地球が未来へと持続していくために今、求められる人の意識や行動の変革。地球SAMURAIでは、そこに波動を及す野心的な人物にクローズアップしている。Vol .2では、大石英司氏を取材した。株式会社UPDATERの代表取締役を務める大石氏。2011年にみんな電力株式会社を起業後、2021年に今の社名に変更し、再生可能エネルギーだけではなく、衣食住の様々な分野に「顔の見える化」の裾野を広げ、社会をアップデートしていく取り組みを進めている。穏やかな口調で語られたのは、ブレることなく貫かれた熱い想いだった。

「ビジネスで貧困を解消する」という視点

── 2011年6月に「みんな電力株式会社~ソーシャルエネルギーカンパニー」を設立されました。その決断に至ったのは、どのような想いがあったからでしょうか。

大石:起業する前は凸版印刷で新規事業の開発を担当していました。その頃、テーマにしていたのは、一人ひとりが個性をいかに発揮できる社会をつくるか、でした。個性は顔と同じように一人ひとりがちがいます。そこで個性という“顔の見える”富を生み出す仕組みをつくろうとしたのです。結果、電子小説やコミック、オンラインを活用した音楽、ファッションなどを企画し、カタチにしていったのですが、そういった富をつくることは、ハードルが高く、誰でもできるわけではありません。そんなときに電車の中で携帯電話のソーラー式充電器の付いたキーホルダーを持っている人を見かけました。そのとき、その自分が作った電気という富を市場に流通させる仕組さえあれば、貧困を解消できるのではないか、と気づいたのです。テクノロジーが進化し、電気ならみんなが作れます。「みんな電力」をつくろうと決断したのは、そういった想いがあったからです。



── 個性の発揮が貧困の解消につながると考えるようになったのは、なぜでしょうか。

大石:皆さんにも小学校時代、必ずといっていいほどスポーツが得意であったり、きらりと光る個性を持ったクラスメイトがいたのではないでしょうか。私にもそんな友だちがいましたが、一方で私の地元にも格差があり、家庭の状況によっては教育の機会を得ることができないと感じる経験がありました。私は個性を発揮することと貧困の解消とは密接に関わっていることを痛感しました。それから貧困をビジネスで解消するということが私のテーマになったのです。再生可能エネルギーに関する事業ですから地球環境問題という視点をイメージする人も多いかも知れませんが、まずは貧しさという社会課題があったことになります。

一人ひとりと信頼で繋がり、一人ひとりの消費者を変えていく

── 起業から10年以上が経過しました。
今日まで事業が継続できた理由はどこにあると考えていますか。

大石:着想を得たのは電力自由化の前であり、再生可能エネルギーを普及させる法律は、まだありませんでした。またこの起業は、大手電力会社によって独占された世界に電力事業未経験の私が丸腰で入っていく状態でした。そういった中で始めたビジネスがなんとか持ちこたえているのはただ一つ、「続けること」に尽きると思います。

特にここ数年は電気代が高騰し、社会問題化しています。電力市場は今も大荒れです。仕入れ価格を容赦なく転嫁する電力会社は数多くありました。しかし、電気は生活インフラであるため、今、上げるべきかどうか、と本当に悩みました。そこで出した結論が、半分を固定価格、半分を市場連動価格という『ハーフ&ハーフ』という考え方です。半分しか上がらないが半分しか下がらない戦略に変更したのです。

その後は説明会を何度も開き、お客様に丁寧に説明するプロセスの中で、「そこまでUPDATERさんが言うなら解約しません」「応援します」という声が届くようになりました。最善策を考え続けること。お客様の信頼を損ねないような行動を続けること。そして困難を恐れず、チャレンジを続けること。今、当社が存続しているのは、とにかく「続けること」に徹したからだと断言できます。


── 大石社長が訴える「顔の見える電力をつくる」という考え方に
共感を広げるために工夫されたことは何でしょうか。


大石:けっきょく一人ひとりと対話し、一人ひとりの消費者を変えていくしかありませんでした。以前は、電力会社は選べてもその先にある発電所を選ぶことはできませんでした。100%再生可能エネルギーの電気を買っているつもりでも、実際は石炭火力の電気であるなんてそんなおかしいことがあっていいはずは、ありません。そこでコンセントの向こう側にいる電気を作っている人が選べる「顔の見える電力」をコンセプトにしたのです。

