日本で2050年に100%再生可能エネルギーが実装された脱炭素社会を構築することは十分可能である。
それには、明確な根拠がある。日本の未来に、希望をもてる確固とした根拠がある。すでに、日本は、2050年までに脱炭素社会構築を実現できる技術的・資金的要件を実装している。
あと肝心なのは、政治的決断だけである。できるかできないかではない。するかしないかの問題である。
本稿では、この点について、factに基づいた先行研究によるシミュレーションをベースに論点整理を行い、客観的な論証を試みたい。
1.常態化する「沸騰化時代」の意味する深刻度
いまや、激甚化する洪水や山火事など温暖化によってかさ上げされた災害が日常的に頻発している。昨年2023 年には既に産業革命時から 1.48℃の上昇が報告されている。もはや、パリ協定が掲げる産業革命以降の温度上昇を 1.5℃以内に抑えるという目標の達成が危機的な状況にある。このままの状況が続けば、一旦上昇した気温をもとに戻すことはほぼ不可能となってしまう。「沸騰化時代(The era of global boiling)」が常態化してしまうことは必至である。
こうした中、「パリ協定」目標を実現するために残された時間はあとわずかとなっている。こうした危機感から、4年前の2020年にスタートした、世界の温暖化防止の約束「パリ協定」のもと、ヨーロッパでは早々にEU(欧州連合)が2050年温室効果ガス(以下、GHGと略称)排出ゼロを表明。さらに、中国も2060年までのGHG排出ゼロを表明し、米国でも2050年GHG排出ゼロを選挙公約に掲げたバイデン大統領候補が当選したことで、温暖化防止に向けた国際社会の機運は、大きく盛り上がっている。
しかし一方で、各国が具体的に示している「国別GHG排出削減目標(以下NDCと略称)」は、全て足し合わせても、気候変動の深刻な影響を回避するために必要とされる水準、すなわち、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べ、1.5度未満に抑えるレベルには、明らかに不足している。このままでは今後、気候変動の影響はさらに激化し、経済や産業はもとより、人の暮らしや健康にまで、深刻な被害が及ぶことになると懸念されている[1]。事態は待ったなしである。何より重要なのは、2030 年という直近の目標年に向けた急速なGHG排出削減と、その後に続く 2035 年に野心的なGHG排出削減目標を持って行動する事である。もはや猶予時間がないのである。
[1] 1970年以降、気候変動については30万余りの学術論文が公表され、それに基づいてIPCCは第1次~第6次報告書を取りまとめ、科学者のコンセンサスとして現在の地球温暖化の主な原因は人間起源の温室効果ガスの大気中への放出であると結論している。更に去年2023年12月6日公開された最近の報告書(Global Tipping Points Report)によれば地球気候システムの次の5つの気候ティッピング・ポイントが突破された可能性があると指摘されている。①グリーンランド氷床崩壊、②西南極大陸氷床崩壊、③熱帯サンゴ礁枯死、④北方永久凍土の突発的融解、⑤ラブラドル海対流崩壊。問題なのは大気中の温室効果ガスの寿命である。CO2はひとたび大気中に放出されると様々な除去プロセスで除去されていくが、20%程度は1万年間も大気中に残留すると考えられている。つまりCO2を大気中に放出すると1万年後の我々の子孫や動植物、地球生態系に温暖化の影響を与えてしまうのである。ネットゼロあるいはカーボン・ニュートラルを達成しても実は世界の平均気温は気候システムの熱的慣性によってある程度上昇し、続いて数世紀かけて徐々に低下してくることが知られている。それは産業化前と比較してCO2だけでも1兆トン以上大気中に注入しているためである。したがってなるべく早期に世界の平均気温、平均海面水位を低下させるためには、大気中のCO2を除去する必要があるのである(つまりカーボン・ニュートラルからカーボン・マイナスへ)。
2.日本の将来を占う鍵となる「第 7 次エネルギー基本計画」
こうした危機感と当事者意識が、はたして、いまの日本政府に真摯に共有されているのであろうか。現下の「第 7 次エネルギー基本計画」の議論の進捗の体たらくを見るにつけ、はなはだ疑問である[2]。
現在、日本政府は、2030年における温室効果ガス排出削減目標である46%削減(2013年比)を引き上げることについて、検討する気配すらない。化石燃料からの脱却が急がれる中、日本は石炭火力発電さえも利用し続けようとしており、こうした姿勢は国際社会で強い批判にさらされている。そして、なんら客観的な論拠を示さないままに、「2050年ゼロエミションに向けた直線的削減目標に基づく日本の2030年目標であるNDCは1.5℃目標と整合している」と平然と嘯いている。
