私たちの社会は、製品やサービスの提供とそれらの消費で成り立っており、気候危機という全人類的なテーマと強い関係性を持っている。私たちが、どのようにものを作り、何を選び、どのように使用するか、そして、どのように処分するのか、さらに資源循環を促すのか、これらの行動が、環境、そして地球にそのまま跳ね返ってくる。ここでは、企業と消費者をつなぐ、重要な役割を果たす環境ラベルの視点から、気候危機について考察する。今回は、環境配慮製品、サービスの優先的購入を進めるグリーン購入ネットワーク(GPN)の事務局長 深津学治氏にインタビューし、考察した。

オンライン取材時の深津学治 氏

調達に大きな役割を果たす環境ラベル


─「気候危機に向き合う」の冒頭では気候非常事態宣言の啓発活動の最前線を走り続け東京大学名誉教授の山本良一氏と東京大学未来ビジョンセンター客員研究員であり、Vaneの「世界を知る」執筆者の古屋力氏に対談を行っていただきました。深津さんは今回の対談をどのように捉えていらっしゃいますか。


深津;納得感のあるインタビュー対談だったと感じています。今回は、深刻化する気候危機そのものの問題に加えて、それに反対するアクションへの反発という“二重の危機”にも触れられていて、あまり例のない対談になったと思います。こうしたテーマを正面から扱う記事は、世界的には増えているかもしれませんが、日本ではまだ多くはありません。 また、サイエンス、つまり科学者の役割についても改めて考えさせられました。

これまで周縁に置かれがちだった科学者が、今後は中心的で重要な役割を担っていくという点にも触れられていました。気候変動対策は進められているものの、十分な成果にはまだ結びついていません。取り組みが足りないというより、対策そのものに反発する動きが少なくないことも要因の一つだと思います。SNSでも「地球温暖化はフェイクだ」といった主張がいまだにありますし、「足を引っ張らないでほしい」と思うことも多いです。 また、そうした状況に疲れてしまっている人もいるのではないかと感じます。ここで新しい風を起こしたいところですね。


─本日のテーマである環境ラベルですが、調達の観点からも非常に大きな役割を果たすと考えています。今回はその視点から気候危機に対して考えていきたいと思います。 まず、環境ラベルには、どのような課題があるとお考えでしょうか。


深津: 環境ラベルの動向についてですが、ISO14021規格が改訂され、「タイプⅠ」「タイプⅡ」「タイプⅢ」といった呼び方をしなくなったため、少し説明しづらくなりましたが、ここでは従来の分類に沿って、タイプⅠとタイプⅡについてお話したいと思います。タイプⅠの環境ラベルは、一定の環境基準を満たしていることを第三者機関が認証する仕組みで、信頼性や透明性が高い点が特徴です。

一方、タイプⅡは企業による自己宣言型の環境主張です。独自の環境配慮を柔軟に訴求できる反面、良い部分だけを強調したり、基準が曖昧だったりするケースもあり、いわゆる「グリーンウォッシュ」への懸念が高まっています。 そのため、タイプⅡではなく第三者認証を重視しよう、あるいは第三者認証でなければならないという流れが、ヨーロッパを中心に広がっていると捉えています。

企業側からすると、自社製品やサービスの良さをアピールする手段として、第三者認証を活用しつつも、第三者認証でカバーしきれない環境配慮をアピールする手段として、自己宣言型の環境主張は使いやすいという面があります。そのため、直近5年間をみてもタイプⅡの環境主張は非常に増えてきており、この流れをふまえると、タイプⅡがなくなることはないだろうとも思います。

課題としては、タイプⅡの基準が緩すぎないか、良い部分だけを切り取った主張になっていないか、といった点が挙げられます。「タイプⅡは本当に大丈夫なのか」という疑念が広がっていることが、現在の課題だと考えいます。


2つの環境ラベルの抱える課題

─自己宣言型に弊害があるとしたら、どのようなことが起こり得るのでしょうか。

深津: 例えば、「使用時のCO2排出や消費電力が少ない」という主張があったとしても、その製品を製造する際に従来よりも多くのエネルギーを使っていたとすれば、ライフサイクル全体で見るとエネルギー消費が増えている、ということがあり得ます。 配慮していないわけではないものの、ごく一部だけを取り上げ、あたかも万能であるかのように見せてしまうケースがあると思います。

では「何も言ってはいけないのか」というと、タイプⅠではライフサイクル全体で環境影響を評価する基準を設けていますが、それでも評価しきれない環境配慮の視点は当然あります。 つまり、タイプⅠが100点満点というわけではありません。 そうなると、メーカーとしては、自社の独自の取り組みが第三者認証で評価されない場合、第三者認証は取りつつ、さらに自己宣言型でアピールする、という状況にもなってしまう。 そうした課題もあると思いますし、第三者認証を取得するには費用も手間もかかります。

