地球が未来へと持続していくために今、求められる人の意識や行動の変革。地球SAMURAIでは、そこに波動を及す野心的な人物にクローズアップしている。Vol.6では、岩元美智彦氏を取材した。「あらゆるものを循環させる」をミッションに掲げて、服だけでは無く、ペットボトルや携帯電話、プラスチック製品の回収とリサイクル関連の事業を展開する株式会社JEPLANの会長としてビジネスに取り組みながら、講演や地球環境防衛軍隊長としても活躍する岩元氏。その表情から滲み出てくるのは「正しいを楽しく」を実践する明るさだった。
循環型社会のハブになる会社をつくる
──株式会社JEPLANの前身である日本環境設計を起業した理由は何でしょうか。
岩元:1995年に容器包装リサイクル法が制定された年に私は繊維商社に勤めておりました。一般の家庭でごみとして捨てられる商品の容器や包装を再商品化するために作られた法律です。その際にペットボトルを集めて再生繊維にして製品にするプロジェクトの初期メンバーだった関係から自然と環境問題の関心が高まり、採択された京都議定書も読んでいました。
そういった中でリサイクルした製品をさらにリサイクルし、完全に循環させていく技術や商品開発する仕組み、さらに回収する拠点などがない現状がわかり、だったら「作っちゃおう!」と決め、大学で化学を専攻し、バイオエタノールを研究していた現代表取締役の髙尾正樹と共に2007年に起業したのが日本環境設計です。この会社の設立目的は「回収から商品の開発・販売に至る循環型社会のハブになる」ことでした。ハブはわかりやすくいえばコマのイメージです。芯があることで安定して回転していくことができます。ですから中心となる技術開発と回収拠点に力を注いだのです。コマは回転し始めるときは大変ですが遠心力がついてくると安定します。起業当時は大変でしたが、賛同する仲間が増え、国内外のメーカーや小売店との取引も拡大していきました。
正しい行動を楽しさに変換する仕組みづくり
──事業活動を展開していく上でどういったことに注力されていますか。
岩元:起業から今日まで環境問題に関わっていく人の裾野を広げていきたいと思っております。そこでよく使うのが「正しいを楽しく」というキーワードです。環境問題に対して何かに取り組むことは「正しい」に決まっています。しかし、残念なことにそこに携わるコアなメンバーはあまり変わっていません。その裾野を広げていくためには、正しい行動が「楽しさ」に変換されるというプログラムが必要ではないか、と考えるになっていました。そこで活動の方向性を「楽しいこと」に舵を切るようにしたのです。
そして、ハリウッド映画でおなじみの車型タイムマシン「デロリアン」をごみから再生された燃料で走らせたり、「車の次は飛行機だ!」ということで「あなたの服で飛行機を飛ばそう」というプロジェクトを実施したりしました。「デロリアン」では「古着を持ってくると、デロリアンと写真が撮れるよ!」と呼び掛ければ、1時間待ちになるほど大勢の人が集まり、飛行機のプロジェクトも25万着の古着が集まりました。突拍子もないほど面白いことは、誰かに伝えたくなり、自発的に拡散してくれます。結果、翌日のイベントでも大勢の人が集まりました。
正しい行動を楽しさに変換することで桁ちがいに裾野を広げることができたのです。その取り組み方は今も変わっておりません。
──衣類の回収ボックスの設置にも力を注がれていますね。
岩元:裾野を広げていく上では当時、自治体にしかない回収ボックスについてもみんなが参加できる仕組みが必要なことに気がつきました。そこで回収ボックスをどこに置きたいか、をアンケート調査した結果、衣類を「買った店」という回答が最も多いことがわかり、お店に設置していただきました。当社が運営するブランド「BRING™」も回収した服から生まれていますが、この回収ボックスにはちさんのロゴマークをつけることで自分が届けた服が素敵な服に生まれ変わる楽しさを感じられ、さらに裾野を広げる力になっています。これも先ほどお話ししたアンケートの回答をヒントにしました。
どうせやるなら、誰もができなかった楽しいことを
──岩元さんが実践する「楽しさ」には、どのようなこだわりがありますか。