しかし、この日本政府の主張は、自己の不作為を正当化するための欺瞞に過ぎない。すでに、個別の国の削減目標と「パリ協定」の整合性を評価してきた幾つかの先行研究は、日本の 2030 年46%削減目標(2013 年比で)が不十分であることを示している。 シンクタンクのClimate Action Tracker は、1.5℃目標達成のためには、少なくとも 62%削減(2013 年度比)が必要であると明言しており、現在日本政府が掲げている46%削減目標との乖離は甚だしく大きいと指摘している。このまま石炭火力存続に拘泥し続けている日本の消極的な姿勢に対して、国際社会からさんざん「日本の気候危機政策は周回遅れ」だと揶揄されてきた。こうした時代に逆行する日本の後ろ向きの姿勢に対し、往生際が悪いとの批判すらある。
わが国日本も、待ったなしの深刻化する気候危機に立ち向かうべく、既得権益を排して、旧態依然としたエネルギーシステムの抜本的改革を遂行し、化石燃料に依存しない真の持続可能な「脱炭素社会」構築の道筋を作ることが最優先の急務であることは論をまたない。昨年2023 年末 ドバイで開催されたCOP 28(国連気候変動枠組条約締約国会議;以下、COPと略称)では、COP 史上初めて「化石燃料からの転換を加速する」ことに合意し、さらに 2030 年までに「世界の再生可能エネルギー設備容量を 3 倍」、「エネルギー効率改善率を 2 倍」にすることが約束された。そして「パリ協定」で約束した気温上昇を 1.5℃に抑えるために、次の NDC 2035 年では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル;以下IPCCと略称)が示した 「2035 年までに世界全体での GHG 排出削減 60%(2019 年比)」が必須不可欠な条件であることが明記された[3]。
[2] 2024年5月15日、エネルギー基本計画の改定に関する審議会(総合資源エネルギー調査会基本政策分科会)での議論がスタートしたが、この審議会は、委員長および数名の委員の交代があったものの、その構成はこれまでと変わらず、化石燃料や原子力、産業界につながりのある委員が多数を占めており、市民や環境NGO、若い世代の参加はない。これに先立つ5月13日の夕方、第11回GX実行会議が開かれた。その中で示された「今後の進め方(案)」では、エネルギー基本計画の議論と並行してGXリーダーズパネル(仮称)を開催、「GX2040ビジョン」を作っていくとされている。このGX実行会議やリーダーズパネルにも、市民や環境NGO等の参加はない。2030年までの取り組みが鍵をにぎるにもかかわらず、審議会では2030年には到底間に合わない原子力の新増設・リプレースや脱炭素技術を中心に議論している。既得権益を守ろうとする一部の人たちによる閉ざされた議論のみで、市民参加も国民的議論もないまま、原子力や化石燃料技術の維持・推進が強化される懸念がある。
[3] 現在世界的に検討されているシナリオは2050年カーボン・ニュートラル社会の実現である。化石燃料から再生可能エネルギーへの転換、脱炭素化へのエコイノベーション、企業への気候関連財務情報開示の義務付け、カーボン・プライシング、排出量取引制度の整備、サステナブルファイナンス(ESG投資)の拡大、エシカル消費、エシカルライフスタイルの普及に社会的総動員がされつつある。幸いわが国ではカーボン・フットプリント(CO2排出量)の評価、カーボン・クレジット制度の運用、カーボン・オフセットのガイドラインの制定などの社会的インフラが整備されつつある。ポツダム気候インパクト研究所(PIK)の最新の報告書では、気候変動による経済的損失は2050年までに年間38兆ドル、世界のGDPの19%に達すると予想している。世界の年間平均気温が産業化前より4℃を超えた場合の損失は60%に達するという。2℃目標を守るためには年間2兆ドルの費用で済むとされており、経済的にもカーボン・ニュートラルを進めた方が割安である。
当然、日本は、これを批准している。日本も、先進国として、主体的かつ積極的に、この世界目標水準を上回る意欲的な次期NDC の策定をすべき義務があることは、言うまでもない。
こうした中で、いま日本では、次期 NDC の議論と NDC の基盤となる「第 7 次エネルギー基本計画」の議論が実施されている真っ最中である。
温室効果ガスの 85%がエネルギー起源 CO2である日本では、「パリ協定」の目標実現を100%担保出来る「エネルギー計画」の策定こそが、最善の温暖化対策の鍵となる。しかし、現状の日本の 2030 年 NDC は、世界目標水準を下回る「2013 年比46%GHG 排出削減(50%の高みを目指す)」のままで、一向にその引き上げの気配はない。そこには、先進国として当然求められる野心的な意欲は皆無である。そこには、一流先進国としてのノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)も矜持も感じられない。
周知の通り、日本は、G7先進国中、石炭火力撤廃期限を明示していない唯一の国である。1kwの電力を作る際に排出されるCO2の量は、G7先進諸国中、一番多い。実に恥ずべきことである。現在の日本のエネルギー政策では、石炭など化石燃料発電所温存のために水素・アンモニア混焼、CCUS(炭素回収・利用・貯蔵)[4]などの利用や、原子力推進がうたわれているが、いずれも、コスト、CO2削減効果、実現可能性に大きな問題がある。
