1. 地球気候は非常事態にある

2023年の世界の平均気温は観測史上最高の14.98℃で産業化前と比べて1.45℃上昇した。2024年はパリ協定の目標1.5℃を突破する最初の年となるかもしれない。

2023年6月から2024年4月までの11ヶ月連続で、毎月の世界の平均気温は観測史上最高を記録し続けている!一方、世界の海洋の平均表面温度は2023年3月中旬から2024年4月までの13ヶ月間、毎日観測史上最高を記録し続けている!!

James Hansenらは2024年の世界の平均気温は産業化前と比較して1.6~1.7℃高くなり、パリ協定の1.5℃目標を突破する最初の年となると予想している。地球温暖化は加速しているのであろうか。1970年から2023年の間に世界の平均気温は10年間あたり0.19℃上昇した。2009年から2023年の間ではこれが0.30℃となっており、地球温暖化が加速していることが分かる。IPCCの気候モデルのアンサンブルでは2015年から2050年の間、10年間で0.2~0.4℃温暖化が進むと予想しており、最近の地球温暖化の加速は予想の範囲内であるとも言える。ポツダム気候インパクト研究所(PIK)の最新の報告書では、気候変動による経済的損失は2050年までに年間38兆ドル、世界のGDPの19%に達すると予想している。世界の年間平均気温が産業化前より4℃を超えた場合の損失は60%に達するという。2℃目標を守るためには年間2兆ドルの費用で済むとされており、経済的にもカーボン・ニュートラルを進めた方が割安である。Lancet報告書によれば、世界中の人々が生命を脅かされるような気温に平均してさらされる日数は2022年に86日間であった。このままでは暑さによる世界の死者数は2050年までに5倍近くに達すると予想している。

1970年以降、気候変動については30万余りの学術論文が公表され、それに基づいてIPCCは第1次~第6次報告書を取りまとめ、科学者のコンセンサスとして現在の地球温暖化の主な原因は人間起源の温室効果ガスの大気中への放出であると結論している。更に最近の報告書(Global Tipping Points Report、2023年12月6日)によれば地球気候システムの次の5つの気候ティッピング・ポイントが突破された可能性があると指摘されている。

●グリーンランド氷床崩壊
●西南極大陸氷床崩壊
●熱帯サンゴ礁枯死
●北方永久凍土の突発的融解
●ラブラドル海対流崩壊
である。

近年の世界の異常気象(熱波、干ばつ、豪雨、森林火災など)は気候変動によって極端になっていることは多くのEvent Attribution研究から明らかにされている。World Weather Attributionによれば、アフリカの角での3年間の干ばつに続いての大洪水で数百万人が食料不足に陥っていること、2023年7月のヨーロッパ、北米、中国での広い地域での致命的な熱波、2023年9月のリビアで驚異的豪雨の後の3つのダムの決壊で3,400人の犠牲者が発生したこと、カナダの山火事で1,800万ヘクタール焼失(これまでの年間記録を1,000万ヘクタール上回る)などには明らかに人為的地球温暖化の影響が確認されるとしている。

2. カーボン・ニュートラルがキーワードになる

更に問題なのは大気中の温室効果ガスの寿命である。CO2はひとたび大気中に放出されると様々な除去プロセスで除去されていくが、20%程度は1万年間も大気中に残留すると考えられている。つまりCO2を大気中に放出すると1万年後の我々の子孫や動植物、地球生態系に温暖化の影響を与えてしまうのである。ここではCO2以外の温室効果ガスの排出量をCO2排出量に組み入れて考えることにする。ネットゼロあるいはカーボン・ニュートラルを達成しても実は世界の平均気温は気候システムの熱的慣性によってある程度上昇し、続いて数世紀かけて徐々に低下してくることが知られている。それは産業化前と比較してCO2だけでも1兆トン以上大気中に注入しているためである。したがってなるべく早期に世界の平均気温、平均海面水位を低下させるためには、大気中のCO2を除去する必要があるのである(つまりカーボン・ニュートラルからカーボン・マイナスへ)。現在世界的に検討されているシナリオは2050年カーボン・ニュートラル社会の実現である。化石燃料から再生可能エネルギーや原子力への転換、脱炭素化へのエコイノベーション、企業への気候関連財務情報開示の義務付け、カーボン・プライシング、排出量取引制度の整備、サステナブルファイナンス(ESG投資)の拡大、エシカル消費、エシカルライフスタイルの普及に社会的総動員がされつつある。幸いわが国ではカーボン・フットプリント(CO2排出量)の評価、カーボン・クレジット制度の運用、カーボン・オフセットのガイドラインの制定などの社会的インフラが整備されつつある。

