世界がSDGs達成へのラストスパートを加速する中、企業を取り巻く状況は大きく変化し、今やESGを軽視する企業は存続自体が危ぶまれているとの指摘もある。では企業は今、何をすべきなのか。そしてどこに向かうべきなのだろうか。
「いまこそ聞きたい!ESG経営はなぜ必要か ~ESGの潮流をつかみ、基礎知識習得から実践へ~一般社団法人SDGs活動支援センター・株式会社GRCS共催オンラインセミナー」が10月13日にオンラインで開催された。SDGs活動支援センターは、日本国内の各地域にある企業・地方自治体・NPO・学校などの諸団体、また個人一人ひとりに対してSDGsの目標達成を支援し、SDGsの広報と啓発や市民社会と自治体などとの連携強化と問題解決策の提示、そしてeラーニング事業などを行っている一般社団法人。
そしてGRCSはGovernance、Risk、Compliance、Security関連の分野に関する各種コンサルティング及びプロダクト導入やそこに関連する商品の販売活動をグローバルなステージで展開。複雑な外部環境リスクからガバナンスのDX化を通じて企業をサポートしている東証グロースの上場企業となる。
今回のセミナーではSDGs活動支援センターの代表理事を務める小島政行氏とグローバルテクノロジー部 アソシエイトディレクターの井上陽子氏が講演を行い、小島氏は「知識共有コミュニティRe-College大学」を、井上氏は「SDGs・ESG基礎研修」について講演の最後に説明を行った。ここでは2つの講演の要旨を紹介する。
今こそ聞きたい!ESG経営はなぜ必要か
~ESGの潮流をつかみ、基礎知識習得から実践へ~
一般社団法人 SDGs活動支援センター
代表理事 小島政行 氏
この講演では、ESG経営とは何か?いまなぜESG経営なのか?というESGの基礎知識を説明し実践へのステップとしてビジネスモデルをどう変革していくか、あるいはマテリアリティという重要課題をどう選定していけばよいかを説明していきたい。さらに今後の潮流としてパーパス、TCFD、人的資本についてふれていきたい。
ESGのEとはEnvironmentのEで環境や環境課題を指し、Sは-SocialのSであり、社会や社会課題となる。そしてGはGovernanceを意味し、企業統括、企業統治課題を表わしている。
ESGは2006年国連がPRI(責任投資原則)投資の中で語られたことが起源になっている。つまりESGは投資原則としてスタートしたことになる。
ESGは2つの側面をもっている。1つはESGの観点から企業を評価し、企業統治のしっかりとした、社会・環境課題の解決に取り組んでいる企業に投資するという「ESG投資」という観点。もう1つは企業をESGの観点から変革し経営していく「ESG経営」があり、この2つは両輪となっている。
今、ESG経営はどこを目指しているのか。EとSとGに配慮した経営と考えられるがそうではない。なぜならEとSとGに配慮した経営では済まされない状態になっているからだ。つまり、EとSとGを行う経営であり、地球と社会を救うビジネスを行うこと。それがESG経営と言い切って良いと思う。その観点でいうならEは地球環境の保全と再生を行い、Sは社会的公正の実現を図り、Gはそれらを視野に入れた競争優位性を確立していくことになる。
今、ESG経営が必要だと言われている圧力は2つある。1つは直接企業経営に携わってくる気候変動の問題。あるいは不祥事の問題、開示が強制されるなど規制強化、資源枯渇、コロナウイルスなどになる。そして、その圧力は顧客やサプライチェーン、環境活動家、株主や従業員、Z世代などからかけられる。
気候変動や資源枯渇、格差・不平等についてはオックスフォード大学の経済学者ケイト・ラワースが提唱したドーナッツ経済学を見てみたい。これによれば環境的な上限と社会的な土台に挟まれた領域に許される経済活動の許容範囲がある。これは上がEで下がSになり、許される経済活動の範囲でGovernmentを強化して企業は経営しなければならないということになる。
今、企業はESG経営が必要だ。もしもESG経営をしないとどうなるか。サプライチェーンや投資家、顧客、優秀な人材から見放されることになる。もはやESG経営は企業の存続をかけた戦いとなる。