日本は13年前の2011年3月にカタストロフな前代未聞な福島原発事故を起こした当事国である。世界有数の地震・火山大国として原発の事故リスクが特に高いことは自明である。原発事故リスクが高ければ、発電コストも高くなる。今年2024年1月に起きた能登半島地震でもあらためて明らかになったが、いったん地震が起きたら、原発事故避難などはほとんど不可能に近いのが実情である。立地住民の安全な避難を考えると、原発の新増設などはとても現実的とは言えない[5]。水素やアンモニアの専焼火力についても、未だ商用化されているとは言えない上に、日本は基本的にCO2排出を不可避的に伴うグレーやブルーの水素輸入を前提としている意味でも説得力に欠ける。またエネルギー安全保障が強く求められる中で、引き続き燃料の輸入に頼ることは、矛盾した方向性である。化石燃料購入による国富流出を促進し、エネルギー安全保障を弱めるからである。ウクライナ戦争の影響もあり、化石燃料価格の高騰によって、2022年度の日本の化石燃料輸入額は、33兆円にも達している。真の「国産エネルギー」である再生可能エネルギー利用を拡大し、外部依存の化石燃料利用を限りなくゼロに近く削減することは、エネルギー安全保障のみならず、経済合理性の観点からも必須不可欠な合理的選択であることは自明である。
[4] 「CCUS」とは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれる。発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するもの。
[5] 2011年3月11日に起きた東電福島第一原発事故以降、13年が経過したが、日本でも世界でもエネルギーをめぐる情勢は大きく変化している。原子力については、事故の被害やリスク、放射能汚染や解決不可能な核廃棄物の処分の問題などが依然として未解決なまま山積している。経済的にみても、原発の維持費や建設費は高騰し続けており、今や世界的にも最も高い電源となっている。また、今年2024年1月1日に発生した能登半島地震は、地震国日本における原発の危険性を改めて私たちにつきつけた。
いま政府が推し進めようとしている一連の政策は、ごく一部の企業が利益を得る一方で、電気代・公費負担の上昇や原発の事故リスクの増大など、多くの国民負担を増加させ、国全体としてはマイナス面しかない愚策である。政治に対して大きな発言力と影響を持つ大企業や電力会社等の既得権益層が、この国の公平かつ健全な100%再生可能エネルギーが実装された脱炭素社会構築に向けた思い切ったエネルギー政策を歪めてしまっている事態は深刻である。肝心要の日本のエネルギー政策の重要な意思決定のベースとなる政府審議会・委員会の構成メンバーは、政府の意向を反映させて、意図的に「化石燃料業界」「原発業界」擁護派の「御用学者」で過半数が占拠されているのが実態である。その結果、各委員会は、脱炭素、脱原発に消極的な空気感に支配されており、政府審議会が一種のアリバイ造りのために形骸化してしまっている。こうした中で、結論が最初からありきで、利権を反映させた「化石燃料業界」「原発業界」擁護に偏重した政策方針が決まってしまっている。「審議会は、免罪符的に政策プロセスを形式的に装おう偽装にすぎない。政治家にとっては、崇高な理念などはなく、国際的な評価や、国民の安寧で健全な生活より、自らの政権維持のために必須不可欠な政権支持母体である経済界の繁栄存続の方が最優先なのだ。」とのとの厳しい批判すらある。昨今、世間を賑わせている現政権与党の企業献金・裏金問題騒動等の醜悪な事態に鑑み、「これもむべなるかな」と、実に残念に思う。
脱炭素社会構築やエネルギー安全保障を見据え、再生可能エネルギーと省エネルギーを柱とした持続可能な日本の未来を担保するためには、電力システム改革も急務である。日本では、2011 年の東京電力福島第一原発事故の反省を受けて、ようやく電力システム改革が始動した。しかし、その後も若干の改革実施の試みはあったものの、本来真っ先に実現すべき肝心の送配電事業法的分離すらも事実上骨抜きにされており、再生可能エネルギー拡大への様々な障害も山積したままで、いまだに石炭火力と原子力の存続を念頭にいれた体制は旧態依然のままで、欧州のような本格的な「脱炭素社会構築」の方向に進んでいないのが実態である[6]。
驚くことに、日本では、この期に及んで、未だに再生可能エネルギーが高コストだとか不安定だとかいった恣意的な言説風評がまかり通っている。実際には、すでに再生可能エネルギーのコストは、すでに化石燃料より安価になっている。不安定性問題も、柔軟性(需給調整)対策等によって技術的に解決されており、電力供給の信頼度や品質の安定に問題ないことが明らかになっている。
国際エネルギー機関(International Energy Agency ;以下IEAと略)の将来予測などを見ても、2050 年に向けて電力システムでは再生可能エネルギーが太宗を占めるようになることは確実視されている。もはや、これは、既に国際常識である。まさに「日本の常識は世界の非常識」と揶揄される由縁である。