そこに込めた想いを私は、機会があるごとに話してきました。私自身がラジオのパーソナリティを務めており、そこでSDGsに関する様々なゲストをお呼びしていますが、ゲストに共感していただくことで、その先のリスナーの方にも共感を広げることができていると思っています。

また、BtoCの企業とも一定数資本提携し、「みんな電力」のファンをその企業の中につくることができており、その方たちが消費者の皆さんに再生可能エネルギーについて、そして「みんな電力」について素晴らしいプレゼンテーションをしてくださっています。

結果、今は1000を超える法人のお客さま、15,000を超える個人のお客さまに利用いただいています。少ないように感じるかも知れませんが、その中で利用者数は確実に増えつつあります。

これだけ気候変動が問題になり、脱炭素の必要性が訴えられても、まだ電気に関しては無関心の人がいます。しかし、これは我慢くらべです。一人ひとりと対話しているのと同じですから時間を要するのは当たり前です。ただ私には、今後はより多く利用者が相当数の単位で増えていく足音が聞こえています。

危機を乗り越えるために楽しさを加速しよう

大石:法人であれ個人であれ、社会を変えていくアップデーターを増やしていくことが使命だと考え、商号を変更しました。中には電気を再生可能エネルギー変えられない人もいるでしょう。しかし、アフリカで児童労働撤廃に取り組んでいる原料を使用しているチョコレートを選んだり、アジアの労働搾取につながらない服を買ったりすることで世界的な問題の解決に貢献できます。そこには自分の誇りを取り戻したり、まわりに自慢したり、普通の買い物とはちがった消費の楽しさもあります。

一つでも二つでも社会をアップデートする人を増やしていけば結果的には社会を変えることができます。国に頼らず、消費の力、そしてビジネスの力で社会課題を解決していく、そんな会社でありたいと考え、これからも電気からはじめて、衣食住へとアップデートの裾野を広げていく予定です。


── 大石社長は「楽しみながら社会課題解決に貢献できる機会」も重視し、様々なイベントなどにも協賛されています。「楽しさ」を大切にする理由は何でしょうか。


大石:環境問題などのパラダイムシフトは、義務感や危機感から話をしていくほうがわかりやすく、ストーリーも描きやすいでしょう。しかし、それはやがて過激化し、「あなたは、なぜやらないのか」という分断を生んでいきます。それよりも「自分の家の電気は、あのおばあちゃんのソーラーパネルが作っている」「あのアーティストが作った再生可能エネルギーの電気で生活をしている」という語り口の方がワクワクし、共感しやすいのではないでしょうか。そう考え、「楽しい」という観点で世の中にインソールしていくようにしました。

もう一つ、楽しさを重視する理由があります。それは楽しさこそが前に進む力になるからです。ある日、当社の取り組みに大変理解をいただいている大手企業のトップの方から「大石さん、疲れていませんか。大石さんが未来を信じないとどうするのですか」と指摘されたことがあります。自分自身が未来に対して、ワクワクしていないとそれが相手に伝わってしまいます。電気のことも、また今、UPDATERでやろうとしていることも、すべてといっていいほどドロドロとした既存の利権にぶつかります。だからこそ、目先のことだけではなく、その先にある楽しい未来を思い描き、そのワクワクした気持ちをエネルギーに、根気強くコミュニケーションしていくしかないのです。

この夏も気候変動で国内・国外を問わず、様々な災害が発生しました。だからこそ、より楽しさへの加速度を増し、携わる私たちもより良く変わる未来をより一層、楽しく思い描いて前へ進んでいく必要があるのではないでしょうか。みんな電力もUPDATERの事業も「顔が見えること」を大切にしていますが、けっきょくは「楽しい顔が見えること」に着地していくと思います。



大石英司氏プロフィール
凸版印刷株式会社で「ビットウェイ」の事業化などを経て、2011年にみんな電力を創業。世界初の電力トレーサビリティを活用した再エネ100%の「顔の見える電力」により、1000社6000拠点以上を脱炭素化し、ジャパンSDGsアワード内閣総理大臣賞。「価格でだけでなく、価値で選択する人=UPDATER」を一人でも増やすべく社名変更し、人々の行動変容を促す社会課題解決型事業を展開中。TBSラジオ「スナックSDGs」パーソナリティなど。

取材を終えて

インタビューを終えて席を立とうとした大石社長は「今、構想中のプランがある」と話した。それはまだ発表できないが、この電力危機を乗り越えたときに全貌が明らかになると言う。その表情は、少し先の未来を見つめるワクワクするエネルギーに溢れていた。

(取材・記事 宮崎達也)