ESG経営への切り替えを行うには経営陣にマインドセットの切り替えと事業のマテリアリティの認識と選定、そして社内体制の整備が必要となる。
経済産業省が進めるサステナビリティ変革(SX)では企業のサステナビリティと社会のサステナビリティの重要性が訴えられ、今だけ利益が出せればいいという短期の時間軸から中期・長期の時間軸へのマインドセットと対話が求められている。
SXでは共有価値からシステム価値へ、株主中心からステークホルダー中心へ、さらに化石燃料から再生可能エネルギーへ。そして直線から循環へといった変革の方向性が示されている。そこでは事業のマテリアリティの認識と選定が重要になる。マテリアリティとは企業の重要課題を意味し、自社の存続にかかわる重要な調達、それを回避しないと社会からその存在を認められない恐れのある課題、そして中長期的な経営計画・戦略のなかで、重点的に経営資源を投下する課題となるだろう。
またマテリアリティの選定についてはステークホルダーにとっての重要度を縦軸にとり、自社にとっての重要度を横軸にとりどちらも高い位置にくるものがマテリアリティになる。
社内体制の整備についてはEとSとGに加えてテクノロジーとフィードバックが重要となる。EとSとGを結びつけているのはテクノロジーであり、ステークホルダーからのフィードバックになる。この2つを受け入れやすくする体制の整備が重要となる。
ESG経営には3つの潮流がある。EではTCFDの重要性。プライム市場でTCFDへの情報開示が義務化されたことでその流れはさらに強まっている。Sでは人的資本への着目が最近みられる。人材育成やリーダーシップ分野、労働慣行分野、健康安全分野、多様性分野にそれは及ぶ。ESGをどこから着手していいかわからない場合は、まずは人的資本から始めることが主流になるだろう。23年度には有価証券報告書に記載の義務化がなされるが、そういった外の力以上に企業価値の向上が図れる。Gではミッションからパーパスへということが言われている。ESGを追求していけば企業の存在意義と価値観であるパーパスに至る。従来のミッションは企業を駆動するチカラとなるが、パーパスは企業をリードするガイドの働きを担っていくことになる。そこで働きたい。そこに投資したい。そこの製品を買いたい。そこのサービスを受けたい。そこの会社はずっとあってほしい。という願いを実現することがESG経営になるだろう。
SDGs、ESG社内啓発の手法と事例
株式会社GRCS グローバルテクノロジー部
アソシエイトディレクター SDGs@ビジネス検定上級資格 SDGsリーダー
井上 陽子氏
深刻な環境問題、そしてESG投資や世間のSDGsへの高まりの中でESG対応は待ったなしの状況にある。では実際には社内でどのように進めたらよいか。そこには4つのステップが必要になる。
①ESG課題と投資を理解する。②マテリアリティ(重要課題)を特定する。③指標と目標値を設定する。④内容を整理し開示する。という4つのステップである。ここから目標値を達成すべく運用サイクルに入っていくことができる。
そこでは専門組織作りや事業部門との連携、全従業員を巻き込んでいくための体制づくりやフロー・手順効率化、デジタルシフト、オフィスのサステナビリティ化などの業務見直しが求められる。さらに開発から調達、生産、物流、営業販売や消費と廃棄まで気候変動や人権、リスクマネジメントに考慮したサプライチェーンのサステナビリティ化という事業プロセスの見直しも必要になる。そして事業戦略・経営戦略、ビジネスモデル、経営目標や企業文化、新規ビジネス立ち上げといった事業・ビジネスのサステナビリティが取り組むべき内容となる。
全従業員の巻き込み手段についてフォーカスし、事務局側も従業員側もハードルの低いところから高いところへと始めていくと良いだろう。具体的には、社内報や外部無料ショート動画からの集合研修、映画研修、さらにe-learning、ワークショップや社内外コンテスト、人事評価への反映など挙げられる。ESG経営をいち早く実践し、企業価値を上げていきたい。