二重の課題に挑み、持続可能な医療サービスの提供へ

5つの医療法人と脱炭素推進企業が発起人となって9月17日に一般社団法人 日本ゼロカーボン・ウェルフェア協議会が設立され、その記者発表とセミナーが行われた。

同法人の理事には、病院や関連施設運営を行う伯鳳会グループ理事長の古城資久氏、医療法人社団永生会理事長の 安藤高夫氏、湖山医療福祉グループ代表の湖山泰成氏、社会医療法人耳鼻咽喉科麻生病院企画室長の大橋 淳平氏、脱炭素ソリューションを提供する株式会社UPDATER代表取締役の大石英司氏が就任。監事には社会 医療法人石川記念会 HITO病院理事長の石川賀代氏を迎えるなど、医療・介護・脱炭素業界のトップランナーが集結した。会員には、理事・監事の所属する医療法人等が参加するほか、今後新たに二つの医療法人が加わる予定だ。

今世紀最大の課題の一つとされる気候変動。それは生活環境だけでなく、健康にも深刻な影響を及ぼしている。たとえば大気汚染はぜんそくや肺がんを引き起こし、猛暑による熱中症患者の増加や、気候変動による自然災害は直接的に人命に関わる。医療業界はその影響を直接的に受けていながら、業界自体も大きな炭素足跡を残すという二重の課題に直面している。「ゼロカーボン・ウェルフェア協議会」は、そこに挑み、医療・介護業界が気候変動対策においてリーダーシップを発揮し、持続可能な医療サービスの提供を目指す。そして、医療・介護業界およびその他関係業界の脱炭素化を支援していく。

ゼロカーボンを実現するために必要なものは、第一に理念

セミナーではまず、「気候変動の実態、健康への影響」と題して東京大学未来ビジョン研究センター教授江守正多氏が講演を行った。そこでは熱中症やメンタルヘルスや循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病をはじめ、マラリア・テング熱のリスクが高まり、気候変動関連死が大きな問題となっていることを紹介。温暖化が進むと影響が深刻化すると同時に原因に責任のない人たちが深刻な影響を受けるという現状を伝えた。その中で現状の排出削減ペースはまったく足りておらず、今後世界が協力してこの危機を食い止める必要性を訴えた。

また日本の医師の気候変動との関わり・意識について解説。気候変動と健康に関する教育へのアクセスが限られ医学部で気候変動と健康に関する授業やトレーニングを受けた学生の割合や医療施設には環境に配慮した取り組みが少ないながら、医師は気候変動政策に関するアドボカシー活動への関与意欲が高いと述べた。

続いて登壇した一般社団法人 日本ゼロカーボン・ウェルフェア協議会理事長を務める古城氏は「医療介護業界の脱炭素の現状と取り組み」をテーマに講演。地球温暖化を止め、ゼロカーボンを実現するために必要なものは、第一に理念。そのために利他の心とチャレンジ精神がなければゼロカーボンは達成できないことを訴え、合理的な行動が必要でありながら、その心の底に持つものの重要性を強調した。

講演では医療介護業界における伯鳳会グループの取り組みについても説明。医療+社会保険・社会福祉・介護の分野は産業別の電力購入量が2位であることから、この業界が脱炭素に挑む意味を伝え、①オンサイトPPA=自法人で再生可能エネルギー電力を発電②再生可能エネルギー由来電力への変更を4年で6割まで実現したこと③オフサイトPPA再生可能エネルギー発電会社と直に取引していることなどを紹介した。

セミナー当日の会場の様子