日本を代表するパンメーカーの一つとして知られる山崎製パン株式会社(以下、山崎製パン)。名古屋工場では『コッペパン(西尾の抹茶入りクリーム&ホイップ)』を5月から発売開始し、売上金の一部を自然共生サイト「なごや東山の森」の生物多様性保全に用いる活動を展開している。ここでは本社と名古屋工場の関係者にインタビューし、その背景や取り組み内容について伺った。

自然共生サイトの支援を通し、生物多様性を守る

山崎製パンは、5月1日から『コッペパン(西尾の抹茶入りクリーム&ホイップ)』を愛知・岐阜・三重の東海三県及び、富山・福井・石川県の北陸地方を中心としたエリアで発売を開始している。用いられているパンは、ルヴァン種を使用し、しっとりソフトな食感が魅力。『西尾の抹茶』を使用した抹茶入りクリームとホイップをサンドすることでひと口食べるごとに広がる穏やかな旨みとコクを楽しめる。

5月1日から愛知・岐阜・三重の東海三県及び、富山・福井・石川県の北陸地方を中心としたエリアで発売を開始した

『コッペパン(西尾の抹茶入りクリーム&ホイップ)』



同商品を生産する山崎製パン名古屋工場で販売促進を担う営業課の久保謙太氏は、「使用している抹茶は全国有数の生産量を誇り、品評会でも高く評価されている西尾産。上品な味・香りが抹茶好きにはみたまらないコッペパンとなっています」と話す。そして、この商品を特徴づけるポイントとして注目したいのが、売上金の一部が自然共生サイト「なごや東山の森」の生物多様性保全活動に使われていることだ。

左)総務本部 総務部 環境対策課 課長代理 池みなみ 氏  右)総務本部 総務部 環境対策課 清水祥子 氏




そこに至った経緯を本社総務部環境対策課の清水祥子氏は、次のように説明してくれた。

「世界的に生物多様性の損失が問題となっている今、当社は、小麦などの作物や水など原材料などの多くを生物多様性の恵から得ており、未来へ美しい地球環境を残し、今後の企業経営を長く続けていくために生物多様性の保全に取り組みたいと常に考えていました。ただ、生物多様性保全はCO2排出量や廃棄物の発生量と比べて数字で表しにくく、どのような活動が効果的であるか、なかなか明確にならず、会社として推進できていなかったのが現状でした」

そういった中で知ったのが民間等の取り組みによって生物多様性の保全が図られている区域を環境省が自然共生サイトに認定する取り組みだったという。「早速、環境省にコンタクトを取った結果、2024年の11月に当社の工場が所在する名古屋市をご紹介いただき、名古屋市内にある自然共生サイト「なごや東山の森」の支援を本年より開始しました。そして、6月には、同森を整備するNPO 法人なごや東山の森づくりの会様に売上金の一部を寄付し、自然共生サイト「なごや東山の森」の生物多様性保全活動にお役立ていただくことになりました」

名古屋工場 営業課 久保謙太 氏(左)  総務課係長 桑野悠 氏(中)  総務課課長 大山和輝 氏(右)は

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自然共生サイト「なごや東山の森」は、名古屋市東部の丘陵地に位置し面積約285haの広大な森。自然に親しめる散策路などが設けられ、気軽に訪ねられる緑のスポットとなっている。名古屋工場の総務課係長 桑野悠氏は「近くに動物園もあり、名古屋市民をはじめ、多くの人に親しまれています。周辺はマンションが立ち並ぶ都会的な環境にも関わらず、大半が樹林に覆われ、静かな水辺や湿地があり、多様な動植物が生息・生育している里地里山となっています」と「なごや東山の森」の魅力を話す。環境対策課の清水氏は、「NPO 法人なごや東山の森づくりの会の皆様は、「なごや東山の森」の湿地の保全・再生や雑木林、竹林整備などを通じて、ササユリ、シラタマホシクサ、ニホンアカガエル、ホトケドジョウなどの希少種や固有種をはじめとする様々な動植物が生息環境づくりを続けてこられました。4月には実際に「なごや東山の森」を見学させていただき、あらためて『コッペパン(西尾の抹茶入りクリーム&ホイップ)』の販売で貢献できていることに喜びを感じています」と語る。

売上金の一部がこの自然共生サイトの保全に活用される仕組みは、商品の袋部分に貼られたワンポイントのシールで告知されているため、消費者はもちろん、商品を取り扱う店舗のスタッフも認知できる。名古屋工場では初となるが地域の活性化にもつながることで流通関係者からも良い評価を得ているとのことだ。また、名古屋工場では11月に「なごや東山の森」の整備活動にも参加予定で、より一層の従業員の環境意識の向上にもつなげていく。

深い地域愛から生まれる環境負荷軽減への取り組み

山崎製パンは、環境管理活動を効果的に行うために、全国28の工場に工場環境推進会議を設置。本社総務部環境対策課と連携しながら、それぞれの工場の実態に即した環境への取り組みを推進している。今回の『コッペパン(西尾の抹茶入りクリーム&ホイップ)』の販売を通した生物多様性保全活動も環境対策課と工場とのチームワークによって実現した。こういった連携は、この事例以外にも日常活動として行われ、CO2排出量の削減、食品ロスやプラスチックの削減に工場と本社が一体となって取り組んでいる。

「現在注力しているのは、工場から出る廃棄物の管理です。各工場の総務課の方にご協力いただき、分別に力を入れ、リサイクル率も向上し、コスト削減でも確かな成果が出ています」と説明するのは、環境対策課 課長代理の池みなみ氏。

気候変動への対応 、循環型社会の形成、廃棄物の削減 、水資源の保全、環境教育、地域清掃活動など幅広くESG活動を展開する山崎製パン。それらを生み出しているのは同社ならではの地域との関わりを大切にする企業風土にあるのではないだろうか。

山崎製パンでは北海道から沖縄まで多数のご当地ランチパックが発売されるなど、地域の特産品などを使用した数多くのご当地商品も多い。地域という言葉は、同社を語る上でも重要なキーワードとなるだろう。その一つひとつから地域愛の深さが感じられる。そして、その地域の先に自然がある。地域を大切にする心がそのまま地球環境を守る行動に直結しているように伺える。

グローカルという言葉がある。それは「Global(地球規模)」と「Local(地域)」を組み合わせた造語であり、地球規模で考え、地域で行動することを意味する。山崎製パンの取り組みは、まさにグローカルのエッセンスが凝縮しているように感じる。前述の本社と各工場の連携についても環境対策課から各工場総務課へという図式ではなく、各工場の主体的な取り組みと本社のセンター機能が良い相乗効果を生み出しているようだ。「今後は、自然共生サイトの支援を各工場に広げ、日本各地の生物多様性保全に貢献していきたい」と環境対策課の池氏は意欲を燃やす。