今、日本をはじめ、各国ではESD(Education for Sustainable Development)への取り組みが進められている。ESDは「持続可能な開発のための教育」と訳され、気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等人類の開発活動に起因する様々な問題を自らの問題として主体的に捉え、問題解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動となる。

11月1日オンラインで開催された第8回エコ・ファーストシンポジウムが選んだテーマは「ESG経営における環境教育と企業」。持続可能な社会を実現するために未来を担う子どもたちへの環境教育の観点から教育現場と企業の取り組みを共有し、協働の可能性を議論した。

一人ひとりの意識と行動の変容の土台となるESD

開会の挨拶に立ったエコ・ファースト推進協議会 議長上田 輝久氏(株式会社島津製作所 代表取締役会長)はSDGsの達成に取り組んでいく人材の育成であるESDの重要性を強調。さらに2008年のエコ・ファースト制度開始から15年という節目を迎えた今、世界の環境を取り巻く状況が非常に変化し、環境関連に取り組むエコ・ファースト企業をさらに増やしていくことが急務であると訴えた。

続いて環境省 総合環境政策統括官 鑓水 洋氏が登壇。世界的に環境問題が深刻化していく中で一人ひとりの意識と行動の変容が不可欠であり、その土台となるのが環境教育であることを確認。環境省が実施している環境教育の基本的な考え方や施策の方向性を話した。

そして、エコ・ファースト企業は「約束」の目標にうち、環境教育の振興に係るものを6割の会社は掲げていることに言及。脱炭素や循環経済という社会への移行に向けて企業が自社のリソースを生かし、環境教育を通じて、市民に持続可能な社会の実現をリードしようとしていることが伺えると述べた。

また、学校では「環境」という科目がないにも関わらず、森林や河川といった身近な自然を題材にしたり、地域の企業や自治体職員から話を聞いたりするなど環境活動を通じて環境問題を自分ごと化しながら、子どもたちの主体性や課題解決能力を育んでいることを北海道の羅臼小学校や山口県周防大島高校の事例を通して説明した。そういった中で重要になる学校と企業との連携をサポートするために環境省と文部科学省とが共同して開設した「ESD推進ネットワーク」を活用した様々な事例を紹介した。

学校と企業が連携することで質の高いESD実践が可能に

続いて奈良教育大学 ESD・SDGsセンター センター長・教授 中澤 静男氏が「学校と企業で育てる持続可能な社会の創り手」と題して基調講演。SDGsの正式名称に「Transforming our world」 があり、「Transform」という言葉は、「修正」や「改善」ではなく、「一変する」という意味となり、2017年の国連総会決議に「ESDがすべてのSDGsの実現の鍵」とあったことを強調し、SDGsの4のゴールである「質の高い教育をみんなに」が他のゴールにつながることを訴えた。

ここから中澤氏は古都奈良の文化遺産に言及。そこには持続可能な社会づくりのヒントと要素がちりばめられていることにクローズアップし、それらがトップダウンのみではなく、市民の自発的な取り組みによってなされていることを洞察した。そして、持続可能な社会づくりも同様に市民が主体的に関わることで世の中が変わることを強調。それはESDが鍵となることを訴えた。さらにESDでは、モノ、ヒト、コトにケア(思いをはせる、気遣いや心配)できる人間性を養うことが重要となり、理性(知識)よりも感性に訴える学習の必要性を力説。持続可能な社会づくりに取り組む人との出会いや協働、その人への「あこがれ」が子どもの生き方に大きな影響を与え、その意味からも学校と企業が連携することで質の高いESD実践が可能になると訴えた。

企業と学校が環境教育の現状と成果を発表

事例発表では、企業側と学校側のESD担当者がそれぞれ登壇した。企業ではダイキン工業株式会社CSR・地球環境センター洲上奈央子氏と株式会社滋賀銀行 総合企画部サステナブル戦略室サステナブル推進グループ長山本卓也氏、大阪ガスネットワーク株式会社事業基盤部コミュニティ企画チーム船溪俊輔氏がプレゼンテーション。ダイキンの洲上氏は小学校5―6年生を対象に行っている環境教育プログラム「サークル・オフ・ライフ」を、滋賀銀行の山本氏は環境金融エコプラス定期預金に言及し、オーダーメイドタイプのSDGs教育を解説。大阪ガスネットワークの船溪氏は、地球環境を考えながら「買い物・調理・食事・片づけ」など食に関連する行動について理解を深める実践型プログラム「エコ・クッキング」や身近な生活での省エネなどを学ぶ「地球にやさしく!くらし見直し隊!」を紹介した。

続いて学校側からは奈良教育大学附属中学校主幹教諭・研究推進部主任有馬一彦氏と奈良女子高等学校 SDGs・探求教科担当新宮済氏が教育現場での取り組みについて発表した。

奈良教育大学附属中学校 有馬氏は奈良県黒滝村でのユネスコクラブと有志のフィールドワークを行った授業などから、生徒自身が、社会問題の当事者とふれあい、机上の空論ではなく、現実での学びが社会の問題と繋がっていると述べた。奈良女子高等学校 新宮氏は、学びのストーリーに企業連携授業を位置づけることで生徒の中から自主的な問いが生まれ、その答えについて企業から評価を受けることで実りの多い環境教育が行われていると話した。

事例発表のあとはパネルディスカッションが行われ、奈良教育大学 の中澤氏をファシリテーターに事例発表を行った5氏がパネラーとなり、学校と企業が連携するメリットなどが議論された。