エコ・ファースト推進協議会は、「環境に関する企業の情報開示」をテーマに、第1回エコ・ファーストセミナーを7月21日にオンライン形式で開催した。当日は株式会社 サステナビリティ会計事務所 代表取締役福島 隆史 氏がファシリテーターとなり、パネルディスカッション形式で進行。戸田建設株式会社イノベーション推進統轄部長樋口正一郎氏、日本航空株式会社総務本部ESG推進部長小川宣子氏、ライオン株式会社サステナビリティ推進部マネージャー池西岳樹氏、株式会社ビックカメラ社長室兼広報・サステナビリティ推進課兼経営戦略部長伊東敦司氏がパネリストとなり、環境に関する企業の情報開示について日頃の苦労や対応策などが語られた。

以下、ファシリテーターからの質問と各パネリストのコメントの要旨を紹介する。

左より 福島隆史氏、樋口正一郎氏、小川宣子氏、池西岳樹氏、伊東敦司氏

──情報収集で苦労している点は?

戸田建設 樋口氏:戸田建設は全国約300か所に作業所があり、軽油、電気、灯油、都市ガスといったエネルギーの使用量を中央で収集し、CO2換算している。

少し前からエクセルベースからシステム化し、協力会社がシステムに入り、直接数字を入力できるようになっている。ただ、どうしても人間が介するため、数字のミスが出る。近い将来、デジタルからデジタルでデータを送れるようにしていきたいと考えている。



日本航空 小川氏:現在、当社は省燃費機材への更新~燃費の良い飛行機に変え、将来的には水素や電動などを使った航空機を導入することで約50%CO2削減、運航の工夫~飛行機を運航していく自社の取り組みに加え、管制機関、航空会社、空港運営会社等で協働を推進することで約5%の削減を目指す。そしてSAFという持続可能な航空燃料を使うことで残りの45%を減らし、2050年までにネットゼロ・エミッションを達成するために取り組みを進めている。

環境マネジメントを行う上でそのデータを正確に把握・分析するため2020年にデータ集計システムを導入。これによりデータの「見える化」が行え、効率化が進み、ヒューマンエラーも軽減し、集計の範囲も拡大した。さらに第三者保証を受けることで開示情報の信頼性を高めている。しかし廃棄物や車両、エネルギー使用量は拠点数やテナント施設が多いために実績把握の難しさを感じている。



ライオン 池西氏:「LION EcoChallenge2050」の長期目標を掲げ、脱炭素、プラスチックと水資源に関する課題解決に目標数値を決めて取り組んでいる。

2030年に向けた環境戦略では、生活者とともに『エコの習慣化』でくらしをムリなくサステナブルにしていく『地球にやさしいライフスタイル』を提供し続けることを方針に、主要テーマとして環境フレンドリー製品の提供による節水・節電の習慣づくりや捨てない習慣づくりを進めている。その理由は、製品ライフサイクルの環境負荷において、生活者の使用の場面が約60%近くになっているからだ。悩みに関しては情報開示について取り組むべき内容が多すぎること。その対応に追われている。



ビックカメラ 伊東氏:サーキュラーエコノミーの取り組み強化をビジネスモデルとして確立しなければ競争社会で持続可能な形で生き残ることができなくなるという危機感を持っている。また環境への取り組みとして省エネ家電の普及促進、リユース、リサイクルの推進、また、リサイクル事業を進めるために子会社の「フューチャー・エコロジー」を活用し循環型社会への取り組み強化を図っている。さらに今回、革新的なプラスチック3Rの実装化で小型家電のリサイクルに取り組むことで社会課題に取り組んでいく。

当社の課題はエコ・ファースト推進活動を含む、サステナビリティの取り組みについて、十分な浸透が図られていないことだ。そして、情報収集に関してもミスを減らすシステム化が急務となっている。

──スコープ3へのデータ収集は、どのように行っているか?

戸田建設 樋口氏:スコープ3のカテゴリー1と11が大きなウェイトを占め、カテゴリー11は世の中に送り出した建物が50年間にわたって排出するCO2量を計算している。ZEBにしていただくとトータル0になるのでお客様にそのご提案もしている。

カテゴリー1である購入する材料についてはようやく計算手法が確立しつつあり、ゼネコン各社が同一水準で結果を提示することとなる。


ライオン 池西氏:製品ライフサイクルのCO2排出量は、製品のLCA(ライフサイクルアセスメント)を積み上げてスコープ3で算定している。専任のエキスパートがエクセル集計で製品1個ずつのCO2排出量を精密に算出し、つきっきりで1年かけて算定している。この現状を打破し、システム化による効率化を模索しているが解決できず、また原材料サプライヤーとの連携も進んでいないことが悩みとなっている。

──スコープ3の削減についてはどのように取り組んでいるか?また今後、望むことは?

日本航空 小川氏:航空機からでるCO2は弊社にとってはスコープ1になるが、弊社をご利用いただいているお客様である企業にとってはスコープ3になる。我々にとってスコープ3は全体の18%(FY22実績)となるが、まずは弊社のスコープ1を減らすことでご利用いただいている企業のスコープ3を削減していくところに主眼を置いている。CO2の削減量で航空会社を選ぶ企業も海外では増えている。そういった世界の潮流も注視し、CO2削減を至上命題として今後も取り組みを加速していきたい。


戸田建設 樋口氏:削減に関しては有効な手段がなく、鉄骨やコンクリートなど低炭素の材料を用いるようにしているが削減量は微々たるものであり、その積み上げが求められる。また省CO2の資機材をリスト化する取り組みを本年度は進めている。


ライオン 池西氏:環境フレンドリー製品を生活者がより使っていただけるよう、その価値自体をいかに伝えていくかが大切であり、その取り組み強化を検討している。サプライチェーンは全体がつながっているので、情報を共有できるような仕組みづくりが必要と考える。そのようなルールを国が策定すれば皆で協業ができるのではないだろうか。


ビッグカメラ 伊東氏:サプライチェーン上の取引先への利活用の会社説明会が必要だと思う。またデータ収集が無駄なく、負担をかけずに行える共通のプラットホームがあれば多くのサプライチェーンの各社が利活用できる。そういった仕組みが早く稼働してほしい。