三井不動産(本社:中央区。植田 俊社長)は2023年10月17日、「カーボンニュートラル実現に向けた三井不動産グループの街づくりについて」の会見を開催。いわば、脱炭素に本腰を入れる同グループの〝本気度宣言〟で、同年4月同社社長に就任した植田俊氏も登壇し、CO2削減に対する意気込みを自らアピールした。
同グループは2021年に脱炭素に向けた数値目標を策定、GHG(温室効果ガス。CO2が大半)削減割合(2019年度比)を、2030年度までに「40%」、2050年度までに「100%」を標榜。今回はこれを必達するための〝処方箋〟の披露と言っていいだろう。
「キモ」は、1)「川上」部分の排出量削減 2)削減計画書の義務化 の2点。
まず1について。グループ全体のCO2排出量は現在(2022年度)約550万tに達する。だが中身を見ると、自社の運用に関する割合は、実は10%と少ない。いわゆるスコープ1(自社による直接排出分)とスコープ2(自社が使う電力などエネルギー源による間接排出分)に相当の部分だ。
これに対し、残りの90%の部分は「他社由来」で、サプライチェーン絡みのスコープ3に当たる。スコープ3は、建築部材(躯体)や内外装、工事の際の使用電力など、施工関係にまつわる「川上=建設時排出」と、竣工後の建築物利用者(オフィス/商業施設テナント、ホテル、居住者など)の「川下=賃貸・売却物件排出」に区分される。
しかし、割合は後者の25ポイントに対し、前者は65ポイントと大半を占める。しかも、その中でも鋼材やセメントなど、躯体に関する建築資材の割合が4割を占めるという。つまり「川上」部分、特に鉄鋼関連への対策が急務だと結論づける。「この部分は他力本願になるが、例えば使用する鋼材を従来の高炉製ではなく電炉製にするなどしたい」と植田氏は強調する。
次に2だが、前述した「川上」の排出量の大幅削減に挑むため、建築資材の製造段階から始まり、輸送、施工に至るサプライチェーン全体の相出量の高精度な算定・把握を実施。第1弾として、グループのサプライチェーンの企業に対して、2023年10月以降に着工する全物件に、「建設時GHG排出量産出マニュアル」を使った算出を義務化した。
これは業界初の試みで、日建設計の協力のもと、従来型の算定式(排出量=総工事金額×排出原単位:kgCO2/円)とは異なり、工種や資材などセクター別の排出量の「見える化」が可能となり、より具体的な対策が講じられるとして期待されている。なお同マニュアルは、業界団体である不動産協会内でも協議され、同社を始めたとした同協会の会員企業や関係省庁、建設会社、有識者による検討会を結成、2023年6月に同協会のマニュアルとして公表されている。
ちなみに、弊誌記者は植田社長にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)と、ヒートアイランド対策について質問。まず前者について、「いち早くキャッチアップし、追随だけではなく前向きに対応していきたい。今年も災害が激甚化しており、開示フレームを決めより積極的進めることが喫緊の課題だと考えている」と回答。
続いて後者については、「気候変動に対し1私企業ではやりきれないところもあるが、1つは(グループ所有の)約5000haの山林を使い、『植える』『育てる』『使う』の循環で少しでも役立てたいと考える。また街では、再エネを自分で作り自己託送したり、打ち水など日本古来のエネルギーを使わない対策や風の道を設けたりなど、できる範囲で頑張っていきたい」と訴えた。
「ESGは経営にとって重要だ、ではなく、経営そのもので、地球環境をどうするかはもはや待ったなし。企業には経済的価値と社会的価値の双方を高める責任があるが、デベロッパーの場合、地球という素材を扱う立場として責任は重い。経済的価値を犠牲にしてでも社会的価値を増やさなければならないという重要な課題に直面している。世の中が求めているので、社会的価値を高めれば、結果的に経済的価値も高まる」と最後に持論を語ってみせる植田氏。
脱炭素に対する手腕に、業界はもちろん、全世界が注目する。
(取材・文 深川孝行)
President of MITSUI FUDOSAN Unveils the Company’s Inaugural “Long-Term Decarbonization Vision”
Mandatory “Emission Manual” – Industry’s First Step Towards Achieving a 40% Reduction by 2030
Mitsui Fudosan, led by President Takashi Ueda, held a press conference on October 17, 2023, titled “Mitsui Fudosan Group’s Urban Development Towards Achieving Carbon Neutrality”. This marked a serious commitment towards decarbonization. President Ueda, who took office in April of the same year, expressed his determination for CO2 reduction. In 2021, the group set ambitious targets for GHG reduction – 40% by 2030 and 100% by 2050 compared to 2019 levels. The key strategies unveiled are: 1) Reduction of emissions in the upstream phase and 2) Mandatory emission reduction plans. Currently, only 10% of the group’s CO2 emissions are directly related to their operations, with the rest being from external sources, particularly in the supply chain. Addressing emissions in the upstream phase, especially in the steel industry, was emphasized as a top priority. Additionally, precise calculation and understanding of emissions throughout the entire supply chain, from manufacturing to transportation and construction, were mandated for all projects commencing after October 2023. This innovative approach allows for sector-specific visibility of emissions, enabling more targeted mitigation efforts.
President Ueda highlighted the urgency of proactive response to climate-related financial disclosures and expressed intentions to leverage the group’s vast forested land for climate action. He emphasized that enhancing both economic and social value is crucial for developers, given their responsibility in managing Earth’s resources. Ultimately, he stressed that prioritizing social value would lead to economic value, aligning with the world’s demands.