すでに欧州も中国でも再生可能エネルギーの導入を急ぎ、グリーン水素[7]や電気自動車(Electric Vehicle;以下EVと略)などに注力し、産業政策的にも鎬を削っている。その前提となるのが電力システム改革である。世界有数の再生可能エネルギーのポテンシャルを誇る日本にとって、再生可能エネルギーと市場競争を前提とした電力システム改革が最善の政策であり、急務であることは論をまたない。次期 2035 年NDC が世界平均で必要とされるGHG排出削減 60%(2019 年比)を上回るためには、少なくとも2013 年比で GHG排出削減66%以上の NDC の提出が必要となる。欧州では、すでに欧州委員会が 2040 年までに GHG を1990 年比で 90%削減することを勧告している。
[6] 送配電事業の法的分離は、2023 年の大手電力会社による情報漏洩事件により、骨抜きにされていることが露呈した。また同じ頃に判明した大手電力によるカルテル事件により、全面自由化された小売市場における競争も歪められていることが明らかになった。そしてこれら違法行為に対して、規制当局の危機感は低い。2013 年の電力システム改革専門委員会の「報告書」では、再エネと市場競争を重視した欧州流の分散型改革を指向しているが、その後の実際の行動は、むしろ逆行している。原子力の復権が盛り込まれた2023年のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略に象徴されるように、原子力や大型火力といった集中型電源を温存し、大手電力の旧来の経営体制を維持するために、発送電一貫体制や独占に回帰しようとしているとの厳しい批判もある。
[7] 「グリーン水素」とは、再生可能エネルギーを使って、製造工程においてもCO2を排出せずにつくられた水素。ちなみに、化石燃料をベースとしてつくられた水素は「グレー水素」と呼ばれる。また、回収して貯留したり利用したりする「CCS」「CCUS」で製造工程のCO2排出をおさえた水素は「ブルー水素」と呼ばれる。
来年2025年前半に日本が提示する予定の新たなNDCの内容と質の如何が、日本の将来を占う鍵となることは自明である。世界中が、日本の新たなNDCの内容を注意深く見守っている。そして、はたして、日本が、ノブレス・オブリージュを担える真の一流先進国としての資格をもっているのかを、しっかり見定めようとしている。日本の先進国としての矜持が試されているのである。日本も、脱炭素化に向かう具体策のあるエネルギー基本計画と野心的な 2035 年 NDC が求められる。これは、先進国としての矜持があるのであれば、当然の責務である。
世界の温暖化対策に後れを取ることは、地球沸騰化に加担するだけではなく、脱炭素化に向かう世界の産業界の中で日本企業の国際競争力を失うことに直結する。今年2024から来年2025 年にかけて、世界で脱炭素関連政策・投資が本格的に進む年であると言われている。こうした中、いまこそが、日本の気候政策を見直す絶好の機会である。
この機に、日本政府は削減目標設定の考え方を整理し、2030 年までに 2013 年比で少なくとも 60%以上削減、2035 年には IEA が要求する 80%削減という大幅削減の道筋に転換するなど、現在の不十分なNDCの見直し作業を徹底的に行い、その結果を2025 年前半に国連への提出が予定されている我が国の新しい削減目標とするべきである。
3.脱炭素社会へ向けた 2050 年ゼロシナリオの検証
以下、2024年5月31日に発表された直近の最新版の「脱炭素社会へ向けた 2050 年ゼロシナリオ 2024」(WWF発表;以降「本シナリオ」と略称)を参照しながら、論点整理を試みたい[8]。
結論から言うと、日本でも「2050年までに100%再生可能エネルギーが実装された脱炭素社会の構築をすること」は十分可能である。
本シナリオでは、COP28 の要請に応じて、化石燃料からの転換、特に石炭火力は 2030 年までに廃止し、再生可能エネルギーの設備容量を 2030 年に 3 倍(風力は 10 倍、太陽光は 2.9 倍)にすることが可能であることが示されている。そして 2035 年には、CO2の削減量は 2019 年比で 66%(日本の NDC 基準年 2013 年比で 71.8%)となり、GHG にして 62.7%(2013 年比では 67.9%)削減が可能となる。
この実現には、抜本的な脱炭素政策の強化による加速度的な再生可能エネルギー推進策、そして予見可能性のあるカーボンプライシング等の政策パッケージが前提となっているが、現下の再生可能エネルギーの潜在力、日本の技術力、資金力をもってすれば、不可能ではなく、唯一の課題は、日本政府の思い切った毅然とした決断力にかかっているということである。
換言すれば、日本政府が、現行の 46%GHG 排出削減に固執すべき合理的根拠は皆無である。「パリ協定」と整合性していない現行の日本政府の 46%GHG 排出削減目標は、単に国際的な批判を浴び続けるだけにとどまらず、日本国内において地方自治体や企業、市民社会に対して間違ったメッセージを送ることで、日本全体の産業経済の健全な発展の可能性を狭め、その成長の足かせとなり、将来世代にも大きなツケを残すことにもなることは自明であり、日本に未来にとって、百害あって一利なしなのである。