環境省は2050年カーボン・ニュートラル社会の実現や2030年までの日本のCO2排出量削減目標達成のために、「デコ活」という国民運動を2022年より展開している。「デコ活」は脱炭素(Decarbonization)と環境に良いエコ(Eco)を組み合わせた言葉である。以前は「COOL CHOICE(賢い選択)」という運動を展開していたが、現在は「デコ活」に吸収・統一している。そのために30の具体的アクションを国民に示しリードしているが、2024年3月22日の環境省発表ではアンケートに対して聞いたことが無い、分からないとの回答が74%で、実践していると答えたのはわずか3%だったと報じられている(毎日新聞3月22日)。 一方、経済産業省は国内のカーボン・クレジットとしてJ-クレジットを創出し、活用するための施策を全力で推進している。その一つがカーボン・オフセット商品の生産、販売である。カーボン・オフセットフォーラムのホームページには多数の企業のカーボン・オフセット宣言が掲載され、オフセットされた商品・サービスが示されている。経済産業省は2012年から既に「製品のカーボン・ニュートラル制度」の試行を行っている。しかしカーボン・オフセット商品は多くの場合、オフセットされるのはScope1,2,3の一部であり、使用したカーボン・クレジットの品質がどのようなものなのかも明らかではない。カーボン・オフセットは手段であり、現在の社会の目的はカーボン・ニュートラルであることより、カーボン・ニュートラル製品の生産・販売・消費に焦点を当てるべきではなかろうか。消費者にとっても部分的にオフセットされた商品を購入するよりカーボン・ニュートラル商品を購入する方が理解しやすいと考えられる。「デコ活」にも是非カーボン・ニュートラル製品のグリーン購入を取り入れていただきたいものである。

3. カーボン・ニュートラル製品の普及

本稿では2050年カーボン・ニュートラル社会を先取りするカーボン・ニュートラル、カーボン・マイナス(気候ポジティブ)製品の国際動向について試論をまとめてみた。カーボン・ニュートラル(Carbon Neutral=CN)、カーボン・マイナス(Carbon Minus or Climate Positive=CP)については環境省の「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」第3版に次のように定義されている。

『カーボン・ニュートラルとは、社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガスの排出を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、クレジットを購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせた状態をいう。すなわち、市民の日常生活、企業の事業活動といった排出活動からの温室効果ガスの排出量と、当該市民、企業等が他の場所で実現した排出削減・吸収量がイコールである状態のことをカ ーボン・ニュートラルという。カーボン・オフセットは、市民の日常生活や企業の事業活動におけるカーボン・ニュートラルを実現するための手段であり、排出量が全量オフセットされた状態がカーボン・ニュートラルとなる。

カーボン・マイナスとは、市民の日常生活や企業の事業活動により生じる温室効果ガス排出量に対して、当該市民、企業等が他の場所で実現した排出削減・吸収プロジェクトによる排出削減・吸収量や購入したクレジット量等の合計が上回っている状態をいう。』

ある製品・サービスがCNあるいはCPであることを実現するには、まず環境配慮設計、環境技術革新、環境経営を行って、資源採取から製品・サービスの提供までのライフサイクルでの温室効果ガスの総排出量(カーボンフットプリント=CFP)を評価し低減しなければならない。

ここでCO2排出量の評価の範囲について簡単に述べておこう。

Scope1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出量である。CO2以外の温室効果ガスの排出についてはCO2に換算して加える。燃料の燃焼や工業プロセスからの排出など。

Scope2は他社から供給された電気、熱、蒸気、水道などの使用に伴う間接排出である。

Scope3はScope1とScope2以外の間接排出である。上流側では原材料、輸送・配送、廃棄物、出張、リース資産などがあり、下流側では事業者の提供する製品の使用、製品の廃棄などがある。GHGプロトコルのScope3の基準ではScope3を15のカテゴリーに分類している。

Scope1、Scope2、Scope3の排出量の総和はサプライチェーン排出量と呼ばれている。多くの場合サプライチェーン排出量の中で最大のものはScope3である。Scope1とScope2は事業者自らの意志でコントロールできるが、Scope3については他社との協議が必要になり一存では削減することが出来ない。そこで事業者自ら、あるいは提供する製品・サービスをカーボン・ニュートラルにするためには、自らの直接責任のあるScope1とScope2についてカーボン・オフセットし、Scope3については可能な限り考慮してオフセットすることになる。したがってカーボン・ニュートラル製品(カーボン・マイナス製品についても同様)について一般消費者が評価する際には、どの範囲の排出量がどのような種類のカーボン・クレジットでオフセット(相殺)されているのかを見なければならない訳である。CFPデータの信頼性、追跡可能性、透明性が重要になる、SuMPO(一般社団法人サステナブル経営推進機構)は第3者認証型「カーボンフットプリント包括算定制度」を開発している。経済産業省はカーボンフットプリント・ガイドラインを作成するなど業界の製品毎のCFP計算方式の整備を進めている。

次にカーボン・クレジットを購入してCNあるいはCPを達成することになる。このプロセスを企業が独力で行う場合は、CN、CPの環境主張は自己宣言と呼ばれる。このプロセスを第三者がある規格、ガイドライン等に基づいて審査し、規則通りに実施されていることを証明するのは第三者認証と呼ばれている。CFP評価やカーボン・クレジットの評価は長年にわたって研究されて来ているがまだまだ未解明なところも多い。第三者認証のプロセスについても様々な規格やガイドラインがある。

