【特別対談】
山本良一 氏(東京大学名誉教授)
梅田 靖 氏(グリーン購入ネットワーク(GPN)会長、東京大学大学院 教授)

“地球沸騰化”と警鐘が鳴らされ、世界平均気温が観測史上最高記録を更新し続ける気候。そして、絶滅のスピードが自然状態の約100倍から1,000倍に達し、日に日にその損失が深まる生物多様性。2つの非常事態が進行する今、求められるのは、行政や企業を主体としたマクロな変革と同時に日常の隅々にまで影響をもたらす生活者の行動変容だろう。特に後者は、一人ひとりの意思に委ねられる消費行動と大きく関連してくる。では、その行動にどのような改革が起これば、気候危機や生物多様性の減少に歯止めをかけられるのだろうか。

ここでは「カーボン・ニュートラル製品の国際動向」をテーマに寄稿いただいた東京大学名誉教授山本良一氏とグリーン購入ネットワーク(GPN)会長・東京大学大学院 教授の梅田靖氏が対談。2つの非常事態に直面する今、カーボン・ニュートラル製品が普及していく意義と課題について語り合った。

法整備もない状態から始まったグリーン市場の拡大

梅田:カーボン・ニュートラル製品に関する話題に入る前に、環境配慮型の製品やサービスの普及について見ていきたいと思います。結論から申し上げれば、これらの市場は広がりつつあるのではないでしょうか。

山本:その点に関しては同感です。そして、そこでGPNが果たしてきた役割は、小さくなかったと思います。

梅田:GPNは、1996年に設立し、様々な製品分野において、購入する際に環境面で考慮すべき重要な観点を整理したGPNグリーン購入ガイドラインの策定やそれに基づいた個別製品とサービスの環境情報データベースとなる「エコ商品ねっと」を運営してきました。事務用品から自動車、電力、ホテルのサービスなど現在23分野でグリーン購入ガイドラインを策定し、エコ商品ねっとでは、約13,000点の製品、サービスの環境情報を紹介しています。エコ商品ねっとの掲載製品の情報は、通販カタログとも連携しており、カタログ内の掲載製品の環境配慮表示の根拠としても情報が活用されています。

また、国内では、2001年にグリーン購入法が施行され、現在、特定調達品目は22分野287品目となり、国等の機関はグリーン購入法に基づいた調達活動が義務、地方公共団体はグリーン購入に取り組むことを努力義務として位置付けられています。先に紹介した「エコ商品ねっと」では、グリーン購入法の適合品も紹介しています。また、グリーン市場の拡大を別の指標で考えると、1989年にスタートしたエコマークは、現在、認証製品が5万点を超えていますので、グリーン市場は広がりつつあるといえます。

山本:私はGPNが発足した際の初代会長を務めさせていただきました。その頃はグリーン購入法が制定されておらず、また、企業の環境問題に対する認識も低い状態でのスタートでした。あの頃と比較すればグリーン市場の広がりは、隔世の感があります。革新的に盛り上がったといってもいいでしょう。

梅田:ありがとうございます。そうした日本国内で着実に拡大してきたグリーン市場ですが、昨今の気候変動の深刻化をふまえ、より一層の対応と市場の転換が必要となっています。この点について山本先生の意見をお聞かせください。

左)梅田 靖 氏  右)山本良一 氏

イギリスの大手スーパーに並ぶカーボン・ニュートラル製品

山本:今や環境配慮型ではなく、カーボン・ニュートラル製品・サービスの普及が急務です。GPNが活動を開始した当時は、日本国内の温室効果ガスの排出量を1990年と比べて6%削減するなどの取り組みはありましたが、今と比較すれば地球温暖化問題は深刻に捉えられておらず、主眼は「環境汚染」「資源枯渇の防止」にありました。しかし現在はまったくちがいます。