日本も、やれば、できるのである。ようは、できるかできないかではなく、やるかやらないかの選択の問題である。もう待ったなしである。
この機に、これまで後れを取っていた日本の脱炭素化を挽回すべく、今度こそ、野心的な目標を打ち出し、国を挙げて、一気に政策強化を図るべきであろう。いまからも汚名挽回は可能であるし、決して遅くはない。日本でも、2050年までに100%再生可能エネルギーが実装された脱炭素社会の構築をすることは十分可能である。
[8] WWF ジャパンは 2011 年から 6 回にわたって、2050 年に自然エネルギー100%を実現するエネルギーシナリオ「脱炭素社会に向けた 2050 年ゼロシナリオ」を提言してきた。このたび 2021 年版を更新して、改めて2050 年ゼロへの道のりに沿う 2035 年、そして 2040 年のエネルギーのあり方について WWF「脱炭素社会へ向けた 2050 年ゼロシナリオ 2024」(以降 WWF シナリオ 2024 という)として発表し、提言した。2024年5月31日、「WWF主催の「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ2024版~日本はCOP28の要請に応えられるか? 2035年温室効果化ガス(以下GHGと略称)60%以上削減を可能とするエネミックス提案~」の発表会に参加した。緻密なシミュレーションに裏打ちされた地に足の着いた「日本で2050年に100%再生可能エネルギーが実装された脱炭素社会構築は十分可能である」とのご提案に、力強く励まされた。同時に、これからの日本の未来に、希望を感じた。本稿は、これを参照している。
(出所)「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ2024版~日本はCOP28の要請に応えられるか?2035年GHG60%以上削減を可能とするエネミックス提案~」https://www.wwf.or.jp/event/organize/5643.html
4. 2050 年ゼロシナリオ実現のための論点整理
以下、2050 年ゼロシナリオ実現が可能である根拠について、客観的なfactと緻密なシミュレーションに裏打ちされた地に足の着いたシナリオ検証に基づき、主要な4つの重要なポイントに絞って、論点整理をしておきたい。
<2050年ゼロカーボンシナリオ実現のための4つの重要なポイント>
①省エネルギーの最大限の推進で最終エネルギー需要は
2035 年に 2021 年比で約 32%削減可能
言うまでもなく、「省エネルギー」は、脱炭素社会構築の「1丁目1番地」である。最もコスト効率的な経済・温暖化対策である。
まず、本シナリオでは、人口が 2050 年にかけて 83%に縮小する(2020 年比)ことに伴い、産業の活動度も低下し、途上国と競合する原材料の輸出はなくなる。代わりに IoT・AI(人工知能)情報機器、自動運転車、ロボットなどの輸出が 150%に増大し、機械・情報産業は 149%に成長する。これによって人口減にもかかわらず、日本の経済成長率は維持され、GDP は増大する。こうした産業構造の変化に加えて、各部門での省エネルギーの取り組みを一層進めることが重要となる。特に産業部門では、鉄鋼業での電炉活用によるリサイクルの推進や、産業全体におけるインバータ制御モータの広範な導入などがあげられる。また運輸部門では、EV・FCV 化[1]を進めることによってエネルギー利用効率が向上していく。更に、業務・家庭部門では省エネ電化製品の更なる導入のほか、住宅・建築物の ZEH/ZEB[2] を上回る省エネ基準の設定や断熱の向上も必要となる。
これらの変化や取り組みの結果、2035 年には、最終エネルギー需要は 2021 年比で約 32%の減少が可能となる。そして、2050 年には最終エネルギー需要は 2021 年比で約 57%減少する。
②石炭火力は 2030 年までに全廃止。
その穴埋めには既存のガス火力(LNG)で十分
もはや国際的な常識ではあるが、最も CO2排出量の多い石炭火力は、2030 年までに全廃止することが必須不可欠である。同時にこれは不可避である。
本シナリオに先立つ先行研究(WWF シナリオ 2021) では、全国 842 地点の AMEDAS2000 標準気象データを用いて 1 時間ごとの太陽光と風力の発電量のダイナミックシミュレーション(Dynamic Simulation;非定常解析技術)を通年で行っており、その結果、現状の石炭火力を日本の 10 電力地域全域で 2030 年までに廃止しても、電力供給に問題がないことが証明されている。石炭火力全廃の穴埋めとしては、現状稼働率が 35~50%以下である既設のガス火力の稼働率を、60~70%程度に上げることで賄える。新たにガス火力を新設する必要はない。そのガス火力も段階的に廃止し、2050 年には電力のみならずすべて再生可能エネルギー供給が可能となる。
[9] EVは、「Electric Vehicle」の略で、「電気自動車」。FCVは、「Fuel Cell Vehicle」の略で、「燃料電池自動車」。
