グリーン購入ネットワーク(以下、GPN)は、「持続可能な調達」を通じて、グリーン市場の拡大に貢献した取り組みやSDGs の目標達成に寄与する取り組みを称える「第 24 回 グリーン購入大賞」表彰式を12月12日に開催した。同表彰式では大賞・環境大臣賞には日本生活協同組合連合会、大賞・経済産業大臣賞 セイコーエプソン株式会社、大賞・農林水産大臣賞 株式会社杉本商店が選ばれた。
審査委員長講評
審査委員長として挨拶に立ったGPN会長の梅田靖氏は、以下のように語った。
24回目となる今年度のグリーン購入大賞は、SDGsの目標達成に寄与する「消費と生産」の取り組みに加えて気候変動は皆さまの食料、農林水産業と密接に結びつき、持続可能性に配慮した食料システムの維持に寄与する取り組みに周知を図る必要があるため、本年度は「農林水産特別部門」を設け、13団体を選んだ。
受賞内容は、大企業や小売業が取引先へ環境面、社会面の取り組みを要請し、ともに改善していく持続可能な調達方針を含めたサプライヤーエンゲージメントへの取り組みを表彰した。これらの取り組みでは方針を取引先に通知したり、取り組み状況を調査するだけではなく、取引先とノウハウを共有したり、支援したりしながら、共に改善していく姿勢が随所に見られた。
これまで破棄されていた未利用の生物資源を活用した容器の開発や畜産と農産とを組み合わせた資源循環の取り組みや6次産業化を目指し、付加価値を高めた事例等多様な取り組みを表彰できた。これらは農林水産分野における持続可能な消費と生産を体現したものであり、農林水産省が推進するみどりの食料システム戦略に叶った事例といえる。
グリーン購入大賞では環境問題だけではなく、社会課題の解決につながる取り組みも表彰している。今年度も若者への個人消費への普及に向けた取り組みの他、はじめてアニマルウェルフェアを重視した畜産の普及を選んだことは今年度の特徴の一つといえる。これらは生産者と消費者の相互の底上げにつながり、持続可能な調達の概念の幅を広げることができた。またプラスチック廃棄物をリサイクルし、資源循環を促進する事例や様々な環境問題、社会課題に取り組む人材を育成するための教育システムなど次世代につながる意欲的な事例を紹介・表彰した。企業・地方自治体・団体の方々には受賞事例という成果のみならず、成果に至るプロセスや関係者との連携のカタチなどエッセンスをつかみとっていただき、自らの取り組みに生かしていただきたいと思っている。
受賞された皆様は表彰式で終わりではない。成果に至るプロセスや関係者との連携のカタチなどエッセンスを伝播する役割を私たちGPNと担っていただくことをお願いしたい。 続いて来賓として環境省大臣官房審議官堀上勝氏、経済産業省産業技術環境局審議官 田中哲也氏、農林水産省大臣官房審議官秋葉一彦が登壇。環境省堀上氏は環境への配慮は企業にとってはコストではなく、チャンス。環境と経済の好循環の必要性を訴え、経済産業省の田中氏はカーボンニュートラル実現のため、サプライチェーン全体での排出削減に向けて責任あるサプライチェーン構築が急務であると語った。農林水産省大秋葉氏は令和3年5月に策定された「みどりの食料システム戦略」について紹介し、今後の継続の重要性を強調した。
【大賞・環境大臣賞】
日本生活協同組合連合会(行政・民間団体部門)
コープ商品「責任ある調達基本方針」に基づく原材料調達と
ステークホルダーとの コミュニケーションについて
日本生活協同組合連合会は、2018 年に採択した「コープ SDGs 行動宣言」に基づき、プライベートブランドであるコープ商品とその原材料に関して、社会や環境に配慮した責任ある調達を進めるために、2021 年にコープ商品「責任ある調達基本方針」を策定。同方針ではサプライチェーンにおける社会的責任課題への対応、環境や人権等に配慮して生産された農林畜水産物等の取り扱い拡大、生産者や NGO との協力関係構築など 6 項目を掲げ、これらを踏まえた調達活動を行ってきた。また、生協組合員とのコミュニケーションの一環として社会や環境に配慮した原材料を使ったコープ商品を 2021 年にシリーズ化し、「コープサステナブル」の共通ロゴをパッケージに表示して販売し、同シリーズの商品は 200 品を超え、組合員の認知向上とエシカルな買い物行動の促進に繋げてきた。
