「危険」「異常」「記録的」といった語句が連日の気象報道に登場している。もちろん、それらは暑さばかりを語るものではない。「線状降水帯」の集中豪雨による甚大な被害も各地で報道され、惨状は目を覆うばかりだ。そういった地球の悲鳴が激しさを増す中、1.5℃目標の達成に対する企業が担うべき使命は日増しに重くなっている。
この状況を予見するように、いち早く自社の地球環境憲章を制定し、気候変動対策に着手してきたのが戸田建設株式会社だ。ここでは同社の常務執行役員 イノベーション推進統轄部 統轄部長の樋口正一郎氏にインタビュー。ドイツのハンブルグ大学で開催されたаGREESシンポジウムに出席し、世界の様々な企業と対話を重ね、帰国したばかりの同氏からその模様やプレゼンテーション内容などについて取材した。
業界を先駆し、気候変動対策に取り組んできた建設企業
──今回、出席したаGREESシンポジウムとは、どのような会合だったでしょうか。
樋口:аGREESとはドイツのハンブルグ大学が中心となり、世界の企業の気候変動対策について公開情報やインタビューを通じて調査しレポートする活動です。当社の場合は、そのメンバーである一橋大学、早稲田大学からここ3年インタビューを受けています。今回、私が出席したаGREESシンポジウムは、その結果発表の機会として開催され、昨年にひき続き3回目となります。ちなみに日本企業でインタビューを受けているのは、戸田建設をはじめアサヒグループホールディングス、安藤ハザマ、NEC、損保ジャパンであり、今年のシンポジウムは当社とアサヒグループホールディングスが参加しました。
──インタビューで戸田建設が最も強調した点は何だったでしょうか。
樋口:аGREESは企業として、環境問題にどういった実績があるか、というよりも、どのように取り組み、努力しているか、という姿勢に関心があるようです。そこで、当社が建設業あるいは全産業においても、いち早く、気候変動対策に取り組んでいることは強調しました。1994年に戸田地球環境憲章を制定したことに始まり、2010年に建設業としては初めてエコ・ファースト企業に認定されたこと。また、SBTへの認定やRE100イニシアチブへの参加もゼネコンとしては初であり、CDPでは連続してAリストに選定されている等、先陣を切っての取り組みは、お話ししていますし、先方も良く理解して頂いていると思います。加えて、当社独自の手法として、作業所におけるCO2排出量の算定手法に「TO-MINICA」というシステムを長年採用し、燃料や電力の実質的な数値を収集している点もご紹介しました。
全世界の目標値「1.5℃」達成を目指し、温室効果ガスを排出削減
──同インタビューの調査内容にはambitiousnessという単語が用いられ、「気候目標の野心度・野心性」をリサーチすることにも重点を置いているように思います。戸田建設の気候変動への取り組みで「野心的」と感じるのは、どのような内容でしょうか。
樋口:極端に野心的とは思ってはいませんが、全世界の目標値である1.5℃に抑えることに対し、当社も温室効果ガス排出削減目標を「1.5℃水準」に更新し、SBTイニシアチブより認定を受け、その達成に向かって進んでいます。それは結果的には野心的な目標に紐づいていることになるのではないでしょうか。ただ、その目標である2050年のカーボンニュートラルの実現には多くの課題が残っていますし、当社だけでは実現できないサプライヤーや社会全体を通じた改革が必要となってきます。
──今回、аGREESシンポジウムに参加された感想を教えてください。
樋口:海外には、我々とは桁ちがいの数のグループ会社を傘下に持つ企業が多く、彼らも当社と同様の悩みを抱えていることを知りました。つまり、グループ会社からのCO2排出量の提出について理解を得るのが大変だったり、収集されたデータの正確性が低かったり、とう点では共通です。また、サプライチェーン全体での材料調達をはじめ、送り出した製品がライフサイクルにおいて排出するCO2の量などを収集する大変さ、また、その根本的な削減については決定打が無いことも認識しました。彼らとディスカッションすることで、悩みを共有できました。
さらに「環境に関する活動を推進するためにはトップの強いリーダーシップが必要である」という意見が異口同音に述べられ、その重要性を再確認できました。また、銀行や機関投資家が脱炭素の方向にシフトし、投資先である企業への真剣度を問う傾向が強まっていることも世界の潮流であることもあらためてわかりました。以前「御社の気候変動に対する取り組みはどうですか?」に留まっていた投資家から企業への質問が、現在は目標の内容や達成方法まで深く聞かれる機会が増えているとのことでした。このシンポジウムは当然ですが、すべてが英語であるため、ディスカッションは特に苦労しましたが、普段聞き慣れている環境系のキーワードを頼りに、何とか乗り切りました。
スコープ3においても新たな取り組みにチャレンジ
──樋口常務は同シンポジウムで「気候変動への対応でレジリエントな企業へ」と題してプレゼンテーションをされていますが、ここで訴えたかったのはどのような点でしょうか。
樋口:データ収集の真剣度(正確性)とその削減に多くの手段を講じていること。たとえば環境配慮型燃料の使用やRE100、ZEBをお客様に進めていること、そして長崎県五島列島沖での浮体式洋上風力発電所の事例や再生可能エネルギー発電事業も紹介しました。プレゼンテーション終了後は様々な質問もいただいたので、当社について多少は興味を持ってもらえたかも知れません。また、洋上風力発電所についてゼネコンである当社が発電事業者として取り組んでいることが、彼らには意外であったようです。
──帰国後も様々な課題に取り組み、多忙な日々をお過しですが、現在、気候変動への取り組みで注力しているのは何でしょうか。
樋口:スコープ1,2の削減は当然ですが、当社がスコープ3で特にその大半を占めているのがカテゴリ1とカテゴリ11です。当社の事業ではカテゴリ1は調達する建設資材(コンクリート、鋼材、内外装材等)の製造に関連する排出、カテゴリ11は施工した建物の使用段階における排出が該当しますが、カテゴリ1については当社と西松建設とで共同開発した環境配慮型のコンクリート「スラグリート®70」についてサステナブル経営推進機構(Sが認証する「エコリーフ」を本年取得しました。当プログラムにおいて、生コンクリートによる取得は国内初となり、建築中の「TODA BUILDING」にも適用しています。カテゴリ11では、お客様にZEB化の提案をより積極的に勧めるために、「ZEB 化のための設計ガイドライン」を作成し体制を強化しました。
──いよいよ一年先の秋にオープンが決定している「TODA BUILDING」。気候変動を含む地球環境問題に留意されているのは、どのような点でしょうか。
樋口:ZEB READYを取得するなど建物自体の環境性能は優れていますし、少なくとも我々が使うエネルギーについては最大限、省エネの運用をしていくつもりです。それ以外のテナントの皆様にも省エネに努めて頂くようにお願いし、さらにエコチューニングを繰り返し、改善に努めていきます。それが、ゼネコンが自社ビルで大きな事務所ビルを所有することの使命ではないかと考えています。そして、この「TODA BUILDING」を拠点に、2050年カーボンニュートラル達成への取り組みを一層加速してまいります。
──本日はありがとうございました。