
コア技術である「有機合成化学」、「高分子化学」、「バイオテクノロジー」、「ナノテクノロジー」を駆使し、様々な産業分野が直面する課題解決に寄与してきた東レ。ここで新しく開発された2つの材料・素材にクローズアップした。
【クローズアップ1 】
世界初1)、200℃以上の耐熱性を有する圧電ポリマーを創出
– モビリティ、ロボット、産業機械、航空・宇宙機などの振動検出に展開 –
東レ株式会社は今回、200℃以上でも圧電性能を発揮する新しい圧電ポリマー材料を開発した。同材料は、従来の圧電ポリマー材料では適用困難であった高温領域においても、安定した特性を発揮。また、形状自由度が高く、大面積に搭載可能なため、モビリティ、ロボット、産業機械、航空・宇宙機などの振動検出・監視技術の高度化に貢献する。
圧電材料とは、外部から力(応力や振動)を加えると電圧を発生する材料で、マイクや歪みセンサー2)などに使用。主に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が用いられているが、PVDFは120℃で分極構造3)を失い圧電性が喪失するため、使用温度の上限は80℃程度。また、PZTなどの無機圧電材料は、圧電性が高い一方で硬く脆いため、複雑形状や大面積での搭載が困難だった。
近年、モビリティ、ロボット、産業機械、航空・宇宙機などの分野において、振動検出・監視センサーのニーズが広がっている。自動車分野では、ロードノイズを抑制するためのアクティブノイズキャンセリング(ANC)4)、ロボット分野では触覚としての振動検出、産業機械や航空・宇宙機の分野では、振動を常時監視し、異常を早期検知する振動監視5)の導入が検討されている。これらの分野では、広範囲にわたる振動を正確に把握する大面積での搭載が必要。また、モーター・エンジン周辺での使用や宇宙環境、熱媒配管などの用途では、100℃を超える高温環境での圧電性能が求められている。同材料は、東レが培ってきたポリマー分子設計技術と高次構造6)制御技術を駆使して開発した、高い圧電特性を備えた新規ポリマー材料であり、分極構造が200℃以上でも維持されるため、PVDFでは対応できなかった高温環境下で安定した検出を実現する。また、ワニスやフィルム、不織布などの形状で提供できるため、複雑形状や大面積のセンサーにも適用可能となる。
なお、同材料は、鉛やフッ素を含有しないので、RoHS規制7)やPFAS規制8)にも適合可能。今後は、2028年頃の実用化を目指し、顧客向けサンプル提供・評価を進めて、同材料の用途開拓・拡大に取り組んでいく。


<用語説明>
1)商業製品を対象とした当社調べ
2)歪みセンサー:
物体がどれくらい伸びたり縮んだりしているか(=歪み)を測定するセンサー。圧電材料の「変形時に電気を発生する性質」が応用されている。橋やビルなどの構造物、あるいは人の心拍や動作(筋肉の伸縮など)のモニタリングなどに利用される。
3)分極構造:
材料内部で電気的に偏りがある構造。圧電性の発現に不可欠。材料内部で分極が同じ向きに揃うことで圧電性が得られる。

4)アクティブノイズキャンセリング(ANC):
ノイズとなる音(振動)に対して、それを打ち消す波形(逆位相)を持つ振動を発生させることで、静音化する技術。逆位相の波を適切に生成するために、ノイズとなる振動を瞬時に正確かつ網羅的に検出、解析することが重要となる。
5)振動監視:
機械や構造物の振動状態を常時監視し、異常や損傷の兆候を早期に検出する技術。ビルなどの構造物や風車などのインフラ設備の予防保全や無人管理などに応用されている。
6)高次構造:
材料内部におけるポリマー鎖の配置。同じポリマー材料でも、ポリマー鎖の配置によって材料全体での特性が変化する。圧電ポリマー材料では、ポリマー鎖の分極が同じ向きに並ぶように配置されることで、圧電性を向上できる。
7)RoHS規制:
EU(欧州連合)が定める、電気・電子機器に含まれる特定の有害物質の使用を制限する規制であり、鉛や水銀など計10物質の含有量に上限が設けられている。
8)PFAS規制:
環境や人体で分解されにくいフッ化炭素系化合物(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)の使用・排出を制限する規制であり、特に欧州や米国にて報告義務や段階的な禁止措置が進んでいる。
【クローズアップ2】
難燃・高耐熱を併せ持つ、新規柔軟PPS樹脂を開発
- PFASフリー要求に応え、冷却配管や配線部材等の用途に展開 -
東レ株式会社は、同社が展開する柔軟PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂において、新たに難燃性と高耐熱性を付与した高機能グレードを開発した。同開発材は、柔軟性・難燃性・高耐熱性を同時に備える世界初※1のPPS樹脂であり、PFASフリーであることに加えて、フッ素樹脂と比較して低コスト化が可能。過酷な高温環境下で使用される冷却配管をはじめ、継手、固定・保護部品、電装部材などでの採用を見込み、部品点数の削減や工程簡略化にも貢献できる素材となる。
近年、xEVやデータセンターの急速な普及により、冷却系部材や電装部材に求められる性能の高度化、多様化が進んでいる。従来、市場ではフッ素系樹脂が用いられてきたが、昨今のPFAS規制強化や、それに伴う原料調達リスクを回避するため、代替素材への要望がますます高まっている。また、オレフィン系エラストマー配合の当社柔軟PPS樹脂は、軽量性・成形性を活かした幅広い用途で使用されてきたものの、フッ素系樹脂に相当するレベルでの柔軟性・難燃性・耐熱性すべての両立には至らず、これらを同時に付与することが技術的な課題だった。
同開発材は、東レ独自の革新的微細構造制御技術NANOALLOY®※2を活用し、エラストマーに代わる新規柔軟成分をPPSポリマーに微分散化することで、従来の柔軟PPS樹脂では到達できなかった難燃性(UL94規格※3におけるV-0相当)と、耐熱性、軽量性を高いレベルで保持することに成功した(図1)。
2026年1月より、バッテリー周辺部材や半導体製造装置部材用途などにおいて、顧客向けに有償サンプルの提供を開始した。2026年度中に量産体制を構築するとともに、PFAS規制への対応と高機能化を両立しつつ、既存の設計技術が適用可能な次世代材料として、xEVやデータセンターの冷却配管、固定具、バッテリーやインバータの周辺部材、さらに産業配管や結束部材など、高温・高信頼性が求められる幅広い用途に展開していく。

東レPPS樹脂、柔軟系PPS樹脂、フッ素樹脂と比較した場合。
東レ測定値を点数換算し、レーダーチャートに示したもの。

【用語説明】
※1 世界初:
柔軟・難燃・高耐熱を同時に達成したPPS樹脂として世界初の材料。2025年10月1日時点、東レ調べ。
※2 NANOALLOY®(ナノアロイ®):
複数のポリマーをナノメートルオーダーで混合させることで、従来材料と比較して飛躍的な特性向上を発現させることができる、東レ独自の革新的微細構造制御技術。

ブランドロゴ
https://www.nanoalloy.toray/
※3 UL94規格:
プラスチック材料の燃焼特性を評価するための製品安全規格。UL Solutions Inc.(UL)が認定している。
V-0は、垂直燃焼試験における最高水準グレードを示す。





