
最も困難な問題に最も独創的に
最も勇敢なリーダーシップを発揮した人物を顕彰
第8回生物多様性みどり賞受賞者プレスカンファレンスが9月18日に帝国ホテルにて開催された。
同賞は公益財団法人イオン環境財団(以下、イオン環境財団)と国連環境計画(UNEP)の生物多様性条約事務局(SCBD)が、生物多様性保全と利活用において顕著な活動を行った個人を顕彰するもの。授賞式は2024年10月にコロンビア共和国・カリにて開かれた生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)の会場で行われ、ヴェラ・ヴォロノヴァ氏とイサベル・アグスティナ・カルデロン・カルロス氏が受賞した。今回のカンファレンスでは、両氏それぞれの活動内容や生物多様性への想いが語られた。

挨拶に立ったイオン環境財団理事長である岡田元也氏は、1990年にイオン創業者の岡田卓也氏が設立。爾来35年間、地球環境を守る活動を続けてきた歴史を振り返り、2010年の生物多様性条約COP10で採択された国際的な目標である「愛知目標」が定められた同年に国連生物多様性条約事務局の協力を得て、生物多様性みどり賞が創設されたことを紹介。同賞がイオン環境財団での中心的な活動の1つとなっていると語った。
そして、今回選ばれた両氏は、35か国78名の応募者の中で生物多様性の保護・回復に最も困難な問題に最も独創的に最も勇敢なリーダーシップを発揮していたことを強調。今後も大きな組織ではなく、イノーベイティブで個々人の活動や貢献に常に注目し、生物多様性の保全と回復にわずかでも貢献したいと結んだ。
中央アジアの種の回復、保護区の創設、
自然保護法の整備に取り組むヴェラ・ヴォロノヴァ氏
続いて、両氏の受賞者によるスピーチが行われた。
ヴェラ・ヴォロノヴァ氏は、カザフスタン生物多様性保全協会のエグゼクティブディレクターであり、自然保護・回復を専門とするカザフスタンの市民社会組織ACBKの優れたリーダーである。ヴォロノヴァ氏は、複数の国の政府や自然保護団体と連携し、中央アジア全域において種の回復、保護区の創設、自然保護法の整備に取り組んできた。
特に、絶滅が危惧される状態に陥っていた草原地帯の哺乳類個体群の回復や、野生動物が自由に移動できるよう保護された自然生息地帯「移動コリドー」の再生、さらに中央アジアに位置する渡り鳥の飛行ルート「中央アジア・フライウェイ」の保護において、大きな功績を残している。これらの活動は、多くの農村コミュニティの生活改善に寄与し、環境保護に関する次世代への教育、そして国境を越えて移動する動物の保護にも貢献している。

スピーチでは、世界で9番目の面積を誇るカザフスタンの砂漠、山脈、湖が織りなす自然豊かな風景を紹介。カザフスタンにおいて自然は単なる資源ではなく、国民のアイデンティティの一部であると語った。そうした背景の中で、国内レベルでの協力に加え、強固な国際的パートナーシップを築きながら、美しい環境と野生動物、渡り鳥の種、生息地、飛行ルートを守る活動に取り組んでいる。狩猟・密猟対策や、長期にわたる生体モニタリングも実施しており、保護区の拡大によって個体数は増加。世界でも有数の野生動物の回復実績を達成し、絶滅危惧種から準絶滅危惧種への改善に成功したと述べた。
さらに今後は、野生の馬やロバの復活にも意欲を燃やしている。この取り組みによって、土壌の炭素吸収能力も高まり、生物多様性の保全だけでなく、気候変動への対応にも貢献できるとし、一つの行動が生物多様性に広範な影響をもたらすことを強調した。
今後は、若い世代に活動を継承していくことにも力を入れ、エコロジー教育の一環として、カザフスタン国内の9つの大学と協力し、生物多様性のモニタリングなどのノウハウを学べる機会をさらに提供していきたいと抱負を語った。そして、生物多様性みどり賞の受賞により身が引き締まる思いであり、さらに生物多様性保全への責任を強く感じていると述べた。
花粉媒介者の減少を阻止し、回復。
地域コミュニティの社会経済的発展にも注力する
イサベル・アグスティナ・カルデロン・カルロス氏
もう一人の受賞者であるペルーのイサベル・アグスティナ・カルデロン・カルロス氏は、「スマック・カウサイ(良い生活の意)」の創設者兼CEO。彼女は、花粉媒介者の減少を食い止め、回復させるための保護活動を指揮する一方で、地域コミュニティの社会経済的発展にも力を注いでいる。
その活動の一つである「ビーハニー・ルート」プロジェクトでは、アグロツーリズムの活性化を図り、蜂蜜の生産と観光収入を生態系の回復、原生植物の再植林、研究、保全に活用している。この取り組みは、生物多様性の保全、持続可能な生計の支援、そして男女平等の推進を目指しており、生物多様性と市民社会の双方に利益をもたらす革新的なビジネスモデルを構築している。

スピーチでは、スマック・カウサイの活動において女性のエンパワーメントが重要な役割を果たしてきたことを強調。約60名の女性たちが、花粉媒介者であるハリナシバチの生態系回復に取り組み、これまでに2,000本以上の在来樹木を植林してきたことを紹介した。
また、これらの活動が「もし明日すべてのハチが消えてしまったら」という自問自答の中で行われてきたことを語り、心情を吐露した。そうした中で、昨年2024年に生物多様性みどり賞を受賞したことは大変光栄であると感謝の意を表し、この受賞によってさまざまな機材の導入が可能となり、これまで以上にハチミツの収穫と梱包が円滑に行えるようになったと述べた。
今後の取り組みとして、2026年から2027年の間に2,000種以上の自生樹木を植え替えたいという抱負を語り、農業の専門技術を活用しながら種子の保護と植え替えを進めていきたいと意欲を示した。
そのためにも、女性の活躍が非常に重要であることを力説し、ハチミツの生産とともに、女性たちが原生林を守る“女神”として活躍してほしいと語った。
