
「人生でもっとも輝かしい時は、いわゆる栄光の時なのでなく、落胆や絶望の中で人生への挑戦と未来に成し遂げる展望がわき上がるのを感じた時です(La plus belle des joies n’est pas à l’épanouissement de la gloire, mais à l’élan qui renaît en nous quand, vaincus et désespérés, nous nous sentons prendre une nouvelle fois la route de l’avenir.)」
(ギュスターヴ・フローベール)
1.「万事休す」の現在地
今年2025年の夏は、日本では、観測史上最高の41.8℃を記録し、多くの方々が気候危機の深刻さを肌身に感じた夏となった[1]。あまりの酷暑に、もはやお手上げだとの悲鳴も多々側聞した。
しかし、落胆や絶望は早計である。この暑さの要因は、太平洋高気圧とチベット高気圧が重なり合ってできる“ダブル高気圧”と日本周辺の海水温上昇等の特殊事情によるものであり、必ずしも地球全体の温暖化がついに「万事休す」になったわけではない。
ただ、そうは言っても、油断大敵である。楽観は禁物である。今年2025年の世界平均気温はすでに産業革命前に比べて+1.36℃も上昇してしまっている。人間の経済活動要因に自然変動の上振れを含めると実質的に一時的にではあっても「+1.5℃」を超えてしまったことは事実なのであるから[2]。専門家は、このままだと、5年後の2030年前後に人間の経済活動要因による世界平均気温が限界点の「+1.5℃」を突破するとの見通しを、すでに表明してる[3]。いますぐ「万事休す」であるわけではないが、近い将来「万事休す」になってしまうリスクは、心して覚悟しておいた方がよかろう。
世界平均気温が産業革命前に比べて「+1.5℃」上昇する事態が、決して受け入れてはならない危険な事態である明確な理由がある。「+1.5℃」を超えると、氷床融解と海水熱膨張が加速し、海面水位の上昇や高潮や干ばつによって、世界各地で多くの人々が水や食料や住居を失い、飢餓に陥り、生命の危険に直面するからである[4]。我々の無作為によって「+1.5℃」を突破してしまうことは、深刻な被害を受けている漸弱な地域の人々や未来世代に対して「我々の過失で、あなたたちを救えませんでした」と告げることを意味するのである。我々は「自分事」として自覚すべきであろう。
(寄稿文 全文は下記リンク先PDFでご覧ください)
[1] 2025年8月5日、群馬県伊勢崎市で41.8度を観測した。国内最高を更新しただけでなく、40度以上を観測したのは14地点と、1日で観測した地点数として最も多くなった。
[2] 人間の経済活動要因に自然変動の上振れを含めると実質的に一時的に1.5℃を超えている。また、世界気象機関(WMO)によると、すでに観測史上最も暑い年と言われた去年2024年は、世界平均気温は産業革命前と比較して1.55℃上昇してしまっている。
[3] 世界平均気温上昇幅を1.5℃以内に抑えるために年間400億トンもの温室効果ガスを2030年までに急減させることは至難に業である。
[4] このままだと、将来的には南極の氷床がすべて溶ける可能性があり、世界全体の海面が約60m上昇すると予測されている。







