「脱・熱乾燥」がもたらす軟包装のパラダイムシフト。
三井化学と東レ、EB硬化型接着剤による
業界初のインライン・ラミネート技術でCO2排出量を61%削減へ

食品のパッケージや日用品の詰め替えパウチなど、私たちの生活に欠かせない「フィルム包装材(軟包装)」。製品の保護やバリアー性、耐熱性を高めるために複数のフィルムを貼り合わせる「ラミネーション工程」は、これまで多大なエネルギー消費と環境負荷を伴うものとして、業界の大きな課題となっている。

この課題に対し、驚異的なブレイクスルーがもたらされました。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助事業において、三井化学株式会社と東レ株式会社が共同で、業界初となる「無溶剤ラミネーションと電子線(EB)照射をインラインで行うプロセス」および「EB硬化型接着剤」の開発に成功した。従来の熱硬化プロセスを根底から覆し、ラミネーション工程におけるCO2排出量を一挙に約61%も削減するというこの新技術。

技術の核:三井化学のウレタン技術×東レのEB印刷技術が融合

こうした背景から、NEDOの「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム/省エネ軟包材ラミネートシステムの開発」として、2023年度から三井化学と東レの共同開発がスタートしました。 

今回発表された新技術のブレイクスルーは、両社が持つ強みを高次元で融合させた点にあります。

● 三井化学の強み:高度なウレタン接着剤技術
● 東レの強み:これまでに培ったEB(電子線)硬化型フレキソ・オフセット印刷技術 

これまでも「無溶剤系接着剤」を使って乾燥工程を省くアプローチは存在しましたが、加温処理時間がさらに延びてしまったり、加工速度や接着性能が低下したり、製品にシワや凹凸が発生しやすいといった技術的課題がありました。

今回の共同開発では、東レのEB硬化技術を三井化学のウレタン接着剤に応用。これにより、無溶剤でありながら接着性能を大幅に向上させることに成功しました。さらに、接着剤の塗工・貼り合わせ(ラミネーション)と、EB照射による硬化を同一ライン上で連続して行う「インラインプロセス」を確立。電子線を照射した瞬間に瞬時硬化するため、従来の「熱乾燥」が完全に不要となり、さらにネックとなっていた「5日間の加温養生」の大幅な短縮・低温化をも実現したのです。 

圧倒的な環境・生産性メリット:CO2排出量を1台あたり年間1,290t削減

この次世代ラミネーションプロセスがもたらす環境インパクトは絶大です。従来の溶剤系熱硬化プロセスでは、ラミネーター1台あたり年間約2,127tのCO2を排出していました。これに対し、今回開発された無溶剤EB硬化型プロセスを導入することで、年間の消費電力を309万kWh削減、CO2排出量を838tにまで抑えることができます。

これは約61%(1,290t/年・台)のCO2削減に相当する。さらに、環境面でのメリットはCO2削減に留まりません。溶剤を一切使用しない(無溶剤)ため、乾燥時に発生する大気汚染物質「VOC(揮発性有機溶剤)」の排出をゼロにすることができます。また、乾燥不十分によってパッケージに溶剤が残る「残留溶剤」のリスクも根本から排除されるため、食品や日用品の包装における安全性・安心の向上という多大な付加価値も生み出します。

開発した新技術と従来法の比較イメージ

今後の展望:Scope3削減の切り札へ、
2027年の社会実装を目指す

食品・日用品メーカーをはじめとするブランドオーナーにとって、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量である「Scope3」の削減は、今や企業の生存を左右する最重要課題の一つです。 

今回の新技術の最大の強みは、「包装の仕様(フィルムの材質など)を大きく変更することなく、製造プロセスを変えるだけでラミネーション工程のCO2を大幅に削減できる」という点にあります。ブランドオーナーや消費者に負担を強いることなく、サプライチェーンの脱炭素化を強力に推進できるため、Scope3削減の極めて有効な選択肢となる。 両社は今後、食品や日用品向けフィルム包装の「新たな標準(スタンダード)」となるよう、流通業界やブランドオーナーへの提案を加速させる方針です。東レが持つEB硬化型フレキソ・オフセット印刷技術と、今回のラミネート技術を組み合わせた包括的な省エネパッケージ製造システムとして、2027年の社会実装を目指している。

【2040年に向けた壮大な想定効果】 
両社の試算によると、2040年までに入れ替え対象となる国内機器の8割に、今回開発されたEB照射装置付きラミネーターが導入された場合、その環境効果は以下の規模に達すると想定されている。

年間電力使用削減量:4.3億kWh 
年間CO2削減量:18万t 
年間原油換算削減量:9.65万kL 


VaneOnline 編集部の視点

これまでの環境対応パッケージといえば、「バイオマスプラスチックスの採用」や「リサイクルしやすい単一素材(モノマテリアル)化」など、“素材そのものをどう変えるか”に議論が集中しがちでした。しかし今回の発表は、“素材を加工するプロセス”に着目し、異業種(化学と繊維・IT素材)のトップランナーが技術を融合させることで、「熱に頼らない製造ライン」という全く新しい価値を示しました。 パッケージの機能性を維持したまま、製造現場の脱炭素とVOCフリー、さらにはリードタイム短縮という生産性向上を同時に成し遂げるこの技術は、持続可能な軟包装産業の未来を切り拓く極めてインパクトの大きいイノベーションと言えるでしょう。2027年の社会実装に向けた、今後の市場の動きに深く注目していいる。