではない緩やかな連帯が社会課題を解決


──財団内だけではなく、産学共同プロジェクトなどさまざまな団体との“共創”もその活動の特徴だと考えております。それを重視する理由を教えてください。

山本:植樹活動をはじめ、我々が行う様々な助成や環境教育・共同研究、顕彰は、すぐに結果の出るものではなく、未来にむけての活動になり、次世代とのパートナーシップが必要になります。また、深刻化していく環境課題は、もはや一社や一団体ではなく、力を合わせなければ解決できない状況にあります。そして、それらに共通しているのは利害関係でカウントできない新しい価値を生み出す緩やかな連帯だと私たちは捉えています。

その関係はコモンズという言葉がふさわしいようです。自分たちの街のコモンズや地域のコモンズなどいろいろなコモンズが広がっていくことを様々な団体とのパートナーシップでは期待しています。その一例として挙げたいのは、「イオンSATOYAMAフォーラム」です。これは「持続可能な里山コモンズの形成」をテーマに各大学と共同で「イオンSATOYAMAフォーラム」を開催し、学びの場の創出や次代を担う環境人材を育成しています。


──設立の翌年から開始した植樹活動は、 2013年に1000万本となり、今年で1200万本を超えています。植樹活動で重点を置いていることは何でしょうか。

山本:何より大切にしたいのは植樹する地域の皆さまであり、地域に木を植えることは重い責任があると考えています。そのために心がけているのはヒアリングです。たとえば宮崎県にある「綾町イオンの森」では人と自然の共生を目指すユネスコエコパークらしい森に整備するために、これまで10年以上植樹、育樹を実施しています。植樹に取り掛かるにあたって地域には、どういった課題があり、森には何を期待しているか。また、森が生まれたその地域にはどのような生業が生まれるか、などを徹底的にお聞きしたことを今も覚えています。そのようにして地域の想いを受け止めてつくったこの森は、地域の心の拠り所となり、地域の人たちによってさらに良く変わり、嬉しいサプライズに出会えています。そして、その喜びがさらに私たちの植樹活動のパワーになっています。

──今後、イオン環境財団が目指していく方向を教えてください。

山本:私たちは、日本で初めて誕生した地球環境に特化した企業単独の公益財団法人です。そこには日本を代表し、アジアをリードしていく使命があると自覚しています。そういった中で今後、力を注いでいきたいのは国境を越えての生物多様性です。そこには様々な取り組みがありますが2020年より取り組んでいるのが生物多様性の宝庫である里山づくりです。今後はより多くの世界の研究者たちが訪問していただけるようなグローバル基準を満たしたイオンの里山づくりを推進していきたいと思っています。