今回は責任ある調達基本方針に基づき、体系的に活動を進め、ステークホルダーとのコミュニケーションを重視した取り組みが高く評価された。
受賞スピーチで常務理事 運営組織担当 二村 睦子氏は「“2030年のありたい姿・あるべき姿”をバックキャスト型に策定し、コープ商品の2030年目標を定めたことでプライベートブランド商品の調達と供給に関わる取り組みを、方向性をもって組織全体で取り組めるようになった」と語った。
【大賞・経済産業大臣賞】
セイコーエプソン株式会社(大企業部門)
公平公正・共存共栄を基本に、サプライヤーと相互信頼関係を築き、
ともに発展していくことを目指した CSR 調達の取り組み
セイコーエプソン株式会社は、サステナビリティの重要テーマとして「責任あるサプライチェーンの実現」を位置づけ、サプライヤーとのパートナーシップにより人権や環境などに配慮した調達活動を進めてきた。
グループ横断の CSR 調達検討委員会の設置、CSR の行動規範を含むサプライヤーガイドラインの策定、サプライヤーへの説明会・セミナーなどの様々な取り組みを行っている。
また、サプライヤー評価プログラムにより、直接材のみならず間接材を含む全サプライヤーを対象に評価している。このプログラムは、外部信用調査機関の情報に基づく間接評価、QCD や環境などの管理レベルをサプライヤーが自己チェックする直接評価、行動規範に基づく CSR 詳細評価などで構成され、評価結果を踏まえて是正を促すとともに支援を行い、継続的な改善に結びつけ、これにより持続可能な調達を目指している。同社は2005 年よりサプライヤーガイドラインを策定し、体制を整備し、組織的に CSR 調達に取り組み、特にサプライヤー評価プログラムに基づいたきめ細かい評価やリスクランクの改善への取り組みが期待され、受賞につながった。スピーチを行った常務執行役員 生産企画本部長 地球環境戦略推進室 副室長 渡辺 潤一氏は「各国の法令や国際ルール社会情勢などに絡んだ調達を通して、人権尊重や環境負荷低減など新しい社会課題の解決に取り組むことが、持続可能性につながる。今後も様々な課題と真摯に向き合いながら進めていきたい」と抱負を話した。
【大賞・農林水産大臣賞 】
株式会社杉本商店(農林水産特別部門)
「地域とともに『ここでしか作れない』を世界へ
株式会社杉本商店は、宮崎県の高千穂郷の干し椎茸卸問屋であり、1954 年の創業以来、原木栽培椎茸農家から全量を買い取り、地域経済を支えるとともに日本の食文化保護継承に寄与してきた。食生活の変化などにより国内の干し椎茸市場が縮小する中で、持続可能なビジネスモデルである椎茸の原木栽培を守り継続させるために、2017 年から海外市場への展開にチャレンジし、EC サイトを通じた販売を開始した。
世界各国の顧客に向けて、高千穂郷の原木栽培椎茸が「どんな場所で」「どんな人たちによって」作られているかなど情報発信に力を入れ、2017 年に 24 万円だった輸出売上高は 2021 年には 4,577 万円にまで増加し、輸出先も欧米を中心に23 カ国に広がった。
また、得た外資を地域に再分配することで、「ここ」高千穂で新たな誇りを生み、持続可能な地域社会を実現、九州山地の豊かな自然環境を守り続けている。
原木栽培椎茸の生産現場で、地域のステークホルダーとの協働により、生産体制の整備、SNS によるリアルな情報発信、海外への販路拡大を実現した取り組みが、評価された。これらの取り組みは、生産者の高齢化や人手不足など地域社会が抱える課題解決の事例であり、日本の農業の価値を高めることにつながっている。