カーボン・ニュートラルの達成はサーキュラーでネイチャー・ポジティブな経済の実現と同時に行わなければならない。1日に全世界で3億トン余りの天然資源を消費し、CO2だけでも1億トンを大気中に放出し、地下水や土壌などを枯渇化させている現在、日々の消費行動を持続可能な方向に改善することは喫緊の課題である。一般市民が2050年カーボン・ニュートラル(CN=Carbon Neutral)な社会に一気に移行することは不可能でも、CNな住宅でCNな朝食をとり、CNなワーキングスペースで働き、CNなホテルに滞在することは可能であろう。CNそしてCPな製品・サービスに慣れ親しみ、リテラシーを向上させることは地域や社会全体がカーボン・ニュートラルへ移行するのに大いに役立つと考えられる。

4. カーボン・ニュートラル・ラベル

CNあるいはCPな製品・サービスであることを一般社会に伝えるにはその生産者、提供者が自ら行う“自己宣言”と、第三者機関に認証してもらいCN、CPの環境ラベルを表示する方法がある。カーボン・ニュートラルの第三者認証の環境ラベルには例えば次のようなものがある。

●環境省/カーボン・オフセット協会のカーボン・ニュートラル・ラベル
●経済産業省のどんぐりマーク
●CarbonfundのCarbonfree Certifiedラベル
●Climate Impact PartnersのCarbon Neutral Certifiedラベル
●Carbon TrustのCarbon Trust Certifiedラベル
●SCS Global ServicesのCarbon Neutral Certifiedラベル
●Climate PartnerのClimate neutralラベル
●BSIのBSI Kitemark
●とちぎカーボン・ニュートラルGoods

第3者認証機関としては上記のカーボン・ニュートラル・ラベル認証機関の他に、国内ではJQA、JMAC、SuMPO、ゼロック、フルハシ環境総合研究所などがある。Carbon NeutralばかりではなくClimate Positive(Carbon Minus)の認証も行われている。問題はこれらのCN、CP関連の環境ラベルの認証の内容が同一なのか、認証プロセスに国際的基準があるのかどうかである。

カーボン中立(Carbon Neutrality)に関するISOの国際規格、ISO14068-1:2023が2023年11月末に発行された。環境省のカーボン・オフセット・ガイドラインはこのISO14068-1との整合性をとるように2024年3月にカーボン・オフセット・ガイドラインVer.3.0に改訂された。カーボン・ニュートラル・マネージメントにおいては先ずバウンダリー内の温室効果ガスの排出削減が優先され、次にバウンダリー内の温室効果ガスの除去の強化が来る。この規格に示されているカーボン・ニュートラルのためのフレームワークに従って生産者は自主的にCN製品を自己宣言し、第3者機関はCN認証することになる。

5. カーボン・ニュートラル製品の実例

それでは現在CN、CP製品にはどのようなものがあるだろうか。ここではインターネットで筆者が検索した製品をご紹介したい。もちろんこれは世界のCN、CP製品のおそらくごく一部であるが、現在の国際動向を議論するには有用だと考える。

表1~6に検索した製品を示した。

表には製品の種類、企業あるいはブランド名、認証機関あるいは研究機関、第三者認証の場合はその認証規格あるいはガイドライン、最後に製品の特長を示すコメントを記載してある。第三者認証ではなく自己宣言の場合は空欄とした。

ところでAmazonでは気候変動に関する誓約に配慮した認証商品を購入することが出来る(Climate Pledge Friendly Certification)。それぞれのカーボン・ニュートラル、カーボン・マイナス(気候ポジティブ)認証製品のなかでベストセラーと表示されている商品例を表7に示した。すなわち消費者はスマホでCN製品、CP製品を注文しているのである。



CN、CP製品の具体例について紹介しよう。データはそれぞれインターネットに公開されている情報である。


(1)日本酒

神戸酒心館(安福武之助社長)は「福寿純米酒エコゼロ」を2022年10月20日に発売した。Scope1とScope2のCO2排出量のネットゼロを達成したとしている。具体的にはカーボン・ニュートラル都市ガスやCO2フリー電力を利用、精米歩合を70%から80%に変更し、醸造日数を7日間短縮してエネルギー使用量を軽減、ラベルを廃した「エコロジー」ボトルを使用している。既に15を越える国に輸出しており2019年度にはエコプロアワード財務大臣賞を受賞し、2020年度にはイギリスのグリーンアワードでウォーターマネージメント賞を受賞している。カーボン・ニュートラル達成は自己宣言であり、第三者認証を受けてはいない。

山形県の酒蔵、小嶋総本店(小嶋健市郎社長)もScope1とScope2の排出量のネットゼロを達成した純米酒、東光を2023年9月5日に発売した。これも自己宣言で第三者認証を受けていない。



(2)ジン

気候ポジティブなジンがスコットランドの家族経営のアービキー・ハイランド・エステート蒸留所(B-corpの認証取得済)から発売されている。このジンのブランド名はナダール(Nadar)で、ゲール語で自然を意味するようである。小麦の代わりにエンドウ豆を原料にしてジンを生産し、700mlボトルあたりCO2が-1.54㎏というカーボン・マイナスを達成したとしている。蒸留マスターである娘さんのKirsty Black氏がAbertay UniversityのThe James Hutton Instituteで5年間、博士課程の学生として取り組んだ研究がベースになっている。指導教官はグレアム・ウォーカー教授である。特色は全ての原料を単一農園で栽培し、エンドウ豆を主原料とすることで窒素肥料が不要となり大気汚染や水汚染を回避したことである。上流の副産物である「ポットエールシロップ」を牛の飼料に活用している。

