はたして日本は、大丈夫なのかと、ずっと気になっている。ワールドカップサッカーはすごく健闘して大いに感動したが、日本政府の「カーボン・ニュートラル宣言」は、すでに宣言から2年が経過しているが「画餅に帰す」ことにならないかと大いに懸念している。

『三国志』魏志「盧毓伝」で、三国時代の魏の第2代皇帝曹叡(そうえい)が「名声や評判というものは、地面に描いた餅の絵が食べられないのと同じで、何の役にも立たない」と言った。これを「画餅」と言う。

この「画餅」は「画餅に帰す・終わる」という形で用いられることがよくある。これまでの努力が無駄になったり、計画倒れに終わってしまったりすることを「画餅に帰す・終わる」と形容する。

2年前の2020 年 10 月 26 日に、菅首相は、「2050 年カーボン・ニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」を表明した。しかし、その後の政府の言動を垣間見ても、従前からの大きな前進や進展は見られない。政府は本気でやる気があるのかと、心配している。

政府は、実用化の可能性もはっきりしない新技術の必要性を謳うばかりで、具体的かつ効果的な対策はほぼ先送で、その結果、電力消費量、最終エネルギー消費量、化石燃料輸入費、企業および家庭のエネルギー支出額、CO2 排出は増大し、膨大な国費が海外に流出中だ。

このままでは、カーボン・ニュートラルは単なるスローガンに終わってしまう可能性が極めて高い。先のエジプトCOP27でも、日本は、環境NGOから気候変動対策に積極的でない国に与えられる不名誉な賞「化石賞」を受賞した。しかも、日本はこれで三年連続だ。

方や海外は、本気である。欧州グリーンディールや米国バイデン大統領の気候変動・エネルギー政策、韓国ニューディール等、世界中が、こぞって脱炭素社会をめざし、グリーン・リカバリーの具体案が続々と打ち出されて率先垂範している。日本と本気度が違うのだ。

日本のカーボン・ニュートラルに向けた前進を妨げている要因は何だろうか。抵抗勢力は誰なのか。エネルギー転換による脱炭素によって主な影響を受ける産業は、電気業、石油精製業、鉄鋼業、化学工業、窯業土石製品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業等である。

当該産業群の雇用者数は約 15 万人で、原子力発電産業を加えても約 20 万人だ。これは、試算によると、再生可能エネルギーを主軸としたエネルギー転換によって新規に創出される雇用者数に比較し小さく、実際の雇用喪失者数はさらに小さい。

日本政府は、誰に気をつかってるのか、どうも及び腰だ。政府の消極姿勢に業を煮やし、すでに、3年前の2019 年 6 月に、専門家有志による「未来のためのエネルギー転換研究グループ」が、わが国唯一の「日本版グリーン・ニューディール」を発表している。

同戦略では、石炭火力を 2030 年に停止(2035 年廃止)。原発は2030 年にゼロを謳い、2050 年カーボン・ニュートラルを目指して、エネルギー起源 CO2 の100%排出削減のうち、93%は既存の技術で十分対応できると、緻密な分析を付した研究結果を報告している。

その効果は、実に大きい。2030 年までにGDP増加効果が累積 205 兆円、雇用創出数は、2030 年までに、年間約 254 万人の雇用が 10 年間維持、CO2 排出量は、2030 年に1990 年比 55%減、2050年に1990年比93%削減が可能となると試算している。

こうした政策さえ実現できれば、日本は大丈夫だ!再エネと省エネによってエネルギー支出削減が可能となり、国費流出を防ぐことができ、日本のグリーン・リカバリーは十分実現可能なのである。「画餅に帰す」かどうかは、要は、政府の本気度と大局観の問題なのだ。