─第三者認証と自己宣言型のメリット・デメリットについてまとめるとどうなりますか。

深津:まず第三者認証のメリットは、何より信頼性が高いことです。 自分で認証するのではなく、第三者から認証されるためです。 また、基準の内容や策定プロセスが公表されており、透明性が担保されています。ISO14024に基づくタイプⅠ環境ラベルとしては日本で唯一である、エコマークを例にすると、市場での認知度が圧倒的に高く、「あのマークを見て買おう」と思う人が多いことも大きなメリットです。

デメリット(課題)としては、カバーしていない製品分野があることや費用がかかる点、認証取得の手間が大きい といった点が挙げられます。

一方、自己宣言型のメリットは、独自の取り組みをPRしやすい。基準を自分たちで設定できる。運用しやすい。取得費用がほとんどかからない といった点です。

デメリットとしては、信頼性の欠如(自分に都合よく基準を決めているのではという疑念)や透明性の低さ、基準の妥当性が外から判断しにくいことや表現のあやうさ(「絶対に〜しない」など過度な表現)が挙げられます。認知度が低く、せっかくアピールしても気づかれない。といった点が挙げられると思います。


ワンプッシュを設けることが消費する側の行動変容を起こす

─今は発信する側のお話でしたが、調達の担当者や一般の消費者はどのように対応すれば良いでしょうか

深津: 消費者の方々が、第三者認証のマークなのか自己宣言型のマークなのかを見分けるのは無理だと思います。そう考えると、第三者認証であっても自己宣言型であっても、その横に「何をどう配慮しているのか」という情報を伝えるなどのワンプッシュ(もう一押し)は必要だと思っています。 メーカーが提供できるワンプッシュもあれば、売り場で小売事業者が提供できるワンプッシュもあるでしょう。 アイキャッチとしてマークはあっても、「何をどのように、どれくらい配慮しているのか」という補足的なテキスト情報を付けないと、結局消費者には伝わらないと思います。「やっているつもり」になってしまう気がします。

そのワンプッシュを見て、消費する側が購入する際に考え、質問などをする機会が増えれば、消費の場で行動変容が起こるとも期待できます「おいしい」「安い」だけの選択ではない、新たな選択の仕方が生まれる可能性も高まりますね。例えばバレンタインデーにチョコレートを買うとき、「フェアトレードのチョコレートを選びましょう」と言われても、マークの意味がよくわからなければ伝わりません。 売り場に「フェアトレードとはこういうものです」という説明があれば、「ああ、そうなんだ」と理解できます。その結果、チョコレートをあげる相手にも地球にも優しいチョコレート、という感じになればいいですね。そういうことがきっかけで、「この前フェアトレードのマークのものを買ったから、次も買ってみようか」と関心が行動につながっていくのではないかと思います。


─では最後に、環境ラベルを活用する企業に向けて、一言メッセージをお願いします。

深津: 第三者認証を使う場合でも、自己宣言型を選ぶ場合でも、求められるのは情報の信頼性、透明性、基準の妥当性、そして分かりやすさです。どちらを選択するにしても、押さえるべき本質は変わりません。特に自己宣言型は自由度が高い一方で、表現や基準設定によっては企業への信頼を損なう可能性もあります。そのため、自社だけで判断するのではなく、外部の知見を活用しながら運用していくことが重要だと思います。基準の妥当性については、自社基準を満たさない製品がどれくらいあるのかということで測ることはできますが、そういった情報が開示されることはあまりありません。 その点を十分理解した上で活用していただけると良いと思います。

また、自分たちだけで基準を決めたり表現を考えたりすると、「これで適切なのか」「レベル感は妥当か」「分かりやすいか」と判断に迷うことがあるはずです。 そうした場合には、外部の力をうまく活用してアドバイスをもらったり、伴走してもらったりすることが大切だと思います。

GPNでは今年度から、自己宣言型の環境主張を新しく始めたい企業や、従来の仕組みで問題ないか不安を抱える企業に向けて、自己宣言型の環境主張について運用支援を行う事業を開始しました。以前から、何社か個別にご相談をいただき、アドバイスをしてきた実績もありますので、そうした知見を活用していただければと思います。

最後に、気候危機という重大な課題も、結局は私たち一人ひとりの日々の選択に帰着します。引き続きVaneさん、読者のみなさんと連携し、社会課題の自分ゴト化をめざしていければ幸いです。

ありがとうございました。






─ありがとうございました。