「だけど、なんにも着てやしないじゃないの!(Men han har jo ikke noget paa!)」 [1]

1. 開いた口がふさがらない「裸の王様」のご乱心の「ふてほど」の衝撃

ドナルド・トランプ次期米国大統領の発言には、最近は、彼が何を言っても一向に驚かなくなったが、それでも、さすがに、今回、このご乱心の発言には驚いた。

トランプは先日の記者会見(2025年1月7日)で、米国の経済的安全保障のために、グリーンランドとパナマ運河を獲得するために「軍事力」を行使する可能性すらあると答えたらしい。このニューズを聴いた瞬間、「え?まさか」とわが耳を疑った。ここまで踏み込んだら洒落にならない。

ふと、最近のはやり言葉「ふてほど(不適切にもほどがある)」が脳裏に浮かんだ。

すでに、昨年末から、トランプは、デンマーク自治領のグリーンランドと、中米パナマが得ているパナマ運河の管理権を、アメリカが獲得することを望んでいると発言してきた。むろん、過去にも、1867年に、米国はロシアからアラスカを720万ドルで購入した実績があるし、1917年には、デンマークからバージン諸島3島を2,500万ドルで購入した実績もあり、また、一時的に米国がグリーンランドを管轄していた時期すらあったので、あながち無茶な話でもない。しかし、だからといって、グリーンランドにはれっきとした無辜の住民が日々の生活をしているわけで、こうした人々の人権を無視して、頭ごなしに、正式な手順を経ずに、藪から棒に、一方的な軍事力行使や高関税等の恫喝まがいのブラフ(bluff)をちらつかせてディールに持ち込む筋の話ではなかろう。「もともと不動産屋出身なのだから、かように下品でご行儀が悪いのはいたしかたない」では済まされない話である。まさに「ふてほど」の極みである[2]

さらにトランプは、こともあろうか、隣国カナダの合併を試みるつもりもあるとして、追加関税で恫喝しながら「カナダは米国の51番目の州になるべきだ」「カナダが米国に吸収されれば関税はなくなる。米国がカナダ存続のために大規模な貿易赤字や補助金に苦しむことはもはやできない」などと常軌を逸する過激な暴言すらしている。カナダのトルドー首相も怒りを通り越して、あきれ果てて、当惑を隠しきれなかったであろう。むろん、トルドーは、今回の事に懲りて嫌気がさしもう金輪際トランプの顔も観たくないと今回辞任表明したわけではないであろうが。

かくして、トランプは、厚顔無恥にも、人の迷惑も顧みず、悪びれるそぶりもなく、領土拡張への意欲が弱まる気配はない。メキシコ湾を「アメリカ湾」に改称する提案をする等の言動もそうであるが、こうした誇大妄想に近い一連の拡張主義的な発言に背景に、北米を米国の領土として一体化したい彼の妄信的な強い拘泥を感じざるを得ない。昨今のトランプ一流のバカ丸出しの発言については、さすがに気がおかしくなってしまったかとも思ったが、知人の中には「もともと彼は気がおかしかったよ」と言った淡々とした評価や、方や、「いや、むろん、こうした言動は、トランプ一流のディールを念頭にした充分計算された戦略的なブラフ(bluff)にすぎない。有能な政治家の証左なのだよ。」といったやや贔屓目の穿った解釈等もあり百家争鳴の感もあるが、いずれにせよ、ろくなことにならない予感も否めず、なんとも不穏な今日このごろである。

しかも、あきれ果てたことに、まだトランプは正式に大統領に就任していないにも関わらず、内外の多くの政治家や起業家等の多種多様な要人が、こぞって米南部フロリダ州にあるトランプの私邸マー・ア・ラゴ(Mar-a-Lago)を続々と訪問し、迎合し忠誠を誓っている話を側聞し、開いた口がふさがらなかった。次期トランプ政権の閣僚候補も同席しお祭り騒ぎで、さながら「冬のホワイトハウス」状態になっているらしい[3]。あえて、ややアイロニーを込めて言うならば、デンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン(Hans Christian Andersen)の代表作『皇帝の新衣裳』(Kejserens nye klæder)の風景とでも言えようか。取り巻きには子飼いしかおらず、批判者や反対者がいない。我が強すぎて批判・反対を自分にとって都合よく解釈する。ときには権力を乱用して批判者・反対者邪魔者扱いして粛清する。本当の自分の実力がわかっていない。こうした「裸の王様」は、正当な批判・反論すらも聞かずに猛進する。結局、内外に破壊的な影響を及ぼし、いずれや当人も国家も大きなダメージを受ける。「百害あって一利なし」の有害な人物になる。かつてのヒトラーやスターリンがそうであったように、トランプも、こうした危険な香りを纏ったデジャビュ感を否めない。しかし、こうした「裸の王様」を揶揄した童話とトランプとの大きな違いがある。それは、この「裸の王様」たるトランプを恭しく取り囲む多くの要人の中には、「だけど、なんにも着てやしないじゃないの!」と指摘するまともな感性をもった者(スペインの原作では馬丁の黒人)が一人もいないということである。これでは喜劇ではなく、最悪の悲劇である。

