東レ株式会社は、このたび、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(以下TCFD)の提言に沿って気候変動による影響についてシナリオ分析を行い、その結果を中心に東レグループの気候変動への対応をまとめた「東レグループTCFDレポート2021」を発行した。
TCFD提言以前から情報開示に積極的に取り組む
東レグループは、2018年に「東レグループ サステナビリティ・ビジョン(以下、「サステナビリティ・ビジョン」)」を策定し、「2050年に向け東レグループが目指す世界」の一つとして、「地球規模での温室効果ガス(GHG)の排出と吸収のバランスが達成された世界」すなわちGHG排出実質ゼロへの移行について宣言を行った。
2019年5月には、TCFD提言への賛同を表明するとともに、TCFDコンソーシアムに参画、TCFD提言に賛同する企業や金融機関等が⼀体となり、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論に加わっている。
さらに同年12月に「東レグループの気候変動への対応」として、ウェブサイト上で情報開示を行い、その中でTCFD提言に賛同する以前から一貫して気候変動への取り組みと情報開示に積極的に取り組んでいることを示した。
TCFD提言に沿う形でシナリオ分析を実施
今回、気候変動という予測困難で不確実な事象に関する機会・リスクを特定し、それらの機会・リスクが東レグループにどのような影響を及ぼし得るのかを確認するため、TCFD提言に沿う形でシナリオ分析を実施。1.5℃シナリオを中心に2℃シナリオも検討。さらに、世界的に気候変動対策が十分に進展しない場合も想定して、4℃シナリオも検討している。
また、4月1日付で、社長を委員長とするサステナビリティ委員会を新たに設置。サステナビリティ・ビジョンで設定した2030年に向けた数値目標を進捗管理する、「グリーンイノベーション事業拡大(GR)プロジェクト」、「ライフイノベーション事業拡大(LI)プロジェクト」、「チャレンジ30プロジェクト」の年次活動計画の審議や実行課題・活動状況を統括して管理している。同じくサステナビリティ委員会では、気候変動対策推進の統括機関として気候変動に関する重要な方針、議題の協議を行い、東レグループの持続的な成長と気候変動に関する課題への取り組みを推進していく。
「東レグループTCFDレポート2021」では、これらの内容とともに革新技術・先端材料の創出による製品のライフサイクル全体を通じたCO2排出抑制などの「バリューチェーンを通じた気候変動問題解決への貢献」と、製造段階でのGHG排出削減などグループ内での「事業活動における気候変動対策」を両輪とした、東レグループの気候変動に係る具体的な取り組みを開示している。ここではその概要を紹介していきたい。
「東レグループTCFDレポート2021」概要1
東レグループのこれまでの地球環境問題への取り組み
東レグループは、1926年の創業以来、「企業は社会の公器であり、その事業を通じて社会に貢献する」との経営思想の下、長年にわたり、地球規模の環境問題など様々な社会的課題へのソリューションを提供する革新技術・先端材料の創出に取り組み、持続可能な社会の発展に貢献してきた。
1990年代には、長期経営ビジョン“AP-G 2000”において、“地球環境保護に積極的な役割を果たす企業集団”を企業イメージの一つと定めたほか、地球環境研究室を設立。また全社委員会として地球環境委員会を設置した。そして2000年代に入り、東レグループの環境保全の中期的目標として、その後2020年度を達成年度とする「第5次環境中期計画」まで引き継ぐことになる「環境3カ年計画」を策定。さらには、東レグループの地球環境戦略の全社的な企画・立案と事業化の推進・支援を目的とする社長直轄組織として地球環境事業戦略推進室を設立した。
そして2010年代には、長期経営ビジョン“AP-Growth TORAY 2020”において、地球環境事業戦略推進室を中心としてGR事業の拡大に取り組み、地球環境問題や資源・エネルギー問題に対するソリューションとなる製品・サービスの普及を図ってきた。そして2018年には、「サステナビリティ・ビジョン」を策定している。
また2020年5月に発表した長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030” では、全ての事業セグメントにおいて、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献するGR事業と、災害・異常気象対策も含め、医療の充実と健康長寿、公衆衛生の普及促進、人の安全に貢献するLI事業を中心として、需要増を取り込むだけでなく、新たな需要を創出することで事業を拡大していく。
加えて、全社横断で取り組む「FutureTORAY-2020sプロジェクト(FTプロジェクト)」では、水素・燃料電池関連材料、バイオマス活用製品・プロセス技術などをテーマに新規事業を創出し、2030年近傍に1兆円規模の売上創出を目指している。
「東レグループTCFDレポート2021」概要2
気候変動問題に関するガバナンス体制
東レグループは、これまで気候変動を含む地球規模の課題に関し、3つの全社委員会(CSR委員会、リスクマネジメント委員会、安全・衛生・環境委員会)にて監視・評価・管理を行ってきた。そして従来の取り組みを加速させるため、2021年4月1日に「サステナビリティ・ビジョン」の実現に向けた活動を推進するサステナビリティ委員会(委員長:代表取締役社長)を全社委員会として新たに設置した。
サステナビリティ委員会は、「サステナビリティ・ビジョン」実現に向けた中長期的な全体ロードマップおよび実行計画の策定や「2030年に向けた数値目標」を進捗管理する3つの全社プロジェクト(GRプロジェクト、LIプロジェクト、チャレンジ30プロジェクト)の年次活動計画の審議や実行課題、活動状況を統括して管理していく。また、気候変動対策推進の統括機関として、気候変動に関する重要な方針、議題を協議するとともに、気候変動に関する議題を取り扱っているCSR、リスクマネジメント、安全・衛生・環境、技術の各委員会と連携して、東レグループ全体の気候変動に関する課題に取り組んでいく。
