「物事はすべて、実現するまでは不可能に見えるものだ」
(ネルソン・マンデラ南アフリカ元大統領)

1.「イラン戦争」が意味する日本のエネルギー転換の緊急性

今年2026年2月28日に勃発した米国とイスラエルによる一方的なイラン攻撃が引き起こしたイラン戦争が、湾岸諸国を巻き込み、ホルムズ海峡の事実上の封鎖にまで発展し、いまだに収束の目途が見えてこない。

現下のイラン戦争は「百害あって一利なしの不毛な戦争」である。この誰も望まない、誰も幸福にしない、忌まわしき中東危機のため、世界のエネルギー安定供給が脅かされ、世界中が大混乱に陥っている。そして、すでに様々な深刻な経済的ダメージが顕在化しつつある。この危機的状況は、いまだに打開のめどがたっておらず、世界のエネルギー情勢は、いまなお五里霧中である。

とりわけ中東への原油依存度が高くエネルギー自給率15.3%の日本にとって、いまや、極めて深刻な国家的リスクとして浮き彫りになっている。日本の原油の備蓄は約250日分あるものの、天然ガスは3週間分しか備えがない。仮に供給量が確保されたとしても、価格高騰の影響は免れず、既に顕在化しつつある。日本政府は石油備蓄の放出、化石燃料供給の代替ルートの確保、ガソリン価格への補助金支給などの対策を進めようとしているが、いずれにしても対処療法に留まっている。

日本にとって、エネルギー自給率の低さは、長年の課題であった。いまから半世紀も前の1973年の第1次オイルショック以来、我が国は国際情勢の変動により何回も化石燃料価格の乱高下、安定供給の危機に直面してきた。その根幹にあるのは、エネルギー自給率の低さであり、70年代初頭の15~17%という水準から半世紀を経ても改善されていない。

この問題の所在は、半世紀も前から明らかであった。そして、やるべきことも明らかであった。日本政府も、当時から、十分自覚し認識していた。現に、日本は、第1次オイルショック直後に開始した「サンシャイン計画」[1]で、再生可能エネルギーを福としたエネルギーシフトの導入を目指し、太陽光発電の実用化に道を開き、風力発電、地熱発電の開発も取組み強化を始めていた。

すでに、半世紀も前から、日本にとっても、この危機を乗り越えるため、地政学的リスクを受けない100%純国産エネルギーで、諸外国からの輸入に依存せず、かつ原発のような甚大な放射能汚染リスクもない再生可能エネルギーの導入拡大が、必須不可欠な最善の選択肢であったのである。

国連も、去年2025年7月22日に発表した報告書『転換の好機をつかむ:再生可能エネルギー・効率化・電化がエネルギー新時代を加速する(Seizing the moment of opportunity: supercharging the new energy era of renewables, efficiency, and electrification)を』[2]において、「最も安価で、最も早く開発できる電源として再生可能エネルギーに注目し、その活用こそが、化石燃料依存のもたらす脆弱性を克服し、エネルギー安全保障の確立という便益をもたらす」と明確に謳っている。

しかし、この間の半世紀に及ぶ日本政府の再生可能エネルギーの導入拡大への対応は、こうした世界的コンセンサスでもあった再生可能エネルギーを軸としたエネルギー転換の加速の趨勢に逆らうかの如く、必ずしも積極果敢なものではなく、むしろ実に鈍重であった。その問題の先送りによる「不作為の罪」が、今回の中東危機によって、奇しくも露呈し、顕在化してしまったのである。この長年の日本政策の意図的とも思えるサボタージュの「つけ(disadvantage)」はあまりに重い。

その背景には、日本政府の経済界への忖度があった。長年、日本の電力供給を支えてきた大手電力会社による化石燃料・原子力への依存体制が強く、構造改革や再生可能エネルギーへの大幅なシフトに対して強い抵抗勢力が存在していた事情があった。そして、特定の電源に頼らない「エネルギーミックス」という方針が、再エネ投資を意図的に限定的なものにとどめてきた経緯があった。

現に、日本政府へ大きな影響力を持つ日本経済団体連合会(以下、経団連と略)は、2025年2月18日に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」の策定に先立ち、前年2024年10月に提言「国民生活・経済成長を支えるエネルギー政策の確立を求める」[3]を発表しているが、2030年の再生可能エネルギーの導入目標(電源構成上36~38%)のさらなる高みへの見直しの提言はなく、再生可能エネルギーについて主力電源として最大限導入する方針は示されたものの、最優先で取り組む積極的な提言もないまま、逆に特定の電源や燃料源に過度に依存しない電源構成を目指すことや、脱炭素電源として再生可能エネルギーと合わせて原子力発電を「最大限活用」することが盛り込まれ、骨抜きにされてしまった。その背景には、経団連の中心的な存在である重厚長大産業の既得権を保護する意図があった[4]。要は、一部の経済界への忖度から肝心の国家略が歪められたのであった。