【参考論文】
①Just the tonic! Legume biorefining for alcohol has the potential to reduce Europe’s protein deficit and mitigate climate change
Theophle Linhardt et al
Environment International Vol.130, September 2019

②Data for life cycle assessment of legume biorefining for alcohol
Theophle Linhardt et al
Data in Brief, Vol.25, August 2019

関連データは論文で公開されており、クライメート・ポジティブは自己宣言である。第三者認証を受けていない。



(3)SAGA COLLECTIVE


地域発のカーボンニュートラル・ブランドである。この協同組合は佐賀県の10業種、11社から構成され、諸富家具、有田焼、うれしの茶、神崎そうめん、佐賀海苔などの製造・販売を行っている。各社には30歳前後の後継予定者がおり、目の前の事業継承はもとより、次の100年の持続可能性を模索している。11社のうち6社がScope1、Scope2のCO2排出量のネットゼロを達成し、その他の企業においてもSAGA COLLECTIVEを通じて販売する商品はすべてカーボン・オフセットしている。参加企業各社はそれぞれ異業種でありカーボン・ニュートラル達成や販路開拓で協力し合えたとしている。

SAGA COLLECTIVE全体の2022年度のCO2排出量はScope1が610t、Scope2が770tと報告している。カーボン・ニュートラル達成は自己宣言であり、第三者認証を受けていない。SAGA COLLECTIVE協同組合(佐賀県佐賀市緒冨町山領266-1)はサステナビリティリポート2023を公表している。

このような取り組みは是非、日本全国に広げたいものである。


(4)卵

英国のスーパーMorrisonsが2022年8月にカーボン・ニュートラル卵の販売を始めた。“Planet Friendly Eggs”と銘を打って6個入りで1.5ポンド(約300円)である。2024年3月29日にはBSIによってCN認証を受けBSIカイトマークの環境ラベルを取得した。Morrisonsの卵のカーボンフットプリントの計算はケンブリッジ大学のIFM/Management Technology Policyが行い、次のような論文にまとめられている。

Analysis of Morrisons Egg Carbon Calculation System

英国の鶏卵協同組合はEggbase、Unique Egg and Poultry Carbon Footprinting Toolを公表しているが、ケンブリッジ大学の研究グループはこれを妥当だと評価している。

“Independent verification for our carbon footprinting calculation.”

英国ではこの他にRespectful eggというカーボン・ニュートラル卵も販売されており、Climate Partnerによって第三者認証を受けている。

2022年11月にはチャールズ国王がヨークシャー州を訪問した際、Morrisonsの小売店でカーボン・ニュートラル卵に「興味津々」だったと報じられている。

実はオランダの先進的な鶏卵農家であるKipsterも2017年に世界で初めてのカーボン・ニュートラル卵の生産・販売を始めた。アップサイクル飼料、ケージフリーなどの動物福祉の向上、納屋から出る空気の洗浄、ライブストリームでオンラインで鶏を見ることができるようにしている。KipsterのCN卵の生産・販売は米国でも行われている。オーストラリアやアジアにもCN卵は拡大しつつある。残念ながら日本のスーパーマーケットではCN卵は販売されていない。

(5)牛肉

岩手大学の斉藤雅典の「食を巡るライフサイクルアセスメントとCO2の見える化(2021)」によれば、毎日の食事からのCO2排出量は大きい。トーストと目玉焼き主体の朝食で1㎏、ラーメンによる昼食で2㎏、夕食では和洋中いずれのメニューでも3㎏程であると述べている。また食品のライフサイクルのCO2排出では、生産段階の排出が大きく、水田からのCH4や窒素肥料等に由来するN2Oや牛の胃からのCH4などのCO2以外の温室効果ガスの割合が大きく、施設栽培のCO2排出の比重も大きいとしている。

オーストラリアビクトリア州でColesがカーボン・ニュートラル牛肉を2022年4月に販売と報じられている。言うまでもなく牛のゲップからはメタンガスが放出されるなど牛肉のライフサイクルでのCO2排出量は豚肉、鶏肉に比較して大きい。様々なCO2排出量低減策を取りながら、最後はカーボン・クレジットを購入してオフセットし、カーボン・ニュートラルを実現しているのである。これについては様々な議論がある。一つは購入したカーボン・クレジットの品質の問題である。Colesが購入したクィーンズランド州のアルムービラ再植林プロジェクトからのカーボン・クレジットは問題だという専門家からの批判がある。アンドリュー・マッキントッシュ教授によるとその再植林地の森林面積は2015~2021年に5,383ha減少しているとのことである(The Guardian)。Coles側はオーストラリア連邦政府のCN基準を満たしていると主張している。2024年2月のユーロニュース(Can beef farming be carbon neutral? A decade-long experiment in Australia has mixed results)によれば、CN牛肉の実験結果はまちまちであるという。

