ディズニーとナショナル ジオグラフィックは4月23日、ピュリツァー賞を2度受賞したジャーナリストでありナショナル ジオグラフィック エクスプローラーであるポール・サロペック氏を迎え、4月23日にメディアや関係者向けの特別イベントを開催。地球を歩き続けながら、その土地に生きる人々の声に耳を傾けてきた同氏が“スロー ジャーナリズム”の意義を語った。

2013年から4000日以上、世界を歩くことを通して体験しながら人類の祖先の軌跡と現代の人間社会を見つめ直す旅を続けるサロペック氏。このプロジェクトは、「OUT OF EDEN WALK~人類の旅路を歩く)」と名づけられた人類の拡がりの起源 ―「エデン」であるエチオピアから始まり南米最南端まで全長およそ3万8000キロの道のりを徒歩で歩く旅となる。昨年夏、日本に船で到着し、現在は九州を通り関東圏へと旅を進めている。

今回のイベントではサロペック氏の日本でのウォーキング パートナーであるフォトジャーナリスト・郡山総一郎氏もかけつけた。



「私が13年間辿ってきた旅路についてお話しましょう」と切り出し、スピーチを始めたサロペック氏。その旅はランダムではなく、私たちの先祖たちが6万年前から12万年前にアフリカから石器時代に世界各地に散っていたその足跡を体験するために開始したと述べた。サロペック氏はこれまで中東・中国・韓国と足を進めてきた。その中で、自分の足で歩くという時速5キロの速度で、ただの情報ではなく、それぞれの土地に生きる人々の声を聞くことで、気候変動や文化の存続、技術革新など、時代を象徴する変化の中で生きていることを実感してきたと話した。また、風景や食料生産、自然とのつながりや、天候、水、我々を養う食べ物との結びつきが次第に希薄になり、地球の変化を感じづらいことに警鐘を鳴らした。



昨年に福岡へ到着し、現在関東を旅するサロペック氏だが、その行程の8割は農村部だったと言う。そこでは、誰もが近年の気候変動による暑さや、それによって収穫時期が乱れていること、そして、後継者問題を口にしていたと語り、農業だけに留まらない伝統的な英知が今も豊かに根付いていることを実感したと話した。

郡山氏は「いっしょに歩き、話していく中で日本の農業の現状について“知っているつもりでもわかっていない”ことが多いことに気づいた」と語り、世界的に苦境にある農業がサロペック氏の“スロー ジャーナリズム”を通して届けられる物語によって「誰かのやりがいを見出すかもしれない」と、その取り組みに内在する力を強調した。



またサロペック氏は、世界を巡る人と文化を取材する中で得た共通するものは、「誰かにもっと愛されたいのに、なぜ愛してくれないのか、という心配や子どもの将来や気候変動に対する不安」でありながら、自身が見た日本の農村には自立している印象があり、仮に自分たちがその村の最後の家族であっても生き続けていこうとする自信を感じたと伝えた。

世界は、情報によって日々が目まぐるしくアップデートされている。その中でサロペック氏はあえてスロー ジャーナリズムというスタイルを貫く。そういった時代だからこそ、郡山氏は物事をゆっくりと丁寧に紡ぐスロージャーナリズムの存在価値大きさをあらためて訴えた。またサロペック氏は「歩くことは、より深いエモーショナルな物語を見つけ、国境や言語を超え意味やつながりを持つストーリーや私たちがしばしば見過ごしてしまう感情を記録するのです」と結んだ。