グリーン購入ネットワーク(GPN)の専務理事 齋田正之氏と事務局長の深津学治氏らは9月19日、日本国内の持続可能な調達の推進に向けて協働を進めるエコバディス・ジャパンを訪問。来日していたエコバディス社CCO(チーフカスタマーオフィサー)リチャード・エイラム氏らと意見交換を行った。


EcoVadis(エコバディス社)
2007年の設立以来、世界最大かつ最も信頼されるサステナビリティ評価機関へと成長し、10万社以上に対してサステナビリティ評価を提供するフランスに本社を置く評価会社。「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4分野に関する方針・施策・実績について、世界各地の企業がその評価結果をサプライヤー選定における重要な基準の一つとして参照している。同社においてリチャード・エイラム氏は2022年より、評価依頼企業(バイヤー企業)と評価受審企業(サプライヤー企業)のカスタマーサクセスにおける全てのマーケットの最高責任者を務める。


(エコバディス・ジャパン株式会社ウェブサイトhttps://ecovadis.com/ja/)

左:エコバディス社CCO(チーフカスタマーオフィサー)リチャード・エイラム氏
右:グリーン購入ネットワーク(GPN)事務局長 深津学治氏

小さなアクションの積み重ねでサステナビリティが加速

冒頭、深津氏はGPNの概要について説明。1996年に活動をスタートし、日本のNPOで最も大きい環境団体の一つとして、企業や地方公共団体が組織的にグリーン購入に取り組むためのセミナーやフォーラムの開催、環境に配慮している商品やサービスのデータベースの運営、優れた取り組みを表彰するアワードの実施など、全国ネットワーク組織として、グリーン購入を推進してきた歴史や、その活動内容について紹介した。また、2018年からは、従来の環境の側面のみならず、持続可能性に配慮した調達へと活動領域を広げていることを伝えた。同年GPN が作成した持続可能な調達アクションプログラムは、自社の環境面や社会面、持続可能な調達の要求事項をセルフチェックできる仕組みとして作成され、現在、セルフチェックと同時に企業のサプライヤー調査のツールとしても活用されていることを紹介した。

さらに深津氏は、大手企業がサプライヤーへの実態把握の意欲を高める中、世界175カ国、10万社以上の企業のCSR方針や施策、業績を評価するエコバディス社への関心が会員内でも強まっていると述べた。

エイラム氏はGPNの活動に対し、賛同の意を表した後、世界の持続可能な調達の現状に言及。欧州では持続可能な調達において十分なパフォーマンスをあげていない企業が20%以下に留まっているのに対し、日本を含むアジア太平洋地域では50%を超えていることを指摘した。また日本がグリーン購入法やクリーンウッド法があるものの、企業のサプライチェーンへの規制もEUと比較して少ない状況にあることを率直に語った。

それに対して深津氏は、日本国内で調達をサステナブルなものにしていくためには企業の90%以上を占める中小企業の底上げの必要があるという認識を示し、「海外ではどのような取り組みが行われているか」と質問した。

エイラム氏は実際に評価を行った企業の50%が中小企業であり、それらの企業が最初から高い評価を得られていたわけではないと話し、スコアが低かったとしても、取り組みをスタートすることに価値があることを力説。エコバディス社では、まずサプライチェーン全体のリスクを分析し、特定。リスクのモニタリングを行い、アクションプログラムを作成して提案していくことになるが、環境なら環境、人権なら人権と先ず1つの分野からアクションを起こし、徐々に2番目、3番目の項目を増やすことで取り組みが加速できると話した。

変革への責任を感じる企業が世界的に増加

またヨーロッパでは大企業と上場した中小企業に対し、環境権、社会権、人権、ガバナンス要因などの持続可能性事項に関する報告を義務付けるCSRD(企業持続可能性報告指令)が本年1月5日に施行され、財務状況だけではなく、持続可能性に関する報告も求められていることを紹介。今、世界はコストや納期だけではなく、サステナビリティへの取り組みとその評価がビジネスにインパクトを与える動きが増えてきている。そして規模の大小を問わず、世界の多くの企業がサステナビリティのパフォーマンスを重視し、同時にサプライチェーンにおいても改善が期待されていることを訴えた。

様々な変革は、早期にそれらを採択するイノベーターやアーリーアダプターから始まり、多数派へと波及するが今、サステナビリティにおいては、早期の採択者が取り組んでいる段階にあり、大企業、中小企業を問わず、世界を変革する責任を感じている企業が増えている傾向にあると話した。

そして、「日本であれ、世界であれ、世界中の様々な企業がエコバディス社のサステナビリティ評価やGPNのアクションプログラムを活用することでサステナビリティのパフォーマンスを向上させることを期待しています。持続可能な調達を船で例えると、船は連携によって、はじめて進水します。同じように、多くの企業間が連携し、サステナビリティ全体の底上げにつながっていくことが私のビジョンです。」と抱負を語り、GPNとの意見交換を結んだ。

取材を終えて

リチャード・エイラム氏は、カナダから南米への船旅で目の当たりにした海洋の変化とアメリカを車で横断した際に山火事に遭遇し、息子や娘といった次世代が今後、生きる世界を住みやすくするためにサステナビリティの世界に身を投じるようになったという。

サステナビリティの基盤がビジネスにあるとの信念を持つ氏は、顧客に「10年後、あるいは20年、30年後、歴史のどちら側に立ちたいか」とよく質問をするとも伺った。それは傍観者でいるか、変革者になるか、どちらを選ぶか、を意味しているだろう。

今回の取材では、リチャード・エイラム氏の温和な表情の中から未来を見つめる眼差しの強さを感じた。


(取材・文 宮崎達也)