
サステナビリティ・イノベーション事業の規模が全社売上収益の53%に
東レグループのサステナビリティへの取り組みに関する説明会「IRセミナー」が、9月3日に行われた。最初に、上席執行役員でサステナブル経営推進室長の畑愼一郎氏が登壇し、サステナビリティに対する企業としての基本的な考え方に触れた。
まず、社会の公器である企業が事業を通じて社会に貢献するという経営思想や経営基本方針、そして「私たちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」との企業理念のもと、2018年に「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」を策定し、活動を継続していることを紹介。事業を通じた社会への貢献の拡大と、自社の環境負荷低減への取り組みは、相互に好循環を生み出し、経済的価値と社会的価値の向上につながっていると伝えた。
次に、サステナビリティ関連事業の取り組み状況について説明。2010年代から各プロジェクトを展開し、さまざまな開発・投資の結果、2024年にはサステナビリティ・イノベーション事業の規模が約1兆3,700億円となり、全社売上収益の53%にまで拡大したと述べた。

GHG排出量および用水使用量の削減が着実に進捗
同事業の構成については、約54%がGHG削減、約9%が環境・自然循環への貢献、約13%が安全な水・空気の提供に資するもの、そして約24%が医療・公衆衛生・安全・健康に寄与するものであると報告した。
資源循環に対する取り組みにおいては、繊維・フィルム・樹脂を中心に、自社開発によるマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルといった自社内でのリサイクルにとどまらず、外部から再生資源を調達し、それらを使いこなす技術や仕組みを構築することにも力を入れている。さらに、バイオマス由来の原料開発など原料の多元化にも取り組んでおり、将来的にはCO₂そのものを資源化することを視野に入れた開発も進めていると報告した。
また、こうした取り組みが新たなサプライチェーンの構築につながっていることにも言及。サプライチェーン全体が連動した循環スキームを構築することが重要であり、そのポイントは以下の3点であると述べた。
① 再生資源由来の原資(モノマー、ポリマー)を安定的に調達するための自社技術開発および外部調達の推進
② 再生資源の活用に適した新たなサプライチェーンの構築(社外との連携を含む)
③ 顧客との連携による市場における価値創出の促進
資源循環への取り組みの進捗状況については、2024年度の売上収益が1,500億円を超え、現時点では2030年に4,000億円規模を目指していると述べた。
環境負荷低減への取り組みでは、環境負荷低減プロジェクト「チャレンジ50+」について解説。同プロジェクトでは、GHG排出量および用水使用量の削減をグループ全体として2030年に2013年比で50%以上削減するという高い目標を掲げて進行中であり、事業を拡大しつつ環境負荷低減を進めるため、高効率化と高付加価値化を追求することで、GHG排出量および用水使用量の削減が着実に進捗している状況にあると伝えた。

今後、重要となる市場や顧客との対話と価値化への取り組み
次に、Scope3および製品カーボンフットプリント(CFP)の削減については、自社のScope1・Scope2の取り組みに加え、サプライヤーとの連携によるScope3カテゴリー1の削減を推進していると述べた。Scope3全体の50%を占め、Scope1+2の合計の1.8倍にもなる購入原料由来の排出量を低CFPへ転換することが、サプライチェーン全体のGHG排出量の削減および製品CFPの低減につながると語った。
さらに、GHG削減や資源循環の推進に加え、生物多様性や自然資本の保全・回復に向けた「ネイチャーポジティブ」を通じて、環境負荷低減の取り組みを拡充していると述べた。事業を通じた社会貢献の拡大と自社活動による環境負荷低減が、2030年に向けて着実に進捗していると語った。
次に畑氏は、サステナビリティの取り組みを進めていく上で重要な課題は、環境価値を経済的価値へと転換することにあると指摘。環境価値の経済価値への転換は、市場や顧客との対話と価値化の取り組みであり、環境価値を経済価値に変える仕組みを構築する、顧客との価値創造活動が重要であると訴えた。
さらにこの視点から、市場は以下の4つの階層からなるピラミッド構造であると分析した。
① 価格優先
② 環境価値+規制
③ 環境価値プラスα価値
④ 環境価値への共感
それぞれのセグメントに対する市場戦略として共通するのは、顧客との対話やサプライチェーンとの連携・協調であることを強調。一方で、各層には異なるアプローチが必要であり、たとえば「環境価値への共感」層では、環境ストーリーを顧客と共に創り、市場に訴求することが求められる。「環境価値プラスα価値」層では、イノベーションによる付加価値を含めた市場への訴求が必要である。「環境価値+規制」層では、行政との対話や働きかけに加え、価値の実証と社会への実装が重要となる。
畑氏は、こうした取り組みを通じて、環境価値を経済価値へと転換する努力を顧客と共に進めていると述べた。