[10] ZEBは、「net Zero Energy Building」の略で、ZEHは」「net Zero Energy House」の略。「建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用等により削減し、年間での一次エネルギー消費量が正味でゼロ又は概ねゼロとなる建築物」を意味する。
③再生可能エネルギーは 2030 年に 3 倍以上が可能
日本における再生可能エネルギー導入ポテンシャルは、日本国内に現在ある発電設備の全設備容量をはるかに上回る量となっており、今後見込まれる潜在的電力需要をはるかに凌駕している[11]。
脱炭素化の主役である再生可能エネルギーは、電力に占める割合を 2030 年に 53%以上に引き上げ、2035年には 77%に引き上げるならば、2035 年 NDC での GHG 削減を 2013 年比 66%以上にすることが可能となる。
2030 年に COP28 の要請である再生可能エネルギーを 3 倍にする目標も可能である。
風力発電は、官民挙げての推進下にあり、2030 年に 10 倍の設備容量の導入が可能と見込まれる。
太陽光発電は、技術進歩の加速により、設備利用率が向上しており、さらにペロブスカイト(perovskite)[12]により建物など広範囲にシート状の PV 製品の利用が見込まれるため、2030 年には 161GW の設備容量が可能となる[13]。
太陽光発電の設備容量は、現状の 2.9 倍ではあるが、風力と太陽光を合わせると日本も COP28 の要請である 2030 年までに再生可能エネルギー設備容量 3 倍に応えることが可能である[14]。これらの導入を強力に後押しする政策導入や強化をもって、2035 年に風力 61GW、太陽光 280GW が導入されれば、石炭火力ゼロでも電力の安定供給と 2035 年に 2013 年比で GHG66%以上の削減を目指す NDC にできる。
[11] 日本国内の再生可能エネルギーの導入ポテンシャルについては、環境省が平成 21 年度から長年にわたり太陽光発電等で調査を行ってきている。環境省ではREPOS(Renewable Energy Potential System)という再生可能エネルギー情報提供システムを構築しており、その中では太陽光、風力、中小水力、地熱、地中熱、太陽熱について導入ポテンシャル(潜在的な導入可能量)が推計されている。具体的には、住宅(戸建、集合住宅等)、公共用建築物 (学校、市役所等)、発電所、工場、倉庫等 、低・未利用地(最終処分場等)、耕作放棄地(うち森林化・原野化している等) などを対象に、エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因による設置の可否を考慮したエネルギー資源量、政策、経済性の 3 つを考慮して計算している。住宅用等太陽光発電と公共系等太陽光発電、用地不足問題を解消するものとして期待されるのがソーラー・シェアリング(営農型太陽光発電)、洋上風力を含む風力発電等について、シミュレーションを行ってきた結果、日本における導入ポテンシャルが、日本国内に現在ある発電設備の全設備容量をはるかに上回る量となっており、今後見込まれる潜在的電力需要をはるかに凌駕する再生可能エネルギーの導入ポテンシャル期待値が試算されている。導入ポテンシャルは日本の全電力需要の2倍もあるが、導入可能な立地は必ずしも全国満遍なくとはなっていない。(出所)環境省(2020)「我が国の再生可能エネルギーの導入ポテンシャル」(環境省地球温暖化対策課調査)
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/doc/gaiyou1.pdf
[12] 次世代の太陽電池として注目されているペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を用いた新しいタイプの太陽電池。「シリコン系太陽電池」や「化合物系太陽電池」にも匹敵する高い変換効率を達成している。ペロブスカイト膜は、塗布(スピンコート)技術で容易に作製できるため、既存の太陽電池よりも低価格になる。さらに、フレキシブルで軽量な太陽電池が実現でき、シリコン系太陽電池では困難なところにも設置することが可能になる。産業技術総合研究所によると、岸田文雄首相が23年4月4日、「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」で、ペロブスカイト型太陽電池を2030年までに普及させる方針を打ち出したことで政府の後押しも期待でき、今後開発の加速が予想されている。
[13] 国土面積が日本の1割にも満たないオランダで、太陽光発電が急速に拡大しており、発電電力量は過去10年間で70倍に増加し、新規導入量は2022年に世界第10位の3.9GW(ギガワット=100万キロワット)に達したことは、日本にとっても参考になる。導入拡大を支えるのは、政府による3つの施策である。(1)住宅の太陽光発電導入を促す制度、(2)太陽光発電事業・研究開発への資金支援、(3)新築・既存建物への太陽光発電の設置義務化(導入検討段階)。一方で出力抑制の増加が課題で、政府が送電網の増強や蓄電池の配備を進めている。特に、新築・既存建物への太陽光発電の設置義務化は決め手となろう。