当初はカーボン・ニュートラルを達成できていても、森林成長とともにCO2隔離が少なくなり、CO2バランスは赤字に転落したと評価されている。例としてビクトリア州南西部のジグソーファームズやメルボルン州西部のイブカンターファームが挙げられている。

一方、英国のコーンウォールとデボンの境にある農場では、輪作、樹林の保護、海藻を牛の飼料にしてメタンガスを低減、CO2吸収のために多年草を植えるなどの手段でカーボン・ニュートラルを達成したとしている。しかし世界の牛肉の生産量は増大しており、植林などによるカーボン・クレジットでオフセットするには限界が来るであろう。

(6)バーガー

スウェーデンのMAX Burgersは120のレストランを持ち、5400人の従業員がいる最も高収益なレストラン・チェーンとされている。2018年6月に世界初の気候ポジティブメニューの提供を始めた。MAX Burgersはスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ポーランドに出店しているバーガーチェーンである。2016年からは植物ベースのグリーンバーガーも発売している。全レストランで100%風力発電へ切り替え、再エネ率は92%に達している。破棄される食品は1%未満と低い。バーガーについては農家の土地からゲストの手に渡るまでのカーボンフットプリント(CFP)を評価してメニューに表示し、よりCFPの低いものへの誘導を当初は行っていた。グリーンバーガーは2016年から2018年までに売り上げが10倍になったと報じられている。Plan-Vivo認証システムによるウガンダ、マラウィ、モザンビークにおける200万本の植林によるカーボン・クレジットでバリューチェーン全体のCO2排出量を110%オフセットしているとしている。従って提供するメニューのすべてのアイテムが気候ポジティブであると主張している。

MAX Burgers は環境先進企業の成功事例として称賛される一方で批判もされている。ここでは次の論文を紹介しよう。

“Our burgers eat carbon”: Investigating the discourses of corporate
K L Christiansen et al (2023)
Environmental Science and Policy, April 2023

批判のポイントは、MAXのネットゼロの主張は既存の商慣行を正当化し、排出量を直接削減できる行動から重点をそらしているという点にある。グローバル・ノースの炭素集約型のライフスタイルが維持され正当化されてしまうおそれがある。グローバル・サウスにおけるカーボン・クレジットに大きく依存することや、MAXのビジネス自体は拡大し続け、10年間にわたって排出量は増加している。オフセットをどの程度にすべきかについてはまだ一般的に合意された水準はない。また普通のバーガーかグリーンバーガーかの選択を消費者に負わせていることも問題としている。当初は気候への負担が最も少ないオプションを選択するよう顧客を誘導していたが、気候ポジティブキャンペーンを開始するとこれが変化した。「どこにいてもMAXで食べる、一口一口が気候の改善に役立つ」という企業戦略に変化させたことも問題としている。CO2排出量の110%をオフセットにかかる費用は年間売上高の0.25%に過ぎず、MAXの経営者は、これは有益な投資だと言っていることも問題としている。この論文の批判は傾聴に値する点があると思われる。

(7)時計

Appleは2023年9月12日にカーボン・ニュートラルな時計を発表した。Appleは2030年までにすべての製品をライフサイクル全体でカーボン・ニュートラルにするという野心的な目標Apple2030を掲げている。プレスリリースによれば、製造と製品の使用に100%クリーン電力の使用、重量の30%に再生素材または再生可能素材の使用、輸送の50%を航空輸送を使わずに行うという基準を厳格に満たしているとしている。これらにより各モデルにおける製品のCO2排出量を少なくとも75%削減したと報告している。残ったわずかな排出量を質の高いカーボン・クレジットでオフセットしカーボン・ニュートラルを実現したと主張している。SCS Global Servicesによる第三者認証を受けている。

これに対して環境団体から疑問が噴出している。日本経済新聞の2023年12月4日の記事“アップルの「炭素中立」主張に批判”の一部を紹介しよう。1台あたり7~12㎏という新型アップルウォッチのCO2排出量をクレジットに頼って相殺するということはグリーンウオッシュ(見せかけの環境対応)なのではないかというのである。欧州議会と欧州理事会は2023年9月に「誤解を招く広告」の禁止を政治的に合意し、その中には「製品が環境に中立的、軽減的、またはプラスの影響を与えるという排出量相殺スキームに基づく主張」が含まれる。しかしこの合意は日経の記事の時点ではまだ正式には採択されていない。

筆者は、Apple時計はプレスリリースに従えば、エコデザインに相当尽力している印象があり、グリーンウオッシュと決めつけるのは企業の開発意欲を失わせる恐れがあるように見える。25%ではなくて10%程度ならば許容範囲なのであろうか。もう一つは購入したカーボン・クレジットの品質の問題である。そのカーボン・クレジットは大気中からCO2を永久に除去できるかどうかが問題である。パラグアイやブラジルで牧畜のために森林を伐採してきた土地での植林や森林再生によるカーボン・クレジットは果たして大気中からCO2をどの程度除去できるかどうかが疑問視されているのである。

