
「重く扱いにくい鋼製の当て板を溶接・ボルト締めで接合」
という常識を覆す「目からウロコ」
1960年代の高度成長期に建設・構築した、全国津々浦々の橋梁や送電鉄塔、港湾・船舶関連設備など鋼構造物インフラが続々と還暦を迎え、老朽化対策や維持管理の高度化が急務になっている。
そんな中、東レと三井海洋開発が共同開発した、鋼構造物用のCFRP補修補強用技術「現場VaRTM工法」(特許取得済)が、補修補強工事の”救世主”として注目。
2026年7月31日に同社は、国交省の新技術活用データベース「NETIS(新技術情報提供システム)」の「令和8年度活用促進技術」に同工法が選定されたと発表した。(同年7月14日公開)
決め手は、軽量・強靭で工期短縮や施工品質の安定化が期待される点だ。
鋼構造物は腐食や、経年変化で鋼板の厚さが薄くなる「減肉」への対策が重要で、鋼製の「当て板」(補強板)をボルトや溶接で母材(本体)に接合して補強するのが一般的。
ただし、当て板は重く取り扱いが大変、しかも火気を伴う溶接作業や、施工対象物への熱影響や損傷リスク、複雑な形状への補修工事の難しさといった課題も抱える。
このため、防爆区域など火気使用が制限される環境でも使用可能で、安全性、施工効率、品質安定性も兼ね備えた補修補強技術が切望されていた。
東レの多積層CFシート「トレカクロス」が活躍
こうした要望を受けて同社は、航空機や風車ブレード、自動車などに多用され、軽量で強靭なFRP(繊維強化プラスチック)の成形に使われる、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding:真空含浸成形法)に着目、鋼構造物の補修補強用として、VaRTMを使ったCFRP(炭素繊維強化プラスチック)接着工法を開発。
これが「現場VaRTM工法」である。
具体的には、腐食・減肉した鋼構造物に、多積層CFシート「トレカクロス」や樹脂注入・吸引用チューブなどを配置。これらをフィルムで覆い真空状態にした後、大気圧とポンプの吸引力でエポキシ樹脂を一気に注入・含浸・硬化させ、形成したCFRPと鋼構造物を一体化させる。
この工程を施工現場で行うことから、「現場」と冠している点にも注目だ。
真空の力で隙間の隅々まで樹脂を含浸・注入するため空隙が生じず、形状追随性の高いCDRP補強材を成形できる。さらに樹脂の飛散も防ぎ、養生中の天候変化の影響も受けにくいなど施工性に優れている。
従来の炭素繊維シート接着工法の場合、樹脂をローラーなどで含浸させながら一層ずつ施工しなければならず、「手間・暇・コスト」の増加が難点だったが、同技術では多層積層を一気に施工可能だ。
加えて、一般的な溶接などの火気作業が不要なため、防爆区域など火気使用が制限される環境にも適用できる。炭素繊維は軽量で腐食しない特長があり、資機材の搬入性向上で工期短縮。工事費用の削減、長期的な耐久性の向上といったメリットも期待できる。

腐食による設備の減厚箇所への標準的な船舶補修工法として、
すでに世界で初めて米船級協会の型式承認を取得
「現場VaRTM工法」は、すでに海外で高い評価を受けている。
2024年9月には世界で初めて、腐食による設備の減厚箇所への標準的な船舶補修工法として、世界で最も審査が厳しいと言われる米船級協会(ABS)の型式承認(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備/FPSOと、浮体式洋上石油・ガス貯蔵設備/FSO向け)を取得。
世界のFPSO・FSOの約半数が、実はABS認証船だ。型式認証の取得により、ABS認証船は同社が特許を持つ「現場VaRTM」が適用でき、船舶補修の際に必要なエンジニアリング・レビューや検証に要する時間を削減できる。
FPSO・FSOの設備保守は、鋼材を使った洋上補修が一般的だが、溶接は火気を伴うため、石油・ガスの生産を停止する必要がある。
「現場VaRTM」の採用で、従来の鋼材を使った補修法と比べ、資機材の搬入が容易で、少人数・短期間での施工が可能となる。同時に火気工事が不要で、補修工事が石油・ガス生産に与える影響を最小化できることが期待できる。


(写真提供:三井海洋開発株式会社)





