2013年3月末に農林水産省が営農型太陽光発電に関する通知を発出し、制度化され10年が経過している。営農型太陽光発電とは農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取り組みであり、我々がよく耳にするソーラーシェアリングを指す。このソーラーシェアリングが次の10年で社会にどのような貢献を果たしていくのか、またその普及に向けてどういった課題があるのか、様々な立場の有識者を交えて幅広く議論する「ソーラーシェアリングサミット」が4月28日千代田区内で開催された。

食料自給を達成し、食料安全保障に貢献へ

今回のサミットを主催した馬上丈司氏は2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている自然エネルギーの専門家。同氏は主催者挨拶で国内におけるソーラーシェアリングの現状に言及し、発電事業による農業者の所得向上から、遊休農地や荒廃農地の再生、優良農地の保全、 農業生産におけるエネルギー転換気候変動への適応策としての選択など幅広い活用が進んでいることに触れた。そして、農業・農村が社会に対してエネルギーと食料の供給を担う役割を取り戻すと共に、 農業生産への再エネの活用によって真の食料自給を達成し、食料安全保障に貢献していくことに期待を寄せた。

続いて行われた3つの基調講演では、早稲田大学 政治経済学術院 名誉教授堀口 健治 氏、 相模女子大学大学院 社会起業研究科 教授依田 真美氏、事業構想大学院大学 教授 重藤さわ子氏が登壇。それぞれ農業経済・政策やファイナンス、地域脱炭素と人材育成という専門的な視点からソーラーシェアリングを論じた。

農業経営のさらなる改善が期待できる⼿法

引き続き、環境省地球環境局地球温暖化対策課 課長補佐 泉勇気 氏が「カーボンニュートラル実現に向けた地域再エネ推進の取組について」と題して基調講演。再エネの最大限の導入のためには、地域における合意形成が図られ、環境に適正に配慮し、地域に貢献する、地域共生型の再エネを増やすことが重要であると訴えた。そして地球温暖化対策推進法に基づき、市町村が再エネ促進区域や、再エネ事業に求める環境保全・地域貢献の取り組みを自らの計画に位置づけ、適合する事業計画を認定する仕組みが2022年4月に施行。令和5年4月時点で9市町村が促進区域を設定されていることを伝えた。

5番目の基調講演に登壇したのは農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課再生可能エネルギー室長渡邉 泰夫氏。同氏は「営農型太陽光発電をめぐる情勢について」のテーマでソーラーシェアリングが作物の販売収⼊に加え、売電による継続的な収⼊や発電電⼒の⾃家利⽤等による農業経営のさらなる改善が期待できる⼿法であることを力説。荒廃農地が増加する中で、ソーラーシェアリング設備を活⽤した荒廃農地の活⽤も期待できることを強調した。また、各地のソーラーシェアリングによる⾼収益農業の実証結果を紹介。収量や品質は慣⾏と同等または、影響がなかったことを報告した。

Z世代からも共感を生み出すソーラーシェアリング

プログラム最後となるトークセッション「Z世代が見るソーラーシェアリングの現場」では、再エネに興味を持つ大学生やさらに工業高校の実習でソーラーシェアリングを指導する担当者と高校生、また実際に仕事以外の時間でソーラーシェアリングに携わるメンバー、環境問題を中心に地域課題の解決に取り組む団体の若き共同代表などが登場。馬上氏がファシリテーターとして進行し、そこに合同会社小田原かなごてファーム 代表社員を務める小山田 大和氏も参加。環境問題や社会貢献に関心の高いZ世代らしくソーラーシェアリングのさらなる普及への熱量の高いコメントが会場を盛り上げた。3.11の原発事故を経て当時勤めていた郵便局を退職してソーラーシェアリングの普及に全力を注いできた経歴を持つ小山田氏は、それらをコメントに大きく頷き、多くの困難が伴うソーラーシェアリングの事業に対し、「明るい未来を感じた」と話した。

制度化から10年。ソーラーシェアリングは地域の合意形成など様々な課題を抱えながら、食料の確保とエネルギー安全保障を同時に実現し得る「次世代の農業モデル」として期待が高まっている。今後、Z世代の共感を得ることでその運動は、さらに加速度を増していくことだろう。そのことをソーラーシェアリングサミットは強く感じさせてくれた。


(取材・文 宮崎達也)