[1] デンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン(Hans Christian Andersen)の代表作『皇帝の新衣裳』(Kejserens nye klæder)の中に登場する有名な子供の台詞。『皇帝の新衣裳』は日本では、『裸の王様』とも呼ばれている。原作はスペインの王族フアン・マヌエルが1335年(建武2年)に発表した寓話集『ルカノール伯爵』に収録された第32話「ある王といかさま機織り師たちに起こったこと」 である。アンデルセンが翻案し1837年(天保8年)に発表した童話である。人間心理の弱点を辛辣に捉えた寓話として著名な作品であり、アンデルセンの代表作の1つとされる。身の回りに批判者や反対者がいないか、あるいは、我が強すぎて批判・反対を自分にとって都合よく解釈する権力者を揶揄する物語である。権力者は、ときには権力を利用して批判者・反対者邪魔者扱いして粛清することすらあるため、「裸の王様」は、本当の自分の実力がわかっていない人を揶揄するために用いられることが多い。当然ではあるが、正当な批判・反論すらも聞かずに猛進するため当人が破壊的な影響を及ぼすようになり、いずれ必ず当人も組織も大きなダメージを受けるため、組織人として見た場合には非常に有害な人物になる。

[2] トランプ次期米大統領が意欲を示したデンマーク領グリーンランドの領有について、ブリンケン米国務長官は、先日2025年1月8日、「実現しないことは明らかだ」と述べ、不可能だとの認識を示した。

[3] 昨年2024年米国大統領選当選確定以降、トランプの私邸マー・ア・ラゴ(Mar-a-Lago)を訪問した要人は、イタリアのメローニ首相やカナダのトルドー首相等の政治家や、メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグ、アルファベットのスンダー・ピチャイCEO、アップルのティム・クックCEO、アマゾン・ドット・コムの創業者で億万長者のジェフ・ベゾス、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長、韓国新世界グループの鄭溶鎮会長、Crypto.com CEOのクリス・マーザレク等、多種多様である。トランプの片腕のイーロン・マスク氏はトランプと共にマー・ア・ラゴに滞在し、トランプ一家の夕食会や世界各国の指導者との電話会談に同席している。3年前2022年にTwitterを買収しXに換骨奪胎したマスクは、保守派の声を増幅させるSNSの拡声器へとXを変貌させてしまっている。かつてリベラル派の代表格だったfacebook(meta)のザッカーバーグすらも、嘆かわしいことにトランプ次期政権に多額献金し、イーロン・マスクの筋書きに従ってメタのFacebookとInstagram等のプラットフォームをことごとく右傾化させまでして取り入ろうとしている。なぜかくも権力にひれ伏していってしまうのか、理解に苦しむ。

2. 「トランプ2.0」と「レーベンスラウム」の不穏なデジャビュ感

今回、一連のトランプの法外な発言を側聞し、ふと「レーベンスラウム(Lebensraum)」を想起した。

「レーベンスラウム」とは、「生存圏」を意味するドイツ語である[4]。元々は地政学の用語である。日本語では「生空間」とも訳されている。

かつてドイツ人の考え方の中に「生存圏」と言う言葉が登場するはるか昔から、ゲルマン人には十分な空間が与えられていないとする危機感があり、ドイツの人口圧力がヨーロッパ東方へのドイツ人の入植「東方植民」を押し進めてきた経緯がある。身勝手な話ではある。

その後、アドルフ・ヒトラーのナチスにより「レーベンスラウム」が「国家が自給自足を行うために必要な政治的支配が及ぶ領土」を指す意味で使われるようになり、ナチスの独善的な経済拡張主義を正当化する中核的キーコンテンツとなった[5]。「健康な生物種にとって使用可能な空間を埋めていく拡大は自然かつ必要な特徴である」とする科学的研究結果が意図的に拡大解釈され、ゲルマン人には十分な空間が与えられていないとする危機感を背景に、「生存圏」獲得の目的を表明しての戦争は「生物学的必要」であるといったこじつけ気味の身勝手な危険な思想に発展してしまった。

ナチスヒトラーは、地政学者ハウスホーファー(Karl Ernst Haushofer)[6]の提唱した「国家が自給自足を行うために必要な政治的支配が及ぶ領土」を指す「レーベンスラウム(生存圏)」論を侵略戦争の正当化に使った。この言葉は、ヒトラー自身著書『我が闘争』の中でも、言及されている。

そもそも「レーベンスラウム」とは国家にとって生存(自給自足)のために必要な地域とされ、その範囲は国境によって区分されると考えられている。ただし国家の人口など国力が充足してくれば、より多くの資源が必要となり、生存圏は拡張すると考えられ、またその拡張は国家の権利であるとされた。またレーベンスラウムの外側により高度な国家の発展に必要な、経済的支配を及ばせるべきとされる領土を「総合地域」と理論上設定したが、近年経済の国際化が進んでおり、自給自足の概念は重視されなくなったため、生存圏理論を国家戦略に反映させることはなくなっている。

