日本が生み出す年間の食品ロス量は、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料支援量とほぼ同等、あるいはそれ以上と言われている。また、余分な食品は、その生産だけでなく、焼却廃棄においても大量のCO2が排出されている。そういった現状に危機意識を持ち、中間支援団体として関係者と協働しながら、食品ロスの削減に取り組んでいるのが一般社団法人食品ロス・リボーンセンターだ。ここではその代表である山田英夫氏にインタビューし、同団体の取り組みや今後の食品ロス削減の方向性などを伺った。

一般社団法人食品ロス・リボーンセンター 代表 山田英夫 氏

食品業界の光と影を直視し、廃棄問題に取り組む

──食品会社に長年勤務し、環境管理に携わった後に食品ロス・リボーンセンターを立ち上げた動機は何でしょうか。

山田:大学で就職活動を開始した頃にローマクラブの「成長の限界」を読み、食料危機などについて関心を持ちました。そして、食品業界に関わればそこに書かれるリスクを減らすことに貢献できると考え、食品会社に入社したのです。私の会社人生の始まりは、高度成長の最中です。それは大手の小売業が全国展開を進めた時代でもあり、日本全体をカバーできるような食品の調達が課題となっていました。その尖兵のような形で調達のネットワークをつくるような業務に従事していたのです。

当時から食品加工の工場では製造ラインでスピーディに食品が生産される反面、返品の数も想像以上でスタッフがその廃棄対応に追われていました。それは活気あふれる食品業界が光であれば、陰に相当し、そこに問題意識を持ったことを今でも覚えています。実は私の故郷は新居浜で別子銅山があり、廃坑になった銅山の登り口部分には、鉱毒の沈殿池がありました。鉱山というものは廃坑になっても鉱毒については、このように沈殿池をつくり、責任をもって対応していました。その経験があったため、食品業界の影の部分である廃棄についてもこれでいいのか、と疑問を持たざるを得なかったのです。

その後、会社人生の後半では、ISO認証の取得など環境関連の業務にも携わってきましたが、食品廃棄物の取り組みについては企業自体の感心が低いことを知りました。しかし、食品リサイクル法が施行され、廃棄を抑制し、寄贈を増やす流れも生まれてきました。ただ、それに対応できるほどまだ事業者も整わず、課題が山積していたのです。それなら自分で組織をつくり、寄与しようと考え、食品ロス・リボーンセンターを立ち上げました。ちょうど私が定年退職をする頃です。

固定観念を取り払い、様々な事業を推進

山田:食品会社時代は、地域の卸業者や運送事業者と連携し、それぞれの得意分野をお任せしてきました。その経験を活かし、食品ロス・リボーンセンターも自分がハブになって様々な機能を稼働させて食品ロスの課題解決に取り組んでいます。そこで重視したのは、固定観念を取り払うことです。寄贈は無料でできるという固定観念が社会にはあります。しかし、

ごみを処理するのと同じように食品の寄贈にもお金がかかります。また食品廃棄物も、食べられないものが即、処分するものという発想を変えて飼料や堆肥、バイオマスなどに活かす方向を考えました。さらに賞味期限という視点も見直したのです。

今年は学校の食品リサイクルで飼料化できないものは、バイオマス化するなど学校給食の食べ残しを減らす取り組みを進めてきました。そういった活動を子どもたちや保護者の皆様に見ていただき、食品ロス0エリアをつくろうと取り組んでいます。その中で様々な関係性を構築し、さらに協業の輪を広げていこうと考えています。

──食品製造副産物等を利用して製造された飼料であるエコフィードの普及にはどういったご苦労があったでしょうか。

山田:食品リサイクル事業者の方が以前から取り組んでこられたエコフィードを応援するために「エコフィード認証」「エコフィード利用畜産物認証」の取得をサポートする取り組みを進めています。廃棄食品を飼料化する取り組みというのは、求められてはいるものの、なかなか普及していません。その原因は廃棄物の処理費用が安く、リサイクルにまわすとコストが掛かるからだと考えています。そういった中で様々なアプローチをしていますが一効果を実感するのは若い世代といっしょに取り組むことです。たとえばある農業高校はエコフィードに取り組み、エコフィード認証を取得しています。こういった高校を支援しながら、その取り組みを食品メーカーに繋ぐことで大きな波及効果を実感しています。

次世代といっしょに食品ロスの未来を変える

──実際に消費者に対する啓発活動で行う立場として、食品ロスに対する認識は、どのような変化が見られますか。

山田:食品ロス削減推進法ができたことは画期的だと思います。ようやく寄贈に対しても光が当たってきたと捉えています。またフードバンクの数も増えてきましたし、皆さんの意識は確実に変わっています。ただ食品ロス全体を解決するという視点から考えると、寄贈できないものに対する取り組みや意識の変化はまだこれからです。ひと手間かけて分別していただくとそれだけで食品ロスは、減らせるのですが、一部の市区町村でしか進んでいません。また、地震をはじめ、気候変動などにより食品を含む災害への備えは、ますます力が注がれていくと思いますが、それに対応する備蓄食品の活用においては、より一層、行動変容が求められるのではないでしょうか。食品ロス・リボーンセンターとしては、社会的なローリングストックができる仕組みを今後、つくっていきたいと考えています。

──今後の食品ロス・リボーンセンターの活動の方向性を教えてください。

山田:食品ロス・リボーンセンターでは、寄贈用のフードバンク事業とエコフィードを含めた食品リサイクル事業と食育の事業に取り組んでいます。フードバンク事業と食品リサイクル事業を両輪にしながら、手応えを感じるのは、食育です。出前授業の効果も大きく、子どもたちが目を輝かせて聞いてくれ、その感動を親たちに伝えてくれています。今年からはデジタル教材もつくり、より力を注いでいきたいと考えています。

11月5日行われた出前授業の様子:写真左)相模原市立大沼小学校 写真右)相模原市立中央小学校
デジタル教材の表紙
https://foodloss1.com/teaching/sagamihara/



──ありがとうございました。