

私たちの使命は、オーバーシュートをできるだけ小幅で、短期かつ安全なものに抑え、
気温上昇を遅滞なく1.5°Cの軌道へと戻すことにあります。
(アントニオ・グテーレス国連事務総長;ニューヨーク国連総会演説、2026年1月16日)
1.危険で深刻な「気候オーバーシュート」の現在地
地球平均気温は急速にかつ確実に上昇している。
いまから11年前の2015年に「パリ協定(Paris Agreement)」 は、「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える」ことを目標に掲げたが、現段階の客観的な科学的データを観る限り、遅かれ早かれ、約束した「1.5度」目標を超過する可能性がいよいよ高まってきている 。
こうした気候に関する指標がオーバーシュートしている状態を「気候オーバーシュート(Climate Overshoot)」 と呼ぶ。「1.5℃」の閾値を超えて「オーバーシュート(Overshoot)」すると、北極圏の永久凍土融解や、熱帯サンゴ礁の死滅等、地球上に不可逆的な、元に戻ることができない影響を及ぼす可能性がある。
はたして、「気候オーバーシュート」によって、どのような物理的・社会的影響が予想されるのか。まず、気候オーバーシュートによる物理的影響としては、以下の4点を挙げることができる。
<気候オーバーシュートによる物理的影響>
1)不可逆的な変化(tipping point)
一定の温度を超えると、深刻な元に戻せない不可逆的変化が起きる可能性がある。主な懸念点としては、グリーンランドの氷床の融解が加速し海面上昇が数メートル規模になる「グリーンランド氷床融解(Greenland Ice Sheet collapse)」問題、やアマゾンの森林がサバンナ化しCO₂吸収源が消失する「アマゾン熱帯雨林消滅(Amazon rainforest dieback)」問題、欧州の寒冷化や気候パターンの激変する「大西洋子午面循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation : AMOC) 」問題等がある。これらは、いずれも、一度発動すると、もはや温度を下げても止まらないリスクがある。
2)極端現象の増加
オーバーシュート期間中は異常気象が激化する。人が生存できないレベルの高温となる熱波問題や、豪雨・洪水の頻発問題、干ばつの長期化問題、強力な台風・ハリケーン問題等が起こり、単なる「頻度増加」に留まらず、強度も増することが懸念される。
3)海面上昇の加速
氷床融解+海水膨張により海面が数十年〜数世紀にわたり上昇する懸念がある。この現象は、一度始まると数百年止まらない。
4)生態系の崩壊
サンゴ礁が大規模白化しほぼ消滅する可能性があり、種の絶滅率が急増し、生態系サービス(食料・水・気候調整)の喪失が懸念される。次に、気候オーバーシュートによる社会的影響としては、以下の5点を挙げることができる。
<気候オーバーシュートによる社会的影響>
1)食料・水資源の不安定化
特に熱帯・乾燥地域での作物収量減少や、水不足の深刻化、食料価格の高騰等が懸念される。その結果、 社会不安が惹起されるリスクがある。
2)健康被害
熱中症・死亡率の増加や、気候帯の変化による感染症の拡大や、大気汚染の悪化等が懸念される。
3)移住・難民問題
海面上昇や干ばつによる居住不能地域の拡大や、数億人規模の気候移民の可能性等が懸念される。
4)経済・インフラへの打撃
海面上昇による沿岸都市の浸水や、電力・交通等のインフラの破壊、保険・金融システムの不安定化等が懸念される。
5)社会・政治の不安定化
特に水・食料等の資源争いや、国家間・地域間の対立、ガバナンスの崩壊リスク等が懸念される。
以上掲げたような多様なリスクを念頭に、様々な国際機関や団体が1200を超える気候シナリオを公開しているが、その内の9割以上のシナリオが今世紀中の「気候オーバーシュート」を前提としている。
このままの大幅なオーバーシュートを想定すると、「パリ協定」の温室効果ガス(greenhouse gas; 以下GHGと略) 削減長期目標達成のために各国が提示している国別目標(Nationally Determined Contribution;以下NDCと略)をすべて達成した場合でも、今世紀末の気温上昇は+2.4〜2.7℃となってしまい、まだ0.9〜1.2℃分のギャップがあり、「パリ協定」の「1.5℃目標」達成に届かないのが厳しい実情である。事態はまったく楽観できない状況にあるのである。
こうした不可避的で深刻な「気候オーバーシュート」の事情に鑑み、日本はじめ先進国を中心に、世界各国は、従来型の再生可能エネルギーの主力電源化等によるエネルギーシフトと軸とした「脱炭素化」の一刻も早い実現を目指し、オーバーシュートを避けた野心的な目標を掲げて国際協力を通じてさらなる削減に向け一層の加速をしていくことが期待されている。そして、国家や自治体、企業等各主体が、トランジション計画やネットゼロ目標を策定・検証する際に用いるシナリオ設定に際しては、こうした「気候オーバーシュート」を織り込むことが、もはや不可避な深刻な事態にまで来てしまっている。
(寄稿文 全文に続く)
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