2050年カーボン・ニュートラルの目標に向かって世界が総動員体制を取って努力している現在、“カーボン・ニュートラル製品”という環境主張そのものをグリーンウオッシュの疑いがあるという理由で全面的に規制するというのは行き過ぎではないだろうか、角を矯めて牛を殺すということわざもある。Appleのカーボン・ニュートラル時計の試みは評価できるし、また環境団体の批判に応えて更なる改善をApple側に期待したい。

(8)花屋

Petalonは英国コーンウォールの家族経営の花屋である。Londonで創業した後、2020年5月にコーンウォールに引っ越し、85エーカー(約35ha)の土地を利用して花の栽培と配達を行っているが、その土地の半分は野生動物に充てられている。B Corpの認定とカーボン・ニュートラルの認定を受けており、同社のホームページには年末利益の100%を英国の自然保護プロジェクトに寄付しているとしている。配達用のパッケージはすべて家庭で堆肥化可能であり、自社の緑の廃棄物はすべて堆肥化して農場で使用しているとのことである。翌日配達年中無休(午後3時30分までに注文)としているが、配達に伴うCO2排出も考慮してカーボン・ニュートラルを達成していると思われる。ちなみにコーンウォールの農場で採れた自家製の季節の花は安価なもので34ポンド(約6700円)である。このような家族経営の花屋も応援したいものである。

(9)ホテル

ドイツバイエルン州のエルランゲンのホテル、Luiseは気候ポジティブな認定をViabonoより受けている。ニュールンベルグ空港から車で20分でアクセスできる場所にある。ホームページによると、CO2排出量を分析、計算し、完全にオフセットしているとしている。従業員の移動やテーブルの切り花についても評価し、総排出量の130%をオフセットしているとのことである。2015年以来実施している。ドイツ初の気候ポジティブ・ホテルと称している。1泊あたり79米ドルから(朝食含む)である。

現在の経営者によると、街の中に自然を取り込むことに全力を尽くしたホテルだそうである。「再成長する部屋(regrowing rooms)」という部屋はすべての製品がゆりかごから次のゆりかごまでの概念に基づいた循環プロセスで設計されている。ホテルLuiseは1956年に創業された家族経営のホテルで、現在は3代目が経営している。客室は92室で従業員は32名である。次のような論文でも取り上げられている。


参考文献:Germany: Creative hotel Luise-The First Climate-Positive Certified Hotel in Europe, Markus Pillmayer and Nicolai Scherle, Development Goal of Industry, Innovation and Infrastructure, ISBN, 11 July 2022


(10)ビール

スコットランドの多国籍企業であるビール醸造所、BrewDogは世界初のカーボン・ネガティブ・ブルワリーになったと2020年8月に発表した。報道によればブルワリーとバーでは風力発電からの電力を利用し、使用された水は浄化されている。スコットランドの高地に9308エーカーの土地での再植林により毎年放出するCO2量の120%のCO2を吸収しているとしている。Positive Planetが第3者認証をしている。Positive Planet Certified Carbon Negative Statusの証明書(2024年11月6日まで有効)には2022年のBrewDogのScope1,2,3の総排出量は12万1,525t、オフセット量は14万5,331tと評価している。330ml缶のビールからのCO2排出量は0.29㎏と評価している。Scope1,2,3などの詳細なデータは同社のMEGA Report(MEGA=Make Earth Great Again)に掲載されている。Mike Berners-Lee教授がBrewDogの独立した科学顧問としてScope3などの計算に協力している。

ディビッド・スズキ財団の記事によれば、ビール生産に伴う主な環境影響は、水の消費量、エネルギー消費、廃棄物と水質汚染であるという。ビールを1樽作るだけでも平均3~7バレルの水が必要である。醸造過程(煮沸、発酵、冷却)ではエネルギーを大量に消費する。カナダではカーボン・ネガティブ醸造所、Karbon Brewingが2021年にトロントにオープンした。すべての原料を地元で調達し、オンタリオ産のホップを100%使用し、使用済穀物の再利用を行い、Scope1排出量についてカーボン・ネガティブを達成している(Organic, local and carbon-neutral beer explained)。2009年の渥美亮、蜂須賀正章による研究によると、サッポロビール黒ラベル350ml缶についてのCFPは0.295㎏CO2と評価されている。BrewDogのCFPに近い値であることには驚かされる。

(11)野菜

英国ノッティンガムシャーの野菜協同組合Freshgrowersは世界初のカーボン・ニュートラルなニンジンを生産したと報じられている。Freshgrowersはその土地の10軒の農家からなる協同組合で、高級なシャントネーニンジンを英国全土のスーパーに供給している。Carbon Neutral Britainなどの協力を得てニンジンの畑での生産からパックハウスに至るまでの製品ライフサイクルアセスメントを実施した。ニンジン1㎏あたりのCO2排出量は0.03gだった。シャントネーニンジン生産全体のCO2排出量の寄与は作業で使用される燃料(77%)で、残りは肥料、作物保護製品、土壌への作物残渣の混入からである。残ったCO2排出量は毎年オフセットされている。