[14] NEDO や環境省調査を参考にした太陽光発電協会(JPEA)の導入ポテンシャル分析(2024)によると、国内の太陽光導入ポテンシャルは 2,380GW ある。導入までのリードタイムの短い住宅や非住宅のポテンシャルも多くあるが、中でも農業関連のポテンシャルが約 7 割を占める。昨今、自然環境への影響が問題視されている地上設置のメガソーラーではなく、耕作地などへの設置のポテンシャルが大きい。農業振興や地域にも貢献するような事例も増えつつある。
④電化の推進と燃料・熱需要のための
余剰電力を使ったグリーン水素の活用
脱炭素社会を進めるには、電力よりも脱炭素化が難しい燃料用途と産業用の高熱用途の化石燃料需要を、可能な限り電力に置き換えていく電化の推進が有効である。なぜなら電力は、再生可能エネルギー等で脱炭素化が容易であるからである。そのためには、電気自動車の普及や鉄鋼の電炉化推進などが必要である。その上で、現状運輸部門の燃料用途や産業用の高熱用途で利用している化石燃料を、水素で代替していく。その水素を、化石燃料を燃焼させて作るのではなく、再生可能エネルギー由来の余剰電力を使い、水の電気分解によって作るグリーン水素にすることで化石燃料脱却への道筋となる。
太陽光と風力発電など変動電源による発電量と電力需要を合わせるために、電力需要を超える発電が必要となる。したがって余剰電力の発生は必然となる。本シナリオでは、再生可能エネルギーによる余剰電力が 2040 年段階で電力需要の約 4 割、2050 年に向けては電力需要と同量以上発生する。その余剰電力でグリーン水素を作り、脱炭素化が難しい燃料と熱需要に使うことで、エネルギー全体を脱炭素化していくことが可能となる。
グリーン水素は、電力料金さえ低くなれば採算性があう。すなわち、余剰電力を使って作るグリーン水素は理に適うエネルギーで、脱炭素社会の切り札となる。なお、本シナリオでは、原発については現状を直視し、稼働中及び再稼働が見込まれている原発のみを想定に入れ、稼働 30 年で廃止していく。2030 年には発電量の約 2%、2035 年に 0.2%、2038 年までに全廃となる。
このエネルギーミックスの実現で、エネルギー起源CO2 排出量は 2035 年に 2013 年比 71.8%削減、2040年に 83.4%削減、2050 年ゼロが可能となる。温室効果ガスの排出量は 2013 年比で、2035 年 67.9%削減、2040 年 80.6%削減、2050 年ゼロとなる。
5. いまこそ求められる毅然とした政治決断
以上、論点整理をしてきたが、結論を一言で言うと、肝心な鍵は、日本の「政治決断」にある。
日本が、「 2035 年 60%以上削減」、「2050 年カーボンゼロ」を実現するためには、まさに、今からすぐにでも政策強化に着手することが、最も重要となる。これは、必須不可欠であり、実現不可能ではない。
これを現政権が毅然と判断し遂行できるのか、あるいは、旧態依然と無作為のまま終始するのか。これからの日本政府の一挙手一投足に世界は注目している。そして、これが、日本の未来の命運を左右する。
政府の今後 10 年間の温暖化対策を基礎づける 「GX 推進法」と「GX 脱炭素電源法」[15]では、「分野別投資戦略」が取りまとめられているが、この中で提起されている、国民的議論がないまま決められつつある「原発回帰」や、実用化が不確かな 「CCUS やアンモニア燃料」等の確度がまったく検証されていない将来的な技術的イノベーションに偏重した方向違いの現政策案は、愚策であるとの批判もある。
海外からも、その脱炭素化への効果に疑問が投げかけられている。内外からは、「将来的な開発を頼みに石炭火力の長期にわたる温存を意図している。問題の先送りに過ぎない。」との手厳しい批判もある。こうした正鵠を射た厳しい批判に対して、日本政府は、真摯に向き合うべきであろう。
言うまでもなく、 何より高排出な設備を今から新増設して2050 年まで高排出インフラを固定化するロックインという愚行を避けることは最優先である。
そして、時間的猶予もない中、11年後の2035 年に向かっていますべき最も重要なことは、なによりも、従来型の原発や化石燃料に対する多額の補助金廃止を断行し、真っ先にガス火力の 2 倍の CO2 を排出する石炭火力を速やかに廃止し、避難計画も十分担保されていない危険極まりない原発再稼動を即刻停止し早期廃炉に向けて注力するすることである[16]。
各種の政策では、省エネ・再エネ推進を強力に進めるカーボンプライシング、住宅・建築物の省エネ性能の強化や、既存電源の温存につながる容量市場の改善など電力システム改革、変動電源の大量導入を見据えた計画的な地域間連系線など電力系統の強化、新エネルギー事業者の育成、東京都や川崎市が導入している新築住宅に太陽光パネルの設置を義務づける制度を全国に拡充し、クリーンな産業への雇用シフトの支援などが欠かせないことは、言うまでもないことである。