多彩なフィールドで進む環境価値の経済価値への転換
畑氏に代わり、次にサステナブル経営推進室 サステナブル事業戦略グループのグループリーダーである勅使川原ゆりこ氏が、環境価値を経済価値へと転換している事例を紹介した。
「環境価値への共感」では、株式会社吉田との「タンカー」企画の共同プロモーションにおいて、バイオマス由来の原料であっても、従来製品(石油資源由来)と同等の物性を実現する技術力と、「100%バイオ」という環境価値が認められたことを紹介。環境価値に対する共感、そしてその製品に込められた想いや物語が、市場での購買行動につながっていることを伝えた。
次に「環境価値プラスαの価値」について、回収ペットボトルをマテリアルリサイクルした糸や、廃漁網をケミカルリサイクルした糸を用いた「&+」の取り組みを解説。環境負荷の軽減に加え、快適さや機能性の付与が可能となり、幅広い商品設計が“プラスαの価値”につながっていると説明した。
さらに、RO膜による海水淡水化の用途事例を紹介。中東において膜の合成に加え、現地での生産体制や顧客サービス体制を構築することで、環境価値にプラスαの価値を加え、世界の大型プラントの大半を受注。現在の「海淡の東レ」という地位の確立に至ったと語った。
さらに「環境価値+規制」の観点では、事例1で規制への対応、事例2・3で行政などとの対話、事例4で政府との協業について説明。
事例1では、欧州のELV(使用済み自動車)指令案が公表され、2031年以降、リサイクル率20%以上が求められる中、自動車部品やエアバッグのリサイクル実現に向けて、亜臨界水技術を用いたリサイクル技術の確立に向けた研究開発を進めていることを解説した。
事例2では、政策の影響を強く受ける水素への取り組みを紹介。欧州や中国が行政主導で水素市場の創出を牽引・支援する中、政策によるニーズや市場の変化を的確に把握し、規制・政策を一つのドライバーとして捉え、行政との対話や働きかけを通じて価値の実証、社会実装、顧客との連携による事業創出と拡大を進めていることを説明した。また、山梨県および東京電力ホールディングスと協働し、2022年2月に国内初のP2G(Power to Gas)事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー」の取り組みにも触れた。
事例3では、アメリカ西海岸のサンディエゴ市とパートナーシップを結び、進めている下水の再利用の取り組みを解説。同市では長引く渇水の中、水需要が供給を上回る状況下で、東レのUF膜・RO膜の耐久性と信頼性が評価され、採用されたことを報告した。
事例4では、バイオ原料化の研究開発にも取り組んでおり、非可食バイオマスから糖を製造するタイの実証会社CBT社の取り組みを紹介した。

真にサステナブルな会社となるよう挑戦を継続
次に2030年、さらにその先の展望を畑氏が再び説明。GHG削減に貢献する同社の革新技術と先端材料として、風車の大型化に貢献する炭素製品、エネルギーの水素転換に貢献する電解質膜、電極機材、隔膜、タンク用炭素繊維、CCSに向けたCO2除去のための高性能気体分離膜をピックアップ。さらに資源循環、ネイチャーポジティブに貢献する技術を列挙し、それらの2050年までの動きを紹介した。
そして、「社会・市場の変化をしっかりと捉え、今後もその変化に柔軟に対応し、その上で顧客と連携したマーケティング、世界情勢にもとづくサプライチェーンの構築、エネルギー・原料調達の多元化、継続的なイノベーション、環境負荷低減などを実行してまいりたい」と抱負を述べ、「経済的価値と社会的価値の両立を進め、真にサステナブルな会社となるよう挑戦を続けたい」と結んだ。