このニンジンは2022年11月22日にチャールズ3世の初の国賓晩餐会で使用されたと報じられている。


参考文献:Nationwide Produce, Organic is the new green: Freshgrowers launch world’s first carbon neutral carrots, 2022年10月28日


日本でもCO2排出量を低減した野菜の生産・販売が行われている。「クルベジ」(商品登録済)とはバイオ炭を使った農地土壌炭素貯留による農産物のブランドで、京都府亀岡市保津町周辺が発祥の地である。バイオ炭を埋めた畑でCO2発生を抑制しながら栽培された野菜が「クルベジ」である。「クルベジ」はカーボン・マイナス(炭素隔離)を推進する野菜ブランドである。地域の放棄された竹林を伐採してバイオ炭を作り、それを農地に使用することで炭素貯留を行っている。炭素貯留は立命館大学や森林総合研究所等で構成される第3者機関によって認定されている。「クルベジ」ブランドは「食べるだけでエコ」、「地球を冷やすクールな野菜」というキャッチフレーズで、CO2削減効果が付与された環境価値を持つ野菜として販売されている。

現在、関東では北総クルベジ(千葉県四街道市、佐倉市、東金市)、有限会社ゆうき(有機農業+バイオ炭)がネット販売している。「クルベジ」の普及については(一社)日本クルベジ協会が設立されている。2020年9月からバイオ炭の農地炭素埋没がJ-クレジットとして認められることになった。クルベジ協会は炭貯クラブを設立し、クレジットの取得、販売、売却益の支払いを行っている。クレジットの売り手と買い手企業の双方が同時(二重)に環境価値を主張することは禁止されている。例えば、本商品はCO2を貯留、削減した農地でできた野菜を使って製造しているという表現は禁止されている。

表1~6に示したCN、CP製品・サービスの61の事例は既に述べたように代表的な事例という訳ではなく、インターネットで検索して容易に見つかる事例であるということに過ぎない。これらの事例を見てすぐ気付くのは次のようなことである。

a)CO2排出量のどの範囲(Scope1,2,3)について削減し、カーボン・クレジットによってオフセット(相殺)しているのかすぐには分からない。例えば酒の場合、原料となる米の生産についてのCO2排出量は考慮されているのかなど。

b)様々なCN、CPの環境ラベルが存在するが、その認証内容や認証プロセスはどこまで共通しているのか、どこまで信頼できるのか分からない。

c)CN、CP製品・サービスの自己宣言の場合、CO2排出量の評価、カーボン・クレジットによるオフセットはどこまで詳細に公表されているのか、データの透明性、追跡可能性に問題がある。

d)CN、CP製品・サービスのブランド名やマーケティングのキャッチコピーが環境科学的に見て不正確で誤解を招きやすいものがある。

6. グリーンウオッシュの問題

CN、CP製品・サービスの環境主張が透明性と明確性を欠き、誤ったマーケティング手段になっている時、それはグリーンウオッシュ(環境について誤魔化す、欠点を隠して良く見せる)と呼ばれる。欧州委員会はこの問題に対処するため環境主張指令案を出している。カーボン・ニュートラル社会への一刻も早い大転換と、その後直ちにカーボン・マイナス(気候ポジティブ)へ進むためにはマクロな改革と同時に消費者行動をカーボン・ニュートラル、カーボン・マイナスな方向に誘導しなければならない。CN、CP製品・サービスはそのための有力な手段であり、“グリーンウオッシュ”の批難を恐れて開発・販売・普及が委縮することは好ましくない。しかし証拠に基づいた信頼性の高い環境主張でなければならないことは勿論である。

欧州議会は2024年1月にグリーンウオッシュと誤解を招く製品情報を禁止する新法を採択した。グリーンウオッシングとは消費者に誤解を与える行為と定義される。この法律では、一般的な環境に関する主張やその他の誤解を招く製品情報は禁止される。承認された認証スキームに基づくか、公的機関によって確立された持続可能性ラベルのみが許可される。さらにこの指令では排出量オフセット制度を理由に、製品が環境に与える影響が中立、軽減またはプラスであると主張することも禁止している。2月28日にはこれまでの指令を改訂した、グリーン移行のための消費者支援に関する指令を賛成467票、反対65票で承認した。その目的はグリーン移行を加速し、誤解を招く環境主張から消費者と企業を保護し、EU域内市場での平等な競争条件を確保することであるとしている。

6月のEU議会選挙後の新議会で最終的に承認された後、2027年実施予定である。従業員10人未満の年間売上高200万ユーロ未満のSMEsには義務付けられていない。罰則としては年間売上の4%や調達プロセスからの排除が挙げられている。禁止される環境主張としては

environmentally friendly(環境に優しい)
eco-friendly(エコフレンドリー)
green(グリーン)
nature’s friend(自然の友)
ecological(エコロジカル)
environmentally correct(環境上正しい)
climate friendly(気候に優しい)
gentle on the environment(環境に穏やか)
carbon friendly(カーボンフレンドリー)
energy efficient(エネルギー効率が良い)
biodegradable(生分解性)
biobased(バイオベース)