このはなはだ身勝手で悍ましい「レーベンスラウム」という不吉な亡霊が、いま再び、「トランプ2.0」で復活しつつある。「生存圏を有しない民族であるドイツ人は、生存するために軍事的な拡張政策を進めねばならない」としてナチス党の政策に取り入れたヒトラーと、最近のグリーンランド、カナダ、パナマ騒動等の言動に象徴される一連のトランプの「自国第一主義」による傲慢不遜な拡張政策的姿勢が、デジャビュのごとく重なって見える。この「トランプ2.0」と「レーベンスラウム」の何とも言えない不穏なデジャビュには、悪寒すら感じてしまう。

かつて、ナチスは、独善的に、この「レーベンスラウム」を獲得するため、アーリア人種以外の住民の「強制追放」と「領土拡大」の2つが不可欠だと考えた。当初、ナチスは、ヨーロッパのユダヤ人をマダガスカルかソビエト・アジアに追放する計画を検討していた。しかし、戦争が進むにつれ、イギリスの制海権とソ連の抵抗に直面し、ナチスの大量国外追放計画は実行不可能となった。そこでヒトラーは、ナチスの支配領域内でユダヤ人を絶滅させることでしか自らの目標を達成できないと考えるようになった。その帰結がポーランドのアウシュビッツ強制収容所等での大量虐殺に象徴されるホロコーストの悲劇である。「レーベンスラウム」がホロコーストに接続していた。

いままさに「トランプ2.0」で、トランプが真顔で実現させようとしている米国から2,000万人もの移民を強制的に国外に追い出す「移民大量強制送還計画[7]」は、ヒトラーが大量虐殺の「最終解決策」を採用する10年前から考えていた恐ろしい「Lebensraum」の思想に通底している。むろん、まさかマスク・トランプが「最終解決策」まで考えているなんてことはあるまいが。

[4] 「生存圏 (Lebensraum)」という用語をこの意味で最初に用いたのは、地理学者フリードリヒ・ラッツェルだった。ラッツェルは、1901年この用語を、英仏をモデルにドイツの国家統一と植民地獲得を目指すスローガンとして用いた。ラッツェルは、民族の発展は主としてその民族がおかれた地理的状況に影響されると考えた。また一つの場所への適応に成功した民族は、当然他の地域にも進出していくと信じていた。こうした考え方は、ラッツェルの動物学の研究や適応の研究にも見て取れる。使用可能な空間を埋めていく拡大は、健康な種にとって自然かつ必要な特徴であるとラッツェルは主張した。ラッツェル自身は、ヨーロッパの中での領土拡張ではなく、ドイツ人が移住できる海外植民地が必要であると強調していた。ウォンクリー(Wankly)は、ラッツェルの理論は科学の前進を企図したものであったが、政治家がそれを政治目的に歪曲したのだと述べている。やがて「生存圏」という言葉は、カール・ハウスホーファー(Karl Ernst Haushofer)やフリードリヒ・フォン・ベルンハルディをはじめ、当時の政治宣伝に利用されるようになり内容が拡張されていった。1911年のベルンハルディの著書『Deutschland und der Nächste Krieg(ドイツと次の戦争)』は、ラッツェルの仮説を拡張し、また初めて明確に東ヨーロッパを新たな空間として名指した。ベルンハルディは、「生存圏」獲得の目的を表明しての戦争は「生物学的必要」であると説き、ラテン人種とスラブ人種に言及して「戦争がなければ、劣等の、あるいは劣化しつつある人種は、これから伸びてゆく健康な要素を容易に窒息せしめるであろう」、「「生存圏」の追求は、単に潜在的な人口学的問題を解消しようとする取り組みにとどまるものではなく、停滞と退化からドイツ人種を守る手段として必要なものである」と述べた。

[5] 「生存圏」獲得という思想は、1933年のナチス政権の成立の遥か以前からドイツ人の考え方の中にあった。そもそも、ゲルマン人には十分な空間が与えられていないとする考え方は、「生存圏」と言う言葉はなかったが、ラッツェルが唱え、アドルフ・ヒトラーがそれを有名にするずっと前から存在していた。中世期を通して、ドイツの人口圧力はヨーロッパ東方へのドイツ人の入植「東方植民」を押し進めた経緯がある。1914年9月、第一次世界大戦時、ベルリンでは戦後の平和条約のために「生存圏計画」が導入されていた。「生存圏」の概念は、宰相テオバルト・フォン・ベートマン・ホルヴェーク率いるドイツ政府が戦争目的として密かに承認を与えていたものであった。ドイツの歴史家フリッツ・フィッシャーが発見した当時の公文書には、ドイツの勝利時に「9月計画 (Septemberprogramm)」の一部としてドイツ政府が検討する政策の一つとして、ポーランドの領土を併合してドイツ人を移住させ、東方への防壁とすることが提案されていた。この人口政策は、結局、公式に採用されることも実行されなかった。ドイツ帝国は、リトアニアとポーランドの領土を併合してその住民を強制的に立ち退かせた後、ドイツ人入植者たちを直接入植させようと計画していた。1915年4月には、宰相テオバルト・フォン・ベートマン・ホルヴェークによって、ポーランド国境地域計画が戦争目的として承認された。この計画は1914年にエーリヒ・ルーデンドルフ将軍(陸軍少将)が、最初に提案したものであった。ドイツの歴史家アンドレアス・ヒルグルーバーは、第一次世界大戦下に「生存圏」を求めて東ヨーロッパを確保しようとしたルーデンドルフ将軍の外交政策が、第二次世界大戦におけるドイツの政策の原型となったとしている。1918年、第一次世界大戦の最中に「生存圏」は現実のものとなりかけた。ロシア革命を経て、共産党政権はドイツとブレスト=リトフスク条約を結び、広大な領土の割譲と引き換えに戦争から離脱した。このときロシアが放棄した中には、バルト地域、ベラルーシ、ウクライナ、カフカスが含まれていたが、最終的には、ヴェルサイユ体制下では新たな東方のドイツ領は、リトアニア、ポーランド、新しく創設されたエストニア、ラトビア、その他ウクライナに設けられた短命な独立国家群の領土に限られた。

