2022年1月1日、アサヒグループに新たなサステナビリティ事業を展開する「アサヒユウアス株式会社」が誕生した。その特徴は、社名にある「ユウアス」がユウ(YOU・あなた)とアス(US・私たち)を意味する通り、共創による社会課題の解決を事業の主軸にしている点にあると言えるだろう。パナソニックとは“使い捨て”という消費行動自体を変革するエコカップ「森のタンブラー」を、丸繁製菓とは国産のじゃがいもでん粉を原料とした“食べられるコップ”「もぐカップ」などを展開しているアサヒユウアス。そのトップである高森志文氏にインタビューし、今後、共創によって何を目指し、どのような課題に挑もうとしているかなどを伺った。

材料のアップサイクルでサステナブルな商品を提供

――アサヒユウアスが力を注ぐ共創の分野では、地域創生や産学連携が鍵を握ると思われます。地域や大学をパートナーにした取り組みについて、最も新しい事例を教えてください。


高森:地域という点では、狭山茶の茶園の方々といっしょに取り組んだ「狭山GREEN」を挙げたいと思います。埼玉県狭山市は、古くからお茶の名産地として知られていますが、静岡のような広大なお茶畑の風景は見られません。そのため、観光で訪れる人も少なくブランド力も他地域のお茶ほど高くはありませんでした。そこで狭山茶をより多くの人に知っていただくために地元の若い世代を中心に駅前で狭山茶カステラを販売するなど様々な取り組みをされてきたのです。そういった中でご相談をいただき、開発したのが狭山茶を使った「狭山GREEN」です。狭山茶ならでは香ばしい緑茶の香りが魅力のクラフトビールとなっています。このビールは製茶の際に除かれていたお茶の茎の皮“ケバ茶を用いています。また同じく狭山茶の製造工程で発生する細粉や切粉を使用した、繰り返し使えるエコカップ「森のタンブラー 狭山HONOKA」も開発しました。単に新商品を企画するのではなく、本来、破棄されていたケバ茶や細粉、切粉をアップサイクルしているところに私どもアサヒユウアスが関わった意味がありますし、これを今後も共創の基本スタイルにしていこうと考えています。

狭山GREEN
森のタンブラー 狭山HONOKA

ペットボトルの使い捨てを減らす産学連携への取り組み


高森:大学関連で紹介したいのは、麻布大学との共創です。麻生大学では全学の取り組みとして、キャンパス内でペットボトルなどの使い捨てプラスチックを減らす活動を行ってきました。その際に課題となったのは、渇きを癒せる仕組みをどうするか、です。そこでアサヒユウアスは、ウォーターサーバーでしっかり水分補給ができようよう、同大学のロゴを入れたオリジナルデザインの「森のタンブラー」を大学側に提供したのです。結果、様々な要因はあったと思いますが1ケ月で3500本ものペットボトルを減らすことができました。今、学生たちはキャンバス内だけではなく、学外でも使用し、キャンパスのある相模原ではマイボトルが使える店舗も増え、地域にも波及効果を及ぼしています。

高森:ちなみにペットボトルという点で懸念されるのは、キャップの存在です。国内のペットボトルの回収率は今93%まで高まっています。しかし、キャップは8%。残りは、燃えるごみになっているのです。そこで我々は、キャップの回収の流れを高めるために使用済みのキャップを材料にして「エコキャップチェア」を作ってみました。まだ世界に1つしかありませんが、これを象徴として啓発活動も進めていきたいと考えています。ちなみにエコキャップチェアの製造には、もう使わなくなった金型を用いました。金型もリユースするという点にもアサヒユウアスのこだわりがあります。

麻布大学 森のタンブラー
エコキャップチェア

一つの企業であると同時にアサヒグループジャパンの一員であること


――地域や産学連携に目を向ける中でどのような課題が見えてきましたでしょうか。


高森:ご存知の通り、たとえばアサヒスーパードライはいつでもどこでも飲めます。それは大量生産と大量販売によって日本中に隈なく行き渡っているからです。しかし、アサヒユウアスが展開しようとしていることはベクトルがちがいます。今までも狭山や蔵前といった地域を限定してきました。ローカルSDGsという観点からは、地域に軸足を置くポジショニングは大事ですが、利益を生み出す企業の視点では生産性の低さはいつか改善しないといけません。その意味でサステブルなクラフトビールや森のタンブラーのように我々のリソースを最大限に使える得意分野を見出していくことが、これからの課題だと捉えています。


――課題と同時に得られた手応えや成果にはどのようなものがありますか。


高森:何よりも幅広い分野の企業や団体の方々から「いっしょにやりませんか」といったお声掛けをいただいていることです。それは、やはり会社として立ち上げたことが大きく影響しているように考えています。同じような事業展開は、アサヒグループジャパンのコーポレートコミュニケーション部でも可能だったことでしょう。しかし、一つの企業にすることでより注目され、事業内容も明確に伝わり、アサヒグループ本体と比べれば敷居も低いので問い合わせもしやすくなったのではないでしょうか。同時にアサヒグループジャパンがバッグボーンであることで安心して相談されているようです。

軽快なフットワークときめ細やかさでローカルSDGsを推進


――今後、どのような活動に力を入れていく予定ですか。


高森:アサヒグループジャパンでは「ローカルSDGs専任リーダー」の部門を立ち上げました。主にアサヒグループのリソースを使ってSDGs未来都市の地域課題を解決していくチームになります。活動では当然、アサヒユウアスとの接点もあり、今、専任リーダーのメンバーとの連携が始まっています。ただ「地域」と一つの言葉で括っても海洋プラスチック問題や過疎化など課題は様々です。まずは地域の課題を特定し、アサヒユウアスならできることから取り組んでいく予定です。


高森:この連携で我々はスピードときめ細やかな対応で力を発揮できると思います。ある意味でそれは大企業が苦手とする分野かも知れません。よく地域の方とお話すると「アサヒさんがいっしょにビールを作ってくれるのですか?」と聞かれます。私は「アサヒビールではなく、アサヒユウアスだから、できますよ」と答えています。アサヒビールでは、ある地域だけのビールを製造することはできません。仮にできたとしても気の遠くなるような時間が掛かるでしょう。しかしアサヒユウアスと共創すればアサヒビールの知見やリソースを活用して地域限定のサステナブルなクラフトビールをスピーディに世に送り出すことが可能です。


――今後、地域や大学と共創していく上で何が大事になっていくとお考えですか。


高森:“共創上手”であることがこれからは重要になると考えています。「狭山GREEN」の開発の際もお茶を何℃で淹れるかなどを茶園の方々から詳しくお聞きし、いっしょになって納得できる香りと味に仕上げました。そのときに企業サイドが一方的に考えを押し付けるのではなく、同じ目線や立ち位置で取り組んで初めて共創が成り立つことをより一層実感できたのです。今後も地域の課題解決のために“共創上手”な企業であることにこだわっていきたいと考えています。


――達成まで残り8年となったSDGs。17番目には「パートナーシップで目標を達成しよう」が掲げられていますが、今回のインタビューは、共創の在り方を通してパートナーシップの重要性についてあらためて考えさせられました。本日は大変にありがとうございました。