2022年はロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な化石燃料価格の高騰がエネルギー市場に多大な影響を与え、エネルギー危機が現実のものになりました。一方で、新型コロナウィルスの影響からの世界経済の回復により、世界全体のCO2排出量は増加し、パンデミック前の水準に戻っています[1]

2021年にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26のグラスゴー気候合意では、世界全体の産業革命以降の気温上昇を1.5℃に抑える努力をすることが合意されました。そのためには、2030年までにはCO2排出量を世界全体で45%削減し、2050年には実質ゼロを目指す必要があります。各国が提出したNDC(国が決定する貢献)では、まだまだこの1.5℃目標の達成には不十分ですが、世界の自然エネルギー市場は当面の目標となる2030年を見据えて成長を続けています。その中で、昨年2022年の自然エネルギーの成長は加速し続けており、2022年末までには太陽光発電の累積の設備容量は1000GW(ギガワット, 1GW=100万kW=原発1基分)に達して、ついに1TW(テラワット)の領域に入りました。風力発電も900GWを超えたと推計され、合わせると約2TWとなり、原子力発電の設備容量(約400GW)の約5倍に達しています(図1)。

一方、原発の設備容量は2022年も廃止が新設を上回り、引き続き減少しています。さらに、2022年の太陽光と風力と合わせた年間導入量は約270GWに達して、前年の約250GWをさらに上回り、過去最大となりました。2022年の太陽光発電の年間導入量は約190GWになりました[2]。一方、風力発電は約77GWが1年間に導入されました[3]。累積の設備容量では2021年末までに太陽光発電が風力発電を追い抜いています。2021年の時点で、年間の発電電力量でも、太陽光が約1000TWh、風力が1800TWhで合わせて約2800TWhとなり、原発の2650TWhをすでに上回っています[4]

世界全体の2022年の低炭素技術への投資額は1兆億ドルに達したとBNEF(Bloomberg NEF)により推定されていますが、前年から30%増加して過去最大の投資額でした[5]。このうち自然エネルギーへの投資額は過去最高の4950億ドルに達して、前年から約17%増加しています。さらにバッテリーを含む電気自動車(EV)関連の投資が4660億ドルに達し、前年から54%増加しており、自然エネルギーへの投資を上回る急成長をして、投資額で迫っています。水素関連への投資額は、いまだ11億ドル程度で、投資額全体の0.1%に留まっています。国別では、中国が圧倒的なリードを見せており、全体の約半分の投資額5460億ドルに達しています。国別の第2位は米国で1410億ドルでしたが、ドイツが第3位で、EU全体の投資額は1800億ドルに達しています。

IEA(国際エネルギー機関)が公表した自然エネルギーの展望に関する最新レポート”Renewables 2022”では、2022年から2027年までのこれから5年間の予測が示されており、この期間の新規導入量が2.4TWに達すると予測しています[6]。つまり2016-2021年の5年間の平均では、自然エネルギー発電設備の年間導入量は200GW程度でしたが、これからの5年間(2022-2027年)には、毎年平均で480GWが導入されると予測しており、世界全体の発電設備の90%に達するとしています。


[1] Global Carbon Project: Carbon Budget 2022 https://www.globalcarbonproject.org/carbonbudget/ 
[2] IRENA “Renewable Energy Capacity Statistics 2023” http://www.irena.org/ およびSEIA “U.S. Solar Market Insight” https://www.seia.org/us-solar-market-insight
[3] GWEC “Global Wind Report 2023” https://gwec.net/globalwindreport2023/
[4] The World Nuclear Industry Status Report 2022 https://www.worldnuclearreport.org/
[5] BNEF https://about.bnef.com/blog/global-low-carbon-energy-technology-investment-surges-past-1-trillion-for-the-first-time/
[6] IEA “Renewables 2022” https://www.iea.org/reports/renewables-2022

図1: 世界の自然エネルギー(太陽光および風力)および原子力の発電設備の導入量
(出典:IRENA、GWEC、IAEAなどのデータから作成)

太陽光発電の累積導入量では2015年以降、中国が世界第一位となっており、2018年に国レベルの買取制度が中断したにも関わらず、さらに導入が進んでいます。すでに中国が、世界の太陽光発電の年間導入量の3分の1以上を占め、2022年には約86GWを一年間で導入して累積導入量でも2022年末までに390GWに達し、圧倒的な世界第1位となっています (図2)。

