社会を本質的に変える力のある革新的な素材の研究・技術開発を推進することで「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」との企業理念の実現を目指す東レ株式会社(以下、東レ)。コア技術である「有機合成化学」、「高分子化学」、「バイオテクノロジー」、「ナノテクノロジー」を駆使して得た直近の2つの成果を紹介する。

Achievement(1)
業界初 感光性ナノカーボン導電ペーストを開発
~マイクロLEDや半導体の微細実装・高生産性を実現~

東レは、電子部品、タッチセンサー等の配線材料として事業展開している感光性導電材料(RAYBRID®1))に新たにナノカーボンを適用することで、微小な電子部品を既存技術対比30℃以上、半分以下の低温・低圧条件で高信頼に接合できる新規接合材料の開発に成功したリリースを7月19日発表した。(2025年初頃の量産目標)

一般的な接合材料であるハンダなどの合金材料は、バンプと呼ばれる接合部の微細化が困難であり、かつ実装時に高温・高圧が必要となるため高速実装に対応できないという課題があった。特に次世代ディスプレイとして期待されるマイクロLEDディスプレイは、10~20μmの非常に微小なLEDチップを、大量かつ高速に実装する必要があり、大きな量産課題となっていた。

そこで東レは、長年培ってきた銀などの金属粒子を含む感光性導電ペーストの技術をベースに、独自のナノカーボン分散技術を融合させて、感光性カーボンペーストを開発した。カーボンを使用することにより、より高い信頼性が得られ、幅広い用途において配線との接合に対応できるようになった。



『開発した技術の詳細』

1.微細バンプ形成
今回開発した当社接合材料は、フォトリソプロセスによりφ5μmまで微細なバンプが形成できる(図1)。従来材料の限界であったφ30μmを大幅に更新し、マイクロLEDや半導体の微細実装を可能とした。

図1)新規接合材料による微細バンプ(φ5μm)


2.低温低圧接合による大面積一括実装

従来材料では180℃、10MPaが必要であったのに対し、東レ独自の有機設計により、110℃、5MPaと大幅な低温化・低圧化を達成した。この技術により、マイクロLEDの一括実装を可能にし、生産性が大幅に向上する(図2)。

図2)マイクロLED一括実装後の点灯基板と点灯LED


3.検査・リペア技術

実装後に不点灯が判明した電子部品についてはリペア処理が必要となるが、従来技術では不点灯部位にバンプを再形成することができず、リペア対応も量産課題の一つとなっていた。同材料はバンプを別基板へレーザー転写が可能であることから、リペア箇所へのバンプ再形成を実現した。

なお、大面積一括実装およびリペア技術については、東レエンジニアリング株式会社と連携し、同社のもつ実装設備、レーザー転写設備により、既に検証している。

東レは電子部品、ディスプレイ、タッチセンサー等に20年以上にわたり感光性導電材料を展開し、強固な量産供給体制を整えている。今回の新規接合材料により素材の幅を広げ、マイクロLEDや半導体等の新規分野に事業拡大を目指す。


<用語説明・注釈>
1)RAYBRID®:金属などの導電性粒子、または、ガラス・セラミックスなどの絶縁性粒子を分散した感光性機能材料。

Achievement(2)
第36回 独創性を拓く 先端技術大賞」産経新聞社賞を受賞
– 非遺伝子組換え技術によるバイオマス分解酵素自製化の研究開発が評価 –

東レは、産経新聞社が主催する「第36回 独創性を拓く 先端技術大賞」において、「非可食性バイオマスからの糖製造向け新規酵素の技術開発」の取り組みが評価され、7月20日「産経新聞社賞」を受賞した。

2023年7月20日に開催された授賞式の様子(左から 西山竜士、山田勝成、加川雄介、野口拓也)



東レは、作物残さなどの食用にできない植物資源(非可食バイオマス)からモノマーを製造するプロセスの実現に向けた実証検討を行っている。2030年近傍を目標に、非可食バイオマスから化学品を製造するトータルサプライチェーンを構築することで、持続可能な資源循環型社会の実現を目指している。

この取り組みにおいて、東レは、バイオマスの構成成分である食物繊維を糖に分解する酵素を高生産する微生物(東レ呼称「T1281」)を、独自に開発した。そして、T1281が、バイオマスから単糖(グルコース、キシロース)のみ製造可能な酵素を生産するのに対して、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の医療用重粒子線加速器「HIMAC」を使用して、T1281に重イオンビームを照射し遺伝子改良を行った結果、グルコースと、キシロースが複数結合した多糖(キシロオリゴ糖)が製造可能な酵素を大量に分泌生産する、新規微生物(東レ呼称「T1647」)の開発に成功した。

T1647を用いた酵素の大量試作では、実験室スケール(5 L)の培養から実用スケール(60,000 L)の培養へ、約12,000倍のスケールアップを達成し、東レ独自開発のバイオマス分解酵素生産微生物による酵素量産化技術を確立した。

今回の受賞は、上記の取り組み内容が評価されたもの。東レのバイオマスを分解する酵素の製造技術は、遺伝子組換え技術を用いないため、遺伝子組換え微生物を用いる際に必要な封じ込め設備が不要で、バイオマスから単糖を製造する過程で使用する酵素の生産コスト削減が可能。

また、東レは、コスト高の課題となる酵素を膜で回収・再利用することにより、酵素使用量を50%削減できる技術を確立している。この酵素回収プロセスを単糖製造に組み込むことによって、コストの多くを占める酵素費を削減できることから、今後、単糖製造システムの普及とともにバイオマス分解酵素製造の拡大が期待される。さらに、本バイオマス分解酵素は、非遺伝子組換え技術を用いているため、食品加工、飼料用途への展開が期待され、すでに複数社と技術ライセンスやビジネス連携について協議を始めている。


【受賞内容】

受賞名/「第36回 独創性を拓く 先端技術大賞」
社会人部門/産経新聞社賞
受賞テーマ名/非可食性バイオマスからの糖製造向け新規酵素の技術開発
受賞者名/東レ株式会社 先端融合研究所(加川雄介、西山竜士、野口拓也、山田勝成) 

「独創性を拓く 先端技術大賞」について

「先端技術学生論文表彰制度」は1986年に理工系学生の独創性と創造性をはぐくみ、研究への意欲を高めることを目的に創設。第16回より「科学技術創造立国」の実現には、産学官の連携や若手技術者の育成が不可欠との考えから、企業の若手研究者・技術者も表彰対象に加えて、名称も「独創性を拓く 先端技術大賞」と改められた。