2023年6月27日に福井県に本社がある上坂(うえさか)会計グループと、一般社団法人SDGs・ESG経営コンソーシアム(横浜市、略称:BOAF)主催の中小企業向けのSDGs経営セミナーが開催された。

中小企業・小規模事業者は、我が国の企業数の99.7%を占め、全国3千万人を超える雇用を支える、我が国経済の屋台骨となっている。そのスケールはSDGsの達成においても重要な役割を担っていると言えるだろう。しかし、中小企業・小規模事業者の経営者は目先の経営課題に追われて、SDGsにまで手が回らないというのも現実かもしれない。

しかしながら、企業価値向上や競争力強化のためにSDGsやESG経営に関心を持つ中小企業も増えている。では、そのために必要なものは何なのか。またどのようなアクションを起こせばいいのだろうか。このセミナーではSDGsコンサルタントの中島達朗氏から、今後企業として存続・繁栄していくために不可欠なSDGsへの取り組み方について解説。上坂会計グループ代表で公認会計士・税理士である上坂朋宏氏からはSDGsを取り入れ、長期的利益を確保するための経営手法と戦略について講演を行った。

第1部:「SDGs経営におけるイノベーションと人材マネジメント」マネジメント

株式会社ふるサポ代表取締役・SDGsコンサルタント
一般社団法人SDGs・ESG経営コンソーシアム(BOAF)理事
中島達朗 氏

SDGsの企業経営におけるリスクとチャンス

冒頭、中島氏が話したのはSDGsとは何か。それは企業経営にとって「リスク」と「チャンス」であり、その理解を経営に活かしていくことが求められていることを強調。なかでもビジネスチャンスは、金融も多くの資金を投入するカーボンニュートラルと海洋プラスチック汚染対策にあると伝えた。


そして、SDGs採択の背景にある世界の人口爆発とグローバル化がもたらすマイナス影響=地球温暖化、気候変動、自然災害の増加、水不足・食料不足、海洋プラスチック汚染、現代奴隷と人権などを列挙した。さらにSDGsの理念は「我々の世界を変革する」「誰一人取り残さない」であり、その考え方から「あるべき姿」を置き、そこから逆算するバックキャストの方が創造的な破壊が生まれやすいことを訴えた。

またSDGsには、実態が伴わないのに、取り組んでいるように見せかける「SDGsウォッシュ」と批判されるリスクもあり、それを回避するためには経営者が本気で社員や会社、地域や社会のことを考え、持続可能な経営を行う「決意」と「行動」が求められていることを伝えた。


中小企業がSDGsに取り組むことの必要性とメリット

そして中島氏は今、世界は先の読めないVUCA(ブーカ)の時代と言われ、V(Volatility:変動性)(Uncertainty:不確実性)(Complexity:複雑性)(Ambiguity:曖昧性)が蔓延しているからこそ、SDGsが経営の羅針盤となることを力説した。そして、その理由の1つとして、SDGsの教育を受けたSDGsネイティブが、10年後、15年後に顧客となることを挙げた。そういった顧客から選ばれたいなら「SDGsは“未来の顧客の考え方”」との認識のもと、しかるべき対策を取らなければ経営リスクとなり、早期に取り組めばチャンスになることを伝えた。その中でブランディングにおいても機能的な価値や情緒的価値に加え、CO2削減や事故防止に繋がる社会的価値を重視する消費者が増えていることを紹介。消費者の行動もインターネットによって「AIDMA」から「AISAS」に移り、様々な商品の社会的価値やその企業姿勢もSearch(検索)やShare(共有)される時代になったことへの理解を促した。


さらに取引先企業や金融機関との関係においてはESG投資が潮流になり、様々な大企業が取引先にSDGsの取り組みを求める取引行動指針(CoC)を発表していることに言及。今後、その取り組みが取引条件となる可能性も高いことを説明した。


イノベーションと人材マネジメント

次に中島氏は今後、会社が成長していく上では、社員のモチベーションや生産性の向上が鍵になることを強調。そのためにSDGsをツールとして活用し、社会課題や地域課題を解決していくサービスを提供すれば会社のプレゼンスが高まり、誇りが醸成し、新たなモチベーションがアップ。その循環をイノベーションに繋げていこうとする経営者が、増えている現状を説明した。またイノベーションは既存のものと既存のものをかけ合わせれば生まれやすくなることを様々な事例を用いて解説した。さらに就活においてはZ世代やミレニアム世代の就労意識が変化し、企業がSDGsに取り組むことで志望度が高まることを伝えた。

