“素材には社会を変える力がある”を掲げ、様々な社会的課題に挑む東レ株式会社(以下「東レ」)。その取り組みの一つに他社とのコラボレーションも挙げられる。ここではこの5月にリリースで発表した他社との共同開発によって実現したCO2削減の取り組みを紹介する。

COLLABORATION(1)

カーボンニュートラルの実現に向けて ⽮崎総業と東レが
「リサイクルPBT樹脂グレード」を共同開発
―⾃動⾞ワイヤーハーネス⽤コネクターに適⽤可能な特性を実現―


⽮崎総業株式会社(以下「⽮崎総業」)と東レは、製造⼯程から出る端材を利⽤し、⾃動⾞ワイヤーハーネス⽤コネクターに適⽤可能なリサイクルPBT樹脂グレードを共同開発したことを5月14日発表した。 

この開発によって既存のコネクター⽤PBT樹脂グレードと⽐較し、材料製造時のCO2排出量の低減が可能なリサイクルPBT樹脂でありながら、従来材料と同等の材料特性を実現した。 

東レは、製造⼯程から出る端材等を解重合/再重合したPBT樹脂のケミカルリサイクル材「“Ecouse” TORAYCON™」を展開。⼀般的に、樹脂リサイクルでは、異物、異素材の混⼊や材料の品質劣化が課題とされているが、東レは、解重合/再重合からコンパウンドまで⼀貫した品質管理を⾏うケミカルリサイクルを実施することにより、バージン材と同等の⾼品質なリサイクルPBT樹脂の提供が可能となる※1。

⽮崎総業は、⾃動⾞ワイヤーハーネス⽤コネクターのような⾼品位の機能部品においてリサイクル材料の品質安定性が課題だったが、今回、東レのケミカルリサイクルPBT樹脂をコネクター向けに材料物性/成形性を最適化、コネクター⽤のリサイクルPBT樹脂グレードを共同開発したことで、現在使⽤しているPBT樹脂グレードと同等の品質安定性を実現した。

自動車ワイヤーハーネス用コネクター


※1 2023年9⽉29⽇ 東レニュースリリース(HPリンク)
https://www.toray.co.jp/news/details/20230927104022.html

COLLABORATION(2)

CO2削減と経済性を両立するフィルム包装材・技術を共同開発
-欧州食品プラスチック規制(包装材と包装廃棄物に関する指令)に対応-


東レは、Dow Inc.、COMEXI GROUP INDUSTRIES, S.A.U.、サカタインクス株式会社、SGK JAPAN/株式会社シャーク・ジャパン等と、5月15日、リサイクル性と印刷プロセスにおけるCO2削減を実現し、かつ、経済性との両立が可能な表刷りモノマテリアルフィルム包装材技術を共同で開発したことを発表した。

同技術は、世界的な低炭素・循環型社会の実現に向けた欧州食品プラスチック規制(包装材と包装廃棄物に関する指令)にも対応しており、食品や日用品用途での幅広い展開を進めていく。

フィルム包装材は、軽量性や透明性、加工のしやすさなどの特長を持ち、食品や洗剤の詰め替えパウチなどの包装用途に幅広く使われている。今後も世界的な人口増加に伴い、フィルム包装材市場は2023年の33百万トンから、年率4~5%の成長が予測されている※2。しかしながら、現在用いられているフィルム包装材は、各種機能を有する異素材のフィルムを貼り合わせることで、様々な機能や形状を付与しているため、リサイクルが困難という課題がある。

一方、欧州連合(EU)では、2030年末までに全包装材の100%リサイクル可能化を掲げ、2024年4月には包装材廃棄物の削減に関する新法が暫定合意※3され、欧州の包装業界団体CEFLEXでは、包装材と包装廃棄物に関する指令に対応した、包装材のリサイクルに関するガイドラインを作成し、リサイクル適性の段階表示(RecyClass)や、推奨されるフィルム包装材の構成・使用材料を提示している※4。この中では推奨されるフィルム包装材の構成として以下のように定めている。

・90重量%以上をポリエチレンまたはポリプロピレンに統一化するモノマテリアル化
・食品の保存性を確保するためのガスバリア層は5重量%以下
・インキや接着剤等のその他の成分が5重量%以下

これに対して、東レ、Dow、COMEXI、サカタインクス、SGK JAPANは共同で、上記の推奨構成を満たしつつ、プラスチック使用量自体を削減すると共に、印刷工程で発生するCO2を大幅に削減可能な「表刷りモノマテリアルフィルム包装材技術」を開発した。同包装材は、リサイクル性、CO2削減効果に加えて、製造プロセスが短くなることから、コスト削減や納期短縮につながることが期待される。

東レは、この取り組みにおいて、現在使われている有機溶媒現像ではなく、水での現像が可能な製版プロセスと、高精細な印刷品質を実現する新規フレキソ版RESOLUCIA™を、フィルム包装材印刷に適用した。Dowが開発した、高性能ポリエチレン樹脂INNATE™やAFFINITY™をベースとする、ガスバリア性かつ、表刷り適性の高いポリエチレンフィルム、また、サカタインクスが開発したEBフレキソインキ・ニスを用いて、高パフォーマンスかつ操作性の高いCOMEXIのEBフレキソ印刷機で印刷物を作製した。尚、同印刷物は、包装材を構成するフィルムの枚数削減に繋がる「表刷り印刷」を適用。また、SGK JAPANのデザイン設計により、インキ使用量を抑えつつ意匠性を両立している。

今後、各社は、本印刷技術で連携し、食品や日用品向けフィルム包装への標準化に向けて、流通やブランドオーナーに対して開発品の提案を進め、フィルム包装業界の環境負荷低減や持続可能な社会の実現を目指していく。

【参考1】現在のフィルム包装材と開発品の比較

【参考2】開発した表刷りモノマテリアルフィルム包装材

※2 情報出典元:
The future of global flexible packaging to 2028  SMITHERS社

※3 情報出典元:
欧州議会 プレスリリース
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20240419IPR20589/new-eu-rules-to-reduce-reuse-and-recycle-packaging

※4 情報出典元:
CEFLEXホームページ ガイドライン
https://guidelines.ceflex.eu/guidelines/


【用語・説明】

(1)モノマテリアル:
複数の異素材で構成される現在のフィルム包装材と異なり、単一素材のみで構成される包装材です。素材間を分離する必要がないため、リサイクルしやすい設計になっています。

(2)EB(電子線)硬化型印刷:
印刷したインキを電子線照射により硬化・印刷基材に固着させる技術。溶剤インキを用いる従来印刷と比べ、熱乾燥が不要になるため、製造工程の省エネルギー化・CO2排出量削減が可能な環境対応技術です。

(3)フレキソ印刷:
版の素材に樹脂やゴムを使用した凸版印刷方式の一種。表面が平らではないダンボールなどの印刷に多く利用されている。色調整等の操作が比較的容易なことから、近年ではラベルや軟包装などの包装材にも使用されている。