2023年9月13日~15日に幕張メッセ(千葉市花美浜区)で「第20回スマートエネルギーWeek秋」が開催。エネルギー関連の展示会としては世界最大で、今回は3日間に約3万8000人の入場者を記録、国内外から約500社・団体が結集し「脱炭素」の技術・サービスを競った。今回は注目の「二次電池」「水素・燃料電池」に焦点を絞ってイチ押しアイテムを紹介する。

● 東芝三菱電機産業システム「重力蓄電システム」

再生可能エネルギーで発電したものの余剰となった電力を貯める方法として「重り」を使う技術が昨今海外でも実用化され始めており、国内でも東芝三菱電機産業システムが実用化を目指す。

既存の揚水発電と原理は同じで、位置エネルギーを使い、まず余剰電力で「重り」を山頂まで引っ張り上げ、逆に電力が必要の時は「重り」を落下、この時のエネルギーで発電機を回し電気を得る。

鉱山の廃坑を再利用することで低コストを図り、海外では立坑が主流だが、国内では立坑が少ないので斜坑を想定。頂部(山頂)~底部(麓)間にスキー場のリフトのような索道を設け、リフト部分に「重り」を載せる。「重り」は重ければ何でもよく、廃坑で簡単に調達できる岩石やコンクリート塊でOK。

2025年度から岩手県の廃坑で高低差最大約140m、斜角約70度のパイロット・プラントを構築、実証試験を行う見込み。

理論上は10tの重りを100m持ち上げると約2.7Kwの蓄電効果が期待できる。まさにニュートンの「万有引力の法則」を活用した「重力電池」だ。

● 日立造船「AS-LiB」(全固体リチウムイオン電池)

2022年2月JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)は、次世代の二次電池として期待される全固体リチウムイオン(AS-LiB)を搭載した実証装置「SpaceAS-LiB」を、地球を周回するISS(国際宇宙ステーション)に向けて発射。過酷環境の宇宙空間でもAS-LiBが問題なく充放電可能なことを世界で初めて確認。同電池をJAXAと共同開発したのが日立造船で、この時のAS-LiBは65mm×52mm×2.7mm、容量140mAhと小さく、これを15枚並列接続して約2100mAhを搾り出した。今回同社は58mm×132mm×16mmで前述の2倍以上の5000mAhの容量を誇る最新タイプを参考出展。

● 川崎重工業「超大型液化水素タンカー&舶用水素式エンジン」

世界初の液化水素(LH2)タンカー「すいそ ふろんてぃあ」を建造し、2021年に豪州~神戸の輸送実証試験を実施した川崎重工業は、ここで得られたデータを叩き台に、商用化を念頭に置く超大型LH2タンカーのコンセプトモデルを展示。

全長約300mという〝巨体〟は既存のLMG(液化天然ガス)タンカーに匹敵、容量4万㎥の球型タンクを4基積載し計16万㎥(約1万ℓ)のLH2の輸送を目指す。注目は搭載する機関(舶用エンジン:写真参照)を既存のディーゼル方式ではなく水素式とする点。現在同エンジンの開発も並行して推進中で、LH2を輸送中にある程度気化してしまうH2ガスを残さず燃料として活用するという。

● スリーダムアライアンス「長寿命バッテリー共同試作プロジェクト X-10」

二次電池の代表格、リチウムイオン電池(LiB)の寿命を現行の3倍以上に伸ばして脱炭素に貢献しよう――LiBの主要部材「セパレーター」の開発・製造を手掛けるスリーダムアライアンスが〝超長寿命化〟プロジェクトをスタート、他社に参画を呼び掛けている。

LiBは正極(+)と負極(∸)の2つの部屋をリチウムイオンが行き来することで放充電されるが、2つの部屋は特殊な膜で仕切られ、しかも同イオンが自由に透過できる極小の穴が無数に空いている(微多孔膜)。これがセパレーターで、同社は60℃の高温化でもLiBの寿命を現行の2~3年から6年以上と3倍程度に伸ばす高性能セパレーターを開発。

同技術を基に他社とコラボし「バッテリーのサブスク」などを実現、LiBのランニングコストの大幅低減を図るのが目標だという。これにより高コストがネックでなかなか普及しない、再生可能エネルギー発電の蓄電用LiBの普及に弾みをつけ、脱炭素に寄与したいと同社は強調する。

● イシカワLABO「CO2・水素変換装置」

現在実証試験段階だが、商用化されればまさに「夢の装置」と言える。核分裂を利用してCO2分子をC(炭素)とO(酸素)に、さらにこれを「陽子」「電子」「中性子」レベルに分解、プラズマ(=電離)にした後、今度は電子1個と陽子1個をくっつけて、元素の中で最も単純な原子番号1の「H」(水素。通常はH2の気体状態で存在)に〝転換〟させるという技術だ。

「核分裂」と聞くと原子爆弾を連想するが、放射性物質で不安定な「ウラン235」を燃料に高圧・高温下で瞬時に反応させるのが原爆で、放射線という厄介な副産物も出現する。対してこちらの技術は、熱や電磁波で気体は陽子、電子、中性子に分離する、という原理を応用、ステンレス製反応炉に触媒の役割を果たす増幅剤を入れ、CO2ガスで炉内を満たして、300~600℃に加熱するとH2(水素ガス)が発生するという。

いわば「緩やかな核分裂反応」で、もちろん放射能の心配はない。また通常固体で存在するCも炉内で暫く加熱することで核分裂を起こし、中性子も十数分後に「γ崩壊」し陽子に変化するという。同社は、昨今処理水の海洋放出で話題となっている「トリチウム」(三重水素。陽子1個と中性子2個が存在)の「無毒化」にも効果が期待できると強調する。






(取材・文 深川孝行)