[6] Karl Ernst Haushofer profileドイツの陸軍軍人、地理学者、地政学者。ミュンヘン大学教授。最終階級は陸軍少将。旧バイエルン王国出身。ランドパワー(陸上権力)を重視するドイツ地政学の祖。日本との関係が深い人物である。1908年(明治41年)から1910年(明治43年)まで、駐日ドイツ大使館付武官として勤務。日本が戦争を経ずに韓国併合を行ったことを、膨張主義の成功例として着目し「生存圏(レーベンスラウム)の理論」に帰結した。1919年にハウスホーファーは教え子としてルドルフ・ヘスと知り合い、1921年にはアドルフ・ヒトラーと出会った。ヒトラーはハウスホーファーの「生存圏(レーベンスラウム)の理論」に興味を覚え、「生存圏を有しない民族であるドイツ人は、生存するために軍事的な拡張政策を進めねばならない」として、ナチス党の政策に取り入れた。しかしハウスホーファーは「(ヒトラーが)それら(地政学)の概念を理解していないし、理解するための正しい展望も持ち合わせていないという印象を受けたし、そう確信した」と見てとり、フリードリヒ・ラッツェルなどの地政学基礎の講義をしようとしたが、ヒトラーは拒絶した。ハウスホーファーはこれをヒトラーが「正規の教育を受けた者に対して、半独学者特有の不信感を抱いている」ことによるものであるとみていた。

[7] トランプ次期米大統領が国境担当責任者に指名したトム・ホーマン氏は、史上最大規模の不法移民強制送還という使命を果たすための強制送還のコストとして860億ドル(約13兆5800億円)という試算を示し、巨額の資金が必要になると述べた。(出所)Alicia Caldwel(2024)”Trump Border Czar Sees $86 Billion Cost to Target Migrants”( January 8, 2025 Bloomberg)

3. トランプ式「レーベンスラウム」政策の「自損行為」的な不毛性

ただ、いずれにせよ、1つだけ、客観的に明らかなことがある。

マスク・トランプの「移民大量強制送還計画」や「トランプ関税政策」が、米国経済にも、世界経済にも、有益な結果をもたらすはずがない「百害あってい一利なし」の愚策であることである。

既にそれを示した先行研究がある。移民大量強制送還の実現には約1兆ドル以上の費用がかかり、実行完遂までに10年がかかる。しかも、仮にこの計画を実施した場合、深刻なGDP損失をもたらすとの予想が公表されている 。その強制送還による米国のGDPのマイナスの予想変化率を示している研究報告書では、仮にトランプが移民大量強制送還計画を強行実施した場合、3年後の2028年末時点で、すでに、米国のGDPは、1.2~7.4%程度減少するであろうと予測している[8]

以下の図がその強制送還による米国のGDPの予想変化率を示している。

【図1】強制送還による米国のGDPの予想変化率(2025年~2040年)

(出所)Anjali V. Bhatt(2024)“Mass deportations would harm the US economy”(September 26, 2024;Peterson Institute for International Economics)
    Working Paper 24-20 by Warwick McKibbin, Megan Hogan, and Marcus Noland, The international economic implications of a second Trump presidency.
(注)If Trump’s deportation plans were enacted, US GDP would be between 1.2 and 7.4 percent below baseline by the end of 2028


このように、一気に米国経済を減衰させるような愚行を、はたして米国民や議会が承認し支持するであろうか。大きな疑問がのこる。こんな「移民大量強制送還計画」や「カナダ、グリーンランド、パナマの領土化」といった一連の愚策を本当にマスク・トランプはやる気なのだろうか。本気なのだろうか。それでも、妄信し強行するのだというのであれば、それは正気の沙汰ではない。

また、トランプは関税に固執している。大統領選で全ての国からの輸入品への10-20%の一律関税と中国からの輸入品への最高60%の関税賦課を公約。当選後には、10%の対中追加関税に加え、メキシコとカナダからの輸入品への25%関税賦課の可能性を表明して再び市場に衝撃を与えた。次期政権のチームが計画をまとめたのかどうかは不透明なままであるが、トランプ氏が包括的な関税政策を打ち出す用意を進めているのはほぼ確実である。同氏は関税について、歳入増や米製造業の復興をもたらし、貿易相手国を自分の優先課題に従わせる手段の一つと見なしている。これに対して、内外の経済専門家からは、その関税賦課政策の効果に否定的な意見が多く出されている。

