11月21日(火)NPO法人ゼリ・ジャパン/ CENの主催によるシンポジウムが「地球沸騰化を抑制する急速な低炭素化戦略 〜鉄鋼業と建築業における社会変革〜」をテーマに会場とオンラインによるハイブリッドで開催された。

カーボンニュートラルを急げ、気候転換点を超える前に

シンポジウムはCEN名誉会長山本良一氏による基調講演からスタート。「カーボンニュートラルを急げ、気候転換点を超える前に」と題して、我々が直面する気候危機の現状と取り組むべき課題について論じられた。まず山本氏は、気候危機を目の前で人が血を流して倒れている状況に例え、その緊急性を強調。何よりも必要なことは止血であり、それはCO2の排出を1秒でも早く抑えることに当たると語った。

そして、世界の大学や都市において気候非常事態宣言がなされる中、この9月10月の気温は過去最高を更新。10月2日の段階で世界の平均気温が産業革命以降1.5℃を突破した日は26日に達していることを報告した。その中でグリーンランド氷床崩壊、西南極大陸氷床崩壊、熱帯サンゴ礁枯死、北方永久凍土の突発的融解、ラブラドル海流崩壊といった複数のティッピングポイントが突破される可能性があることを指摘。このような崩壊が数珠つなぎで起こる前にポジティブな社会的変化の引き金を引く必要があることを力説した。そういった状況下で大気中の二酸化炭素の直接回収と永久貯蔵を可能にするプラントがアイスランドにおいて稼働中であり、新しく建設する大型プラントも2024年稼働予定であることを報告。カーボンニュートラルへの挑戦が始まっている今、特に注目したいのがグリーンスチールであると述べ、CO2排出という止血をさらに加速すべきであると訴え、講演を結んだ。

今、求められる「グリーンマテリアル」に対する取り組み

「日本と世界の鉄鋼フロー構造」について講演を行った国立環境研究所 資源循環領域 研究員 渡卓磨氏は鉄鋼部門の脱炭素化が必要な理由について言及。素材生産に伴うGHG(温室効果ガス)排出量が増加し、世界の全排出量の4分の1に相当し、その約半分が鉄鋼部門に由来することに着目し、日本の場合、鉄鋼部門の責任はさらに大きく、全GHG排出に占める割合は15%程度となると述べた。その中で日本の鉄鋼業が鉄鉱石の大量輸入と鋼材や製品の大量輸出や老廃スクラップの利用が限定的であり、鉄スクラップの大部分は許容限界の高い建設材料にダウンサイクルされている現状を指摘。

グリーンスチールの世界的な供給不足が予測される中、資産効率性の向上に資するビジネスモデルへの転換の必要性や資源効率性の向上を支援するための政策調整の必要性を訴えた。

経済産業省 製造産業局 製造産業 GX 政策室 室長補佐 鹿間 侃氏は「脱炭素化に向けた鉄鋼業の政策立案について」について講演。水素還元製鉄やケミカルリサイクルをはじめとした革新的な脱炭素技術に対し、莫大な投資がとそれらによって生み出された「グリーンマテリアル」に対して適正な対価が支払われる必要性を強調。企業の削減努力で「生み出された製品が市場で正当に評価されるよう、炭素集約度の評価手法やグリーンな製品の定義などについて国際的に確立することが求められると語った。

国土交通省 住宅局建築指導課長今村 敬氏は、2050年ネットゼロに向け、新築は省エネ・創エネ対策により、建物の運用等で生じるオペレーショナルカーボンが減少、現状では建物の生涯を通じて排出されるすべての温室効果ガスの総和であるエンボディドカーボンの削減が課題であり、またオペレーショナルとエンボディドカーボンの和であるホールライフカーボン対策が急務であると訴えた。

今回のシンポジウムでは日本製鉄株式会社や竹中工務店技術研究所から鉄鋼業と建築業における最新の取り組みが報告され、活発な討論なども行われた。