公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)は、昨年12月に発表した、1.5℃目標に整合した社会への道筋を描くテクニカルレポート「IGES 1.5℃ロードマップ – 日本の排出削減目標の野心度引き上げと 豊かな社会を両立するためのアクションプラン」をもとに、脱炭素に取り組む際の指針となることを目指したロードマップ「1.5℃ロードマップ-脱炭素でチャンスをつかむ。未来をつくる。」を4月3日(水)に発表した。

左から田村 堅太郎氏、国谷 裕子氏、  山下 良則氏、 渋澤 健氏、楠木 建氏


発表会ではまず、今回のロードマップについて IGES気候変動とエネルギー領域プログラムディレクター 田村 堅太郎氏がプレゼンテーションし、内容を解説。気候危機が顕在化し、エネルギー基本計画の改定と次期国別削減目標であるNDCの提出が迫る中、定量分析に基づいたエネルギー・電力政策へのインプットが必要である状況の中でこのロードマップが制作されたと語った。そこでは今後の生産性やエネルギーのつくり方、素材利用やルール・インフラ、マーケットマインドといった5つの変化と20の好機について紹介。1.5℃ を目指すなかで 豊かで持続可能な社会を実現していくことが可能な道筋は存在し、そこでは脱炭素は事業機会であることを強調した。

続くトークセッションではモデレーターとしてジャーナリスト 国谷 裕子氏、パネリストとして先にプレゼンテーションした田村氏に加え、株式会社リコー 代表取締役会長  山下 良則氏、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤 健氏、経営学者であり、一橋ビジネススクールPDS寄付講座競争戦略特任教授 楠木 建氏が登壇。気候変動から気候危機、さらに気候が崩壊しつつある今、残された時間の中でロードマップをどのように企業や社会の変革にどのように活用していくべきかなどが語られた。

山下氏はJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)の共同代表として企業から国へ政策提言をする立場から1.5℃ロードマップはわかりやすいと評価。企業という供給側も消費者という需要側も互いの垣根を超えて活用できる“うねり”を起こす必要があると訴えた。

渋澤氏は投資サイドの視点からロードマックを言及。投資を判断する上では財務という「見える価値」と非財務的な「見えない価値」があるが、そういった「見えない価値」に代表されるESG投資が社会や環境への課題解決の意図を指す「インパクト」を重視するポストESGに移行している状況に触れ、このロードマップを実践する企業の主体性が新たな時代に望まれると語った。

楠木氏は問題解決によって利益を得ることが大原則である事業活動にとって、脱炭素という社会課題は、大きな対価が得られる領域であり、そこに取り組むことはチャンスであることを力説。そのためには長期的な視点で戦略を描く必要があり、1.5℃ロードマップは各企業が取り組める分野もマッピングされていることから、その事業活動に生かしやすいと話した。また日本資本主義の父といわれる渋沢栄一氏が自著「そろばんと論語」における「論語」とは企業活動のブレーキを意味する道徳論ではなく、企業が最も長期的に利益を得られる分野であることを指摘。脱炭素に企業が取り組むべき今こそ、このロジックに戻るべきときが来ていると述べた。

また明らかに気候の崩壊が加速する中、経営者のマインドセットはどのようにすれば変わるか?という国谷氏の問いかけに対し、山下氏は気候崩壊が災害につながるなど可視化された状態を国民が深く理解し、変革への機運を高める必要性があると語った。

楠木氏は、ペットボトルでリサイクルされた素材から生まれたインナーウエアなどが「カッコいいから」と普通に買われ、そこに企業がリターンを求めて投資する時代になったことを指摘。供給サイドではなく、需要サイドの動向に変革のカギになると語った。渋沢氏は変革を加速する上では不安を煽るよりも1.5℃ロードマップのデザインのように「ワクワクする」「楽しい」ことで多くの人を巻き込めると話した。