「東レグループTCFDレポート2021」概要3
気候変動による影響の分析
今回、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに1.5℃に抑える努力を追求する」というパリ協定目標の達成と脱炭素社会の実現を見据え、1.5℃シナリオを中心に2℃シナリオも検討、さらに、世界的に気候変動対策が十分に進展しない場合も想定して、4℃シナリオも検討した。
平均気温の上昇が1.5℃・2℃の世界と、4℃の世界を想定し、それらの世界像をもとに分析した結果、気候変動に関連する主要な事業機会とこれに対する東レグループの取り組み、各シナリオにおける東レグループへの影響の程度を整理している。
気候変動に関する機会とリスクのシナリオ分析の結果、「サステナビリティ・ビジョン」は気候変動がもたらす社会の変化に対応したものであり、長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”により、「サステナビリティ・ビジョン」に示すGHG排出実質ゼロの世界などの実現に向けて、「2030年度に向けた数値目標」の達成を目指し、気候変動対策を加速させていくという長期戦略は、現時点において変更の必要がないことが確認できた。
ただし、今後も大きな社会の変化に応じて機会・リスクの分析内容を定期的に補完し、最新情報に更新していく必要があり、特にGHG排出削減については、日本政府が2050年までに実質ゼロを目指すと宣言したことによる影響に注視し、今後取り組みを加速させるとともに、CO2削減貢献量の拡大により、脱炭素社会の実現に貢献していく。
「東レグループTCFDレポート2021」概要4
バリューチェーン全体でのCO2削減貢献や製造段階でのGHG排出削減など気候変動に関する東レグループの事業や取り組みの内容
(1)気候変動の緩和に貢献するGR事業
東レグループは、グループ内でのGHG排出削減に取り組むとともに、バリューチェーン全体を通じたCO₂排出削減への貢献に、いち早く取り組んできた。2030年度の数値目標では、GR製品の供給拡大を通じて、バリューチェーンへのCO₂削減貢献量を8倍に拡大することを掲げている。
(2)気候変動への適応に貢献するGR・LI事業など
東レグループは、気候変動の緩和策だけでなく適応策にも注力しており、GR事業関連では、水処理事業によって世界的な水不足・水質汚染の解決に貢献している。また、LI事業関連では、感染症対策などの公衆衛生の普及促進、近年増加する災害や異常気象などから身を守るための製品で、気候変動への適応に貢献する。
(3)気候変動対策に貢献するイノベーション
長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”はGR・LI事業を中心とした事業拡大を掲げている。また、2020年度からの3カ年を対象期間とする中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”において、2,200億円規模の研究開発費を3年間で投入し、約50%をGR事業、約25%をLI事業に投入。さらに設備投資については、その半分程度に相当する約2,500億円をGR・LI事業などの成長拡大目的に投じていく。
また長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”では、「FTプロジェクト」を推進し、次の成長ステージを担う大型テーマにリソースを重点的に投入して開発・ビジネスモデル構築を加速することで、新規事業全体で2030年近傍に1兆円規模の売上創出を目指している。
「東レグループTCFDレポート2021」概要5
東レグループのリスクマネジメントに関する取り組み
東レグループは、定期的に経営活動に潜在するリスクを特定し、リスク低減と危機発生の未然防止に努めている。また、重大な危機が発生した場合の即応体制を定め、迅速かつ的確な対応をとることにより、被害の拡大防止と速やかな収拾・正常化を図っている。
そういった基本を徹底しながら東レグループは、ステークホルダーにとっての重要性、および東レグループにとっての重要性の2つの観点からマテリアリティを特定し、それをCSRロードマップに反映してKPIを設定し、活動を推進している。
気候変動については、事業を通じた環境問題解決への貢献、GHG排出量削減などをステークホルダー、東レグループいずれにとっても極めて重要性が高いものと考え、数値目標を設定している。
また、気候変動に係るリスクを含む全社的なリスクに関し、リスクマネジメント委員会の下、定期的なリスクマネジメント(優先対応リスク低減活動)、および定常的なリスクマネジメント(国内外の動向を注視、リスクを検出・評価・モニタリング)に取り組んでいる。
「東レグループTCFDレポート2021」概要6
サステナビリティ・ビジョンで設定した2030年度数値目標に対する進捗
東レグループは「サステナビリティ・ビジョン」において2030年度に向けた数値目標を設定している。2019年度の実績、中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022” における中間目標は以下の通りである。
東レグループは、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念を掲げており、これからも、グループの使命として、気候変動などの世界が直面する「発展」と「持続可能性」の両立をめぐる地球規模の課題に対し、革新技術・先端材料の提供によって、本質的なソリューションを提供していく。
■「東レグループTCFDレポート2021」は下記からご覧になれます。
https://www.toray.co.jp/sustainability/tcfd/