2023年6月15日にベイヒルズ税理士法人(横浜市)、一般社団法人SDGs・ESG経営コンソーシアム(横浜市、略称:BOAF)主催の中小企業向けのSDGs経営セミナーが開催された。BOAF(ボーフ)は、2022年に中小企業向けにSDGsやESG経営を啓発したいという志ある税理士や大学教授、企業経営者、専門コンサルタントが集結した社団法人だ。

メンバーには政府のSDGs表彰制度であるジャパンSDGsアワードの2018年度パートナーシップ賞を受賞した株式会社大川印刷も参加している。

当日は、SDGsにも積極的なエプソンの「エプソンスクエア丸の内」から全国の100社を超える参加者に発信され、BOAFメンバーである、株式会社ふるサポ代表取締役中島達朗氏、エプソン販売株式会社の奥村智樹氏、ベイヒルズ税理士法人の岡春庭氏が講演した。

「SDGsへの取組みの有無」──それが本業の取引関係や融資に影響し、さらに「顧客」であり「人財」でもある若者たちは、SDGsに関して高い意識を持つなどSDGsへの対応は今や企業の成長には不可欠となっている。そういった中、SDGsを経営に落とし込むための具体的な方法を啓発するBOAFの活動に注目が集まっている。

「SDGsをビジネスに活かす!―電気代高騰対策」

株式会社ふるサポ
代表取締役・SDGsコンサルタント
中島達朗 氏

最初に登壇した中島氏は、まずSDGsが「2030アジェンダ」という文章の一つのパーツであり、そのタイトルが「Transforming our world」であることに言及。先の読めないVUCA時代の今、SDGsの落とし込みが課題の企業には「Transforming our company」が求められると訴えた。またSDGsは2030年という目標達成期限が定められたゴールであると同時にツールであることから会社、仕事、業務で活用ができると話した。


そしてSDGsを採択に至らせた世界の急激な人口増加とグローバル化という背景を説明。主要なテーマとして、1.未来のお客さま対策、2.カーボンニュートラル対策、3.人権DD(デューデリジェンス)対策の3つの観点からSDGsのビジネスにおけるチャンスとリスクについて解説した。

まずSDGsは若い世代の関心が高く、SDGs教育も本格化することで、未来の顧客はSDGsの重要性を認識した「SDGsネイティブ」となることを強調。それらの視点を経営に取り入れ、SDGsという“未来の顧客の考え”に対する対策を取らなければ経営リスクに直面し、早期に取り組めばビジネスチャンスになることを伝えた。


次にカーボンニュートラル対策においては、取引先である大企業がSBT加盟企業などである場合、自社がCO2排出量を削減する取り組みを行っているかどうかで優位性がちがってくることを説明。また足元の課題として、電気代の高騰が予測されることから省エネ設備については「壊れるまで使わないともったいない」ではなく、「省エネ設備に替えることは電気代がよりお得になる」という視点も持ってほしいと訴えた。カーボンニュートラルや省エネ設備の導入は、資金手当ても含め、金融機関や顧問税理士に相談してもらいたいとした。

続いて人権意識の向上への対策強化(ビジネスと人権、人権デューデリジェンス)について解説。日本政府も時間外労働規制をはじめ、パワハラ規制法も2022年4月から対象になったことに触れ、退職した社員から会社や役員、部長などの管理職が訴えられる時代になったことを話した。そして訴訟対策や予防策を成長戦略へと繋げていくためには従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」が必要となり、そのための行政サイド支援策もあることを紹介した。次に中小企業がSDGsに取り組む方法を解説。「おススメ3Step」としてⅠ.業務の各ゴールとの紐づけ(最初は後付けマッピングから)、Ⅱ. SDGs宣言と目標設定(重要課題“マテリアリティ”と指標(KPI)設定)、Ⅲ. SDGsを共通言語にパートナーシップやイノベーションを推進、があることを話し、業務との紐づけである「後付けマッピング」と「先付マッピング」と言われる目標設定の重要性を強調した。最後にSDGsは“Think Globally, Act Locally”~地球規模で考えながら、自分ごととして行動することを訴えて講演を結んだ。