米国については、米国太陽光産業協会(SEIA)からの発表では、2022年に新規に20GWを導入して2022年末には累積で140GWに達し、世界第2位となっています[7]。これに日本が約79GWで続き第3位となっていますが、新規導入量は5GW未満に留まっています。なお、これらの太陽光発電の設備容量のデータは、太陽光パネルの発電出力が基準になっています(DCベース)。一方、日本国内で公表されているFIT制度でによる導入量は系統接続された出力(ACベース)が基準になっており、DCベースよりも1割程度小さくなるので注意が必要です。

ドイツは、2014年まで世界1位の累積導入量でしたが、2022年末では66GWで第4位です(新規導入量は7GW)。以下、累積導入量が20GWを超える国が10カ国あり、インドが63GW、オーストラリアが27GW、イタリアが約25GW、ブラジルが24GW、オランダが22GW、韓国が21GWとなっています。この中でインドは、年間13GWを導入して、60GWを超えました。ブラジルも新規に10GWを導入しました。オランダも8GW近くを新規に導入しています。それらに続き10GWを超える国は全部で15か国(前年は14か国)あり、ベトナムが18GW、スペインが18GW、フランスが17GW、英国が14GW、ポーランドが11GWとなっています。

世界全体で累積導入量が2GWを超える国は32カ国(前年は31か国)に上ります。太陽光発電の年間導入量でみると日本は前年から若干増加して5GWを2022年に新規に導入しましたが、それに対して米国はその約4倍の20GW、インドは13GWを新規に導入しています(図3)。人口あたりの累積導入量は、オランダが約1200W/人で世界第一になっています。第二位はオーストラリアの1000W/人、第三位のドイツの800Wと続き、日本は約600W/人で第4位でした。


[7] SEIA “U.S. Solar Market Insight” https://www.seia.org/us-solar-market-insight

図2:国別の太陽光発電の累積導入量のトレンド(出所:IRENA,SEIAデータより作成)
図3: 国別の太陽光発電の導入量(2022年末)トップ20
(出所:IRENA,SEIA等データより作成)



風力発電市場は2010年以前には欧州の一部の国(ドイツやスペインなど)や米国が牽引していましたが、2010年以降は中国が風力発電市場を先導しており、欧州各国(英国、フランス、イタリア、トルコ、スウェーデン、ポーランドなど)や他の新興国(インド、ブラジルなど)でも導入が進んでいます。中国での風力発電の年間導入量は2014年に20GWを超えて以降、2018年には48GWに達していましたが、2022年の年間導入量は約38GWでした[1]。世界全体の風力発電の年間導入量約77GWの約5割を中国が占めており、日本国内での年間導入量0.14GWの実に260倍近くに達します。中国は2022年末には風力発電の累積導入量が365GWに達しています。いまや中国は世界一の風力発電の導入国であり、欧州全体での累積導入量255GWの1.4倍に達して、日本国内の累積導入量4.6GWの80倍近くに達しています(図4)。

近年注目されている洋上風力発電については、2022年に約9GWが世界全体で新規導入され、前年の21GWから大幅に減少しました。累積導入量では約64GWに達しており、風力全体の約7%に達しています。イギリスでは風力発電の導入が洋上風力を中心に進んできており、2022年末までに風力発電の累積導入量28GWのうち洋上風力が世界第2位の14GW導入されています(図5)。2022年には中国において5GWが新規に導入され、世界一の洋上風力の市場になっており、累積導入量でも31GWに達して世界第一位になっています英国で1.2GWの洋上風車が新規に導入され第2位になり、第3位は台湾の約1.2GWでした。その結果、台湾では洋上風力の割合が60%以上に達しています。欧州では、ベルギー(47%)、イギリス(49%)、デンマーク(33%)、オランダ(31%)などで洋上風力の割合が累積設備容量の20%を超えてきています。アジアでは、中国以外に、台湾(1.4GW)やベトナム(約1GW)で洋上風力の導入が進んでいます。


[8] GWEC “Global Wind Report 2023” https://gwec.net/globalwindreport2023/

図4:世界各国の風力発電の累積導入量の推移
出所:WWEA,IRENAのデータより作成
図5: 洋上風力発電の累積導入量(2022年)  出所:IRENAのデータより作成