受賞スピーチで代表取締役 杉本和英氏は、「日本には世界でまだ知られていないダイヤの原石のような産地があるはずだ。今回の受賞によって“うちにもできるかも知れない”と足を踏み出すようなきっかけやヒントになれば幸いだ。そしてそういった会社が日本に増えることでしなやかで強い日本になると考えている」と述べた。
【大賞】
国立大学法人三重大学(行政・民間団体部門)
地域環境 X(LocalandEnvironmentalTransformation)を 担う
科学的地域環境人材(SciLets)の共創育成プログラム
国立大学法人三重大学は、地域の環境保全や環境価値の利活用促進を目的に、平成 29 年度より、企業や自治体の環境担当者、一般社会人、三重大学及び連携する国内外の大学の学生を対象として、科学的地域環境人材(SciLets:サイレッツ)を育成する事業を進めている。プログラムは、資源循環、気候変動、エネルギー、有害物質、生物多様性などに関する知識、評価手法、環境負荷低減技術等を網羅的にカバーする 10 分野で構成されており、ビデオ講義による教育が行われている。受講修了者には、科学的地域環境人材「アナリスト」、さらに上位の「エキスパート」の認定が行われ、これまでの受講者は 1,683 名、アナリスト認定登録者 367 名、エキスパート認定登録者 13 名となっている(2023 年 9 月 1 日時点)。
同大学の教育を通じて科学的地域環境人材を育てるプログラムの構築や運営、他大学や外部機関との連携を構築し、三重大学内に留まらない仕組みとしていることが評価され、受賞となった。また認定基準も示され、総合的な環境の専門家を育成する取り組みとして、他地域への波及や企業や自治体との更なる連携、協働に期待が寄せられた。
受賞スピーチで三重大学 副学長 国際交流、環境担当 金子 聡氏は「この取り組みは、地域大学の特徴を活用したものであり、今後も地域環境や行政機関とのつながりを意識した共同研究を進め、科学的な知識を有する環境人材を輩出し、地域環境保全や地域の環境価値を高めていきたい」と話した。
【大賞】
株式会社秋川牧園(農林水産特別部門)
畜産業を中心としたサステナブルな農業
~消費者とともにつくる安心・安全な食づくり~
株式会社秋川牧園は、抗生物質を投与しない無投薬飼育や開放型鶏舎での飼育など、家畜にとって負荷の少ない環境づくりに取り組んでおり、野菜の生産においては、畜産現場で発生した畜糞を用いた堆肥を活用し、化学肥料や農薬に依存しない栽培を続けている。
また、1972 年の創業当時より、主力の若鶏の余剰部位を活用した冷凍食品製造も自社で行い、6 次産業化を実現した。こうした取り組みに加え、地域の農家と提携して鶏用の飼料用米を生産し、この米を食べて育った鶏の 糞から作られた堆肥を飼料用米の圃場に循環させている。さらに直販事業や情報発信などにより消費者と のコミュニケーションにも力を入れ、安心・安全な食づくりに向けたサステナブルな農業を実践している。
同社の安全安心な食生活を目指して積み重ねてきた工夫や無投薬飼育、飼料用米生産、無農薬野菜栽培、加工品 製造、直販事業等を通じて持続可能な畜産業・農業・食品加工業を実現できている点が評価された。特に地域の農家との連携で循環型農畜産業の実現、SNS を活用した消費者への情報発信と啓発により、着実に事業を発展させている点など今後のさらなる事業拡大に期待を集めた。
受賞スピーチを行った代表取締役社長 秋川正氏は「気候変動により、世界の食料事情は今後ますます不安定化している。持続可能な不安定生産と消費に向けて今後も地域循環をキーワードに地域の同志を守るために汗を流したい。またいつも食べていただいている消費者の皆様に感謝したい」と述べた。
【大賞】
イオントップバリュ株式会社(農林水産特別部門)
我々に食べるものを与えてくれる動物の飼育環境にまで配慮し、動物が快適で自由に生きることができる飼育環境を広げていくためにイオンができること。
