東レ株式会社(以下「東レ」)は、8月24日、植物の非可食成分から得た糖を原料とし、東レの微生物発酵技術と分離膜を活用した化学品の精製技術を組み合わせた独自の合成方法により、ナイロン66(ポリアミド66)の原料となる、100%バイオアジピン酸を開発したと発表した。非可食バイオマス由来の糖を原料としたアジピン酸の開発は世界初となる。
今回スケールアップ検討を開始し、今後ナイロン66の重合試作、生産技術開発、市場調査など進め、2030年近傍までに実用化を目指していく。
一酸化二窒素(N2O)を発生させずに
ナイロン66の原料バイオアジピン酸を製造
合成繊維であるナイロン66は、耐久性や強度、剛性に優れており、繊維や樹脂として衣料品や自動車部品などさまざまな用途で長年使用され、昨今ではサステナブル社会実現への意識の高まりから、環境配慮型のナイロン66の開発に対する要望がますます増えている。また、ナイロン66の原料であるアジピン酸を従来の化学合成法で製造する場合、温室効果ガスであN2Oが発生することも課題のひとつとなっている。
今回東レは、糖からアジピン酸中間体を生成する微生物を世界で初めて発見した。そして微生物内でより効率的に合成が進むように人工的に遺伝子を組み換える遺伝子工学技術や、合成に最適な微生物発酵経路の設計といった情報生命科学技術を活用し、微生物内の代謝経路を効率的なものに作り変えることに成功した。これにより、微生物が生成する中間体量が、発見当初と比較し1000倍以上に向上し、合成効率の飛躍的な向上を実現した。
また、精製の過程で中間体の濃縮に逆浸透分離膜(RO膜)を利用することで、RO膜を利用しない場合と比べ、より少ないエネルギーでの濃縮が可能となる。さらに、この方法で得られるバイオアジピン酸は、石油由来アジピン酸の製造工程で発生するN2Oを全く発生させないため、地球温暖化の抑制が期待できる。
【非可食バイオマス由来の糖からナイロン66までのプロセス全体図】
さらに持続可能な循環型の資源利用と生産に対し貢献する東レ
また、東レは、作物残さなどの食用にできない植物資源から糖を製造するプロセスの実現に向けた実証検討を行っている。今後、このプロセスから得られる糖をバイオアジピン酸の原料として使用することで、非可食バイオマスから化学品を製造するトータルサプライチェーンを構築し、持続可能な資源循環型社会の実現に貢献していく。
なお、同成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成業務「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発」および「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」の下、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立研究開発法人理化学研究所との共同研究により得られたもの。
東レは、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」において、世界が直面する「発展」と「持続可能性」の両立をめぐるさまざまな難題に対し、革新技術・先端材料の提供によって、本質的なソリューションを提供していくことを宣言している。今回開発したバイオアジピン酸は、東レグループが目指す2050年におけるカーボンニュートラルの実現の取り組みの一貫であり、世界共通の課題である持続可能な循環型の資源利用と生産に対し貢献するものと考えている。
東レは今後とも、革新技術・先端材料の提供によって、人々のライフスタイルの多様化に応え、豊かな生活の実現とサステナビリティの両立に貢献していく。
<技術概要>
1.微生物発酵技術について
微生物の遺伝子から作られる酵素が化学反応を進め、糖を中間体に変換する。
①遺伝子組み換え技術
遺伝子を自由に削除・挿入でき、より効率的な合成を可能にする。
②情報生命科学技術
微生物発酵経路の設計などにより、微生物内の全代謝経路(数千反応から構成される)の内、最も効率的な経路で化学反応を進める。
【微生物内の全代謝経路(数千反応)】
2.分離膜を活用した化学品の精製技術について
MF膜、UF膜、NF膜を用いて微生物発酵液中の不要な成分を分離・除去し、RO膜で中間体を濃縮する。精製工程では通常、水分を蒸発させ対象の中間体を濃縮するが、逆浸透膜(RO膜)を活用することで、エネルギー使用量を削減することが可能。
【バイオ化学品の膜利用精製技術】