ジョン・レノンは、かつて、死の直前に、「世界は狂人によって支配されている」と語ったことがあったそうな。ジョン・レノンが凶弾に倒れたのは、いまから43年前の1980年12月8日のことである。もうあれからすでに半世紀近くが経過しつつある。

かつて、ジョン・レノンは「僕らの社会は、ばかげた目的のために、あきれた人々によって動かされている。(I think our society is run by insane people for insane objectives.)」と喝破していた。すでに、当時から、現下の国際政治情勢を予言していたのかもしれない。

世界の富の40%を1%の富裕層が保有していること、そして驚くことに、世界の50%の人は貧困層であり、その層は世界の富の1%しか保有していないことが指摘されて久しいが、世界は一向に格差改善の階も見えない。そして、ウクライナしかり、戦火はやまない。

「生きるためにはお金が必要だ。経済のためだから、しかたがない。戦争だって、格差だって、しょうがない。きれい事や理想論はもういいよ。これが現実なのさ。」といった、したり顔の言説をまま聞くことがあるが、やはり、これっておかしくないか。

そう分別臭く、訳知り顔で嘯いている諸氏は、本当に人間の真の幸福について、静かに胸に手をあてて考えることがないのだろうか。自分の家族の幸福を考えたことがあるのだろうか。それとも、自分の不作為への言い訳なのか、開き直るしか、術を知らないのか。

結局、その行きつく先が、何の罪もない人々から家族や故郷を奪う戦争や原発事故であったり、性懲りもなく何度も繰り返される気候危機であったり。それが、はたして、本当に、「経済のためだから、しかたがない。」で済まされるのだろうか。

はたして、ジョン・レノンは、死後半世紀後の現下のウクライナ戦争を見て、何て言うんだろうか。
「みんな平和について語るけど、誰もそれを平和的な方法でやってないんだ。(Everybody’s talking about peace, but nobody does anything about it in a peaceful way.)」とのジョン・レノンの言葉は、予言となって、みごとに現代世界の矛盾を射抜いている。

この違和感は、我々のごく身近な例でも、枚挙にいとまはない。もはや充足しているのに、おびただしい不毛なCMで消費をあおる昨今のメディア。修理やリサイクルには後ろ向きで買い替えばかりあおる家電量販店。うんざりするような渋滞。いたちごっこのような道路建設拡張。自動販売機やコンビニの異常な増殖。挙句のあての、大量生産、大量消費、大量廃棄、その帰結としての地球環境破壊と全球的な環境汚染。もはや、危険水域にまで足を突っ込んでいるのに、point of no-returnへの愚かなほどの無頓着。
世界情勢も一触即発だ。ロシアによる一方的な不条理なウクライナ侵攻で、世界中にきな臭い空気が蔓延し、インフレやエネルギー危機対応が長引き、景気後退や気候変動の対策の失敗など長期的な危機も高まる今日このごろ、世界でいま危険な分断が加速している。

ちょうどいまスイスで開催中の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のテーマは、「分断した世界での協力」である。両極化時代の分断を越えて多極化時代の「破片化した分断」の問題が喫緊の課題である。はたして、「ポスト・パンデミック」時代を迎える国際社会が直面している前代未聞の地政学的、経済的危機に、はたしてどう対峙するのか。

米中間の「新冷戦」に象徴される分断の時代に、ウクライナ危機で惹起された核戦争の可能性をはじめ安全保障の脅威が高まりにいかに向き合うのか。同時に、強まる保護貿易主義の障壁の中、合従連衡と市場ブロック化、貧富の格差拡大など経済的難題は難問山積である。

憂慮すべきは、かようにグローバルな協力がこれまで以上に切実な時であるにもかかわらず、これを調整する世界秩序が無気力になっている厳しい現実である。誰しもが、「これって変だよね」とうすうすと気づいている。この不気味な「人間を幸福にしないシステム」を、本当に、このまま続けて行ってもよいのだろうか?

1つ、明らかなことがある。いまや沈みつつある「地球」というかけがえのない船の上で、客室の争奪戦をしている愚かな時代は、もはや終焉を迎えるべき時期に来ていることだ。

もう、氷山はすぐ目の前まで迫っている。このままでは、沈没は必至不可避なのだ。もはや、戦争をしている場合じゃない。分断している場合じゃない。人類共通の敵である気候危機に立ち向かう共同戦線を即刻立ち上げるべき時期に来ているのだ。それ以外の損得計算は、後回しで好い。それは、理想論ではなく、近未来現実であり、ヒントでもある。

「ひとりで見る夢はただの夢、みんなで見る夢は現実になる。(A dream you dream alone is only a dream. A dream you dream together is reality.)」

このジョン・レノンの言葉を、「希望」と読み替えてもよかろう。人類は、いまこそ、目を覚まして、正気になって、いま、人類にとって、何が重要なのか、その優先順位を考え、未来に向かってアクションに移すべき最後のチャンスを迎えているのであるから。