イオントップバリュ株式会社は、日本においてアニマルウェルフェアを広げていくことを目的に、飼育環境に配慮し自由で快適な環境で育った鶏が生んだ「平飼いたまご」の商品開発と普及に取り組んでいる。2020 年 2 月には「トップバリュ平飼いたまご飼養基準」を独自に制定し、鶏卵生産会社と専用鶏舎の新設や飼育環境の整備を進め、「トップバリュ グリーンアイナチュラル平飼いたまご」を発売した。その後、取り組みに共感してもらえる鶏卵メーカーや商品アイテムの拡大を図り、2023 年 11 月時点で 8 品目を全国に供給。2023 年 9 月には平飼いたまごを使った「マヨネーズ」も発売した。発売当初より、「平飼いたまご」に関する消費者とのコミュニケーションにも力を入れ、たまごの販売における構成比は10%以上に達している。
国内に基準がない段階から独自に基準を策定し、価格を抑える工夫をしながら全国に供給体制を敷いている取り組みが先進的であり、取扱店舗数を着実に拡大してきている点が継続性・発展性の観点からも評価され、アニマルウェルフェアに則った平飼い卵の販売・普及の活動は、今後の一般消費者の意識と選択を変える効果を期待された。
取締役副社長森 常之氏は、受賞スピーチにおいて「2024年でトップバリュが販売50周年を迎えるが、今後の50年も“環境にちょっといいね、サステナブルに貢献できるね”と思っていただける商品をつくっていきたい」と話した。
【大賞】
山梨県(農林水産特別部門)
やまなしアニマルウェルフェア認証制度
~高付加価値化や小回りの効く持続可能な畜産を目指して~
山梨県は、恵まれた自然環境で家畜の快適性に配慮したアニマルウェルフェアの実践農場が多数存在していたことから、持続可能な畜産経営を目指し 2021 年 9 月に「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」を全国の自治体で初めて創設した。認証基準は、エフォート(取り組み)とアチーブメント(実績)の 2 段階で構成され、アチーブメント認証を受けた農場では、達成度に応じて 1つ星から 3つ星の 3 段階の認証マークを畜産物に表示。2023年 10 月 1 日現在、12 農場がエフォート認証を、そのうち 9 農場がアチーブメント認証(すべて 3 つ星)を受けており、認証制度を活用して、サステナビリティの側面からブランド価値の向上につなげている。
世界的にアニマルウェルフェアの概念が浸透し動物の飼育環境への配慮を求められる状況にあるなか、その認証制度を自治体として初めて創設したこと、官民が連携して、持続可能な畜産業の推進を目指している点が評価された。そして、今後の普及促進や畜産物のブランド価値向上、アニマルウェルフェアを実践している農場の持続可能な経営を支援する優れた制度として確立することに期待が寄せられた。受賞スピーチを行った山梨県庁 農政部 技監 渡邉 聡尚氏は「山梨県には、アニマルウエルフェアトップランナーが多数いながら、まだ県内の畜産業に対する国内での評価が低い。より一層家畜の快適性に配慮した飼育管理を普及促進し、畜産のブランド価値向上に努めたい」と語った。
優秀賞として6社を表彰
尚、優秀賞は優秀賞ではスーパーバッグ株式会社(大企業部門):廃棄ストレッチフィルムを使用した資源循環型製品「とってもエコなゴミ袋」の開発、大東建託株式会社(大企業部門):サプライチェーン評価システム「EcoVadis」を利用したサステナビリティ強化の取り組み、株式会社エルコム(中小企業部門):プラごみの2つの発生元で未来の海をまもるクリーンオーシャンプロジェクト、サスティナブル・ストーリー株式会社(中小企業部門):若者が参加しやすい経済循環のカタチ「フェアトレードコイン」、株式会社折兼(農林水産特別部門):『バガスシリーズ製品開発と素材特徴を生かした異業種との環境にやさしい取り組みの実施について』、株式会社モスフードサービス(農林水産特別部門):創業当時からの理念体系「モスの心」を指針とした、モスバーガーチェーンの環境活動に贈られた。