地球が未来へと持続していくために今、求められる人の意識や行動の変革。地球SAMURAIでは、そこに波動を及す野心的な人物にクローズアップしている。今回は、山内瑠華さんを取材した。学生時代から色や形が悪いというだけで廃棄されてしまう野菜を活用した絵具づくりを行い、現在は合同会社ラビスプライベート代表としてその絵具の製造販売とワークショップなどでフードロスの啓蒙活動に取り組んでいる山内さん。彼女の活動を象徴する「へんてこりんでもええやん」のメッセージからは、どこまでも命を尊重する肯定者の温もりが伝わってくる。

コロナ禍の学生時代に感じた“私って一体何?”という疑問

──市場に出る前に破棄される規格外野菜に対して問題意識を持つことから、実際に何らかの活動を起こそうと決意したきっかけは何でしょうか。

山内:実家が農家で子どもの頃から一般家庭よりも野菜と身近にふれあう環境にありましたし、以前から捨てられる野菜をはじめとするフードロスに対して関心を持っていました。ただ、それは、あくまでも問題意識があったに過ぎませんでした。大きな心境の変化は立命館大学2回生のときに経験したコロナ禍の中で起こりました。授業はすべてオンライン。そして、この状況がいつ終わるか、まったく先が見えない中、私って一体何?と考えるようになったのです。もちろん自分を語る肩書は、大学生であることにはまちがいありませんでした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によってキャンパスに行けず、友だちとの楽しい語らいもなく、対面授業もない中で大学生であることを実感できる場所がまったくといいほどなくなっていたのです。予想していた以上にコロナ禍は続き、次第に大学の学びでない何かに打ちこめるものがほしい、そして、そのアクションを通して何者かになりたい、と強く思うようになっていきました。そこで始めたのが、規格外野菜で絵具を作ることだったのです。フードロス以外にも関心があるものは、たくさんありましたが、幼いときから地元京都で野菜と接する家庭で育ったことから自分ごと化がしやすかったのだと思います。その後、ラビスプライベートという学生団体を立ち上げ、芸大生の友だちとの協力も得られ、絵の具をつくる会社を訪ねることで技術的なサポートもしていただきました。

色や形が悪く廃棄されてしまう野菜は、「へんてこりん野菜」と名付け、野菜から作った絵の具は「べじからふる絵の具」とネーミング。その取り組みに次第に仲間たちも加わり、製造販売が手掛けるようになりました。結果、野菜で絵具をつくろうとしている学生として認知されるようになっていきました。

学生団体を法人化し、継続の意志を社会に伝える

──べじからふる絵の具の特徴はどのようなところにありますか。

山内:野菜を乾燥させ粉末状にしたものと、アラビアガムというマメ科の木の樹脂という自然の素材だけで作られていますので野菜らしい素朴な香りと自然な色を楽しめることが魅力です。時期によって収穫できる野菜がちがってきますので、絵の具の種類も変わりますが、現在は20色の絵具を主に展開しています。色についてはネーミングに姉御肌(ビーツ/赤)、かぼちゃの炊いたん(かぼちゃ/黄)、木漏れ日(ほうれん草/緑)、ほくほく甘い(紫芋/紫)、煌めく銀河(バタフライピー/青) にするなどこだわりを持っています。ただの「赤」「青」よりも、早くこの絵の具を使いたいと思うような名前をつけることで、使うときのワクワク感が高まりますし、より多くの人が興味を持ってもらえると考えました。一つひとつメンバー同士でできた絵具の色をパッと連想するものを挙げながら、名付けていった楽しさを今も覚えています。

野菜によってよく色が出るのと出ないものがあります。そのため、どの野菜を使うかは慎重に取り組んでいます。紫芋は、外側も中も紫であり、きれいな紫色が出ます。また、京都で栽培される舞コーンは、舞子さんのような白いトウモロコシであることが特徴ですが、トウモロコシの遺伝子を持っていることで黄色の絵具をつくることができます。

──大学4回生でラビスプライベートを合同会社とされました。その決断に至った理由は何でしょうか。

山内:取り組みを続けていく中で社会の様々な分野での関わりも増え、単なる学生の活動で終わらないようにしたいという想いが強くなっていきました。そこで決断したのが合同会社にするという選択でした。法人化することで企業や自治体の方とスムーズに連携することができ、継続していく意志を社会に伝えられます。また、信頼性や活動の持続可能性を高められます。大学生から社会人としてどう生きていくか、ということをかんがえなければならない大学4回生というタイミングもちょうど良かったと思います。