2024年3月までの10ヶ月、毎月の世界平均気温は観測史上最高を記録し続けています。WMO(世界気候機関)は世界の平均気温は次の5年以内に一時的に産業化前と比較して1.5℃を突破する可能性があると6月に発表しました。パリ協定の「1.5℃の上昇を抑える」という目標は風前の灯となっています。それは現象面で如実に表れています。アフリカでは3年間の干ばつに続いて大洪水に見舞われ、数百万人が食料不安に陥りました。昨年7月は、ヨーロッパ、北米、中国の広い地域では致命的な熱波に襲われ、世界人口の60%にあたる50億人が熱波にさらされていると算出されています。またカナダの山火事は、これまでの年間記録を1,000万ヘクタール上回り、1,800万ヘクタールが焼失し、ここでは明らかに人為的地球温暖化の影響が確認されています。

山本良一氏の講演資料より



山本:1日も早いカーボン・ニュートラルの達成が必要です。そして、そのためには、生活者が日々の消費行動を持続可能な方向に改善することが喫緊の課題です。生活者がカーボン・ニュートラルな生活に一気に移行することは不可能でも、カーボン・ニュートラルな住宅、食事、製品、サービス、ワーキングスペースを選ぶことは不可能ではありません。

梅田:そうですね、そのためにはカーボン・ニュートラル製品・サービスを生活者が選べるよう、手の届く場所にある必要があります。そして、多数のメーカーが、カーボン・ニュートラル製品やサービスを生産し、流通経路にしっかり乗せなければなりません。

山本:イギリスでは2022年に大手スーパーマーケットであるモリソンズがカーボン・ニュートラルな自社ブランド卵の販売を開始しました。チャールズ国王がヨークシャー州を訪問した際はその小売店に並ぶカーボン・ニュートラル卵に「興味津々」だったと報じられています。
イギリスでは大手スーパーで容易にカーボン・ニュートラル製品を購入できるのに、残念ながら日本では、様々な方々が奮闘しているものの、まだそのレベルには至っていません。

山本良一氏の講演資料より

カーボン・ニュートラル製品の普及は、
市場がするべき第2の挑戦

山本:以前、ある大手飲料メーカーの経営者になぜカーボン・ニュートラル製品を積極的につくらないか、と尋ねたところ、消費者のニーズが低いからだとの答えが返ってきました。どうすればそれを高めることができるか、そこに大きな課題があります。

梅田:カーボン・ニュートラルであることの確認方法としては、生産者、提供者が自ら行う“自己宣言”と、第三者機関に認証し、環境ラベルを表示する方法があります。課題としては、自己宣言に関しては、正しく算定が行われているか、あるいは相殺ができているかどうか、などが判断できないものがあるため、丁寧な情報開示が求められます。

特に規定やガイドラインに照らして80%ニュートラルなものや50%ニュートラルなものまで「カーボン・ニュートラル」と表現しているため、優良誤認とならないよう、80%なら80%と表記する必要があります。また、国内に目を向けると、グリーン購入法においては、ようやく判断の基準にカーボンフットプリント(CFP)の算定が位置づけられるようになりました。カーボン・オフセットについて基準はありますが、カーボン・ニュートラルについては言及されていないため、グリーン購入法においても検討しなければなりません。

山本:グリーンウオッシシングやカーボン・クレジットなど様々な課題はあります。しかし、忘れてはいけないのは時間がないということです。カーボン・ニュートラルの達成は急務であり、さらにその先に待つカーボン・マイナスも急ぐ必要があります。毎日3億トンの天然資源を消費し、CO2だけで1億トンを大気中に放出し続けている現状を転換させるに当たっては、カーボン・ニュートラル製品・サービスの選択はカーボン・ニュートラル社会の実現の手段として効果は大いに期待できます。

1990年代から現在に至るまで日本は、法整備もされておらず、人々の意識が低い状況の中でグリーン市場の拡大に挑戦し、一定の成果をおさめることはできました。今、次のチャレンジはカーボン・ニュートラル製品やサービスの普及です。課題は山積していても、乗り越えることは不可能ではありません。企業や生活者、そして、社会が変わるべきときが来ています。

梅田;2026年にはGPNは、設立30周年となります。グリーン購入が果たしてきた役割や、その重要性をふまえ、カーボン・ニュートラル製品等の普及に向けて、私どもも新しい挑戦を開始したいと思います。