誤解を招く商慣行として、「詳細かつ現実的な実施計画に定められた、明確かつ客観的で、一般に公開され、検証可能なコミットメントを伴わない、将来の環境パフォーマンスに関する環境主張」が追加され、この環境主張は独立の第3者機関によって定期的に検証されなければならないとされる(アレシア国際法律事務所による、解説、2024年4月13日より一部引用)。

CARBON TRUSTの新たな環境ラベルには、環境主張の具体的内容が付記されるようである。例えば、いつからカーボン・ニュートラルなのか、2年おきにISO14067に従って認定されているのか、もっと情報を得たい場合にアクセス可能な企業やCARBON TRUSTのウェブサイトなどの情報である。これはカーボン・ニュートラル・ラベルの透明性、信頼性を高めるのに寄与するであろう。

EUの担当者による説明ではカーボン・オフセットはこの指令によって禁止されていないとしている。環境NGOの中にはカーボン・ニュートラルの主張は製品やサービスが気候に影響を与えていないと示唆することで消費者に誤解を与えるため禁止されるべきだと主張しているグループもある。用いられているカーボン・クレジットがジャンク・カーボン・クレジットである場合があるからという理由である。

グリーン購入・エシカル消費の重要性については30年以上前から指摘され、様々な取り組みがなされてきたが、残念ながら取り組みは未だ不十分であると言わざるを得ない。毎日3億トンの天然資源を消費し、1億トンのCO2を大気中に排出している世界経済をどのようにすれば持続可能な状態にできるのであろうか。欧州のグリーンクレーム指令はグローバル・ノースの大企業には適切と考えられる。しかし膨大な数の中小企業や広く一般市民を巻き込むためには、より多様な社会的取り組みが必要であろう。日本経済団体連合会は2023年10月に「サステナブルな商品・サービス選択の推進―共感・応援消費を通じた社会課題解決」を公表している。その中でポジティブな選択・購買に資する2つの消費として、自分らしさを追求する消費(意味消費)と共感・応援消費を挙げている。

具体的には

①研究開発、ビジネスモデルの変革
②サステナビリティ価値の可視化
③当事者を巻き込んだマーケティングへの進化
④消費者との共創、情報・サービス提供へのポイント「安心・身近・共感」
⑤多様な主体間の連携・協働と啓発
⑥企業・消費者双方のコンプライアンス

について事例紹介をしている。この中に是非CN、CP製品・サービスの普及を加えて欲しいものである。

立教大学の河口眞理子は論文『改めて「消費」を問う、エシカル消費をいかに推進すべきか?』の中で、エシカル商品のマーケティングや行動経済学などについてもっと大規模な研究・開発が必要だとしている。

“消費行動を精査し、従来の消費=購入ではなく、「購入」あるいは「入手」の決断にいたるまでのプロセス、および購入・入手後の保持・利用から手放すまでのプロセスに拡張し、消費を再定義する。その結果、新たな主体者としての生活者、または新たな消費しない消費者(ミニマリストなど)からエシカル消費推進のヒントを得る。消費者は倫理的な判断ではなく、家計のため節約のため商品選択をすることを前提に、企業は割高になりがちなエシカル商品の販売戦略を見直す(河口眞理子による)。”筆者はこれに大賛成である。1996年にグリーン購入ネットワークの設立に参加し、日本経済新聞社と産業環境管理協会の共催によるエコプロダクツ展の実行委員長を20年間務めた経験を有する筆者には、環境に配慮した製品・サービスの社会的普及は一大学術的問題であると同時に一大社会的課題であると思ってきた。

政府はグリーントランジッションに150兆円もの資金を投入しようとしているが、その内1兆円くらいをカーボン・ニュートラル製品・サービスのエシカル消費の推進に投入すべきではないだろうか。国内の環境先進企業には需要が無いため埋もれているエコプロダクツが、一方地方の中小企業にはカーボン・ニュートラル/ネイチャー・ポジティブ/循環経済に適合させればサステナブル・ブランド化できる伝統商品が大量に眠っているのである。部分的カーボン・オフセットではなく、カーボン・ニュートラル製品・サービスの普及が私たちの生死を分ける課題となったのである。

7. 結論

(1)地球気候は非常事態にあり、エネルギーや食糧の安全保障に留意しつつカーボン・ニュートラルの早期達成が喫緊の課題である。

(2)毎日3億トンの天然資源を消費し、CO2だけで1億トンを大気中に放出し続けている世界経済を転換させるに当たっては、カーボン・オフセットによるカーボン・ニュートラル製品・サービスの選択はカーボン・ニュートラル社会の実現の手段として最も分かりやすい。

(3)カーボン・ニュートラル製品・サービスの普及に当たっては、その生産・販売がグリーンウオッシシングにならないような社会的制度、支援、規制が必要である。使用するカーボン・クレジットは国内クレジットを優先すべきである。

(4)国内では信頼し得る代表的なカーボン・ニュートラル環境ラベルを設立し運用すべきである。

(5)気候変動と戦うために教育改革を実施し、全大学で気候変動に関する基本的カリキュラムを必修科目とするべきである。

(6)カーボン・ニュートラル製品・サービスの普及のための社会インフラ、行動経済学、マーケティング等の研究のために1兆円程度を投資すべきである。