すでに幾つかの先行研究結果が公表されている。その中の1つに、トランプ関税政策が実施された場合の世界経済と日本への影響について、アジア経済研究所の経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)[9]を用いた分析結果の報告書があるので、以下、その分析結果を参照してみたい[10]

(トランプ関税政策が実施された場合の世界経済と日本への影響についての分析結果)

●米国経済への影響
トランプ政権が掲げる強硬な関税政策によって、米国の実質GDPはベースライン比で2.7%減少することが予想され、米国経済に深刻な悪影響を及ぼす可能性が高いことが示されている。結果として米国の経済成長率はマイナスに落ち込む。特に、関税20%のケースの場合、米国経済へのマイナス影響が最大化する[11]

●中国経済への影響
対中関税が60%と変わらないため、他国への関税が10%の場合と20%の場合であまり変わらない。

●日本経済への影響
日本の実質GDPへの影響は10%の関税時には0.02%だったものが、−0.02%とわずかながらもマイナスになる。「漁夫の利」の効果を日本への20%の関税のマイナスの影響が上回る。

●その他諸国への影響
ASEAN各国やインドなど10%関税時には「漁夫の利」を得ていた国も20%関税時にはプラスの影響が縮小し、特にASEANの電子・電機産業などはマイナスの影響が顕著になっている。

●世界経済全体への影響
世界経済全体にとっては、10%から20%への関税引き上げ率の拡大によって、−0.5%から−0.8%へと負の影響が拡大している。要は、世界全体に迷惑をかける愚策である。

以下の【図2】が、トランプ関税政策が実施された場合の世界経済と日本への影響について、一表にして示したものである。トランプ関税政策がいかに危険な政策かは、一目瞭然である。

【図2】トランプ関税政策が実施された場合の世界経済と日本への影響

(出所)I. Isono,S. Keola(2024)”The Economic Impacts of Trump’s Second-Term Trade Policies: A Global and Japanese Perspective” 
(注)前提;中国60%関税、他国20%関税の影響(2027年)
日本への関税が現行どおりであれば、米中対立で米国と中国のみが大きくダメージを受け、日本は自動車、電子・電機という得意分野で「漁夫の利」を受ける。しかし、全世界への米国の関税率が高まると、日本から米国への直接の輸出が減少するとともに、米国を含む世界経済がベースライン比で縮小するため、二重の意味で日本の各産業は売り先を失ってしまうことになるためと考えられる。特に、輸出依存度が高い自動車産業への影響は大きなマイナスに転じる可能性が高い。



この分析から、今回、「トランプ2.0」で、トランプ政権が掲げる強硬な関税政策によって、米国の実質GDPはベースライン比で2.7%減少することが予想され、米国経済に深刻な悪影響を及ぼす可能性が高いことが示されている。結果として米国の経済成長率はマイナスに落ち込むことも考えられ、国民生活に直接的な打撃を与えることが懸念される。もはや、トランプが標榜してきた「Make America Great Again(以下MAGAと略称)」に逆効果のあほらしい話なのである[12]

また、また、この政策は世界経済にも実質GDP比-0.8%の影響をもたらすと予測され、ここ四半世紀、世界経済がグローバル化で受けてきた恩恵を手放すものとなる。中国経済は0.9%の実質GDPの減少、日本経済は0.02%の実質GDPの減少など、米国が対立を深める中国のみならず、米国にとっての主要な友好国にも悪影響が及ぶことが予測される。これらの分析結果は、自国中心の高関税政策が、政策実施国自身に最も大きな経済的損失をもたらす「自損行為」となる可能性が高いことを示唆している。また、グローバルサプライチェーンの分断やそれに伴う経済効率の低下は、世界経済全体の成長を抑制する要因となることが懸念される。これまでの分析と同様に、本分析も、国際協調に基づく通商政策の推進とグローバルサプライチェーンの効率性維持が世界経済の持続的な成長にとって重要であることを示唆している。このあたりのシミュレーションは、当然政策当事者であるトランプ陣営の政策移行準備チームの秀逸な専門家によって精査されているはずであるが、当事者のトランプ陣営サイドからこのあたりのアナウンスは聞こえてこないのが気になる。本当に、トランプは大丈夫なのかと心配になる。

年初、トランプと初回面談するわが国の石破首相は、席上、戦略的利益を共有する同盟国として、こうしたシミュレーション結果を共有し、忌憚なく直截的に問題提起をし、自由で開かれた貿易システムと経済安全保障のあるべきバランスを提唱するべきであろう[13]

[8] Anjali V. Bhatt(2024)“Mass deportations would harm the US economy”(September 26, 2024;Peterson Institute for International Economics)Working Paper 24-20 by Warwick McKibbin, Megan Hogan, and Marcus Noland, The international economic implications of a second Trump presidency.