「SDGs─現場から始める貢献の第一歩」

エプソン販売株式会社
奥村智樹 氏 

エプソン販売株式会社 グリーンモデル推進部にて企業のサスティナブル経営に向けた支援を行う奥村氏は、「SDGs─現場から始める貢献の第一歩」をテーマに講演した。そこでは、まずエプソンが長きにわたり、環境問題に取り組み、すでに発表した「環境ビジョン2050」を2021年に改訂し、カーボンニュートラルからカーボンマイナスを目標にその取り組みを加速していることを強調。エプソンが実現する環境配慮型オフィスの取り組みとその圧倒的な低消費能力を持つインクジェットプリンターや水をほとんど使わずにオフィスで使い終わったコピー用紙を再生できるペーパーラボについて説明した。

また脱炭素の実行フェーズにおいて何からはじめればいいかわからない企業に対し、自社の取り組みをもとに環境/DXに関する診断を行い、現状把握から課題解決に向けたアドバイスレポートを提供する「環境/DXに関するアセスメントサービス」について説明。さらにペーパレスに関するお困り事相談にふれた。そしてエプソンのサービスと地域が連携した共創事例を紹介し、SDGsにあるパートナーシップの重要性を訴えた。

「SDGsをビジネスに実装・SDGs経営診断」

ベイヒルズ税理士法人
税理士
岡 春庭 氏

ベイヒルズ税理士法人で代表社員を務める岡氏は、企業経営から見たSDGsの位置に言及。社会やステークホルダーが自社に要請する経営リスクに対応する生存戦略である「守りのSDGs」、自社の持つ技術、ノウハウ、知見を活用して社会課題の解決に貢献する成長戦略である「攻めのSDGs」、自社が具備すべき経営体質を強化し、長期的成長を目指す持続戦略である「土台作りのSDGs」の3つがあることを紹介した。さらに中小企業がSDGsを導入する期待効果が、「取引条件や取引量の増加」、「新たな事業機会の創出」、「企業イメージの向上」や「人材確保」、「経営リスクの軽減」に至るまで5つの分野に波及すると話した。

そして「中小企業がどうすれば経営に導入できるか」に言及。①導入から②経営への取り組み、③経営に実装し100年企業を目指すという3つのSTEPから説明した。最後に「SDGsは大企業から始まり、今や中小企業にも押し寄せている」ことを訴え、この大きな波に飲み込まれるのか、それとも大きな波の先端を走るのかによって企業の盛衰は決まってくると力説。「社会に貢献する事業を通して、自社の事業も発展させ、利益を上げていくことを目指そう」と呼びかけた。

新しいビジネスを共創できるエプソンスクエア丸の内

会場となった「エプソンスクエア丸の内」は、各企業やパートナーが新しいビジネスを「共創」していくことを目指し、エプソンが取り組む社会課題の事例や共創のもとになる技術を体感できるイノベーションエリアを新設。ここは顧客やパートナーと共にアイデアを具現化し、社会課題解決を目指す交流スペースとなっている。また館内では、社会のさまざまなシーンにおいて、ビジネス製品から要素技術に至る幅広い商品とサービスを用いて社会課題を解決するアイデアを紹介。また、共創の窓口となるコラボレーションコーディネーターが常駐し、アイデアの実現についても相談ができる。

最後に参加者との質疑応答、交流の時間では各登壇者に多くの質問が寄せられ、中小企業のSDGs・ESGへの関心の高さが改めて示された。なおBOAFでは、コンソーシアムに参加したい税理士を全国で募集している。関心のある方は、BOAF事務局に問い合わせてもらいたい。

一般社団法人SDGs・ESG経営コンソーシアム
https://boaf.or.jp/