捨てられる野菜たちを輝かせ、 “完璧でなくてもいい”ことを発信

──学生時代に勉学や課外活動に励む“完璧でいようとするしんどさ”を感じていた時代から絵具事業を通して社会に伝えている「へんてこりんでもええやん」のメッセージに到達するまで、どのような精神的な変化があったのでしょうか。

山内:子どもの頃に立命館中学という中学受験を経験し、高校時代もいい成績を取り、大人が求める理想的な生徒像=優等生になろうとしていました。その中で本当は“完璧じゃなくてもいいんだよ”という言葉を誰かに言ってほしかったことが何度もあったのです。ただ、弱音を吐いたり、後ろ向きな発言をしたりしても「瑠華ちゃんなら大丈夫だから!」という言葉で、その気持ちをなかかなか受け止めてもらえなかったのです。結果、一時期に学校に行けなかったこともあり、自分自身が辛さやしんどさを経験することで、今度は私が求めていた言葉をかけられる側になりたいと思うようになっていったのです。そういった中で気づいたのが、色や形が悪いだけで捨てられてしまう野菜たちの存在でした。完璧でないことで否定される悲しみは、人間でも野菜でも同じだということにショックを受け、捨てられる野菜たちを輝かせることで人にも“完璧でなくてもいい”ということを伝えられる手段があるのではないか、とその瞬間に思いました。へんてこりんでもいいんだよいうメッセージは、言葉だけでは抽象的でふわふわしていてなかなか伝わらないかも知れません。しかし、へんてこりんな野菜たちが、べじからふる絵具として生まれ変わり、今、ここで輝いている。その目に見えない姿を通して、へんてこりんでもいいんだよということをメッセージできる側に今は立て、また、自分に言い聞かせる形で仕事に取り組んでいます。

ワークショップで子どもたちにフードロス問題への関心を高める

──学生団体の立ち上げから法人化、そして大学を卒業してからも、その取り組みを続けていく上でモチベーションの継続につながっているものは何でしょうか。

山内:子どもたちに行うワークショップで得られるものが大きいように感じています。小学校では総合的な学習の時間や教科学習でSDGsを勉強する機会を設けていますが、なかなか自分たちと関係のある問題と捉えられていない子どもが多いようです。そこで一旦SDGsは置き、「べじからふる絵具は野菜からできている絵具なんだよ」ということを説明し、まずは絵を描くことを楽しんでもらいます。そして、実はこの楽しい絵の具というのは、形や色が悪いから商品にならず捨てられている規格外野菜からできていることを後から伝えると、とても納得してもらえ、フードロスの問題やそれを含むSDGsに関心をもってもらえる子が増えていきます。実際にワークショップで子が関心を持っていくことを目の当たりにできたことが私にとっては大きい力になっています。

また、こういった事業を展開していく中で規格外野菜の活用法に賛同いただき、実際に野菜や技術を提供していただいている農家さんや絵具製造会社さんもモチベーションの持続には欠かせない存在となっています。


──今後どのような事業を展開していこうとお考えでしょうか。

山内:今は粉状で提供していますが、既成の商品のようにチューブ絵具となるよう、実験に取り組んでいます。絵具製造する会社も農家と同じく高齢化が進み、今後どのようにビジネス展開をしていくか、を悩んでいるところが少なくありません。そういった皆様からべじからふる絵具について貴重なアドバイスをいただきながら、いっしょに歩んでいくことで事業を継続させていくお手伝いができればと思っています。

──サステナブルなことに関心を持ち、何かを始めてみたいという若い世代も多いと思います。そういったメンバーにメッセージをお願いいたします。

山内:やってみたいと思ったら、そこで終わらず、声を出して誰かに伝えることが大事だと思います。言い続けることで理解者も生まれますし、自身の本気度も発信することができます。ただ、もしも言い続けたくなくなったら、立ち止まってみることも大切です。そこで本当にやりたい、進んでみたい事柄かどうかを、ゆっくり考えてみてはどうでしょうか。私もそうしてきました。

山内瑠華さんプロフィール

立命館大学国際関係学部2回生のときに学生団体ラビスプライベートを立ち上げ、規格外野菜から作った絵の具「べじからふる絵の具」の製造販売などを手掛ける。4回生のときに同団体を合同会社として法人化。卒業後もその製造販売やワークショップに積極的に取り組む。

取材を終えて

山内さんは終始穏やかな口調で取材に応じてくれた。その表情には迷いや弱さなどを忌み嫌い、排除しようとするのでなく、全面的に肯定し、輝く方向を探る生き方が反映されているように思えた。そこには山内さんだけではなく、次世代の若者の繊細さが凝縮しているのかも知れない。そして、そういった優しさに旧世代である私は、希望を感じた。

(取材・記事 宮崎達也)