[9] IDE-GSMは、空間経済学に基づく計算可能な一般均衡(CGE)モデルの一種であり、2007年からアジア経済研究所で開発が進められてきた。このモデルは、ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)、世界銀行やアジア開発銀行などの国際機関において、インフラ開発の経済効果分析に広く活用されている。IDE-GSMの特徴は、世界を3000以上の地域に分割し、州や県レベルでの詳細な経済効果の推計が可能な点である。また、2万以上の道路・海路・空路・鉄道のネットワークデータに基づき、各ルートの距離、輸送モード、通行可能速度、国境での通関時間・コストなどを考慮した分析が可能である。これにより、新規ルートの開設や既存ルートの改善といったインフラ整備の経済効果を精緻に分析することができる。IDE-GSMの大きな利点は、関税・非関税障壁・輸送費などの広義の貿易費用についての設定を変更することで、様々な政策シナリオの分析が可能な点である。また、限られたデータでもシミュレーションを実施できるため、大規模な国際プロジェクトの経済効果を迅速に試算することができる。今回は広義の貿易費用の内の関税データを変更することで、第2次トランプ政権が掲げる関税政策の世界経済への影響をシミュレーションで算出している。

[10]  シミュレーションの前提条件は、トランプ次期大統領が唱える米国が中国に60%の関税を課し、他の全世界の国に対し20%の関税をかけるという関税政策に基づいてシミュレーションを行い世界経済と日本へのへの影響について詳しく分析したもの。  分析シナリオを以下。ベースライン──米国がすべての国に対して関税のさらなる引き上げを行わないケースとする。2018年に開始された米中貿易戦争における両国間の関税率の引き上げに加え、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)と 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定によるメンバー国間の関税率の引き下げスケジュールを含む。中国に対する関税引き上げ──米国が中国の全品目に対する関税を60%に引き上げる。全世界に対する関税の引き上げ──中国に対する60%の関税に加え、世界の他のすべての国に対して、全品目について現行の関税率と20%のいずれか高い方の率の関税を課す。

関税の引き上げは2025年に開始されると仮定し、ベースライン・シナリオと関税引き上げシナリオについて、2年後の2027年時点で比較し、各国・各地域のGDPの差分を関税引き上げの影響とみなしている。S. Keola(2024)”The Economic Impacts of Trump’s Second-Term Trade Policies: A Global and Japanese Perspective” (I. Isono, S. Kumagai, etc. Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization)https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Eyes/2024/ISQ202420_034.html

[11] これは、①米国の消費者が高関税により、より高価な財を購入しなければならない影響、②米国の産業がより高価な部材やサービスを他国から購入しなければならない影響、および、③トランプ次期大統領が唱えるような他国の財やサービスの購入が減り、米国民や米国企業がより国内の財やサービスを購入することによって米国企業に裨益する影響の3点をすべて合算したものである。

[12] 米国元財務長官のサマーズは英紙Financial Times誌(2024年12月10日)掲載インタビューでトランプの「移民大量強制送還政策」と「高関税政策」がインフレの衝撃がバイデン政権以上に深刻なものになると警告している。また、イエレン財務長官もテレビインタビューで、同様の警告をしている。Martin Wolf(2024)” interviews Larry Summers: Is Trump a threat to the US economy? ” (December 11 2024 Financial Times)

[13] むろん、日本政府として、米国の高関税政策による影響を最小限に抑えるため、多角的貿易協定の強化、国内産業の競争力強化、サプライチェーンの多様化、国際協調の推進、そして影響評価と対応策の策定を講じるべきであろう。そのために、CPTPPやRCEPなどの多国間貿易協定を通じて他国との経済連携を強化し、グローバルサウスとの協力を推し進め、技術革新や生産性向上を促進して国内産業の競争力を高め、特定の国に依存しないより強靭なサプライチェーンを構築することが求められよう。

4. レクス・タリオニスとしての「AU(Amarican Union)」構想の逆提言

前述のシミュレーション結果からも自明であるが、このままだと、トランプの「移民大量強制送還政策」にしても「高関税政策」にしても、ろくなものではない。いずれも、米国経済に深刻な悪影響を及ぼす可能性が高いことが示されている。結果として、米国の経済成長率はマイナスに落ち込み、米国民の生活に直接的な打撃を与えることが懸念される。自国中心の高関税政策が、政策実施国自身に最も大きな経済的損失をもたらす「自損行為」となる可能性が高い。世界経済にもマイナスである。なぜこんなMAGAに逆行するようなバカなことをトランプは強行しようするのか。

こうしたトランプの合理的正当性なき「妄想」に対しては、合理的正当性がある「妄想」で対抗するしかあるまい。まさに、「レクス・タリオニス(lex talionis;目には目を歯には歯を)」[14]である。