以上、論点整理を行ってきた。結論として、今、最も日本に求められることは、石炭火力の速やかな廃止、原発再稼動即刻停止、エネルギー効率の改善加速、および毎年飛躍的に再生可能エネルギーの導入を促進するあらゆる政策を、全面的かつ速やかに導入することである。そして、それら一連の政策をすべて盛り込んだ真っ当な「脱炭素社会へ向けた 2050 年ゼロカーボン戦略」を起案し、それを漏れなく確実に反映させた「第 7 次エネルギー基本計画」を策定し、来年2025年前半までに、GHG排出削減66%以上(2013 年比)を確約した NDCを国連に提出することである。
これら一連の政策は、すべて実現可能である。なにも、確度が担保されていない魔法のようなイノベーションに頼らずとも、いまの日本が現在有している最先端技術と人材と資金を動員することで、すべて、十分、実現可能なのである。
ようは、できるかできないかではなく、やるかやらないかの選択の問題である。
いまや、人類社会は、経済成長を重視する仕組みから人間の幸福と生態系の安定を重視する仕組みに向けた歴史的パラダイムシフトの渦中にある。
そして、いま、日本は、将来の命運を左右する重要な分岐点の前で、立ちすくんでしまっている。限りない拡大・成長に向かう道と、持続可能性に向かう道との分かれ道の前に立っている。この二律背反的な2つのベクトルのせめぎ合いの時代の中、自らの進路を決められずに、当惑している。
はたして、日本が「世界一幸福な未来型ウェルビーイング環境先進国」になることができるのであろうか。
この問いへの、明確な答えが、日本における2050年に100%再生可能エネルギーの「脱炭素社会」構築にあるとも言える。これは、日本の未来の命運を左右する重要な「リトマス紙」なのである。
日本の未来の命運は、すべて、現政権による今の「政治」の決断次第なのである。
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[15] 「GX 推進法」は、2023年5月に成立。2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロの実現に向け、政府の脱炭素戦略を盛り込んだ法律。今後10年間で官民あわせて150兆円を超える脱炭素投資を進めることで、国内企業の競争力強化や経済成長との両立を目指す。「GX 脱炭素電源法」は、2023年5月31日に成立。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて脱炭素電源の利用促進と電力の安定供給の確保を図るための制度整備を目的とした法案。
[16] 目下、「エネルギー基本計画」改定議論が開始されており、石炭火力発電と原発の位置づけ焦点となっている。経済産業省は2024年5月15日、国のエネルギー政策の中長期の方向性を示す「エネルギー基本計画(エネ基)」の改定に向けた議論を始めた。2024年度内に改定し、40年度の電源構成などを示す。脱炭素化の動きが加速する中、岸田文雄政権が活用する方針の原子力発電の位置付けや、石炭火力発電の扱いなどが焦点だ。「日本はエネルギー政策における戦後最大の難所にある」。同日開いた総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の分科会の冒頭、斎藤健経産相はウクライナ危機などを背景にしたエネルギー情勢の不安定化に危機感を示し、脱炭素エネルギーの安定供給の必要性を強調した。出席した委員からは「産業政策とセットで考えるべきだ」「国が責任を持って道筋を示す必要がある」などの意見が出た。エネ基は3年をめどに改定しており、21年に閣議決定した現行計画で示した30年度の電源構成は、再生可能エネルギー36~38%▽原発20~22%▽天然ガス20%▽石炭19%――などとなっている。原発は、11年の東京電力福島第1原発事故以降のエネ基で「可能な限り依存度を低減する」としてきた。しかし政府は22年、50年までの二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量実質ゼロに向け、原発回帰に転じた。今後は次期エネ基に、原発の再稼働の加速や新設、リプレース(建て替え)をどの程度織り込むかを検討する。ただ、安全対策の遅れや地元同意の難しさなど再稼働のハードルも高く、現実的な電源と見なせるか不透明感は強い。その重要な意思決定のベースとなる肝心要の政府審議会・委員会の構成メンバーは、政府の意向を反映させた形で、意図的に「化石燃料業界」「原発業界」擁護派の「御用学者」で過半数が占拠されているのが実情である。その結果、各委員会を支配している空気感は「脱炭素」「脱原発」に消極的な状態になっている。これは、政府審議会が一種のアリバイ造りのために形骸化してしまっていることを意味する。そして、結論が最初からありきで、利権を反映させた「化石燃料業界」「原発業界」擁護に偏重した政策方針が決まってしまっている。「審議会は、免罪符的に政策プロセスを形式的に装おう偽装にすぎない。政治家にとっては、崇高な理念などはなく、国際的な評価や、国民の安寧で健全な生活より、自らの政権維持のために必須不可欠な政権支持母体である経済界の繁栄存続の方が最優先なのだ。」とのとの厳しい批判もある。