物流は今、重要な局面に出会っている。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制などが適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、モノが運べなくなる可能性が懸念される「物流の2024年問題」がそれだ。同時に地球沸騰化と表現され、一刻も早い達成が求められるカーボンニュートラルにおいてもCO2削減の責務を担っている。
そういった中でイオン株式会社(以下、イオン)、イオン九州株式会社(以下、イオン九州)、イオングローバルSCM株式会社(以下、イオングローバルSCM)、Commercial Japan Partnership Technologies 株式会社(以下、CJPT)が、物流社会課題の解決とカーボンニュートラルへの貢献を両立する事業活動を、新物流センター「イオン福岡XD」を拠点として開始した。物流課題解決と脱炭素社会実現に向けた物流モデル構築を目指すという。
ここでは、7月22日に行われたそれらの取り組みについての記者発表の概要を紹介する。
九州発の新しい物流モデルを日本全国に展開
最初に登壇したイオン執行役 物流担当 手塚大輔氏は、CJPTとイオンにおける協業3年の歴史を振り返り、関西エリアの消費地をカバーするイオングループの物流拠点である南大阪RDCでの物流現場での課題解決、九州エリアで物流ネットワーク全体の最適化や地域社会との連携した課題解決への取り組みのポイントを紹介。そこで得た成果を集大成し、「物流の未来」を実現するために7月より九州発のモデルを日本全国に展開するフェーズ3に突入したことを伝えた。
そこで手塚氏は、部分最適による配送の非効率性やドライバーへの負担、労働力不足などの課題に対してはトヨタ生産方式(以下、TPS)を活用したことを説明。部分最適を全体最適に変え、車両のビッグデータをリアルタイムに活かすことで最適配送計画を立て、3年間の実証により、店舗配送の総走行距離の約20%削減に手ごたえが持てたことを訴えた。また、カーボンニュートラルについては走行距離の短縮によって排出されるCO2が削減でき、さらFCEVやBEV車などの環境車両を用いることでさらに15%削減できると解説。走行距離の削減による20%減と合わせれば合計で35%となるこの数字は、我が国の輸送部門における2030年までの削減目標と同水準であることを強調した。
続いて物流課題解決とカーボンニュートラルの実現に向けた具体的な取り組みと期待成果に言及。物流課題の解決では様々な現場作業の改善により積載率が向上し、総走行距離が10%削減、さらにビッグデータを活用し、最適な配送ルートをリアルタイムで設計することでさらに10%削減が可能となることを力説した。その上で作業自体の自動化を連動させることで生産性を30%向上できると述べた。また、環境車両については2030年までに15%の導入を果たすことで合計35%のCO2削減を果たしたいと話した。そして、これらのアライアンスが店舗配送にとどまらず、共同配送の推進や仕入れ先との連携、幹線物流の効率化によって地域全体を巻き込んだ「物流の未来」を実現していきたいと結んだ。
構築してきた各社ノウハウを融合させ、物流の未来創造へ挑戦
CJPT 代表取締役社長 中嶋裕樹氏は、協業に対する想いと取り組みについて紹介。
イオンとCJPTが社会課題を解決するために学び合ってきた物流センターの現場を“道場”と表現しながら、物流業界の困りごとを学びあってきたと取り組みを振り返った。そして、今すぐできる物流効率化によって削減できたコストの投入によって環境車両購入が可能となり、電動化というカーボンニュートラルに向けた2つの柱で進めてきたとを述べた。
また、新しい物流を開く上で鍵となるリアルタイムデータの活用に言及。リアルタイムの交通情報と荷物情報を活かし、様々な変化変動に即座に対応し、最新で最適な配送を実現していきたいと訴えた。
イオン九州 取締役相談役 柴田祐司氏は今、物流が直面する課題が脱炭素・カーボンニュートラルとドライバー稼働時間の減少、輸送能力不足に集約されると話し、2024年問題は、物流危機の始まりに過ぎないと警鐘を鳴らした。そして、物流の非効率は、それぞれの都合、自社最適の積み重ねで生じることを強調。それらの課題解決のために新しいセンターとなる「イオン福岡XD」が誕生した意義を強調し、CJPTのコネクティッド技術とイオン九州、イオングローバルSCMが構築してきた流通ノウハウを融合させて物流の未来創造へ挑戦したいと述べた。イオンの持つ小売業の物流ノウハウとTPSの思想を組み合わせ、モノの流れの見える化・整流化を目指し「物流センター内作業改善による積載率向上」や「リアルタイムデータを活用した最適配送」を実現する「イオン福岡XD」。その稼働が7月24日から開始した。今後は「仕入先とのデータ連携による物流の効率化」、「幹線物流(長距離輸送)におけるダブル連結トラック活用・共同輸送」等の取り組みをサプライチェーン全体に展開していくとのことだ。物流危機の始まりとなる2024年が、物流課題解決とカーボンニュートラルへの挑戦のスタートの年となることを期待したい。