いっそのこと、逆転の発想ではないが、「AU(Amarican Union)」構想の逆提言はどうだろうか。

今後も、トランプが執拗に関税を連呼するのであれば、当惑しているカナダも、この機会に、それを逆手にとって、トランプの息苦しい圧力を往なしながら対立軸の顕在化を回避して平和裏に「止揚」する効果もねらい、同様な被害者であるメキシコと結託して、トランプ包囲網をつくり、2か国で南北から米国を挟み込む形で、現行の「米国・メキシコ・カナダ協定」(United States-Mexico-Canada Agreement ;以下USMCAと略称)[15]をさらに統合進化させて、米国+カナダ+メキシコの北米3か国のEU版バージョンとも言うべき「米国連合(Amarican Union;以下AUと略称)」構想案を、思い切って、トランプに「逆提案」するのも一考であろう [16]

むろん、話はそう簡単ではなく、実際にAU構想を本格的に議論するとなれば、多々課題山積も想定される。また、トランプ自身も、米国からメキシコへの生産拠点の移動やメキシコから米国への人の移動が加速する等、自分の意にそぐわない話だとして、最初は抵抗を示すかもしれないが、突飛な発想を好むトランプだけに、しっかり議論する中で徐々に関心を示し、その米国へのメリット等について合点が行けば、最終的にはソフトランディングも不可能ではないかもしれない。

トランプは、今回が最後のお勤めである。これ以上の再選はない。つまり今回が最後の仕上げである。もし、トランプが面子にこだわるのであれば、トランプが柱となってAU構想を構築した形にしたってかまわない。単純化してしまえば、トランプは、崇高な理念を持ち合わせていない。結果的に、トランプ自身が標榜してきたMAGAが形はどうであれ実現でき、大統領選で自分自身を支持してくれた有権者に評価されて、かつ、任期終了時点で「やはりさすがトランプは、そうは言っても素晴らしい大統領だった」と称賛さえされれば、そのプロセスがどうであれ、最終的には好いと思っているに違いない。さらにおまけに、ノーベル平和賞がもらえたら、それこそラッキーだと思っているくらいだろう。それくらい、悪い意味でもいい意味でも雑駁で「いい加減」で単純なのであろうと思う。

少なくとも、政策実施国自身に最も大きな経済的損失をもたらす「自損行為」となる可能性が高い「移民大量強制送還政策」「高関税政策」は撤回すべきであろう。トランプが、「移民大量強制送還政策」と「高関税政策」を潔く取り下げて、AUが実現したら、本当に、MAGA が実現するかもしれない。3か国間の関税もゼロで、3か国間の相互往来も自由になり、移民問題も解決する。このシナジーによって、米国もカナダもメキシコも繁栄する可能性も期待できよう。そして、いずれ3カ国で共通の「AU統一通貨」を創設し共有すればよかろう。米ドルをそのまま採用するか否かはともかく、そうしたら、通貨金融政策のシナジー効果が期待できる。むろん、カナダは米国の51番目の州にならずにすみ、カナダもメキシコもEUにおけるドイツやフランスのように国家主権等のidentityはしっかり担保しながら、経済的・安全保障的なメリットも享受できる。

米国にとって、今後、ますます大国化する中国や核の脅威を振りかざすロシアへ牽制する意味からも、AUの創設参加は、得ることの方が多いはずである。結果的に、米国・カナダ・メキシコ3か国にとってwin-winのより良い環境を確保できる可能性も大いに期待できよう

米国大統領選挙に勝利するために有権者に向けて大見得をきったトランプにとっても、米国民に手前上、一度振り上げた拳をそうそう簡単には下げれない事情もあるだろうから、トランプ自身も、そのあたりの落としどころとして、MAGA を最速最短で実現させる穏便な着地案としても、このAU構想にアウフヘーベン(Aufheben止揚)するのは得策だと判断するかもしれない。[17]

かつて、共産主義の脅威と日本をはじめとした高度成長した諸外国からの経済的脅威に対抗する目的で創設されたEUの当時の状況と、現下の、ロシアの核恫喝と中国の猛追に脅威を感じている米国の状況は、ある意味、酷似している。

[14] 「目には目を」あるいは「目には目を歯には歯を」は、報復律の一種である。人が誰かを傷つけた場合にはその罰は同程度のものでなければならない、もしくは相当の代価を受け取ることでこれに代えることもできるという意味である。ラテン語で「 lex talionis (レクス・タリオニス) 」と表わされる同害復讐法でる。ラテン語「talio 」(タリオ)は「同じ」を意味する「talis 」を語源とし、法で認可された報復を意味する。その場合、報復の仕方やその程度は、受けた被害と同じくらいでなければならない。この言葉の意図は、過度な報復を防ぐことにある。

[15] 「米国・メキシコ・カナダ協定」(United States-Mexico-Canada Agreement ;以下USMCAと略称)は、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新たな協定として、2018年11月30日にブエノスアイレスで開かれたG20のブエノスアイレス・サミットの席上、当時のアメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ、メキシコ合衆国大統領エンリケ・ペーニャ・ニエト、カナダ首相ジャスティン・トルドーがこの協定に署名した。協定の発効のために必要な手続きが各国の立法府で終了し、最後となった米国の手続終了の通報が2020年4月24日だったため、2020年7月1日に発効した。