岩元:環境問題をはじめ、世界の平和や人権問題についても正しいことは数多く実践されています。ではなぜ、普及しないのか。私は、そこには見えないバーがあると考えるようになりました。そして、バーを越えない限り、多くの人に伝播しないと思えたのです。その仮説のもとにこのバーを飛び越える方法を発見しました。それは、“半端ではない楽しさ”をもたせることです。一生懸命、何年もたくさんのイベントを実践してきたからこそ得られた結論です。
「デロリアン」をごみの再生した燃料で動かす。古着で飛行機を飛ばす。どちらもプロ野球のピッチャーが投げる球に例えたら200キロレベルです(笑)。まして、それを考えているのが資本金120万円のベンチャー企業です。「そんなことできっこない!」と多くの人が思います。確かに普通はできません。でも、実際にできると「ほら!できた!」と楽しさを分かち合えます。どうせやるなら、誰もができなかった楽しいことをやる!そこにこだわることで“人に普及しない”というバーを越えることができています。
──地球環境防衛軍も同じような発想で生まれたものでしょうか。
岩元:はい。日本環境設計の頃から、いっしょに動いてくれるボランティアメンバーをネットで募っていたのですが、何か楽しい呼び名がないか、と考えて誕生したのがこの組織です。各地域に支部長がいます。会社組織ではないので、任命は、隊長である私が即決できます。各支部、活発に動かれていますが、特に北海道はめまぐるしく活動しています。先日も北海道・函館で開催された障害の有無や性別、年齢など関係なく、さまざま人がモデルとして出演するファッションショーを実施し、イベントのトークショーでは私も登壇させていただきました。
程度感がわかれば、課題解決への行動が生まれる
──裾野を広げていくために現在、どのようなことに力を注いでいますか。
岩元:世界の化学系企業やグローバルメーカーと連携し、商品が完全に循環できるよう、開発段階での条件を定義する取り組みを行っています。残念なことではありますが、ものづくりとリサイクルは一致していません。商品が開発の段階でリサイクルができるようにつくられていないのです。そのため、より多くのメーカーの商品がリサイクルの輪に入りやすいような仕組みづくりを行っています。
──SDGsの目標達成の年がまた近づいてまいりました。しかし、その達成は厳しい状況です。様々な社会課題の解決についても悲観的な見方が広がっているように見えます。どのように向き合っていけばよいとお考えでしょうか。
岩元:悲観から楽観的な視点に立ちたいなら、ぜひ当社グループのペットリファインテクノロジー(神奈川県川崎市)を見学してほしいと思います。ペットリファインテクノロジーはケミカルリサイクルプラントで、使用済のペットボトルを原料に年間2万2千トンの再生PET樹脂を製造することができます。仮に北海道にこの工場の2倍程の広さの施設が稼働したら、北海道の人たちはペットボトルの循環で2度と石油を使うことのない生活が送れるようになります。この循環は、為替や原油の乱高下の影響を受けることもありません。何の障害もなく円滑に回転していくのです。
実はこの程度で地球は保たれる。この「程度感」をわかってほしい。程度がわからず、自分の実感とは遠い世界の話であれば机上の議論で終わりです。しかし、程度感がわかれば行動ができます。資源もCO2排出も同じです。悲観的に立ち止まるのではなく、“こんな程度で地球は維持できる”という楽観的な視点で進んでいくことが大切ではないでしょうか。
岩元美智彦 氏 プロフィール
鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。2007年1月、現代表取締役の髙尾正樹氏と日本環境設計(現JEPLAN)を設立。資源が完全に循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発やリサイクルの統一化に取り組む。2015年アショカフェローに選出。著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。
取材を終えて
岩元氏の語りにはずっと笑顔があった。
それは自身の取り組みが、
楽しくて仕方がないと感じさせるような笑顔だった。
何よりも必要なことは前に進むことだろう。
氏が話す「ほら、できた!」という明るい未来は、
一歩一歩歩むその先にしかないのだから。
(取材・記事 宮崎達也)