そして、その意向を反映した「第7次エネルギー基本計画」の内容は、まさに経団連提言の「コピペ(copy and paste)」[5]そのもので、日本政府の再生可能エネルギーの導入拡大への対応を意図的に鈍重なものにする一種の意図的とも思えるサボタージュの「免罪符」となってしまっていた。

日本の再生可能エネルギー導入が欧米や中国と比べて遅い原因は、技術でもコストでもない。日本政府の経済界に忖度した歪んだ政策策定にあったのである。産業構造の変化が必要で、実現には強力な政策が不可欠で、再生可能エネルギーの導入を前提に含めた送配電網の整備計画や需給バランスに合わせた柔軟な価格設定による電力需要の誘導なども必須不可欠であるにもかかわらず、発送電の分離が実質的に行われていない事実も、その証左である。

要は、日本のGDPの5%前後しか占めていない鉄鋼、化学、造船等の重厚長大産業(素材・基礎産業)[6]が、その政治献金等による圧倒的な政治的影響力を梃子に、日本のエネルギー政策に圧倒的な影響力を行使し、その結果、日本国民が本来であったら相当前から享受できたであろう再生可能エネルギー導入がもたらす便益を先送りにしてきたのである。その不健全な政経癒着構造が、本来なら日本全体で享受できていたはずのエネルギ―安全保障上の期待利益を、毀損してきたのである。そして、いまや、中東危機によって、こうした従来型の問題の先送りや、経済界に忖度した歪んだ政策策定にも限界が来ている。そして、もはや、「待ったなし」である。あらためて、エネルギー安全保障の根幹として100%純国産エネルギーである再生可能エネルギーの導入拡大が、急務となっている。いまが正念場である。



(寄稿文全文に続く)

「第2章:「二季化」が意味する日本のエネルギー転換の緊急性」以降の寄稿文全文は、
下記PDFにてご覧ください。

[1] 「サンシャイン計画」とは、1974年7月に発足した日本の新エネルギー技術研究開発についての長期計画である。1973年に発生した第1次オイルショックを契機に、エネルギー問題とそれに付随する環境問題の抜本的な解決を目指して、1974年、通商産業省工業技術院によって計画された。1992年までに4400億円が投じられた。1993年からはムーンライト計画(地球環境技術開発計画)と地球環境技術開発計画を統合したニューサンシャイン計画が行われ、環境保全、経済成長、エネルギー需給安定対策のための新エネルギー、省エネルギー技術、環境対策技術推進が計画された。

[2] United Nations(2025)“ Seizing the moment of opportunity: supercharging the new energy era of renewables, efficiency, and electrification” 

[3] 2024年10月に日本経済団体連合会(以下、経団連と略)は、提言「国民生活・経済成長を支えるエネルギー政策の確立を求める」を発表している。同提言の主なポイントは以下の通り。①原子力発電の最大限の活用=現行計画の「可能な限り依存度を低減する」という方針の削除を求め、原子力は「脱炭素効果の高い電源」として最大限活用すべきと位置づけた。また、将来の電力不足を避けるため、革新軽水炉の建設など新増設やリプレースの具体化を早期に図るよう要請している。②再生可能エネルギーの導入拡大=実用的なコスト低減を前提として、主力電源である再生可能エネルギーの導入拡大と、次世代送電網(グリッド)の早期整備を提唱している。③経済成長・産業政策との統合=半導体工場やデータセンターの新規立地などによる大幅な電力需要の増加を見据えています。安価かつ安定した脱炭素電源の確保ができなければ、国内の投資機会が失われるとし、エネルギー政策・気候変動政策を産業政策と一体化させる必要性を強調している。

[4] 経団連が日本政府のエネルギー政策に決定的な影響力を持っていたことを示す証左が、経団連による自民党への巨額な献金額である。大企業や業界団体が拠出する資金(年間約20億円以上)を「社会貢献の一環」として自民党の政治資金団体「国民政治協会」へ事実上斡旋する仕組みであった。エネルギー政策において、この献金と政策提言の連動が「事実上の政策誘導ではないか」として国会などで度々議論されてきた。経団連は毎年、与党の政策を評価した「主要政党の政策評価」を公表し、それを目安として加盟する約1300社に献金を呼びかけてき。また、経団連は政府のエネルギー基本計画改定の議論において、既存原発の早期再稼働や運転期間延長さらには新増設を強く求めており、こうした要求は政府のエネルギー計画の原案におおむね反映されている。

[5] 「コピペ」は「コピー&ペースト(copy and paste)」のこと。文字や画像などのデータを複製し別の場所に貼り付ける操作。

[6] 日本の鉄鋼、化学、造船等の重厚長大産業(素材・基礎産業)は、日本全体のGDPの5%前後しか占めていない。ちなみに、日本の産業別のGDP構成比の詳細は、第三次産業(サービス・流通・金融など)が 約70〜75%、第二次産業(製造業・建設・鉱業など)が 約25〜30%、製造業(重厚長大・加工組立含む) 約20%、第一次産業(農林水産業)が 約1%となってる。