[16] 仮にUSMCAからAUへとEUのような地域統合に発展させる場合、幾つかの課題が想定される。「AU構想」実現の際には、①カナダやメキシコにとっては、米国によって一方的に有利に条件交渉が進む懸念があること、②人や資本の移動の自由を伴う通常の地域統合を実施すると米国からメキシコへの生産拠点の移動やメキシコから米国への人の移動が加速することにもなりトランプに抵抗があること、③英連邦加盟国カナダと英国との関係性への留意が必要であること、④メキシコと旧宗主国のスペインと関係性への留意が必要であること等、3か国の合意に至るプロセス上、解決すべき課題が幾つか想定される。

[17] ちなみに、この「AU構想」とは似て非なるものではあるが、現に類似した仕組みは、以前から「米州機構」(Organization of American States:以下OASと略称)がある。OASは、いまから77年も前の1948年4月30日、南北アメリカ21カ国により調印されたボゴタ憲章(米州機構憲章)に基づき1951年12月に発足した国際機関である。本部は米国のワシントンD.C.にある。南北アメリカ諸国の平和と安全保障・紛争の平和解決・加盟諸国の相互躍進を目的として創設された。1890年4月に発足した米州国際共和国連合(International Union of American Republics)と、1910年7月に発足した汎米連合(Pan American Union、米州連合とも)が前身である。最高意思決定機関として総会(General Assembly)が置かれている(第54条)。総会は通例として毎年開催される(第57条)。また、諮問機関として外務大臣協議会(Meeting of Consultation of Ministers of Foreign Affairs)が置かれている(第61条)。さらに具体的な諸問題を検討する機関として常設理事会(Permanent Council)がある(第80条)。常設委員会は大使の資格を持つ各国1名の代表から構成される。米州人権条約(アメリカとカナダは批准していない)を基にした、米州人権委員会と米州人権裁判所を有する。しかし、「米州機構」は南米も射程に入れた緩い広範な組織で、実態的には、1970年代以降は最重要の問題を扱う場ではなくなり、代わりに近年は米州首脳会議が定例化している。この「AU構想」は、この既存の「米州機構」とはまったく別で、本格的に米国+カナダ+メキシコ北米3か国によるしっかりした「EU化」を目指す構想であり、すでに実現してさらに進化を続けているEUの試行錯誤から得る学習効果は絶大であるはずである。

5. 「Plan A」としての「AU(Amarican Union)」構想の含意

米国+カナダ+メキシコ北米3か国にとって、今回のトランプ騒動という奇禍をむしろチャンスとして活かし、AU構想に着地することは、未来志向的な魅力満載のシナリオであろうと考える。むしろ、トランプが標榜してきたMAGAへの一番の近道がこのAU構想かもしれない。

任期期間中に、そのAU構想の先鞭だけでもつけることができれば、トランプは、歴代米国大統領に中でも、唯一無二の偉大な大統領として敬意を集めるに違いない。さもなければ、仮に、トランプが、このまま狂言を発信し続けて、世界を混乱に巻き込むだけで、そのまま大きな成果も出せずに大統領任期を終えるとしたならば、おそらく、歴代米国大統領に中で、最も悪名高き「裸の王様」として揶揄されながら代々語り継がれることになるであろう。むろん、先日亡くなられ国葬になったカーター大統領の様な深い尊敬と畏敬を受けて米国民から見送られることもなかろう。

はたして、この「Plan A=AU構想コース」と「Plan B=裸の王様コース」のいずれを選択するか、トランプ次第ではある。トランプは、バカではないであろう。しっかり「Plan A=AU構想コース」の含意を理解すれば、どちらが、自分自身の人生の総仕上げの舞台にとってふさわしいかくらいは、瞬時にわかるはずである。この構想は妄想でなく極めて合理的な最善策なのであるから。

今度、年初、トランプと初回面談するわが国の石破首相は、目下、「斬新でインパクトのあり刺激的なネタ」を一生懸命考えているところであろう。そこで、思い切って、手土産として、この「Plan A=AU構想コース」の提案を、下手な根回しなどせずに、ご自身の拙い英語でいいので、直接相手のトランプの目を見ながら「差し」で「ガチ」に、唐突に提言したらどうであろうか。石破首相独特な朴訥な雰囲気とこの直截的な提言がトランプの心中の寝た子を起こし、結果、トランプにとっても裨益することになれば、トランプの石破首相に対する信頼も倍加し、日本の対米プレゼンスも大いに向上するであろうし、何よりも、トランプの向こう見ずな乱暴な振る舞いによって国際秩序が破壊され世界経済と国際政治が滅茶苦茶になるリスクを未然に回避することに日本が貢献したということになれば、世界から日本への評価も大いに高まることになるであろう。この大技は、EUにも、むろん緊張関係にある中国にも到底仕掛けれない、日本しかできない芸当なのである。

きっと、トランプは、こうした真摯なサプライズに対して、大いに驚き、感動し、かつ感謝するに違いない。

実は、手前みそながら、結構、意外にも、トランプは、この妙案に飛びついてくるかもしれないと思っている。おそらく、トランプ自身が、ここまでメチャクチャな合理性のかけらもない大風呂敷を広げすぎてしまって、当惑しているに違いないから。

知らんけど。



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