暮らしの様々な場面で多く用いられているフィルム包装材と産業用途全般に幅広く使用されているガラス繊維強化PPS樹脂。この2つの分野の製造工程とリサイクル工程において東レの技術が環境負荷軽減を実現に貢献。大幅なCO2排出量削減やリサイクル率の向上を果たした。

人と環境にやさしいモノマテリアルフィルム包装材・技術を共同開発
―VOCフリー化・CO2排出量80%削減・リサイクル対応を実現―

東レ株式会社(以下「東レ」)、三井化学株式会社(以下「三井化学」)、株式会社熊谷(以下「熊谷」)は、フィルム包装材製造工程でのVOCフリー※1化、従来品比でのCO2排出量80%削減、さらにはリサイクルにも対応する、人と環境にやさしいモノマテリアルフィルム包装材とその製造技術を共同で開発したことを5月30日に発表した。

フィルム包装材は、軽量性や透明性、加工のしやすさなどの特長を持ち、食品やシャンプー・洗剤の詰め替えパウチなどの包装用に幅広く使われており、今後も世界的な人口増加に伴い、フィルム包装材市場は年率3%以上※2の拡大が予測されている。

一般的なフィルム包装材の製造工程において、文字や絵柄などの情報をプラスチックフィルム上に印刷する工程で用いられるインキや、プラスチックフィルム同士のラミネート工程で用いられる接着剤には石油系溶剤が使用されており、VOC(揮発性有機化合物)の発生源となる。さらに、インキや接着剤に含まれる石油系溶剤を加熱乾燥し、燃焼処理する設備が必要となるため、多量の電力エネルギーを使用する。また、さまざまな機能を付与するために異なる素材のプラスチックフィルムを貼り合わせていることから、リサイクルが困難なため、廃棄物として焼却処分されている。

このようなフィルム包装材製造時の石油系溶剤使用に起因したVOC発生による労働環境への影響、電力エネルギー使用や廃棄処分時の焼却等で排出された温室効果ガスであるCO2による地球温暖化への影響等が懸念されており、フィルム包装材製造時のVOCフリー化、CO2排出量削減やリサイクル対応が喫緊の課題となっている。

これに対し、東レ、三井化学、熊谷は、インキ・接着剤に石油系溶剤を使用せず、リサイクルにも対応するモノマテリアルフィルム包装材とその製造技術を開発した。

その開発品の製造工程では、東レが省電力かつ熱乾燥工程が不要な電子線(EB)硬化インキに対応した独自のオフセット版IMPRIMA™※3による印刷工程を実証し、三井化学が石油系溶剤を使用しない接着剤によるラミネート工程を実証することで、インキ・接着剤に石油系溶剤を使用しない製造工程のVOCフリー化を実現した。その結果、労働環境が改善されることに加えて、熱乾燥などに使用する電力消費量を大幅に削減することが可能となり、製造時のCO2排出量を従来品比80%低減する。

また、熊谷のパッケージ製造加工技術を組み合わせることで、これまで難しかった単一のフィルム素材からなるモノマテリアルフィルム包装材の開発に成功し、従来のフィルム包装材と比べて容易にリサイクルが可能となる。


※1 VOCフリー:VOCとは、Volatile Organic Compound(揮発性有機化合物)の略で、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどが該当し、有機溶剤系塗料に含まれる。本リリースにおける「VOCフリー」とは、乾燥工程におけるVOC排出がゼロである事を意味する。
※2 情報出典元:The future of global flexible packaging to 2025  SMITHERS社
※3 IMPRIMA™:印刷時にVOCを含む湿し水を用いないことや、製版時にアルカリ現像廃液を出さない等の特長を持つ東レの環境配慮製品。

欧州でガラス繊維強化PPS樹脂のリサイクルプロセスを確立
-SKZがカーボンフットプリント約45%削減可能と検証-

東レは、6月1日に欧州における樹脂製品のマーケティングおよび販売会社であるToray Resins Europe GmbH(略称:TREU)にて、射出成形工程から廃出されるガラス繊維強化PPS樹脂のリサイクルプロセスを確立したことを発表。同プロセスは、東レのコンパウンド技術を前提に委託加工パートナーである高機能樹脂製品リサイクル・コンパウンド会社MKV GmbH Kunststoffgranulate(本社:ドイツ・ベセリッヒ、www.mkv-kunststoff.com)との協力の成果となる。

同プロセスを適用したリサイクル率50%のガラス繊維強化PPS樹脂は、ヴァージン原料を用いた射出グレードと比較して90%以上の機械強度を保持しており、カーボンフットプリント(以下、「CFP」)を約45%削減可能。CFPは、欧州合成樹脂のリーディング試験機関であるSKZ-Das Kunststoff-Zentrum(本社:ドイツ・ヴュルツブルク)が製品のライフサイクルアセスメントに関する規格であるISO14040/14044およびCFPに関する規格であるISO14067に基づき算出し、検証された。

ガラス繊維強化PPS樹脂は、難燃性、長期耐久性、耐薬品性に優れた特徴から、EV含む自動車、電機・電子、水廻り部品等産業用途全般に幅広く使用されている。近年は、世界的な環境意識の高まりからリサイクルへのニーズが急速に拡大しているが、従来のリサイクルでは、成形加工が繰り返されることにより、ガラス繊維の長さが短く折損し、機械強度の大幅な低下が生じるため、リサイクル比率を低く抑える必要があった。

今後、東レは欧州の顧客向けを中心にサンプルワークを展開し、リサイクル素材・製品の全社統合ブランドである「Ecouse™」シリーズの「“Ecouse”TORELINA™」として、販売予定している。