国内全拠点の購入電力の約4割を再生可能エネルギーへ

 2020年10月に菅義偉内閣総理大臣は2050年カーボンニュートラル宣言を行った。さらに今年4月には2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、2013年度比46%削減を目指すと表明した。しかし、それらに先んじて様々な企業が気候変動対策をはじめ、持続可能な地球環境のために様々なアクションを起こしてきた。その中で野心的な取り組みを続ける企業として注目したいのがアサヒグループだ。

2050年までにCO2排出量をゼロへ

 アサヒグループでは、同社のミッションやビジョン等をまとめたグループ理念“Asahi Group Philosophy”の行動指針の一つとして「事業を通じた持続可能な社会への貢献」を掲げている。また2050年までに事業活動における環境負荷「ゼロ」を目指す「アサヒグループ環境ビジョン2050」では、気候変動への対応としてCO2排出量削減の中長期目標「アサヒカーボンゼロ」※1を設定し、2050年までにCO2排出量をゼロとすることを表明してきた。またその目標達成のために、国内外の製造拠点における再生可能エネルギーの積極的な活用や、製造工程の見直し、物流の効率化などにグループ全体で取り組んでいる。

2025年までに国内全拠点での購入電力を再エネ化

 そういった中、アサヒグループは、2021年4月1日からアサヒグループの関東・関西地区の19工場※2で購入する電力を再生可能エネルギーに切り替えた。これにより国内のアサヒグループ全拠点の購入電力は約40%(128GWh)まで再エネ化が進み、CO2は年間で6万t削減されることになる。また、海外を含めた生産拠点では2025年までに全72工場のうち9割となる65工場で再エネ化が進む見込みとなっている。
 同グループは今後も事業に使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブである「RE100」や「アサヒカーボンゼロ」の達成に向け取り組みを加速し、2025年までに国内全拠点での購入電力の再エネ化を果たしていく。

環境価値が付与された電力のみを使用

 同グループが利用する2021年度分の再生可能エネルギーは、東京大学工学研究科から生まれたデジタルグリッド株式会社が運営する日本初の民間電力取引所「デジタルグリッドプラットフォーム(以下DGP)」※3を通じて購入。「電力を生む発電家」と「電力を買う需要家」が直接売買できるこのプラットフォームシステムを最大限に活用していく。
 一方、DGPはAIによって電力需給の予測・調整を行い、アサヒグループの需要に応じて太陽光発電・バイオマス発電など多様な発電源を選択して組み合わせた電力調達を効率的に行う。もちろん購入する電力は再生可能エネルギー発電所等で発電された環境価値(トラッキング付非化石証書※4等)が付与されたものとなっている。

2030年の目標値を従来の30%削減から50%削減に上方修正

 アサヒグループは、2020年10月には、「RE100」に国内飲料業界として初めて参画した実績を持つ。また「アサヒカーボンゼロ」の達成に向けては、前述の再生可能エネルギーの積極的な活用の他、製造工程における蒸気などの排熱回収利用、缶列常温充填化などの冷熱利用、コージェネレーション設備の導入、燃料転換、ISO14001を活用した全事業場での活動など様々な省エネ・環境施策をグループ全体で取り組んでいる。また、排水由来のバイオメタンガスを利用した燃料電池による発電システムやCO2分離回収試験装置を導入した実証試験などにも取り組み、研究開発も積極的に推進している。
 しかしそれだけに留まらず「アサヒカーボンゼロ」の目標については、2030年の目標値を従来の30%削減から50%削減に上方修正することを2021年2月に発表。企業のCO2排出量削減目標が科学的な根拠と整合したものであることを認定する国際的なイニシアチブであるSBT(Science Based Targets) ※5から気候変動による世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ1.5度未満に抑えるという、「1.5℃目標」の認定を取得した。なお、今回、電力調達プラットフォームを提供したデジタルグリッドも、2021年3月に「1.5℃目標」認定を受けている。
 これからもアサヒグループは、様々な環境課題に対し積極的な取り組みを推進していくことで「自然の恵み」を次世代に引き継ぐことを目指していく。また「アサヒカーボンゼロ」の取り組みの加速度を増すことで、社会と事業の持続性の両立を実現していく。

※1 アサヒグループのCO2排出量削減の中長期目標で、2050年にScope1,2及びScope3にてCO2排出量ゼロを目指す取り組み。2030年目標は、従来はScope1,2及びScope3にて(2015年比)30%削減としていたが、2021年2月にScope1,2にて(2019年比)50%削減とする目標に上方修正した。

※2 アサヒビール株式会社:茨城・神奈川・吹田工場、ニッカウヰスキー株式会社:栃木・柏・西宮工場、アサヒ飲料株式会社:群馬・富士山・富士吉田・明石・六甲工場、アサヒグループ食品株式会社:茨城・栃木さくら・栃木小金井・大阪工場、アサヒビールモルト株式会社:小金井・野洲工場、サントネージュワイン株式会社、アサヒバイオサイクル株式会社:群馬工場

※3 デジタルグリッドが運営する日本初の民間による電力取引市場。再エネ電源の活用ニーズが高まる一方で、再エネ電源は需給調整が困難であることなど、電力システムの中で活用するためには多くの課題がある。そうした再エネ電源に加え多種多様な電源と電力需要(発電企業と需要企業)を結び付けるのが「電力の取引所」となる。

※4 太陽光などの非化石電源により発電された電気について、非化石電源由来であることの価値を証書の形にしたもので、電源種や発電所所在地などのトラッキング情報が付与されている。

※5 温室効果ガスの増加による問題を解決するため、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、 世界自然保護基金(WWF)が設立した共同イニシアチブ。企業に対し、気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ1.5℃に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することを推進している。

※6  Scope1は、自社(工場・オフィス・車など)での燃料の使用によるCO2の直接排出、Scope2は、自社が購入した電気・熱・蒸気の使用によるCO2の間接排出、Scope3は、自社のバリューチェーンからのCO2の排出を指す。