パートナーシップの活用については、内閣府が実施する地方創生SDGs官民連携プラットホームを紹介。さらに民間企業と自治体がコラボレーションした事例を伝え、ふくいSDGsパートナーの登録制度についても解説した。

第2部:SDGsは長期的利益を確保するための最強の戦略

上坂会計グループ 代表
公認会計士・税理士
上坂朋宏 氏

「世界を5分間沈黙させた少女であるセヴァン・スズキ」

登壇した上坂氏は冒頭、「世界を5分間沈黙させた少女」であるセヴァン・スズキさんの1992年のスピーチ動画を紹介。その後に上坂氏は子どもたちの未来が今、大人世代である私たちの行動一つひとつで変わっていくことを訴えた。


そこから同氏が考える経営の4要素=時流の把握、経営者(幹部)の在り様・心構え、組織づくり人づくり、組織の重要性を解説。そしてPurposeやVision、Valueは時流の把握と経営者の在り様・心構えから生まれるため、この部分を整えることが重要であると話した。


その上で経営者は、企業の成長と同時に地球環境への配慮を当然考えるべきであり、企業として持続可能な世界にするために、今までの成長とは別の価値観に基づく経済(ビジネス)モデルが必要であると語った。そして、経営の目的は企業の永続性(サステナブル)であり、

そのため社会性を満たしながら収益をあげていく経営の重要性を強調。さらに様々なジレンマを抱えながら、持続可能な発展のためのマクロなあるべき状態とそれに貢献する企業のミクロでの具体的なビジネス活動のあり方を具体的に創造し、実践の中で融合すること。そこに経営者は、新たな企業家活動を求められ、そのためには、ミクロでの具体的なビジネス活動のみに捉われがちな意識を変える覚悟が必要であると訴えた。


日本の先達に学ぶSDGs経営

そして上坂氏は、「利は義の和なり」との佐藤一斎の言志後録や二宮金次郎の「道徳経済一元論」の報徳思想、稲盛和夫氏の「人生と仕事の結果=考え方×熱意×能力」の言葉や近江商人の自らの利益のみを追求することをよしとせず、社会の幸せを願う「三方よし」の表現を紹介。それぞれにSDGsやCSRに通じる思想が注がれていることを伝えた。


そこから経営者はSDGsへ取り組む経営者の在り様として環境に対して①経営者が「絶対に必要だという想い」が不可欠であること②事業の中で展開できることを思考すること③短期的な利益ではなく、長期的な思考をもつこと④4Rの中でリサイクルは最後の工程であり、その前にリデュース(削減)やリペア(修復)、リユース(再利用)も考えてほしいとの4点を訴えた。


上坂氏の考える「経営定義」

次に上坂氏は、経営とは「継続した投資回収の仕組みの活動であり、変転する市場とお客様の要求を見極め、これに合わせて我が社を創り変えることである」と述べ、さらにお客様から選んでもらうための行動計画が戦略になると語った。

その上で持続可能性を有する経営に変革するためには短期的視点を長期的視点へ、金融資本をやりがい・社会資本へ、株主・利害関係者を社会全体へと変えることがポイントになり、それはそのままESGに繋がり、さらにESGの追求は自動的に長期的利益に結びつくことを力説。SDGsは長期的利益を確保するための最強の戦略であることを結論づけた。


また、そういった中で導き出される新しい企業家活動とは、地球規模での人口・資源・環境問題から、新たな経済モデルが必要となり、サーキュラーエコノミーも単なる資源リサイクルの話ではないことを強調。企業起点のビジネスモデルからお客様起点のビジネスモデルがより重要になってくることを示し、製造して販売するスタイルから、利用・メリット享受時点で儲けるビジネスモデルへの転換が求められ、デジタルを活用して今後「何屋」になるか、をSDGsという視点を入れて再定義を考えていくべき時が来ていると訴えた。